アマゾンを筆頭にした「ネット通販」が幅を利かせるにつれ、店舗がショールーム化するという「ショールーミング(Showrooming)」という言葉が米ビジネス界では頻繁に聞かれるようになった。顧客が店舗をショールームとして利用する、つまり、店舗に行っても商品を見たり触ったりするだけで購入はせず、代わりにネットに行って購入することを指す言葉だ。

そう思っていたら、今度は、ジオ・フェンシング(Geofencing)なんていう新語が飛び出した。「ジオ」は「ジオグラフィー(地理/地形)」の「ジオ」、「フェンシング」はスポーツのフェンシングではなく、「フェンス(囲い)」の意らしい。

意味合い的には、店舗小売業者が顧客のロケーション情報(地理情報)を利用して、店の周りにバーチャルのフェンスを築き、客寄せを図ることを指す。具体的には、店の近辺にいる顧客のスマホに販促情報を送り、集客を図るというものらしい。

店舗小売業者にとっては、「ショールーミング」への対抗策であり、また、すっかり「店舗小売業者の敵」と化してしまったスマホを味方につけようという必死の試みである。

なぜ、スマホが「店舗小売業者の敵」かというと、現在、米生活者が店舗でのショッピングにスマホを利用する方法というと、最もメジャーなのが「価格比較」だからである。顧客は店舗でスマホのアプリを開き、商品のバーコードをスキャンして、ネット・ショップ、あるいは最寄の店でより安いところはないか瞬時に探し当てる。店舗にとっては、競争のバトルグラウンドを「価格」に引き下げてしまう憎むべきツールなのである。

そのスマホを「価格比較」にではなく、「顧客と店とをつなぐ導管」として、「お買い物サポートツール」として使ってもらおうというのが、「ジオフェンシング」の試みである。昨今の技術をもってすれば難しいことではないだろうし、聞いてみればなかなか便利なものではある。しかし、ここにはひとつ落とし穴がある。

当然のことだが、誰彼かまわずメッセージを送りつけるわけにはいかない。顧客が販促情報を受け取ることに「オプト・イン」する、パーミッション(許可)を与える、というのが前提である。つまり、顧客が店舗に対して既にある程度のロイヤルティ、あるいは好意を持っていなければ始まらないのだ。

米中西部にマイヤーというスーパーマーケット・チェーンがある。マイヤーのスマートフォン・アプリは、ウェブとモバイルと店舗をつなぐ、まさに最先端の「お買い物サポートツール」である。顧客は、マイヤーのウェブサイトにログインして買い物リストをつくり、来店した際にスマホのアプリをオープンする。すると、店内で顧客がいる位置を読み込んで、順路をはじき出しリストを並びかえてくれる。購入履歴に基づいてクーポンが送られてきたりもする。確かに便利は便利だが、あくまで、「既にマイヤーのお客さんである」という前提に基づいてはじめて意味をもつツールだろう。このツールのために、他店で買い物をしていた人がマイヤーに乗り換える、ということはどうも考えにくい。

テクノロジーの活用で我々の生活を一層暮らしやすいものにする、という試みは結構なことだが、現実を見れば、テクノロジーなんて活用しなくても顧客の心を掴んでいるお店はたくさんある。例えば、私が贔屓にしているスーパー、トレーダー・ジョー。この会社については、私も弊社スタッフも以前ブログに書いている。このところ毎日のようにこの店に通っているが、トレーダー・ジョーはある意味「ロウテク」な店だ。今流行りのソーシャル・メディア活動に手を染めることもなければ、もちろんアプリなんて一切ない。でも、顧客の心はしっかり掴んでいる。その「顧客愛」の威力といえば、顧客が立ち上げた非公式のFBページには45万人のファンがつき、レシピ本まで出てしまうほどなのだ。それも、トレーダー・ジョーが仕掛けているわけではない。

その熱烈な愛情、ファン意識はどこから来るのか?というと、その理由も至ってロウテクなものだ。まず、トレーダー・ジョーでは、お店の人たちがとても楽しそうに仕事をしている。レジでは、一人ひとりの顧客とフレンドリーに会話に興じる。お薦めの商品や調理法を教えてくれたりする。店内の誰に声をかけても、親身に、手間と時間をかけて対応してくれる。年商85億ドル(推定)の大型チェーンなのに、「近所のお店」のようにあったかい。だから、明日もまた行きたくなる。

米ディスカウント・チェーンでウォルマートに次ぐターゲットという会社がある。店舗小売業の類にもれず、ターゲットも「ショールーミング」に悩まされている。今年の初め、ターゲットのCEOは、仕入先企業に公開レターを送り、その中で、「我々はアマゾンのショールームにはならない」と宣言した。そのターゲットが、先日、アマゾンの電子書籍リーダー、キンドルの取扱を止めたのだが、これは、アマゾンに対する宣戦布告であると業界では考えられている。折りしも、ターゲットはアップル商品のインストア展開を始めるので、アップルの圧力かという噂もあったのだが、大手ブックストア・チェーンのバーンズ・アンド・ノーブルの電子書籍リーダーであるヌックは依然として取扱を続けているのだから、アマゾンのみを敵視した行為とみて間違いないだろう。

ところで、ここで私がターゲットやその他の小売店舗に提言したいのは、ネット・ショップに腹を立てる以前に、「なぜ顧客の心が離れてしまったのか」、その根本のところを今一度考えてみてはどうかということだ。テクノロジーの活用や、ライバルへの対抗意識ミエミエの反動的行動に走る前に、「顧客に愛される店舗づくり」ができているかどうか、自問自答してみることが先決ではないか。

ターゲットは、ワンランク上の商品を低価格で提供し、スタイリッシュで楽しい暮らし設計を支援する、というコンセプトで90年代から2000年代のはじめにかけて一世を風靡した企業だ。しかし、近年その店は死んでいる。店員に笑顔はなく、みな退屈そうに仕事をこなしている。レジの列は最短時間で顧客を処理するアッセンブリー・ラインにすぎない。そこには、「楽しいショッピング体験」、「また来たいという感動」、「愛着、あたたかみ」は微塵もない。

顧客が自社店舗の名前を口に出したり、思い浮かべたりする時、どんな感情を抱くか。そこには、微笑みや親しみや、仲間意識があるだろうか。それとも、不快感がこみ上げたり、心が冷たくなったりするだろうか。顧客は「人」であり、人を動かすのは「感情」であることを、店舗小売業の人たちは見つめなおさなくてはならない。低価格戦略、商品戦略、IT戦略など、これまでの小売業はそういった周辺のことばかりにこだわり、根本を忘れてきたように思う。いかに優れたアプリをつくったところで始まらない。むしろ、人に最も大きなインパクトを与えうるのは「人」である。ならば、テクノロジー投資よりは、人への投資が優先と考えるべきだろう。従業員が笑顔で働ける職場をつくれるか、お金儲けや、競合を蹴落とすこと以外に会社の存在意義があるか、もしあるとすれば、それを本社のお偉いさんばかりではなく、店舗のフロアで働く人までもが実感しながら働ける環境をつくれるか。突き詰めれば、顧客に愛され、社会が応援したくなる企業文化を築くということなのだが、そこに、ターゲットに限らずすべての店舗小売業の生き残りの道があると確信している。

石塚しのぶ

一昨日、昨日に引き続き、グルーポン系の記事をもう一件。もう先月の話になりますが、グルーポンが株式上場準備に伴う財務の再報告を行いました。今年6月初旬に上場申請を行って以来、奇々怪々な財務指標に証券取引委員会の「待った」がかかったり・・・何かとトラブルの絶えないグルーポンですが、今回、以前に報告されていた数値のなんと半分未満に売上を修正しての報告になりました。

