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経験曲線を駆け上がる~米国ベンチャーの世代を超えたエコシステム

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経験曲線を駆け上がる

米国ベンチャーの世代を超えたエコシステム

 経験曲線なるコンセプトがあるが、これは累積する経験量により効率化など改善がされるというものだ。しかし、累積しなければならない。経験とそこから得られたものが継承されてこそ効果は上がり、引き継がれずにゼロから始めれば振り出しに戻ってしまう。

 ベンチャー先進国の米国とまだまだ足元にも及ばない日本では、経験曲線からみても、彼我の差は大きい。つまり、米国と比べ、日本はベンチャーのエコシステム(生態系)として、経験がバラバラかつ継承されていないと言えよう。

 米国では、多様な分野と年代層のメンターと起業家がつながり、経験が生かされている。筆者の親友のRichard Melmon氏(エレクトロニックアーツ共同創業者)は70代だが、メンターとして若い起業家を何人も成功に導いている。

 これは大企業でもそうだ。例えば、筆者の友人でシスコシステムズのベンチャー企業買収担当者は、マイクロソフトなど他社の買収担当と情報や経験をシェアして高め合っている。このように、エコシステムとして、様々な人・組織が経験曲線を駆け上っているのが米国だ。

 なぜ日米の差が大きいのか? いくつもあるが、ここでは次の5点をあげたい。

●学ぶ側

 米国では、リーンスタートアップの普及もあって、とにかく外に出てユーザーほかの声を聴くことが習慣化しつつある。比較すると、日本の起業家は外部の意見をそれほど獲得にいっていない。

 米国ではメンターのネットワークも広がり、先輩や専門家へのアクセスもしやすくなっている。例えば、ベンチャー投資育成の500 Startupsは数百人のメンターがいる(筆者もその一人)。

 米国に比べ、日本はメンターが少なく質も低いという問題があるが、それ以上にメンターの活用が貧弱だ。人のネットワークで達人の元投資家は、投資をやめたら相談に来る起業家が激減したという。アドバイスでなく金目当てが多かったという証左だ。

 日本の若い起業家は、年の差がそれほどない人に相談する傾向がある。メンターに甘える傾向もあり、例えば事前に課題や戦略を整理してどうメンターにコミュニケートするかアドバイスしないと、よいミーティングにならない。筆者も、そのベンチャーのことをロクに説明せずにこちらに話をさせようとするトンデモ起業家にあきれたこともある。

●教える側

 三つの面で質が弱い。まず、ベンチャーの経験が乏しいメンターが多い。次に、起業家を尊重しない。そして、私利私欲を優先する人もしばしば。

 経験量が米国に劣るのは仕方ないが、米国は起業家へのリスペクトから入り、しかし間違った点はボコボコにする。日本は、起業家に対して上から目線であれこれ言うが、結局はガンバレよで終わったりする。メンターの中には、出す金は少額かゼロで、大きな株の持ち分を得ようとするやからもいる。まったく冗談じゃない。

 なお、ペイフォワードか恨み節か、という文化の違いもある。米国では、成功したらこれからの起業家たちの役に立とうというペイフォワードの文化が醸成されている。かたや日本では、起業家は大変な環境で米国以上の苦労をしてやっと成功にたどり着く。すると、(特に年長者は)「お前らは甘い」的なトークになりがちだ。もちろん、素晴らしいメンターとなった日本の起業家もあまたいるが、地雷も踏みやすいのが日本だ。

●過去の重視

 米国のベンチャー界隈で冴えた連続起業家や投資家は、歴史や過去から学ぶ姿勢が強い。次のチャンスを見出すヒントにしているのだ。日本では、いま・これからホットなものは、と議論のレンジ狭くなりがちだ。

 日本はこれが弱いから、過ちも犯しやすい。ゲーム機は4-5年ごとに市場シェアが大転換するという歴史があるのに、近年のモバイルゲームベンチャーは同じ過ちを犯した。企業向けソフトの日本のベンチャーが初期の価格設定を低くし過ぎたと言うが、これも過去から学べば避けられただろう。

 なお、リーンスタートアップなど近年の起業教育リーダーの一人Steve Blank氏は、シリコンバレーの起源と発展の歴史についてもレクチャーをしている。

●有名人好き

 日本人はとにかく有名人が大好きだ。個別論で自社に対してのアドバイスをしてくれるわけでなくても、そちらの話を聞きたがる。松下幸之助の本から学ぶのはいいが、近くのメンターの方が親身になってくれて役に立つかもしれない。両方をみた方がよい。

 それに、有名人の言葉に酔うより、もっとちゃんと勉強しろと日本の起業家には言いたい。こうした基本の努力が米国に負けている。

●何を伝えるか

 まず日本では情報の透明性が低い。失敗はもちろん、様々な経験について情報発信がされない。これが乏しいから、質に問題のあるメンターも淘汰されない。

 また、何を生かすかその選択もしばしば疑問がわく。ある大成功した起業家の右腕だった元専務は、他の起業家に元旦は幹部で創業家のお墓参りをしなさいと強くアドバイスした。その起業家は一度はやったが、二度とはしなかった。神がかりよりも科学の時代だ。

 では、どうすればよいか?まず、他人の脳みそを活用するモードに転換することだ。その上で二つある。一つはよいメンターを探し(これも人に聞け)、協力を得る努力をすること(メンターがヤル気になるようにアプローチ)。もう一つは、英語を学んで、米国をはじめとする英語圏の情報や人・組織とつながって、それらを活用する。自分一人では何もできない。多くの人に頼ってこそ自立できるのがベンチャーの定石だ。

 ワイルドに考えると、日本の魅力を強みにして、世界の人材を日本の特区に集め、英語も公用語としたコミュニティを作ってはどうだろう。そこには多様な分野と世代が集まり、人が人を呼んで、かつてない事業創造のメッカになるのではなかろうか。女性起業家の比率も上げられ、アイデアの花が咲く。ここから発信されたコンテンツや人のつながりにより、日本各地の起業家も成長を加速することができるだろう。

これは、日本マーケティング協会の月刊HORIZONの2017年第8号(特集「世代を越える」)に寄稿したものです。

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