ずいぶんこのblogからご無沙汰でございましたが、それは、このプロジェクトに忙殺されていたためでした。
日本IBMのプレスリリース、およびIBM Corporationのプレスリリースで、マルチメディアアクセシビリティのツールについての発表が行われました。ありがたいことに、だいぶ反響も多いようで、日本では、こちらや、こちらなどで、紹介が行われています。(ここでもご紹介いただいていたみたいですが、URLを失念しました。すみません。)
さて、せっかくですので、この技術がどういったものなのか、研究に没頭していた立場から、現状でかける範囲内で書いてみます。もちろん、これは、オープンソースにする予定のプロジェクトですので、いずれもっと詳しいことが書けることになると思います。
このプロジェクト、実は技術的にはものすごくハードルが高い代物です。(もうそれはそれは、実用的に動く代物にするには泣かされました)
そもそもの発端は、最近のWebページがAjaxやAdobe Flashなどを多用した、非常にプログラマブルなものになっており、既存のアクセシビリティ技術が追いついていないという危機感にありました。今回の技術は、マルチメディアコンテンツアクセシビリティに絞っているのですが、われわれの問題意識は、現状のWeb技術の進歩の速さが、アクセシビリティ技術の進歩よりもはるかに速いために、視覚障碍者には最近のWebページに対してアクセスが難しくなってきているというところにありました。(実際、プロジェクトを引っ張っていっている浅川や高木の危機感の原点は、そういう根源的なところにあったのです。)
ところが、技術的にみると、こんなとんでもない目標では、実用レベルに落とし込むことが非常に難しいというのは、このプロジェクトをやる前から関係者の共通認識でした。すべてをいきなり対象にすることはとても難しいのです。こういう場合は、まずは問題を絞り込んで、確実に対処していくことが重要です。今回発表されましたマルチメディアアクセシビリティのツールというのは、最近はやっているYouTubeや動画によるニュースサイトに対してまずはアクセシビリティを確保しようということを目指しています。最近では、日本政府も政府インターネットTVというサイトで情報を配信しています。こういったマルチメディアコンテンツで重要な情報が配信されることが増えてきた以上、すべての人に使えるようにすることは、とても大切なことでしょう。
さて、まずはマルチメディアコンテンツをターゲットにしたはいいものの、そもそもそういったものが、視覚障碍者に使えるものになるんでしょうか? とりあえず、普通のスクリーンリーダーを用いてこういったコンテンツにアクセスした場合には、
- マルチメディアコンテンツは、ロードされた時点ですぐ再生され、たいていの場合、うるさくて読み上げを行うソフトウェアの音を掻き消してしまう
- 再生・停止・音量調整といった最低限の制御も難しい。というのも多くのサイトでは、格好のよいマウスでしか制御できないプレーヤーをDHTMLやFlashなどで自前で備えていて、キーボードでの制御が難しい。
- どうにかこうにか制御できたとしても、コンテンツが複雑に変化して、プレイリストを操作することも困難なことがある。
- 再生した動画を聞いてみると、映像を見なくては理解できないコンテンツが多く。クローズドキャプション(TVなどでは副音声で再生される説明用の音声)がなくては理解できないことが多々ある。
といった問題があるわけです。ところが、こういった問題を解決することは非常に大変なことなのです。そもそもWeb上のマルチメディアコンテンツは、どこかに標準があるわけではなく、いわゆる典型的なWeb的な発展を遂げたコンテンツです。動画プレーヤーの種類だけでも、FLV (Flash Video), Windows Media Player, QuickTime, Real Playerといくつもありますし、そういったコンテンツをWebページとして配信する際には、DHTMLやFlashなどを用いて、目が見える人にはきれいな高機能のプレーヤーに仕立て上げるわけです。たとえば、YouTubeでは、Flashをつかって、コンパクトでお勧め関連プログラムも配信できるプレーヤーとともに動画を配信しています。
ところが、これは、アクセシブルブラウザを作る人から見ると、ひどく面倒なことになります。個々のカスタマイズされたプレーヤに対応し続けることはほとんど不可能なわけで、どうにかして、すべてのマルチメディアコンテンツに対して、制御を行う方法を見つけなくてはならなくなってしまったわけです。
技術的な詳細は、また今度に語る事にするとして、いったい何をするものなのか、手短に技術者の目から見て、説明することにします。
まず、このツールは、ページを読み込むと、自動的に動画および音声を含んでいるのかを探し出します。見つかった場合には、音量および再生の制御をするための処理をし、再生状態を自動的に監視します。これによって、ユーザーからは、コンテンツによらず統一的なショートカットキーにより、音量調整・再生制御を行うことができます。再生状況は逐次監視され、動画に説明が用意されていた場合(これはコンテンツごとに別途用意する必要があります)音声合成システムによって説明を適切なタイミングで読み上げることができます。
他にも、AjaxやFlashをアクセシブルにするための、非常に面白い機能が備えられていますが、それはまた次回以降に書かせてもらうことにします。(さすがに最近疲れ気味)
最近の高度なプログラミングを駆使しているWebページを視覚障碍者の方々にも使えるようにすることは、正直、気が遠くなるような高い目標です。オープンソースになることで、少しでも前に進めることになるかもしれない。そんな風に考えて、今は一生懸命プログラムを書いています。