うさんくさい報告の仕方ももちろん気になるのですが、もっと気になったのは、内部で囁かれているグルーポンの企業文化の崩壊。気になる方は是非先を読んでみてください。

『米国ビジネス史上最速(?)の急成長企業・・・』というタイトルで、グルーポンについてのブログを書いたのはちょうど1年ほど前のこと。

創業から3年以内に年商10億ドルを突破する・・・と予測されたグルーポンの嘘が、今日午後の発表で暴かれた。今年中の株式上場をにらみ、上場申請を行ったのが6月初旬。以来、独自の会計指標などが問題視された結果、今回で二度目の訂正報告となる。

今回、問題になったのはグルーポンの「売上」の定義。今までは、クーポンの販売から得た金額の全額を「売上」として発表していたが、新しい発表では、そこから広告主(クーポンを発行する店舗やサービス業者)に支払うお金を差し引いたものをグルーポンの「収入=売上」として計上することにしたという。その結果、2010年の売上は、以前に発表されていた数値(7.13億ドル)の半分未満にあたる3.12億ドルとなった。

この訂正報告とともに、COO(最高執行責任者)マーゴ・ジョージアディス氏の辞任も併せて発表された。ジョージアディス氏がグーグルから引き抜かれてグルーポンのCOOに就任したのはわずか5カ月前のこと。今年に入って、グルーポンは上層部の多くを外部から雇いいれてきたが、まったく企業文化を無視した人選で、社内には不満が鬱屈しているという噂である。

現社員や元社員が匿名でコメントを投稿したり、企業の格付けをしたりできるアメリカの企業情報サイト、グラスドア・ドット・コムを覗いてみると、社内の状況が生々しくうかがわれる。

「アンドリュー(CEOのアンドリュー・メイソンのこと)。うちの営業部隊がどんなに惨めかは見ればわかる。勇気を出して、かつての良きCEOに戻ってくれ」
「(経営陣は)非情な人間ばかりで、ひとつのことしか考えていない。自分のエゴ、そして、どれだけ金儲けできるか、それだけだ」
「(経営陣が)気にしているのは利益だけ。(グルーポンのコールセンターは)普通のコールセンターに成り下がってしまった」

一年前には、ソーシャル時代に羽ばたく企業のひとつの象徴として称賛を浴びていたグルーポン。しかし、ソーシャル・メディアを使ってものを売るから「ソーシャル」な会社とはいえない。「ソーシャル」とは、「社会の」、そして、「生活者の」という意味。「生活者」である「顧客」や「社員」への価値提供を第一に考えなければ、「ソーシャル」な会社ではないのである。

グルーポンは一例にすぎないが、企業が真に「ソーシャル」であるか否かが、生活者の声を通して裁かれる時代になった。生活者一人ひとりが自らの判断を下すことができる、良い時代になったといえる。

石塚しのぶ

昨日は「グルーポン・グッズ」という新サービスに関する記事をご紹介しましたが、先日、グルーポンがらみの記事をもうひとつ書いていたので続いてご紹介。「グルーポン系サイト」の淘汰はもう始まっている・・・といった内容です。興味がある方はどうぞ。

日本では「グルーポン系サイト」などと呼ばれているようだが、一定の購買客を集めることを目的に割引クーポンを期間限定で売りさばく「共同購入型クーポン・サイト」や、登録会員限定で期間限定セールを展開する「フラッシュ・セール・サイト」が熱い!という話を聞いたのはつい3ヶ月前のこと。しかし、アメリカではこの手のサイトの淘汰がすでに始まっているようだ。


グルーポン、ロサンゼルス


ほんの数カ月前まで、アメリカ国内だけでも530個ほどあるといわれていたグルーポン系サイトは、その3分の1近くがはやくも倒産や買収の憂き目を辿ったようだ。

だいたいにおいて、「グルーポン系サイト」の参入障壁は極めて低い。そこで数多の同類サイトが乱立し、市場競争が短期間で激化した挙句に、新規顧客の獲得に莫大なコストを要するようになった。

「グルーポン系サイト」がまだ目新しかったころには、黙っていても顧客が寄ってきたが、もはやそういうわけにはいかない。新規顧客に登録してもらうためには、派手な広告を打ったり、ある程度お金のかかるマーケティング活動をする必要がでてきた。そうなると、新参企業や小規模の企業はやっていけない。かくして、グルーポンリビング・ソーシャルなど大手が断然優勢な市場になってきているということだ。

かくいうグルーポンも、株式上場申請時にデータを開示した際に、そのマーケティング・コストの莫大さに比べて顧客離反率の高さが問題視され批判を浴びた。同社は2011年上四半期だけで約3.8億ドルをマーケティングに費やしている。新規顧客一人当たりの獲得コストも、2010年第1四半期に7.99ドルだったのが、同年第2四半期には23.46ドルと3倍近くになった。

もとより米国では、「グルーポン系サイト」を、「ネット・ビジネスの皮をかぶった広告代理店ビジネス」と呼ぶ人もいるくらいで、割引クーポンを提供してくれる広告主を確保するためにそれ相応の営業力を必要とするビジネスだ。売上を増やそうとすれば営業の頭数も増やさなくてはならないという、意外にオーソドックスなビジネスなのである。

世界最大のSNSフェイスブックや米国最大のユーザー・レビュー・サイトイェルプ(Yelp)も同様なサービスに手を染めたが、フェイスブックは先月早くもこれを終了し、イェルプもその営業チームを半分にカットするなど大幅にスケールダウンした。

フェイスブックやイェルプなど、米国ネット・ビジネスの大物たちの反応を見ても、「グルーポン系サイト」の将来が波乱に満ちたものであることは明白だろう。現在、繰り広げられている淘汰のあらましから、「勝者の条件」が浮き彫りになってくるように思う。

石塚しのぶ

「共同購入型クーポン」のグルーポンが、物品販売に進出した。

初めてグルーポンの存在を知った頃、その強みは、「ローカル・ベースのサービス・ビジネス」支援だと定義していた。つまり、ご近所のレストランやスパといった、比較的小規模で、どんどんウェブ化、ソーシャル化する世の中においてマーケティングに苦戦しているローカル・ビジネスを支援するということに大きな意義があると思ったのだ。

そのグルーポンが、物品販売に進出した。それも、グルーポンでクーポンを購入して、それをローカルの店舗に行って還元する、というタイプのものではない。あくまでオンライン販売だ。グルーポンの登録顧客にはメールでセールの開始が知らされるが、そのメールからクリックスルーしてクーポンを買い、商品の提供サイトに行って購入を完了する。


Gp


アメリカのビジネス系ニュース・サイトは、『グルーポン、ダイレクトEコマースに参入』と報じる。提供商品を見るところ電化製品やエクササイズ機器、キッチン家電など、いわゆる「ガジェット」と呼ばれるものが主流のようだ。つまり、アマゾン、ウォルマート、ベスト・バイなどといった「米リテール業界の巨人」たちに真っ向から立ち向かうことになる。

リゾート・ホテルを中心にディスカウント・クーポンを提供する「グルーポン・ゲットアウェイ」や、ユーザーの位置情報を利用し、最寄のディスカウント情報を提供する「グルーポン・ナウ」など、最近のグルーポンは、株式公開を睨んでのアグレッシブな事業拡張に余念がない。しかし、今回の「グルーポン・グッズ」は、「ローカル」「サービス」をキーワードに事業展開してきたグルーポンにとって、いまだかつてない大きな飛躍であるといえる。

