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不安感解消の妙薬?「経験談」を語ろう

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新入社員や若手社員の指導において「経験談」が有効ーそれでは、いったいどのような場面で有効なのでしょうか。
今までの経験から、特に「不安感があるとき」と「未経験なことを学んでもらうとき」に効果が高いと感じています。そこで今回は「不安感があるとき」に、どのような話を伝えると良いか、実際のケースをもとにご紹介します。

◆新入社員に異変?
今から約8年前、新入社員のフォローアップ研修のご依頼をいただいた時のこと。その頃ぐらいからでしょうか。新入社員に異変を感じるようになったのは。

その異変とは、入社半年過ぎ頃からメンタルに問題を抱え休職、という話を聞くようになったことでした。それまでは、入社してすぐに会社を辞める人はいましたが、メンタルの問題で休職という話を、聞いた記憶がなかったのです。

しかしその年、ご依頼をいただいた会社では、研修対象となる100名のうち3名が入社半年過ぎ頃から休職。3名とも、7月いっぱいまで行われた研修期間中は、何も問題はなく元気だったそうです。
しかし、配属後しばらくしてから休みがちになり、メンタルに問題を抱えていることがわかったとのこと。いったい彼らに何が起きたのでしょうか?

◆フォローアップ研修での様子
ご依頼いただいた研修は、2月の実施でした。その頃には、休職していた人も徐々に職場に復帰し始めていました。

但し、休職していた人は、研修内容が1年間の振り返りや、2年目に期待される役割、2年目の目標設定などの内容となっていたため、人によりその内容が心理的な負担になることが懸念されました。そこで、研修への参加は本人次第としました。その結果、3名中1名が研修に参加しました。

研修を担当したのは、弊社パートナーコンサルタントとして、自らより良い状況を創り出す思考と行動、セルフリーダーシップ研修を提供くださっている、(株)マイルストーン 代表取締役の水野浩志講師です。
講師のエネルギッシュな雰囲気に触発されたことや、久しぶりに会えた同期同士が交流を図れたことからか、皆積極的に参加し、研修は盛り上がりを見せていました。

また、メンタルに問題を抱えた人も元気だった頃と変わらぬ様子で、もともとリーダー的素養があったことから、リーダーシップを発揮していました。

しかし、ある場面から急に研修参加者全体の反応が変わります。それは、水野講師が自分の経験を話したときでした。

◆新入社員がじっと聞き入った講師の経験談

その経験談とは、「一足飛びに成功しようと思うと、失敗する」というもの。

水野講師は、社会に出るにあたり、お父様から
       「10年1つのことに取り組んで1人前。何でも10年やるつもりで」
と言われたそうです。
しかし、時おりしもバブル経済真っ只中。誰もが「一攫千金」を狙っていた時期でもありました。水野講師は、お父様の言っていることは「古い!」と思い、「どうしたら最短距離で成功できるか」という意識で、社会人生活をスタートします。

しかし、その結果は、惨憺たるもの。

20代は転職を繰り返しました。そして、30代で起業するも思い描いたとおりに物事が進まず、半年で頓挫。一緒に起業した仲間から三行半を突きつけられた上に、事業資金を提供してくれた人たちと消費者金融からの借入金、1500万円の返済を迫られる事態に。

当時の売上は年商200万円。借金の利子返済もままなりません。

自ら招いたこととは言え、そのような状況に精神的に追い込まれ、3大依存症に。仕事から逃げ、ギャンブル、飲酒、タバコ三昧と、生活が荒れていったそうです。

しかしある時、「このままではいけない」と思い立ち、自分の人生の建て直しを図ろうと決意します。それまでの自分のあり方を見直し、お父様がおっしゃっていた「10年で1つのことを」という気持ちで物事に取り組むことに。

そこで取り組んだのが「禁煙」。

ご自身の禁煙は、何の苦痛もなく、自分が思っていた以上にうまくいきます。
そこで、苦痛なく禁煙できる方法は、多くの人の役に立つのでは?と考え、その成果を足がかりに「禁煙のノウハウ」を体系化。それをメルマガで情報配信したところ、大きな反響を呼ぶことに。禁煙に取り組みたい人の悩みに答えながら、ノウハウの精度を高めます。そして、「禁煙セミナー」を提供。徐々に「禁煙できた」という成果が評判になります。

