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家電を通して見るネットワークの向こう側

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 先週、経産省主催という優秀なネット家電に対して与えられる賞の授賞式なるものを取材した。正式名称は「ネットKADEN 2005」。いや、何も家電をアルファベットにしなくても……。というのはともかく、第1回目の受賞作品はこちらと相成った。
 実施概要を見る限り、どうしてもデザイン賞を受賞したiPod nanoが混じっている理由がわからないのだけど、それ以外は妥当な選考結果だった。
 ただ審査委員長をつとめる慶應の國領さん以外、ほとんどの審査員は、もしかするとネット家電というものを、本当の意味で理解できていなかったんじゃないだろうか。授賞式での審査員と受賞者が参加したパネルディスカッションを聞いての率直な感想だ。

 今さらここで持論を振りかざすまでもなく、ネット家電の本質はネットワークの向こう側にある、本来その機器が持てるはずもなかった大きなパワーを利用するところにあると思う。
 たとえば大賞受賞のソニー・ロケーションフリーは、テレビ受信機能を持たない機器あるいはテレビ受信が不可能な地域にて、インターネットを通じてテレビ映像の視聴を可能にする製品だ。
 象印の「みまもりほっとライン」も、電気ポットという実にシンプルな白物家電をネットにつなげ、ネット上のサーバに使用履歴を蓄積。サーバがそのデータを分析してユーザーに伝えることで、”ポット”というシンプルな機器単独ではなしえなかった生活のリズムを遠隔地に伝えるという新しい価値を提供している。
 個人的にもっともネット家電らしいと感じたのは、東芝のレコーダRDシリーズと、ホンダのインターナビ・プレミアムクラブ。
 前者は番組予約という行為の履歴をセンターで集め、それを分析してユーザーにランキング情報などとしてフィードバックする。インターナビはネットを通じ、過去の渋滞データベースや現時点で走っている他インターナビユーザーの情報を参照しつつ、ユーザーに新鮮な渋滞情報と適切なアドバイスを送る。
 いずれも背後にある大きなコンピューティングとストレージの能力を用い、ネットを通じて広範な情報を集めて利用者にフィードバックをかける。「ネットワークの向こう側にある強大なパワーで何ができるのか」。実に想像力を掻き立てられるプロダクトだ。
 ところがほとんどの審査委員は、足下しか見ていない。
 あまり悪口は言いたくないのだけど、せめてメーカー側の「こういう技術背景があって、取り組んでいるし、現時点でも解決されている面がある」といったようなコメントに耳を傾けて欲しいな。既に解決されていることを、繰り返し懸念として表明していたり、自分が欲しい機能ばかりを一方的に話してばかりで発展性がない。
 一般消費者の行動として、目に見えないネットサービスではなく、”モノそのもの”に目が行くのは理解できるのだけど、審査員までが同じような視点では「生活者にとっても意義のある新産業として、その価値を高め、さらに成長拡大させていく」という目的にも合致しない。
 とはいえ、結果的に選ばれた製品は、どれもユニークな着眼点を持つ興味深いものばかり。まだまだ小さな賞ではあるが、今後じょじょにでも社会的な認知が得られるものになり、さらに多業種に”ネットの向こう側にあるもの”が垣間見える製品が広がっていってほしいものだ。

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