現時点では、全米展開されているわけではない「グルーポン・グッズ」。ほとんど前触れもなく、都市ごとにロールアウトしていくという慎重な市場導入だ。あくまで本格導入ではなく、トライアルという意図もあるのだろうか。

グルーポンは、グローバル規模では1億3,400万人の登録顧客をもつ。これらの顧客のメール・アドレスを握っており、この膨大なオーディエンスにリーチする「潜在性」をもっていることが、グルーポンにとって今のところ最大の武器だ。

先日、私が住むロサンゼルス地域でローンチされた「グルーポン・グッズ」だが、ある日の品揃えを覗いてみた。

デジタルカメラ、エレキ・ギター・セット、エクササイズ・ウェアなどこの日の提供商品は六種。平均すると50%ちょっとのディスカウント率だ。見たところ72時間限定セールのようだが、対象がモノなので当然在庫に限りがあるらしく、セール開始から24時間以上が経過した時点で「売り切れ」の表示が出ているものもある。ざっと計算してみると、セール初日の売上は1億円程度といったところだろうか。

厳選された品揃えで、在庫の限られた商品を、期間限定、大幅ディスカウントで売りさばく「フラッシュ・セールス」は、米国ネット通販業界で現在最も注目されている販売モデルのひとつだといえる。その「フラッシュ・セールス」が、売り手に提供する価値提案は「余剰在庫の処分」「新商品/ニッチ商品のマーケティング」だ。

先の例を見てみても、「エクササイズ・ウェア」といってもただのエクササイズ・ウェアではなく、着用しているだけでセルライト除去効果があるエクササイズ・パンツ、起床時刻になるとアラームが鳴るだけではなく、跳ねたり転がったりする目覚まし時計、ソープストーンでできたアイスキューブ(保冷効果があって、冷蔵庫で冷やしておくと30分間は低温を維持できる。飲料を冷やすために使うが、普通のアイスキューブと違って溶けて味が薄まってしまうこともない。)など、アイデア商品/面白グッズの類が品揃えに多く、これらは流通業者ではなくメーカーから直接提供されている。メーカーにしてみれば、グルーポンで販促をすることで、いわゆる「販売促進」だけでなく、グルーポンの登録顧客に対してブランド認知/商品認知を高めるという思惑があるのだろう。

ちなみに、米国ではグーグルがグルーポンに対抗して始めた類似サービス「グーグル・オファー」の目覚しい成長ぶりがビジネス・メディアを賑わせている。同サービスを通して提供されるプロモーション一件あたりの売上は、今年8月から9月の一カ月にかけて160%増、販売されたクーポンの数に至っては427%増の成長を記録した。

昨年12月にグーグルはグルーポンに対して60億ドル規模の買収提案を行い、破談に終わったという経緯があるが、最近波乱続きのグルーポンに「グーグルの傘下に入るべきだったのでは・・・」という囁きも巷では聞かれている。アマゾンが出資する競合、リビングソーシャルの追随も激しい。

「グルーポン・グッズ」が、アマゾンやウォルマート、ベスト・バイなど、米リテール業界の「現体制」に対して強力なライバルになり得るかどうかはまだわからないが、共同購入型クーポンの市場においては「追われる立場」になったグルーポンが、あの手この手で首位の維持を試みていることは確かだ。変化の速い世の中である。「驕れる者久しからず」という言葉がこれほどしっくりくる時代も今までなかった。

市場の動きをいち早く読み、次々と新しい弾を投ずるとともに、時には競合の攻勢から素早く身をかわすことが必要だ。グルーポンは果たして逃げ切れるのか、悪あがきなのか巧妙な戦略なのか、今後の展開から目が離せない。

石塚しのぶ

米ネット・コマース・ルネッサンス

先月の中旬、米サンディエゴで行われた世界最大のEコマース・カンファレンスに出席してきたのだが、そこで、今まさに力強く波打つ米国Eコマースの胎動を実感することができた。

アメリカのネット通販も誕生からざっと15年余。落ち着くどころか、「ルネッサンス(再生)」とも呼ぶべき盛り上がりを見せている。その要因としては、近年アメリカで盛んに言われているところのSO・LO・MOコンシューマーの台頭が大きいようだ。

SO・LO・MOとは、ソーシャル(SOcial)、ローカル(LOcal)、モバイル(MObile)のことだ。ネット通販が始まった頃、「24/7(年中無休)」が合言葉になったが、「24時間いつでもショッピングができる」という「いつでも」は実現できても、「どこでも」はままならなかった。それが、近年のフェイスブックのようなソーシャル・インフラの整備や、スマートフォンやタブレットPCなどの新しい「パーソナル・デバイス」の普及に後押しされ、購買だけではない、生活のあらゆる場面での「どこでも」化が現実のものになろうとしている。

また、SO・LO・MOは究極の「ながら買い」を可能にする。友人の近況をチェックしたり、友人と会話したりし「ながら」買い物ができるのがf-commerce(フェイスブック・コマース)の醍醐味だ。アメリカの人気TVドラマ『デクスター』のフェイスブック・ページで展開されて話題となったウォール・ストア(Wall Stores)がこの典型である(今年のバレンタイン・シーズンに臨時で展開されたもので、現在は存在しない)。その名のとおり、ウォール上の書き込みをクリックするだけで、ウォールを離れることなしに購買のトランザクションが完結できる。友人との会話に興じながら、ふと気になったものを手にとり、気に入ったらレジに持っていって支払いを済ませる・・・。リアルのショッピングにはよくあることだが、これをネットの世界に巧みに移行したのが「ウォール・ストア」である。

これも「ながら買い」の一例だが、アメリカのある調査によれば、iPadの利用者のうち70%が、「テレビを見ながら、iPadを使う」という。テレビで見て気になったものをすぐグーグル検索して、気に入れば即購入する・・・という消費行動がそう珍しくもなくなっているそうだ。「iPadなら、わざわざデスクまで歩いていってPCをオンにしなくても、カウチに寝転がったままショッピングできる」という安易さも、iPadの人気を引き金とした「T-Commerce(タブレット・コマース)」の台頭に貢献しているという。

コムスコアの発表によれば、アメリカではモバイル機器の三台に一台がスマートフォンだ。日本でも「スマホ」利用者が976万人に達した。スマートフォンを片手に、「今、どこにいるか(ロケーション)」をベースに最寄の店舗情報を調べたり、比較ショッピングをしたり、友達の意見を聞いたり・・・といった行動が日常的なものになってきている。PCの前にはりついていなくても、まさしく、「いつでも、どこでも」、自分の欲しい情報があちらからやって来る・・・。真の「パーソナル・コンピューティング」が可能な時代になった。

「インフラ+ツール」の発達が、生活者マインドに変革をもたらし、その結果、新しい買い方、売り方が生まれている。売り手にとっては、無限の好機に満ちた、だからこそハードな時代でもある。

「ネット・オークション」のパイオニアであり、ネット通販初期のアメリカで一世を風靡したイーベイは、定価型マーケットプレイスのアマゾンに押され、一時期「落ち目」の感さえあったが、ここにきて前述の「SO・LO・MO」をキーワードに巻き返しを図っている。ここでは、イーベイの事例をあげ、「SO・LO・MO」の実践に迫ってみたい。

イーベイが実践するSO(ソーシャル)

