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Mobile First いまが好機! ワークプレース変革をモバイルが先導する(後編)

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Mobile First いまが好機! ワークプレース変革をモバイルが先導する(前編)」に続き、後編では、モバイル・デバイスの活用が企業のワークプレース変革にどのように寄与するのか、その施策例を挙げていきたいと思います。この施策例は、これまでの業務経験やIBM社内事例に基づいて記載しています。

前編において、モバイル・デバイスの利用基準となるポリシーの項目を挙げました。今回、いくつかの施策例をポリシーの項目ごとに見ていきたいと思います。これらの項目は前回記載した通り、モバイル・デバイスの利用に限った項目ではなく、既存のワークプレース環境に影響を与える項目になります。

<デバイス>
 [デバイスの利用可能箇所や業務利用においてサポート対象とする機種など]
  • (施策例)モバイル・デバイスを社外だけではなく、社内において業務用PCの代替として利用する
  • (ワークプレースにもたらす効果)固定席からフリーアドレスへ、打ち合わせ時のペーパレス促進
モバイル・デバイスには、ノート型PCやスマートフォン、タブレットなどいくつかのデバイスが挙げられますが、ここではノート型PC、タブレットをイメージしています。通常、自分に割り当てられたデスクトップPCのある固定席が「ワークプレース」(業務環境)とされています。

この物理的なしがらみをなくすため、モバイル・デバイスを社内外で共用します。これにより、自由に働く場所を選択する土台ができます。

この施策は、オフィスのフリーアドレス化につながります(固定席ではなく、オフィス内で作業する場所を自由に選択できる状態)。オフィスのフリーアドレス化を推進する場合、社員の荷物をどこに格納するか、デスクの配置など様々な設備面の変更が必要ですが、オフィスの利用効率の向上にもつながる他、コミュニケーションを取りたい相手と集まりやすく、生産性の向上につながる施策です。

また、社内における打ち合わせ時にモバイル・デバイスを持参することで、資料をデバイス上で確認することが可能になり、紙の資料の配布を抑えることが可能です。

<ガバナンス>
 [モバイル利用者の定義やBYODに関するガイドラインなど]
  • (施策例)モバイル・デバイスの利用にBYOD(Bring Your Own Device)コンセプトを適用し、業務で個人の端末を利用可能にする。その適用範囲を社内の業務用PCに拡大する
  • (ワークプレースにもたらす効果)業務の生産性向上、端末コスト削減、出社困難時の業務継続性確保、ITリテラシーの向上
BYODのコンセプトは、ユーザーが使い慣れた端末を使うことで業務の生産性を向上させる、企業側の端末コストの削減等が主に謳われています。

個人所有のモバイル・デバイスを業務で利用する事例は出始めていますが、そのノウハウを活用し、個人所有のPCの業務利用を許可していくことで、出社困難時の業務継続性確保も期待できます。

また、BYODユーザーに対するヘルプデスク機能を特に設けず、自己解決型の利用を前提にすることでITリテラシーの向上も考えられます。

<サポート>
 [ユーザーに対するサポートの提供方法など]
  • (施策例)モバイル・デバイス利用者向けの社内SNS(ソーシャル・ネットワーク)の整備やセルフサービス型のサポート・ポータルを提供し、社内の業務用PCからも利用可能とする
  • (ワークプレースにもたらす効果)コミニュケーション活性化、組織力強化、ITリテラシーの向上
モバイル・デバイス利用者は基本的に社外にいることが多いと考えられ、社内とのコミュニケーションが取りづらくなると考えられます。こちらに関しては、社内ソーシャル・ネットワークを活用し、社内の業務用PCからも利用可能にすることで、情報の共有や意見交換等がしやすい環境へ変革することが可能です。

また、BYODユーザーのためのサポート・コミュニティを社内ソーシャル・ネットワーク上に設立することで、ITリテラシー向上の他、組織力を増す相互扶助の精神も涵養されていくでしょう。

<アプリケーション>
 [利用可能なアプリケーションや提供方法など]
  • (施策例)モバイル・デバイス向けに、現行PC用のアプリケーションをクライアント仮想化技術を適用し、リモートから画面転送して提供。さらに、それらのアプリケーションを社内の業務用PCからも利用する
  • (ワークプレースにもたらす効果)運用効率化、セキュリティー向上、フレキシブル・ワークプレース
モバイル・デバイス向けのアプリケーションは、Webベースのアプリケーションを除くと本来、それぞれのOSごとに開発する必要があります。

しかしながら、クライアント仮想化技術(シンクライアント端末を用いる際に利用される技術です)を利用することで、現行PCのアプリケーションをサーバー基盤からモバイル・デバイスに向けて画面転送し、モバイル・デバイス上で操作することが可能です。

アプリケーションを個別に開発する必要がなく、また、デバイス側にデータが残らないため、セキュリティー上の効果もあります。この仕組みは社内の業務用PCなど、様々なデバイスから利用することで可能であり、いつでも、どこからでも、業務用アプリケーションが利用可能なフレキシブル・ワークプレースの実現に寄与します。

また、アプリケーションの端末への依存度が低くなるため、シンクライアントの利用も可能となり、前編に挙げた次のような課題が解消されます。
  • ログインまでの時間が長い
  • HDDがよく壊れる
  • 暗号化で操作がもたつく