それにしても不思議な縁というものなのか、私はどうやら本当にフリーソフトウェアやオープンソースにかかわることが多いですね。IBMとオープンソースのかかわりは非常に多岐に渡っていますが、さまざまな顔を持っています。こんな素敵な形でアクセシビリティ技術が、世の中に出て行けることは、とてもすばらしいことだと思います。
(個人的な意見ですが、がんばる人にがんばれるようにするというのは、とても大切なことだと思っています。サイトワールドで、私を捕まえて、一生懸命お願いしてくれた方、まずはひとつ前に進めましたことをご報告します。)
Special
- PR -| Max | 2007/03/15 06:59 |
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プレスリリースからは具体的なイメージが分からなかったので、興味深く拝見しました。 ところで、クローズドキャプションは字幕テキストのことを指すのが一般的ではないでしょうか。 | |
| himi | 2007/03/15 09:53 |
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コメントありがとうございます。ご指摘のとおり、クローズドキャプションと副音声は本来は別物です。クローズドキャプション (その名のとおり、見えない字幕)は、説明用のテキストを記述することができるものですね。クローズドキャプションの内容を副音声で読み上げてやることができるわけですが、ご指摘のとおり、違うものではあります。ご指摘どうもありがとうございます。 | |
| 工藤俊作 | 2007/03/15 13:49 |
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はじめまして。貴殿の友人から誘導されてココにきました。突然コメントする無礼をご容赦下さいませ。CNETでニュース拝見致しました。詳細は伺い知れないですが、たぶん大変なご苦労だった事、これからも障壁が沢山あるだろう事は、予想に違わないと存じます。アクセシビリティという重要な事項に携わっているのは、まさに技術者として意義あることを為しいているのだと思います。本当に羨ましいです。是非今後も続けて欲しいです。 | |
| koichiro | 2007/03/15 14:54 |
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おめでとう! 今までの苦労の片鱗を僅かながら見てきた自分としては、まず祝福したいと思います。 | |
| inoue | 2007/03/15 22:48 |
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himiさん、いろいろご苦労もあったことと思いますが、まずは公開できる段階に達したこと、おめでとうございます。これがオープンソースになることでそれをベースにまた何かが生まれることを期待します。 | |
| himi | 2007/03/16 01:44 |
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工藤さま、はじめまして。コメントありがとうございます。おっしゃられるとおり、実際これはまだ始まりに過ぎません。これからの方が、もっとずっと大変だとは思います。よろしければ応援してやってください。よろしくお願いします。 | |
| himi | 2007/03/16 01:53 |
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koちゃんへ。まだまだ最初の一歩というところではありますが、まずは人に言えるところまで来ました。またいろいろ迷惑かけるかもしれないけど、そのときはよろしく。ぜひまた呑みましょう。 | |
| himi | 2007/03/16 01:55 |
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inoueさん、サイトワールドの時にはお会いできずにすみませんでした。また、ご相談させていただくことも多いと思います。今後ともよろしくお願いします。 | |
| sito | 2007/03/16 07:47 |
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すばらしいですね。どこかがおこなっていってほしかったことです。ベーシックで困難も多いと思いますが、推進していってくださいね。 | |
| mitsugu | 2007/03/16 17:24 |
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himiさん、おめでとうございます。 | |
| himi | 2007/03/19 01:56 |
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sitoさん、コメントありがとうございます。まだまだ困難が山のようにありますが、まずは着実に進めていければと考えております。今後ともよろしくお願いします。 | |
| himi | 2007/03/19 02:00 |
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mitsuguさん。どうもありがとうございます。 とにかくこの手の技術はユーザーがついてくれないことにはどうにもならないものです。私も最近少しづつですが、この類のUIに慣れてきてはいるのですが、まだまだぜんぜん及びません。ぜひぜひご協力をお願いします。それでは、またのみましょう。 | |

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