アメリカの人気男性アイドル、ジャスティン・ビーバーの髪の毛(落札額4万668ドル)、投資家ウォーレン・バフェットとの昼食(落札額263万ドル)など・・・。世にも奇抜なものが売れるオークション・サイトとして誉れ高いイーベイだが、最近はそればかりではない。米ネット通販有数のトラフィックを活かして、ファッションの領域にも積極的に進出してきている。今流行りの「ネット・プライベート・セール(ネット上で限定顧客を相手に限定品を限定期間内に売り払うセール・フォーマット)」を取り入れた『ファッション・ヴォウルト(「ヴォウルト」は英語で、「金庫室」の意)』というマイクロサイト。初期のEベイをよく知る私のようなものだと、あまり、「イーベイ=新品」とか、「イーベイ=ファッション」とかいうイメージはないのだが、イーベイではなんと3秒に一足の靴が売れるらしい。

ファッションといえば、これほどソーシャルな商品カテゴリーも他にない。ファッションとは、自分自身を表現する媒体であるばかりでなく、他者との仲間意識を表現したり、他者の自分への評価を大きく左右したりもする。

週末に街に出ると、楽しげにお喋りをしながら買い物に興じている女性たちの姿に出くわす。試着したところをお互いに見せ合って意見を交換したり、良いと思うものを薦めあったり・・・。時には友達同士、時には母と娘の姿もある。また、彼氏を連れて買い物に着ている女性もいて、試着室の外でカウチに座って手持ち無沙汰そうにしている男性の姿を見ると微笑ましく思う。

ファッションというのは、着る当人が「良い」と思うだけでは不十分で、やはり他人の目から見て、「似合っている」と評価されることが重要なものなのだ。だから、他人の意見を聞きながら買い物をすることが必要であり、また楽しみでもある。

ファッション・ショッピングのこういった特性を理解し、イーベイでは、「ソーシャルな買い物」を可能にする機能を次々と取り入れている。例えば、フェイスブックのウォールに自分が良いと思った商品を載せ、友人の意見を聞いたり、投票を募ったりできる機能。これは、フェイスブックにモバイルでアクセスし、友人や家族と四六時中「いつもつながっている」生活を送るユーザー層(ソーシャル・カスタマー)が主流化しつつあるからこそ効を奏すサービスだ。近リアルタイムで意見を交換し、まるでショッピング・モールを一緒にブラウズするように、商品の見せ合いっこをし、購買意思を下すことができる。

こういう機能がもう少し普及すると、「彼氏」や「夫」という立場にある男性たちがショッピングのお供として街に駆り出されることは少なくなるのではないかと思うのだが・・・。女性たちが街に繰り出し、ウキウキとお喋りや試着を楽しんでいる間に、男の人たちは家でゴロゴロしたり、ホームセンターで自分の趣味の買い物に勤しんだりすることができるのでは。

そんなことを思い巡らしてみたけれども、女性にしてみれば、試着室の外に男性を待たせておいて、ひとつの服を身につけるたびに、「これ、どう?」と聞いてみること自体に、「ソーシャル」な愉しみがあるのだろう。つまり、どんなに「ソーシャル・ショッピング」や「スマートフォン」のテクノロジーが発達しても、試着室の外で手持ち無沙汰に連れを待つ男の人たちの姿はなくならないということになる。

イーベイが実践するLO(ローカル)

「ネット」オークションとして地位を確立したイーベイとしては、かつては、「ネット上での売買をファシリテートする」ことに意義があった。しかし、昨今では、最終的に売買が起こるのはどこかに関わらず、ネットとリアルの橋渡しをすることに新たな意義を生み出している。

昨年12月、イーベイは、ローカル店舗の在庫情報のウェブ検索を可能にするサイト、Milo.comを買収したが、現在、イーベイ・サイトへの同機能の統合を着々と進めている。Eベイで商品検索すると、イーベイ内で売られている商品と並んで、最寄の店舗の在庫および価格情報が表示される(勿論、在庫情報が提供されるのはこのプログラムに加盟している店舗に限られたことだが)。

このサービス、現在はベータ版のため、加盟店舗に無料で提供されているが、ゆくゆくはリスティング広告料を徴収する考えだろう。アマゾンが自社サイトのマーケットプレイスに出品していないベンダーにも広告機会を提供する「アマゾン・プロダクト・アド」を見てもわかるが、アマゾンやイーベイなど絶大な集客力をもつマーケットプレイスは、もはや販売の場であるだけではなく、有効な広告プラットフォームでもあるのである。

イーベイにこだわらず、アメリカの流通市場全般についていうと、最近、このLO(ローカル)を巡る動きがますます活発になってきた。昨年あたりからますます注目を浴びてきているフォースクエア(Foursquare)やフェイスブック・プレイス、そしてフェイスブック・ディールの位置情報サービス、そしてその他数々のショッピング・アプリは、テクノロジーに明るい若者層を中心に確実に普及し、アメリカの生活者の消費行動を大きく変えつつある。

スマートフォンでフォースクエアのアプリを開くと、「近所に28件のスペシャル(バーゲン・ディール)があります」などといった表示が出てくる。「初めてチェックインする人には10%割引」といったようなオファーがリストになって並んでいる。そんなオファーにつられて、行ったこともない店に入ってみたりする。一回体験してみて、そのサービスが気に入れば客はまた利用するだろう。位置情報サービスとからめたディールは、そんな「トライアル購入」を促進する。

フォースクエアの醍醐味のひとつは、「ディスカバリー(発見)」だという。友人の「チェックイン」から、あるいは近所の「スペシャル・ディール」から偶然に新しいお店やサービスを発見する喜び。ネット・コマース・ルネッサンスのキーワードのひとつでもある「セレンディピティ(偶然の出会い)」がここにもある。

本質的に「ローカル」な店舗が、ウェブやモバイルを駆使していかに顧客を誘引するか・・・。これを戦略の焦点とする企業もでてきた。しかし、どんなにウェブやモバイルを駆使したところで、来店時のショッピング体験そのものが月並みでは顧客の心を掴めるわけがない・・・。その根本を忘れてはいけないが、店舗小売業にとって、ウェブやモバイルがもはや無視できない存在であることは否めない。そして、「ネット企業」にとっても、「ローカル」が無視できない時代になってきた。

イーベイが実践するMO(モバイル)

いつでもどこでも携帯でき、多機能、かつ極めて私的なデバイス(スマートフォン)の急速な普及のおかげで、次世代の売り方/買い方の新境地が拓かれてきている。

注目の焦点はアプリだ。お気に入りのサイトや店舗を自分の携帯の中に取り込むアプリは、ドラえもんの「どこでもドア」が現実世界に具現化したようなもの。ワンタッチでサイトや店舗の中に身を投じることができるばかりではなく、使えば使うほど、それが自分仕様にカスタマイズされていく。

イーベイもiPhone、iPad、アンドロイド、ブラックベリーなど、多様なスマートフォンに対応するショッピング・アプリを展開している。「ホーム」画面をオープンすると、「今、ウォッチしているもの」「今、最高値で入札しているもの」、「落札したもの」、「売ったもの」、「まだ売れていないもの」等など、自分の取引履歴が一覧できるようになっている。まさしく、自分専用のEベイ・ストアが掌の中にあるような感じだ。

私自身もアマゾンのiPadアプリ「ウィンドウショップ」を利用したことがあるが、蓄積された情報をベースに、アマゾンの広大な市場(いちば)の中を欲しいモノから欲しいモノへとすいすいと飛ぶような感覚には驚いた。あまりにもスムーズにモノが買えてしまうので怖くさえある。