<ITインフラ>
 [デバイス管理のためのツールなど]
  • (施策例)モバイル・デバイス管理(MDM:Mobile Device Management)のための仕組みを社内の業務用PC管理に適用する
  • (ワークプレースにもたらす効果)生産性向上、セキュリティー向上
モバイル・デバイスも業務データを取り扱うため、従来のPCと同様に管理をする必要があります。一般的には、MDMと呼ばれる管理ツールを導入していくことになりますが、多くの企業ではすでにPCの資産管理ツールが導入されています。

そのため、資産管理ツールの二重運用という事態に陥る可能性があります。その事態を避けると言う名目で、モバイル・デバイスも既存のPCも合わせて管理でき、また、既存の資産管理ツールが抱えていた課題を解決できるツールを見つけ、既存のITインフラを刷新するというアプローチが取れます。

ネットワーク
 [社内ネットワークの利用基準など]
  • (施策例)モバイル・デバイスからインターネットへのセキュアな接続を実現し、社内の業務用PCからもインターネットへのセキュアな接続を可能にする
  • (ワークプレースにもたらす効果)ワークスタイル変革、生産性向上
モバイル・デバイスは、インターネットの利用を前提にしていることがほとんどです。ただ、企業が支給したモバイル・デバイスの場合、インターネットへの自由な接続は予期せぬ、セキュリティ・リスクを生む可能性があります。

業務用データがデバイス内に保管されている場合、インターネットから悪意あるSWがデバイスにダウンロードされていた場合、情報流出の可能性を否定できません。

このインターネットへの接続に、前述したクライアント仮想化技術を用います。インターネットへの接続用のシステムを別途用意し、ブラウザー等のインターネット用のアプリケーションをサーバー基盤上で稼働させ、モバイル・デバイスに向けて画面転送し、モバイル・デバイス上で操作するようにします。この場合、インターネット上のデータがデバイスにダウンロードされません。この仕組みを社内の業務用PCからも利用可能とします。

現在、金融や公共のお客様では、業務用PCからインターネットへの接続を許可していないところがあります。インターネットの閲覧は別の専用端末を用意しており、ネットワーク回線も別になっています。これは珍しいことではありません。このような環境にも、この仕組みを適用すれば端末の統合も可能となり、端末間の移動もなく、業務の生産性も向上します。

<セキュリティー>
 [機密情報の定義や利用基準など]
  • (施策例)モバイル・デバイスを用いた社外利用時のセキュリティ基準を策定し、社外から社内へのネットワーク接続を可能とする
  • (ワークプレースにもたらす効果)ワークスタイル変革、生産性向上、出社困難時の業務継続性確保、雇用の継続
モバイル・デバイスは、社外からの利用を前提にしていることがほとんどです。モバイル・デバイスを活用するということは、社外利用時のセキュリティ基準を策定したり、見直すことになります。

この機会を活用し、社外から社内へのネットワーク接続を可能とし、在宅勤務の制度を推進することでワークスタイル変革の変革、生産性向上、出社困難時の業務継続性確保、雇用の継続につながります。


以上が、モバイル・デバイスの活用を契機に引き起こすことが可能だと考えられるワークプレース変革のための施策例です。実際の講演では、これらの施策例に対するソリューションを図解してご紹介し、また、ワークプレース変革までのロードマップをご提示しました(こちらに関しても今後、このブログで機会を見てご紹介したいと思います)。

ところで、日本IBMは、1999年に育児・介護を理由とする社員に自宅勤務制度を試行し、2000年から自宅において、モバイル・デバイスや電話会議を用いたe-work制度を正式に実施しています。

今も多くの社員が当たり前のように、必要なときに自宅において仕事をしており、私もその一人です。通常は約数千名が社外から社内へネットワーク接続していますが(自宅以外の場所からの接続も含めます)、2011年3月11日の東日本大震災後1週間の関東・東北のオフィスへの出社困難な時はその接続数が1.5倍になりました。

これまでは、災害時のモバイル活用という観点はあまり意識されていなかったのですが、自らの安全を確保することはもちろんですが、この仕組みを利用するなどして、日本IBMとしては業務の中断を可能な限り抑え、お客様のシステムの迅速な復旧、運用の継続が可能となりました。

私も当時、電話は使えませんでしたが、社内のチャット・ソフトやメールを活用して同僚とのやり取りが可能でした(この点に関しては多くの企業や人に様々なストーリーがあるかと思います)。

このように、予期せぬ事態にもある程度は対応できる業務環境をフレキシブル・ワークプレースと呼ぶのだと思います。

Windows XPのサポート切れやモバイル・デバイスの活用に注目が集まっている中、モバイル・デバイスの活用を契機にワークプレース環境を変革する流れを作り上げていくことが可能だと思います。多くの経営層が重視するイノベーションとは、多くの場合、新しいテクノロジーを使うところから生まれてきました。


私は柔軟性もなく、陳腐化したITシステムが理由で、仕事をしたくてもできない、しづらいという理不尽な状況を忌み嫌います。誰かの働きたいと言う前向きな意思を阻害する人物にはなりたくない。これは私に限ったことではないと思います。

今回ご紹介したモバイル・ファースト、モバイル向けのシステム開発だけではなく、ワークプレース変革への足がかりにも活用できるコンセプトになればと思います。
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