オルタナティブ・ブログ > ソリューション・デザインから未来を変える >

価値あるIT環境を実現し、未来を変えるために、日々のソリューション・デザイン事例を紹介していきます。

「LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲 」より(前編) [働きやすい環境へ]

»
「この本は、とりわけ男性に読んでもらいたい。」とマーク・ザッカーバーグ(Facebook CEO)が推薦する、シェリル・サンドバーグ(同社 COO)の「LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲 」。シェリル・サンドバーグのカバー写真の表情から人生への充実感と人への温かい眼差しが伝わってきて、本屋で手に取りました。
LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲

マーク・ザッカーバーグは「この本は、他人から最高のものを引き出すノウハウと既存の情報とを組み合わせるという彼女の才能が発揮されている。」とも表現しています。実際に読むとシェリルの知性と人間性が凝縮され、執筆にあたり、その協力者たちが的確な支援をしてきたことがわかります。

本書では、企業で働く女性の現状について、様々な統計データや理論を適宜活用し(原注だけで50頁に渡る)、多面的な考察をしています。その上で、シェリル自身がその実力を発揮するために一歩前へ踏み出すことのできなかった「内なる障壁」を自ら赤裸々に描き出しています。

その様々なエピソードやセンシティブな内容に関する言葉の選び方など、すべての要素において、定価1,680円を遥かに上回る価値があるのでは、と感じました。消費者にとって、良質なものが安く手に入るということは歓迎すべきことかと思いますが、売り手買い手双方にとって適正さを欠く価格の設定をすると、今後、質の高い本が提供される機会が少なくなる可能性もあるでしょう。
LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲 裏表紙

このエントリーでは、ふと興味を持った書籍の価格設定の特徴について私が理解した範囲で触れるとともに、「LEAN IN 女性、仕事、リーダーへの意欲」の内容紹介と、女性が活躍する会社で働く自分の感覚、男にもある「内なる障壁」を3回に分けて記載したいと思います。


本の価格設定とは

そもそも書籍は、その質の良し悪しによって価格が決められているのでしょうか。

まず、書籍は、出版社が個々の出版物の小売価格(定価)を決めて、書店(販売業者)が定価販売できるようになっており(再販売価格維持制度)、通常の商品とは異なります。通常の商品は、独占禁止法によって「再販売価格の拘束」が禁止されており、消費者が販売店を選び安く買える権利を守っています。しかしながら、書籍については、この例外を認めないと、「一般社団法人 日本書籍出版協会」は、次のような事態が生じるとしています。

1. 本の種類が少なくなり、
2. 本の内容が偏り、
3. 価格が高くなり、
4. 遠隔地は都市部より本の価格が上昇し、
5. 町の本屋さんが減る、という事態になります。

再販制度がなくなって安売り競争が行なわれるようになると、書店が仕入れる出版物は売行き予測の立てやすいベストセラーものに偏りがちになり、みせかけの価格が高くなります。
また、専門書や個性的な出版物を仕入れることのできる書店が今よりも大幅に減少します。

現在は、再販売価格維持制度により、価格の下落は起きず、また、書籍の性質上、価格の変更はしづらい状況です。従って、基本的には利益を最大化するよう考慮して、適切な価格の設定を行い、読者の少ない分野の本の出版も維持可能な経営を持続することが重要と思います。

使命感による価格設定という意見

草思社の久保田 創氏によると、書籍の売り上げの統計的分布は、べき分布に従うといいます。ごく一部のものだけが破格に売れ、残りのほとんどはあまり売れない、と(「情熱と経済物理学とポピュラーサイエンス編集者(談話室)」日本物理學會誌 66(1), 60-61, 2011-01-05 より)。


久保田氏は、その前提に立ち、書籍の価格において、利益を最大化する原価率を求める計算式を導きだしています。その上で実際のデータを当てはめて検証したところ、ちょっとでも安くしたところで利益を大きくする効果はなく、とにかくできるだけ高い値段で売った方が得だという結論に至っています。書籍はいわゆる「価格弾力性」が小さく、値下げの効果があまりない、としています。

私も感じた書籍の価格の安さについて、久保田氏は、

一つには、出版社としての「使命」があると思います。きれい事みたいですが、一応いっておきます。本には「ある考えをなるべくたくさんの人に効率的に伝える」という使命があります。もちろん、売上額は大事ですが、たった1人の人が1冊を5000万円で買ってくれてそれ以外に1冊も売れなかった場合、それは本来の意味での出版ではありません。パブリックなものにするというのがバブリッシュですから、ただ本を作って売上金を得ればいいというものではないのです。もし、値段を上げた方が売上金額や利益が多くなるとしても、売れ数も伸ばしたいので(価格を下げても極端に売れ数が伸びるわけではないが、上げれば少しずつ売れ数は下がるのは事実なので)、両方を満たすある程度の折衷的な価格に落ち着き、そのために必ずしも利益が採れない事態に陥るということです。


と仰っています。そして、一部のベストセラーによる利益が他の本の赤字や少ない利益を埋め合わせているとしています。


自分もITサービスの値付けをする立場になることもありますが、書籍の世界における、値付けはまったく異なる論理で実施されているようです。自分の、いわゆる価格感受性だけをもとに、本の値段を安いと思っていたわけですが、その裏に出版社としての使命感があるという意見を見つけることができ、文化の発展に貢献する企業の思想に触れ、なんだか嬉しくなりました。


シェリル自身による本書の紹介文

さて、本書の内容を紹介するにまだ至っていません。心に残るメッセージに出逢うたびに例の付箋を貼付したのですが、その数があまりに多くなりました。それを一つ一つ引用するわけにもいかないので、かと言って、どれかを抽出しても本書の内容を紹介したことにはならないため、ここではシェリル自身による本書の紹介文のみ、引用致します。


どういう本であるにせよ、自分の領域でトップに就く可能性を高めたい、全力でゴールを目指したい、そう考える女性のために私は書いている。そこには、人生とキャリアのあらゆるステージにいる女性が含まれる。社会に出たばかりの人から、一時休職中だがまた職場に戻りたいと考えている人まで、すべての女性だ。また、たとえば同僚、妻、母、娘がどんな問題を抱えているのか理解したい、そして平等な世界を築くために自分の役割を果たしたいと考えている男性のためにも、私は書いている。

本書の一部が、いつどこでどれだけ働くかを選ぶ余地のある幸運な女性に最も役立つことは認めよう。しかし他の部分は、あらゆる職場、あらゆる共同体、あらゆる家庭で女性が直面する状況に当てはまると考えている。より多くの女性がトップに立つようになれば、すべての女性の機会を拡げ、より公正な処遇を得られるようにできるはずだ。


読後、このメッセージを再び読み、その通りの内容だと思いました。

次回は、女性が活躍する会社で働く自分の感覚を記載したいと思います。
Comment(0)