ウェブという広大なスペースの中から、自分のニーズに見合った情報を探し当てる・・・。ネットの普及が始まった90年代半ばから2000年にかけては、開拓者たちが未踏の地をさまようように、ウェブをブラウズすることに醍醐味があった。しかし、ネットというインフラが「あたり前」となった今では、「何かを探してウェブ上をさまよう」という行為には、生活者はとりたて興味を感じなくなっている。むしろ、目的がきちんと定まっている買い物であれば、ウェブを「ブラウズ」して時間を無駄にするよりは、信頼できる供給者のもとに直行してさっさと用を済ませたいと多くの人は思っているのだ。そこで登場したのが、ウィジェット(ガジェット)やアプリというツールである。

iPhoneやiPad、またはアンドロイド対応のアプリ・ユーザーは何を求めているのか。ひとつには便宜性。イーベイの話題からは遠ざかるが、アメリカ最大のドラッグストア・チェーンであるウォルグリーンが提供しているもので、処方薬を再発注するためのアプリがある。処方薬の容器に貼ってあるバーコードをスキャンして最寄の店舗にオーダーを入れ、ピックアップできるという手軽さだ。従来型のプロセスでは、薬局に行き⇒薬剤師に処方箋を提示し⇒調合が終わるまで待つという手間があったが、その「手間」を除いてくれるこのアプリは、2010年の11月に市場導入されて以来大いに人気を博している。

また、昨今では、便宜性より何より、iPadを筆頭とするタブレットPCのヴィヴィッドなビジュアルや音にこだわったアプリが登場し生活者を魅了している。ラルフ・ローレンのスポーツ・ウェア・ブランド「ラルフローレンRLX」のiPadアプリは、ファッション・ブランドの中でも群を抜いたクリエイティビティで、「ラルフ・ローレン」という「クラシカル」なブランドに新しい生命を吹き込み、生活者を振り向かせることに成功した(勿論、デザイン性に優れたアプリを作れば売れるというわけではなく、前提条件としてモノやサービスが優れていることは言うまでもない)。

SO・LO・MOは今日の生活者のライフスタイルを象徴する重要なキーワードだが、企業が新しい売り方を考える上で着目すべき傾向は他にもたくさんある。2000年前後に、ネット上で売り手と買い手の出会いの場を創造する役割として「マーケット・メーカー(市場の創造者)」という言葉が登場したが、これからの流通業は、生活者のライフスタイルの変化や、そこから生まれる要求を絶えずウォッチして、それに応える術を供給側に提供していく「マーケット・メーカー」であらねばならない。今回、イーベイの事例を通して改めて確信を新たにした。

石塚しのぶ

電子書籍フォーマットにおける自費出版が、歴史と定評をもつ大手出版社に脅威を与えている。

勿論これはアメリカの状況であり、まだ、日本の状況を反映するものではない。「まだ」と書いたが、それは、日本にも同様な状況がまもなく訪れると私が確信しているからである。

米 国時間の昨日、アマゾンが発表した『電子書籍売上上位50冊』の図表には山が二つある。一つは、13ドルで売られている書籍の山。これが50冊中16冊を 占め最も多い。二つ目の山は価格が1ドルかそれ未満のもの。50冊中12冊を占めるのがこの山で、図表中二番目に高い山になっている。

13ドルで売られている書籍の山は、歴史も定評もある大手出版社から発行されている、いわゆる「ベストセラー」の山であると考えていただければまず間違いない。そして、二番目の山は、ここ一、二年の間に隆盛してきた、「無名作家」による自費出版の山である。

例 えば、ケンタッキー州ルイビルに住む「アマチュア作家」、ジョン・ロック氏は、アマゾンのキンドル・ストアでミステリー小説を一冊99セントで売り、一月 12万ドルの収入を稼いでいる。アマゾンの自費出版では、著者の取り分35%に対してアマゾンの取り分は65%。つまり、ロック氏の懐に入るのは1冊あた り35セントということになる。1冊あたりの収入はすずめの涙ほどだが、売れる数が半端ではない。かつては「蔑視」されていた自費出版作家だが、電子出版 とソーシャル・メディアという二つのプラットフォームの活用がこれらの作家たちにいまだかつて無いパワーを与え、従来型の大手出版社を脅かしている。

か つて、大手出版社の後ろ盾を受けたベストセラー作家と、自費出版ベースの無名作家の作品が同じ棚に並ぶことはなかった。しかし、今日では、電子出版とソー シャル・メディアという二つのプラットフォームが、書籍流通という競争の土俵をフラット化したのだ。かつては、大手出版社の莫大な流通網とマーケティング 予算がなければ、作家は人の目に触れることができなかった。今では、自費出版作家も、ベストセラー作家と同様のスポットライトを浴びることができる。

も ちろん、自費出版作家に苦労がないわけではない。自らの本をプロモートするために作家が行う作業は、デジタル時代の行商に等しいものだ。前述のロック氏 は、ツイッターとブログを駆使して作品の露出を高める。週数百件にものぼる読者からのメールに自ら答えるという地道な活動である。『ザッポスの奇跡』の旧 版を自費出版した際に私も同様な経験をしたので、その大変さは身に染みてわかる(もっとも、私の本はロック氏のように商業的成功を収めているわけではない が・・・)。

我々生活者が、過去の感覚でいうところの「アマチュア・クリエーター」であるブロガーの書き物やYouTubeの動画に慣ら されていることも、ロック氏のような自費出版作家台頭の要因のひとつだろう。かつては、大手出版社の名前そのものが信頼のしるしであり、品質の保証であっ た。ブロガーやYouTubeのアルファ・ユーザーがプロ顔負けの仕事をしている今日では、大手出版社の「お墨付き」は既に神話と化した。

月 収12万ドルに値する読者をもつロック氏は、もはや「無名作家」ではない。映画化や翻訳化の話も舞い込むという。当然、従来型大手出版社からのオファーも あるだろう。だが、自費出版をやめる気はないという。どんな本を書くか、どんなキャラクターにするのか、そして、いつ出版するのか・・・、そういった諸々 のことに関する「自由」を諦めたくないからだ。

どんなものを、どんな風にマーケティングしたら売れるのか・・・。それが、プロの供給者 (製造業者、出版社、音楽レーベル等など)だけの秘密であった時代は終わったことを実感させる話である。そして、それは出版業界に限った話ではない。「売 り手」と「買い手」が存在するいずれの市場にも、今後、同様なことが雪崩のように襲ってくるだろう。

石塚しのぶ

先日、世界最大のリテーラー、ウォルマートが、ソーシャル・メディアのスタートアップ企業、コズミックス(Kozmix)を買収したとのニュースがありました。

コズミックスというのは、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャル・メディアをさらい、トピック別に情報をフィルタリングかつ整理整頓して提示してくれるサイトです。Kosmix.comはまるで検索エンジンのように働きますが、サイト上部に表示されるボックスにキーワードを入れると(ここでは、Walmartと入れてみた)、記事、リファレンス、ビデオ、ニュース、ブログ、ガイド、フォーラム、ツール、フェイスブック、ツイッターなどのセクションに分かれて、ウォルマートに関するありとあらゆる情報が提示されます。

Walmart.comのビジター数トレンドから、先日発表された配当金増加のニュース、元従業員の声、給与情報に至るまで、なるほど・・・、「ウォルマートについての最新情報」を把握するにはもってこいのサイトです。私も仕事がらよくウェブでリサーチをしますが、市場や世間の人が「今」ウォルマートについて何を言っているのか、このサイトを見ればよくわかります。

とても便利なサイトであることには間違いないですが、さて、コズミックス買収の背景にあるウォルマートの具体的な意図は・・・というと、あまり明確に説明されていません。

「今日、急速に成長しているソーシャル・コマース環境において、我々の能力を拡大していくことを視野に入れている。世界的に見ても、ソーシャル・ネットワーキングやモバイル・アプリケーションは顧客の日常生活の一部になりつつあり、ショッピングについての考えや姿勢を影響するものとなっている」というのが、買収に際して、ウォルマートの副会長エデゥアルド・カストロ・ライト氏が出した声明です。