その評判から、禁煙のみならず自分の生活改善を図りたい人が集まるように。生活改善を図りたい人たちも、成果を出せるようになります。すると今度は、プロの講師の人たちから「どうしたら参加者が成果を出せるのか」ということの相談を受けるように。

その相談をもとに、「参加者が成果が出せるセミナーの企画・運営」を体系化し「高品質セミナー作成講座」として提供したところ、これも評判に。

そのような経験を経て、お父様のおっしゃっていた「10年で1つのことを」ということの真意が身にしみてわかったーという、自身の失敗とそれを乗り越えた経験を赤裸々にメンバーに向けて伝えたのでした。

◆新入社員が「経験談」から得たものとは?

経験談を伝えた後の、メンバーには大きな変化がありました。その反応とは、肩の力が抜けたような、ほっとしたような表情や様子でした。

研修後のアンケートには、次のようなメッセージが書かれていました。
・そんなに焦らなくてもいいんだ
・多少の失敗を恐れなくてもいいんだ
・自分だけがうまくいっていないわけではなかったんだ

どうやら、彼らの多くは「失敗してはいけない」、「早く貢献しなくてはいけない」、「一度の失敗が生涯の失敗になる」と考えるぐらい、心にゆとりをなくし、不安に思っていたようです。

特に、休職を経験したメンバーが、帰りに明るい表情で講師に話しかけていたのが印象的でした。講師の話を聞いて、自分の経験も長い目で考えれば、大したことはなさそうだと感じられたようでした。

また、水野講師の「10年1つのことをやり続ける」という話は、他社でも同様の反応を得ていることから、新入社員世代は、表情や言葉に出ていなくても、今の状況や将来に不安を持っている様子がうかがえます。それが行き過ぎると、メンタルに問題を生じるようになるのかもしれません。

◆「不安」が強いのはなぜ?
以上のような出来事から、私は、最近の新入社員世代は、私たち(特に40代以上)が思っている以上に、不安が強いのではないかと考えるようになりました。

その理由を3点ほど考察してみました。
1)職場環境によるもの
  年々経営環境は厳しさを増しています。どの組織も、時間、人員、金銭的なゆとりが少なくなっています。そのためか、職場では「ミスは出来ない」という雰囲気や言動があります。その雰囲気を必要以上に感じ取り「ミスしないように」「失敗しないように」という意識が、不安につながっているのではないか。
2)指導者と新入社員の年齢差
  採用を抑制した期間がある組織では、指導者が30代、新入社員が20代となる場合があります。新入社員から見ると、30代の社員の仕事ぶりはスーパーマンです。自分が先輩のように仕事ができるようになることが想像できません。そのため、自信を失いやすく、せめて「ご迷惑をかけないように」という気持ちが強くなります。すると、忙しそうな上司や先輩に声をかけることが出来ません。声をかけないことで、仕事の遅れやミスが生じ注意を受けます。注意を受けたことを重く受け止めすぎ、「叱られたくない」という気持ちが、不安につながっているのではないか。
3)経験の不足
  学生時代にゼミ、クラブ活動、サークル活動などが減ってきていることや、アルバイト先は、ある程度マニュアルがしっかりあるところで経験するなど、自分たちで何かを考えて取り組む機会が減っているようです。
その結果、思い通りにならないこと、人間関係の摩擦、大人から叱られたり注意をされる場面が少ないため、うまくいかないことにどう対応したらよいかを知らない、対応力のなさが不安につながっているのではないか。

といったことが、背景にあるのではないかと推察しております。いかがでしょうか?

◆「不安」を力に変えるために
 「不安」は、誰しも持っているものです。上司は上司で、先輩は先輩で、恐らく、生きていれば何かしら感じるものなのでしょう。

「不安」を乗り越える方法の1つは、その「不安」を乗り越えた経験のある人から、乗り越えるための意識・心構え・方法を聞くことが一番です。人によっては「乗り越えられるものなんだ」と言うことを知るだけで、解消してしまう人もいます。

特に、新入社員時代の「不安」と言うのは、誰しも多かれ少なかれ感じ、乗り越えてきたものです。ですので、ご自身の経験を振り返り、伝えていただくことをおすすめする次第です。

新入社員に話をする機会があれば、新人時代に不安だったことや、うまくいかなかったことを乗り越えた経験など、伝えてみてはいかがでしょうか?

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