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「災害とソーシャルメディア」~東京での大震災体験記

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 昨日、「IT復興円卓会議」に参加させていただきました。その中でも災害時でのソーシャルメディアについては語られていましたが、震災時に東京に居た私自身の個人的な体験をソーシャルメディアとの関わりに絞り、まとめて記してみます。

本稿は、421日に発売される拙著『ソーシャルメディア革命がみるみるわかる本』(ダイヤモンド社)の付録寄稿からの、抜粋補筆版です。興味を持っていただけた方は、著作の方もご覧いただけるとありがたいです。

 

●2011年3月11日地震発生

2011311日午後1446分。私は、渋谷のオフィスで社内のスタッフとミーティングをしていました。長く大きな横揺れが続いたので、大きな地震だと思いました。岩手三陸沖が震源と知った時は驚きましたが、被害がこれほどになるとは思いませんでした。15時からの来客が予定通りいらしたので、余震の中で打合せをしていたほどです。

携帯はともかくとして、都内の固定電話の通話が、全くつながらないのには驚きました。一方、インターネットのアクセスに影響は無く、ツイッターは従来通りに使えました。近しい人たちの安全が確認できた私は、被害を心配しながら、パソコンにかじりつくことになります。

 

●交通マヒにも情報共有で対応

 地震発生当日の都内では、ツイッターが活躍しました。恵比寿にオフィスを構える会社社長の友人が

 

『本日の業務を終了し、社員は全員帰宅致します』 

とのツイートがあったのは、1632分でした。

素早い判断だなと思って、眺めていたら、20分位して


『恵比寿駅構内放送では,首都圏JR並びに東京メトロの本日内の運行は難しいとのことでした。』 

とのツイート。普段から冷静な判断をされる方なので、この情報は確実だろうと思い、

 

『都内の方はとりあえず、このまま待機がよいかもですね』

という自分のコメントを付けて、引用ツイート(QT)したところ、このツイートが数分以内にたくさんRT(リツイート)されました。ツイッター上での反応が普段と違います。情報を求めている人がいるのだと感じ、都内の避難情報から信頼できそうな情報をツイートすることを始めました。社員には、明朝まで帰れない場合に備えて、食料の購入を指示し、自分はパソコンに向かいます。友人の人気ブロガーが、東京都の帰宅支援対象道路一覧のurlをつぶやいていたので、

 

『都内から歩いて帰る方には役に立ちそうなサイトです』

と、補足してQTすると、これも数分で30人以上にRTされます。

 

先輩社長が<拡散希望>付でしていたツイート

 

『お茶の水駅付近にいる方、明治大学のリバティタワーがホールを開放してTV中継を流してくれていますよ。座れますし、外に居るより暖かいです。』

には、どこから手に入れた情報だろう?と思いながら、ニセ情報を真に受けるような人では無いと判断して公式RTしました。このように地震当日の混乱を避けるためのリアルタイムな情報として、ツイッターは、とても役に立ちました。

 

通常は、ユーザーの使い方に口出しをしない方針のツイッター社も、今回ばかりは、情報は公式RT(元のツイートをそのまま加工しないこと)するように、呼びかけていましたね。情報が不要になったり、間違っていた場合に、発信元の人が削除すればRTしたツイートも削除されて、混乱が収められるという理由です。重複した情報拡散を省くという意味もあります。私は、そのことも理解した上で、リンク先URLについて補足が必要な場合はコメントを付けて、補足が必要ない一次情報は公式RTでと使い分けました。

 

●友人の安否確認もソーシャルメディアで

 徐々に状況がわかるにつれて、気がかりなのは、東北在住の友人達の安否です。ここでソーシャルメディアの力を知ることになります。そもそも、「ツイッター」や「フェイスブック」「ミクシィ」等のアクティブユーザーが、この状況でネットにつながれば、何も発信しないというのは考えにくいです。「ツイッター」のタイムラインを見るだけで、自分の知人がどんな状況で、何を考えているかがわかりました。宮城県在住の友人の一人は、安否を確認するまでもなく、自分の状況をツイートしています。それを見て、彼女の家族が無事なこと、実家が浸水してしまったことがわかりましたので、ツイッターのダイレクトメール機能で、激励メールを送りました。

高校時代の親友が仙台本社の会社に就職しています。3年前に青森県八戸市に転勤していたので、とても心配でした。翌日も翌々日も、携帯電話はつながりません。そんな時に、グーグルが安否確認サービスを始めたことを知ります。「パーソン・ファインダー(Person Finderというサービスでは、その人の情報を登録して、安否確認を検索することができます。早速、友人に関する自分の知っている情報を打ち込みました。このサービスに限らず、グーグル社の対応は素早かったです。おそらく海外での災害対応経験がノウハウとして蓄積されているのでしょう。

最新の公式情報を整理して見せてくれる「クライシス・レスポン(Crisis Responseも、ソーシャルメディアに対応した、非常に使いやすいサービスでした。そして、一番驚かされたのは、グーグルと本田技研工業が始めた自動車通行状況サービスです。 24時間以内に車が通った道が、青く表示されるので、使用できる道路か否かが、地図上で判断できます。道路被害の状況を車両通行の有無で判断するという発想と、災害三日後に始まった迅速性には、感心させられました。