コズミックスの共同創設者であるベンキー・ハリナラヤン氏とアナンド・ラジャラマン氏は、シリコンバレーでは有名なシリアル・アントレプレナー(連続起業家)です。1998年にアマゾンに2.5億ドルで買収されたショッピング・サーチ・エンジン、ジャングリーも彼らのクリエイション。その後、両者はアマゾン社内で人的タスクのクラウドソーシング・マーケットプレイス「メカニカル・ターク」(翻訳、文章の書き起こしなどの仕事に関して、依頼者と遂行者を結び付けるマーケットプレイス)の開発に携わるなど華々しい経歴を持っています。

アマゾンの創設者でありCEOのジェフ・ベゾスも、実は個人投資家としてコズミックスに出資しており、ハリナラヤン/ラジャラマン両氏の才能と、同サイトの潜在性を高く買っていることは想像に難くありません。

北米店舗売上が過去二年間連続で減少し続けているウォルマートは、不調の原因のひとつである「主要顧客層の声を無視し、その支持を失った」ことで批判を浴びています。「エブリデイ・ロウ・プライス」を売りにナンバー・ワンの地位を築いてきたのにも関わらず、最近では、アマゾンにその地位を奪われる始末。長年、ウォルマートを頼りにしてきた顧客層の期待を大きく裏切ったというわけです。

ソーシャル・メディア上の評判も芳しくなく、つい最近では、「ソーシャル・メディア上で最も嫌われている大型ストア」という不名誉な発表もありました。これは、アメリカのオンライン世論集積サイトによるものですが、過去3ヶ月間に、ツイッター、フェイスブック、そして同サイト上でウォルマートに関して流された不評(筆者注:英語のみと思われる)はおよそ1万件。なかでも、「労働条件、低賃金、粗悪な商品、粗悪なカスタマー・サービス」に意見が集中したということです。

一般庶民がコンテンツ・クリエーションから発信、共有、そして共通の関心や主張を軸とした組織化まで・・・自由自在にできるようになった世の中。「世界最大のリテーラー」として権力を欲しいままにしてきたウォルマートですが、市場の大きな変化を見据え、生活者の声に耳を傾ける必要に迫られるようになっています。

コズミックス買収と同時に、ウォルマートは@WalmartLabs(アット・ウォルマートラボ)という新規部門の立ち上げを発表しました。@WalmartLabsは、ウォルマートのマルチ・チャネル戦略を支えるソーシャル/モバイル・コマース・テクノロジーおよび事業を開発する部門であるということですが、現コズミックスがその基盤となり、ハリナラヤン/ラジャラマン両氏は同部門の指揮的存在として力量を発揮することが期待されています。

Eコマース発展の歴史の中で、我々はひとつの転換期にある。Eコマースの第一世代は、店舗をウェブに持ってくるということだった。しかし、Eコマースの第二世代は、店舗、ウェブ、モバイルをすべて活用し、それらが融和したエクスペリエンスを築くということになるはずだ。そして、その『融和したエクスペリエンス』の軸となるのが、ソーシャル・アイデンティティということになる」

ウォルマートによる買収が発表された直後、ラジャラマン氏はコズミックス社の公式ブログに上のように書きました。『ソーシャル・アイデンティティ(ソーシャル・メディア上に表現され、組み立てられる個々のアイデンティティ)を軸に、店舗、ウェブ、モバイルを融和したショッピング・エクスペリエンスを築くこと』が、ウォルマートが同氏に課した課題ということになるのでしょうか。

ウォルマートにソーシャルを足すと何ができるのか?・・・その答えはまだ不透明ですが、ハリナラヤン/ラジャラマン両氏が率いるコズミックス/@WalmartLabsの行方が、ソーシャル時代におけるウォルマートの未来を背負っているといえそうです。この二人の天才の力を借り、ソーシャル時代の波に乗ることが、起死回生を賭けたウォルマートの「最後の一手」であり、これに失敗すればもう後はない、という切羽詰ったところにまで来ているのかもしれません。

石塚しのぶ

『TIME』誌が毎年恒例の「時の人(パーソン・オブ・ジ・イヤー)」を発表しました。なんと今年は、フェイスブックの創設者兼CEO、マーク・ザッカーバーグが26歳の若さでこの座に君臨。『我々の生活にとってもはや必要不可欠な存在となった、新しい情報交換の仕組みをつくった』ことに対しての栄誉であると、特集記事は述べています。

タイム誌の表紙を飾るフェイスブック創始者マーク・ザッカーバーグ

米『TIME』誌の「時の人」といえば、アメリカのポップカルチャーの時流を示唆する象徴的なものです。近年で、テクノロジー業界の人がこの栄誉を勝ち得たのは今年で四回め。ちなみに直近から遡ると、2005年にはマイクロソフトのビル・ゲイツとメリンダ・ゲイツ夫妻、1999年にはアマゾンのジェフ・ベゾス、1997年にはインテルのアンディ・グローブとなっています。

2006年には「YOU(一般生活者の皆さん)」が「時の人」に選ばれました。著書『売れる仕組みに革命が起きる(2008)』の中にも書いたのですが、これは、まさしく、社会・市場の大きな変化を象徴する出来事でした。ユーチューブやブログなどのウェブ・ツールを通して、「情報摂取」のみならず「情報発信」を始めた生活者のパワーを、『TIME』誌という従来型メディアが公に認めたのです。

話は前後しますが、1999年にアマゾン創設者兼CEOのジェフ・ベゾスは「ショッピングのあり方を根本から変える潜在性を切り拓いた」ことに対してこの栄誉を与えられています。Eコマースの発展のひとつの肝は、商品や売り手、価格情報というかつては「閉ざされた情報」を民主化し、買い手が入手しやすいようにした、という点にあり、これは市場に大きなインパクトを与えるものでした。1999年、2006年、そして2010年の「時の人」すべてに、「情報」というキーワードが絡んでいることはとても興味深いと思います。

しかし、1999年の段階では、この対象が「ショッピング」ということに留まっていた。それが、今日では、情報の「民主化」が、「ショッピング」だけではなく、「エンターテイメント」や「コミュニケーション」など広範な領域にまで及び、生活者の「ソーシャル化」という社会現象に発展しているのです。これは、とても衝撃的なことです。

日本では新年早々に公開されるらしいですが、フェイスブックの誕生を物語った映画『ソーシャル・ネットワーク』がアメリカでは10月の初めに公開されて、フェイスブックという会社そのものだけではなく、創設者であるマーク・ザッカーバーグの私生活や人となりに対する関心が一気に高まりました。

最近、調査報道で有名なアメリカのニュース番組『60ミニッツ』でもフェイスブックが特集され、マーク・ザッカーバーグがインタビューされていたのですが、その中で、彼が口にした言葉にはっとさせられました。

「フェイスブックの目的は、インターネットをまるごと支配し、所有することですか?」

というインタビュワーの質問に直接的には答えず、彼が言ったのは次のようなことでした。

「写真でも、音楽でも・・・あらゆるものを、友人や家族など、自分にとって大切な人たちと『一緒に使う』ことができたら、誰でもそうしたいと思うのが当然だ」

日増しに「ソーシャル化」する生活者の欲求に応えるソーシャル・プラットフォームをフェイスブックは構築しているだけだ。その結果として、5億人の支持を得ているのだ・・・。

