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「顧客視点」という言葉に潜む罠

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よく顧客視点で考えろ、とか、現場視点で考えろ、と言われる。
確かに。顧客の視点は当然大事だろう。サービスや製品を買ってくれるのは顧客なのだから。

「xx視点で考える」

って、正論な気がするけど、具体的にどうしたらxx視点で考える事ができるのだろうか?
正論だけに、そこまで踏み込んで考えて無いんじゃないか?
正論だけに、「ごもっとも」なんて言ってそこで思考停止しているんじゃないか?

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どうしたら顧客視点で考えられるのだろうか?
どうしたら顧客の立場で考えられるのだろうか?

動きが想像できないキーワードは意味のない言葉だと思う。体の動かし方がイメージできるまで噛み砕く必要がある。

以前ご一緒したプロジェクトに、"伝説の営業マン"がいた。数千人の営業マンのトップを走っていた、名実ともにトップ営業マンだ。
仮にKさんとする。その方とこんな会話をした。

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K:今回のシステムは、営業のためのツールにならなければ意味がない。営業を楽にするものにしたいんだ。

私:なるほど、「顧客視点で考えて設計したい」ということですよね。

K:うーん。基本はそうなんですが、「顧客視点」と言ってる時点で顧客側に立ってないと思うんです。

私:?

K:「顧客の視点を持とう」と言った時点で「自分の視点とは別に、顧客の視点も持とう」という暗黙の前提が見え隠れする。これはあくまで「自分の立場」に立って考えているんだと思うんです。

私:なるほど、そう言われると・・・。

K:だから、「視点を持つ」んじゃなくて「顧客だったらどう感じるか?」と言うべきだと思うのです。「視点」なんていらない。
リアルに「自分が顧客」だったら、をイメージする。顧客になりきる。そういう事が今回求められる事だと思うのです。
そうでなけば、上から目線で「顧客視点で考えてやったぜ」という雰囲気が出てしまう。僕は営業の時、必ずそうしてました。

私:なるほど。Kさんが伝説の営業マンだった理由が垣間見れた気がしました。

K:そうですか?

私:Kさんは、何かを売るのではなく、「自分がお客さんだったら何をして欲しいか」を考えていた。お客さん自身になる事で、相手が本当に欲しているものを理解しようとしていたんですね。そんな風に、自分以上に自分になってくる営業がいたら、自分の利害抜きでそんな風に考えてくれる営業がいたら、その人から何でもいいので買いたくなっちゃいますよ。騙されていいかも(笑

K:そうかもしれませんね。でも私は本当に価値のあるものしか売りませんよ。「顧客だったら」絶対に失敗したくないでしょ?

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顧客視点を持つんじゃない。俺が「顧客になる」んだ。

徹底的に顧客に"なって"考える。「顧客"だったら"」がキーワードだ。

この考え方はとてもパワフルだと思った。

「顧客視点で」、「経営視点で」、「現場目線で」、「全体最適視点で」、なんて言葉はよく聞くけれど、結局どうすれば顧客視点で考えられるのか、実のところよくわからない。「顧客視点で考える」と号令を掛けて満足し、「考えたつもり」になってしまう。

この答えはシンプルだった。「自分が顧客だったら」と考えればいい。

この想像力が低いと何をやってもダメ。
気の利かない人はこの想像力が低い。相手になりきること。
超優秀な営業マンは、営業などしていなかった。誰よりも顧客に心を重ねて、誰よりも顧客自身になっていたのだ。
想像できないなら、顧客になってみればいい。そのサービスを受けてみればいい。その仕事をやってみればいい。

そして、「顧客だったら」と考えると、途端に自分の利害を優先する思考から抜け出せる。

顧客だったら何をしてほしいかを、考えた先に、自分が売っているものがハマるなら売ればいい。
そうでないなら、押し売りするのではなく、「僕のサービスは合いませんね」とハッキリ伝えた上で、ニーズを満たせそうなサービスを他所から探してきて伝えてあげればいい。
顧客だったら、そうして欲しいはずだから。

この考え方は、今でも僕の基本スタンスになっている。
顧客に心を重ねる。顧客より顧客の事を考える。そして顧客に取って正しいことをする。
結果、僕らのビジネスにならなくたって全く問題ない。

実は、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズのポリシーにもなっていた。

「自社の利害は横に置け。顧客に取って正しい事を追求せよ」

こういう風に仕事ができるって気持ちいいもんだ。

この辺の話は「抵抗勢力との向き合い方」にも書いたので興味があれば是非。

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