私には、彼がそう主張しているように聞こえました。

昨今問題視されている個人情報の蓄積や売買の問題はさておき、「フェイスブックは、ソーシャル化する生活者の欲求に応えているからこそ、生活者の支持を得て、より一層の繁栄を続けているのだ」というザッカーバーグの主張は、私には妥当なもののように思えます。裏返していえば、生活者の「ソーシャルな欲求」、市場のソーシャル化に応えられない企業は衰え、去り行くのみ・・・ということもできるでしょう。

2010年は、「ソーシャル時代元年」とでも呼ぶべき年でした。フェイスブックなど、ウェブ上のソーシャル・テクノロジーの影響で、生活者の情報伝播力、発言力、影響力、そして、「組織力」が目まぐるしく増大した結果、生活のあらゆる側面で「ソーシャル化」という現象が起こってきました。 私は、2011年には、この「ソーシャル化」がますます加速するのではないかと思っています。その結果、流通業をはじめ企業は、「ソーシャル化」に伴う生活者の行動変化や要望に応えざるを得なくなると思います。

でも、誰もが、「フェイスブック」にならなくてはならない、ということではありません。ソーシャル・テクノロジーを導入して・・・というだけの問題ではなくて、ソーシャル時代にふさわしい企業のあり方、考え方というのが、今、問われているということだと思うのです。「ソーシャル」といわれると、すぐにテクノロジーの話だと思って尻込みしてしまう流通業の人たちは、特にこれを自覚する必要があると思います。

ソーシャル時代にふさわしい考え方とはどういう考え方かというと、例えば、「組織化された顧客」、つまり生活者の力の膨大さを認識することだと思います。「顧客エクスペリエンス」とはもはや、企業の力だけで形づくるものではありません。フェイスブックやツイッターや、あるいはアマゾンなどを見てもわかりますが、今日、生活者は、自分と同じ立場にある生活者が提供する情報やアドバイスにより大きく依存する傾向にあります。専門家や売り手が提供する商品レビューより、生活者が提供する商品レビューの方が信用できる。あるいは、コールセンターに電話したり、企業のFAQを見るより、顧客フォーラムに行った方がより詳細な情報がより速く得られる・・・などといった声がよく聞かれます。企業が提供するエクスペリエンスより、顧客同士が提供するエクスペリエンスの方が優れている、といったことが多々あるのです。企業は、このような顧客パワーを認識するべきですし、それに応える仕組みをつくることに注力すべきだと思います。

そして、企業の「あり方」としては、顧客についてより深く知る姿勢が求められていると思います。それも、常に顧客の声を聞いている姿勢が求められているということです。何か特別な「イベント」として顧客の声を聞く場を設けるのではない。むしろ、オン/オフライン含めてあらゆる方法を駆使し、顧客の声をいつも聞き続ける体制をもつ、ということだと思います。それも、今までの倍どころか、何十倍も、ということです。

さらに、VOC(ボイス・オブ・カスタマー)といっても、ただ単に顧客の声を集計して定量化すればよいというものではない。顧客エクスペリエンスというのは、煮詰めれば「感情」。ザッポスのCEOトニー・シェイも言っているように、お客さんにとっては、「どんな気持ちにさせてくれたか」が重要なのです。だから、ただ「データをとっておしまい」ということではなくて、「お客さんの感情」に触れて、エンパシー(共感する気持ち)や姿勢を養うことが必要です。「企業人」としての自分ではなく、「生活者」としての自分に立ち返るということです。

「顧客への共感を育てる」という点では、アメリカのオフィス用品流通では最大のステープルズという会社が、かなり前から先進的な試みをやってきました。前述の著書『売れる仕組みに革命が起きる』の中に詳しく書いていますが、この会社では、ボストン郊外にある本社で、月四回程度、有志社員が大講堂に集い、コンタクトセンターに入ってくるコールを一時間ライブで傍聴する、ということをやっています。本社で働いている人間なら、所属部門や役職に関わらず誰でも参加できるのですが、これには、CEOなどトップの人間も頻繁に参加しているということです。顧客を「ナンバー(頭数とか売上)」としてではなく、「個々の人間」として扱う。顧客の声を生で聴くことによって、顧客の怒りやフラストレーション、あるいは喜びを直に経験するのだそうです。

これは、莫大な資金投資や大掛かりなシステム導入を必要とすることではありません。「お客様を徹底的に理解する」という意思と姿勢と創造性さえあれば、どんな企業にもできることです。

フェイスブックの話からはだいぶんそれましたが、「ソーシャルの時代」にあって、テクノロジーだけにこだわったり、テクノロジーを障壁と考えるのではなく、「ソーシャル」という言葉の原点にかえって、「生活者主体の」ビジネス構想や価値創造を考えていく必要があると思うのです。そういった意味では、 2011年は、生活者とつながる企業とそうでない企業との間に大きな格差が生まれる年になるのではないかと思っています。

石塚しのぶ

日本でも話題の米国発共同購入クーポン・サイト、グルーポンが、最近、「グルーポン・ストア」というサービスを開始した。「グルーポン・ストア」とは、ローカル・ビジネス(小売店、レストラン、各種サービス・プロバイダー等など)が、グルーポンのプラットフォームを通じて自由自在にプロモーションを発信できる仕組み(クーポン・モール)だ。従来型のグルーポンのシステムは、いわば「広告代理店」モデルで、営業マンを通してプロモーション企画をオーダーし、グルーポンがもつ広告スペース(ウェブサイト)に掲載してもらう。グルーポンは基本的に「デイリー・ディール(一日一件のみ)」のシステムだから、発注をしてからプロモーションが実施されるまでの待ち時間が長く、年間に実施できるプロモーションの数も限られている。

しかし、「グルーポン・ストア」であれば、ビジネスは好きな時に、好きなだけプロモーションを発信できるというわけだ。それも、従来型のグルーポンのシステムでは、グルーポンを通して売れたクーポンの売上の50%というかなり割高なコミッションが徴収されるが、「グルーポン・ストア」のセルフ・サービス・システムを使えば、コミッションは10%で済む。グルーポンの登録顧客に毎日配信されるEメールを通じてプロモーションの告知をするなど、アドオン・サービスを利用したとしても、コミッションは、従来の方法に比べてかなり割安な30%だ。

「グルーポン」といえば、毎日のように競合サービスが出現する中で、その三つの脆弱性が指摘されている。ひとつめは、独自性のなさ。基本的に、グルーポンのサービスは、誰でも容易に真似できるサービスだ。事実、アメリカの共同購入クーポン・サイトでグルーポンに次ぎ二番手の「リビングソーシャル」は、グルーポンに酷似したサービスを展開し、サイトも見間違えるほどだ。今日、アメリカだけでも約200件の「グルーポン系」ビジネスが存在するというが、これは同社のサービスの模倣のしやすさに端を発している。

ふたつめは、スティッキネス(粘着性)に欠けることである。顧客が離反しにくいサービスというのは、顧客が取引を重ねれば重ねるほどメリットが倍増する、あるいは、何らか(情報、ポイント等)の蓄積がされるため、他社のサービスを併用したり、離反することで損が生じる構造になっているものである。だが、グルーポンにはこれらの要素がない。グルーポンの顧客が、他のサイトを併用することを阻むものは何もないのだ。強いて言えば、顧客嗜好や行動データの蓄積によるパーソナリゼーションが始まっているが、これもまだ目に見えた結果を生んでいない。

みっつめは、スケーラビリティに欠けることである。「グルーポン・ストア」が解決しようとしているのはこの問題である。先にも述べたように、従来型のグルーポンの仕組みでは、プロモーションを提供したいビジネスが、グルーポンの営業マンにオーダーを入れ、企画を練った上でグルーポンの所有媒体(ウェブサイト、メール)に広告を掲載するという「代理店モデル」をとっている。このモデルでは、営業地域を広げれば広げるほど、それだけ数多くの営業マンを要するという事情があった。事実、現在3,000人近くいるというグルーポン社員のうち約半数が営業マンであるという。

従来型のモデルでは、「媒体」の考え方もスケーラビリティに欠ける。ひとつの地域で複数のプロモーションを並行して展開する「マルチ・ディール」の試みが始まってはいるものの、グルーポン・モデルの基本は「デイリー・ディール(一日一本限定)である。広告スペースが限られているから、当然、発注から実施までのリードタイムは長く、少なくとも約1カ月はかかるという。しかも、従来型のモデルでは、各ビジネスがグルーポンのサイトに掲載されるのは最高でも年間2回のみだ。この数値を見ただけで、いかに従来型の「グルーポン・モデル」がスケーラビリティに乏しいかがおわかりいただけるだろう。

ネット、リアルに限らず、これからのビジネスの成功のカギは、嗜好や目的を同じくしたユーザーが集まり、活動を行う「プラットフォーム」を提供するということだ。「グルーポン・ストア」の導入によって、グルーポンはよりプラットフォームに近い形へとそのビジネスを転換させていっているといえるだろう。これまでのグルーポンは、いわば「広告・プロモーション媒体」に過ぎなかった。しかし、複数の売り手や買い手が集まり、自由自在に取引できる「クーポン・マーケットプレイス」を展開することにより、ユーザーが増えれば増えるほどそのメリットが増す「ネットワーク効果」を生み出すことができる。

しかし気になるのは、「共同購入クーポン・サイト」に限らず、異種競合の動きである。ウェブを基盤として、プロモーションを通じて売り手と買い手を結ぶビジネスが続々と出現してきている。フェイスブックのような大手をはじめ、大小さまざまな企業が「ソーシャル・プロモーション」に群がる中、グルーポンに勝ち目はあるのか。続いて、「ソーシャル・プロモーション」における差別化要因について考察してみたい。

石塚しのぶ

iPad用に開発された「ソーシャル・マガジン・アプリケーション」、フリップボード(Flipboard)が7月末にリリースされ話題になっている。

私も早速ダウンロードして、会社のスタッフに教わりながらぼちぼち使ってみているが、なかなか楽しいツールだ。ウェブ時代の情報消費におけるキーワードは、「Portable(持ち運びできる)」、「Personalized(パーソナライズされた)」、「Participatory(参加型の)」の3つのPである、と言われるが、フリップボードは、まさにこの3つのPを現実化してくれるツールだと思う。

今日は、まったく個人的な感覚からなのだが、フリップボードが現実化するこの「3つのP」と、こういったツールが、我々の消費をどう変える可能性があるのかについて考えてみたい。

まず、「Portable(持ち運びができる)」だが、フリップボードを使うと、80を超える媒体(新聞や雑誌のオンライン版やブログなど)の中から好きなものを選び、各媒体から配信されるニュースをひとつのツール(フリップボード)の中でシームレスに読むことができる。いまやオフライン、オンラインともに様々な嗜好やニーズに応える媒体があって楽しいが、例えばマガジンを考えてみても、紙媒体でそれらすべてを持ち歩くのは物理的に不可能である。でも、フリップボードは、マガジンをデジタル化することによってそれを実現している。

そして、「Personalized(パーソナライズされた)」。これは、フリップボードの「売り」のポイントとして、特にテク関連のメディアに最も取り沙汰されている点だろう。

フリップボードは、FacebookとTwitterのアカウント情報を取り込み、知人、友人など、各ユーザーのネットワークの中にいる人たちの投稿を、時系列的、かつマガジン形式にレイアウトして見せてくれるという機能をもっている。

イメージとしては、自分の友人、知人が発信するニュースや情報だけで構成される「私だけのマガジン」ができるといった感じだ。例えば通常、ツイッターのつぶやきに外部サイトのリンクなどがついている場合、読者は、まずつぶやきを読んで、その内容に興味があればリンクをクリックして、外部のサイトに行ってその記事なり何なりを読まなくてはならない。リンクをクリックするまでは、それが本当にどんな記事だかはわからない。私の体験から言うと、「これは・・・」と思ってリンクを辿ってみても、読み始めると期待はずれでがっかりさせられることも多い。

でも、フリップボードで自分のツイッター・アカウントを読み込むと、つぶやきと、その中に含まれているリンク先の記事の冒頭部分が並んで表示されてくる。記事のはじめを「チラ読み」して興味があれば、「サイト上で読む」というボタンをクリックして情報源であるサイトに行けばよいのだ。この機能は、つぶやきの情報価値を倍増してくれる。

アメリカの非営利調査団体、Pew Research Centerによると、ウェブでニュースを読む人の75%が、SNSやメールなどを通して、友人や知人に紹介された情報を消費しているという。「あなたは毎日新聞。僕は朝日新聞」というような、メディア・ロイヤリティが存在した時代はもう終わりを告げ、複数の情報源から、読みたいものを、読みたいときに、読みたいだけ、「つまみ食い」するのが普通になった。

オフラインにもオンラインにも、情報源が溢れている。それらすべてに馬鹿丁寧に目を通していたのでは、寝る時間もなくなってしまう。そこで我々は、友人、知人のフィルターに頼るようになった。ウェブ上のソーシャル・ネットワークは、オーソドックスな意味で「近しい関係」の人ばかりではなく、まだ会ったこともないが、共通の趣味や関心や信条で括られた人たちで構成されている。だからこそ、その人たちが面白い、あるいは重要であると判断した情報は、我々自身にとっても面白いし、重要なのだ。

さて、最後の「Participatory(参加型の)」。これは先の「Personalized(パーソナライズされた)」に密接に関連している。メールなり、ツイッターなり、コミュニケーション媒体はともかく、面白いと思った情報を友人、知人に送って、共有するという行動はもはや「普通」になった。フリップボードの醍醐味のひとつとして、情報を起点に人がつながることを容易にするということがある。例えば、ためになる記事を読んでいる時に、そのリンクをつぶやいてくれた人にすぐにお礼や感想を言うことができる。まったくの赤の他人でも、些細なコミュニケーションをきっかけに、お付き合いが始まるかもしれない。ウェブが促進する「ソーシャル」な時代には、共通の趣味や関心をもつ人たちが集まり、地理的障壁を超えて、トライブ(部族)を形成することが可能だ。

昔から、あらゆる消費活動、購買活動は、人と人のつながりをベースに起こってきた。それは今でも変わらない。ただ、情報伝播のスピードが加速化し、それのもたらすインパクトが拡大しているだけだ。もはや、情報そのものに価値があるのではなく、情報の価値は人に帰属する。つまり、「情報の伝え手は誰か」ということが重要であるということだ。

このコンセプトを、情報流通に限らず、すべての流通業に応用することができる。今まで述べてきた「3つのP」を応用することが、流通業者にとっても重要なポイントになる。物品流通だって、「モノを顧客の手元に届ける」という最後のステップを除いては、情報伝播の力に頼るところが大きい。顧客がいかに、情報を「ひと口サイズ」に切って、自分ふうにアレンジしたり、人と共有したりすることをサポートできるか。それを可能にするツールや仕組みを提供することで、企業と顧客、顧客と顧客のつながりを強化し、購買活動を活性化するだけではなく、お客様がお客様を呼び、会社に利益をもたらす、循環系を築くことができるのではないかと思うのだ。
石塚しのぶ


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石塚 しのぶ

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日米間ビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ代表。ロサンゼルスにて、流通の未来像を模索中。

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