 最近の「フェイスブック」の流行で、高校時代の友人達とは、ちょうどコミュニケーションが復活したところでした。「今村の安否や現住所を知っている?東京の実家の電話がわかる人は教えて!」とメッセージを送って、捜索を開始しました。数日後に別の同級生から連絡があり、無事がわかります。早速、「フェイスブック」の自分のウォールで報告したところ、多くの友人から「よかったね。教えてくれてありがとう。」と多くのコメントや「いいね!」ボタンがありました。連絡が手軽ですし、しかも目に見えて情報を共有できることで喜びが倍加しました。「フェイスブック」の効用が、心から実感できた初めての体験だったかもしれません。


●多数のユーザーツイートから透けて見えてくるもの

 私はツイッターで、800人以上をフォローしています。正直、最近はリストを使って、フォローしている方を区別してチェックしていて、全員が流れる自分のタイムラインを見ることは、ほとんど無くなっていました。ところが災害時は違いました。めまぐるしくツイートされるタイムラインを通じて、世の中が透けて見えるように感じたのです。テレビのリモコンで、チャンネルを次々と変えながら、ザッピングしている時に似ていますが、もっとリアルです。ツイッターに込められた、みんなの感情や情報が、全てリアルタイムなのです。実際の揺れを体感する前に、余震の発生をツイートで知ることもありました。沢山のフォロアーを持つ有名人は、情報のハブになっています。65万人のフォロアーがいる堀江貴文さん(@takapon_jp)は、救助を求める人や安否を尋ねる人からのツイートを次々とRTしていました。様々な情報が目まぐるしく流れていきます。 

 後日になって、「ツイッターにはデマが多かった」と否定的な発言をする人もいるようですが、私の見解はちょっと違います。自分のタイムラインは自分が選んでフォローした人達でつくられています。デマが流れてくると言う事は、デマを広めるような人達をフォローしてしまっているということを意味します。自分がデマを呼んでいるのです。実際、私も災害中に、この人のツイート内容は信用に値しないと思い、リムーブしたケースもありました。非常時こそ、その人の本質が見えるのかもしれません。情報は自分で吟味して、判断するというのが基本ですし、どんな人をフォローするかは自由に委ねられています。

 私は、今回の経験を経て、自分がフォローしている人達にレスペクトできる人が多いことが確認できました。自分も慎重にツイートしたつもりですが、フォロアーからのネガティブな反応は無く、沢山のRTをされましたし、適切なアドバイスをもらうことも多かったです。1年余のツイッター利用で、良質なソーシャルグラフを形を作れているのかなと、嬉しく思っています。

 

●ユーストリームで観るNHKとツイッターが社会の窓

 さて、地震当日の18時頃からは、テレビ局によるインターネット放送が始まりました。両親から阪神大震災の経験を聞いていた中学生が、ニュース情報の重要性を思って、「ユーストリーム」に流したのをNHKが容認したことから始まったと言われています。NHKの広報担当者が「私の責任で認めます。」と言って賞賛されていたようです。私は、TBSが「ユーストリーム」公式チャンネルを始めたのをツイートで知り、アクセスしました。ほどなくNHKも公式に流し始めます。パソコンで「ユーストリーム」を観ながら、アイパッドでツイッターをチェックというのが私にとっての「社会の窓」になりました。

情報収集はこの二つの「窓」で十分でした。NHKから伝わる公式情報とツイッター上で飛び交う様々な情報、推測、分析を重ね合わせていけば、自分なりの判断がしっかりできます。本稿を書いている時点で、災害発生から2週間以上が経過していますが、その思いは変わりません。非常事態だったので余計に、必要な情報というのが浮き彫りになった気がしています。

 

それにしても、かけ声ばかりで進まなかった「放送と通信の融合」の具体が、大災害で実現したのは皮肉な現象ですね。理由はともかく、インターネットでテレビのニュースを観るメリットをユーザーが体験したことは、有意義です。「ユーストリーム」と「ツイッター」の連動、「ニコニコ動画」でのコメント書き込みなど、視聴者が発言で参加しながら一緒に観るという行動に新しいTVの可能性があることが、図らずも証明されたと思います。このことは、変化のきっかけになるのではないでしょうか?

 

●渋谷駅前の混雑を写真で共有

 夜の21時を過ぎ、だいたい状況がつかめた気がしました。津波の被害状況が伝わってきて、東北地方の沿岸部は悲惨な事態のようです。痛ましい映像を何度も観て、辛い情報に囲まれて、精神的に落ち込んできたので、外に出ることにします。道路は大渋滞ですが、私は1時間程で自宅まで歩けるので、途中で少しお酒を呑んで、気持ちを落ち着かせてから帰宅しようと考えたのです。「ツイッター」を見られれば、事態の掌握に問題ないということがわかったので、ネットにつながるところでお店を探します。

渋谷の駅前を通りかかると、バスを待つ人で溢れかえっていました。歩道やビルの中にまで列ができて、通り抜けるのも大変な状態です。早速、アイフォンで写真を撮って、「インスタグラム」にアップ、「ツイッター」や「フェイスブック」でも共有しました。今の渋谷駅周辺の状況を知りたい人は居るはずです。この長蛇の列に並んでまでバスに乗るよりは、動かずに待った方がよいと判断するかもしれません。写真は時に文字以上の訴求力がありますから。

 

●冷静だった「帰宅難民」たち

歩いて帰る人で一杯の国道246号線を見ていて、10年前のニューヨークを思い出しました。9.11テロの日に、私はニューヨークに出張中でした。地下鉄が止まって、徒歩で帰宅する人たちを、マンハッタンのアパートメントの窓から眺めていたのを覚えています。あの時のニューヨーカーもタフでしたが、今回の東京人も冷静だったと思います。

 「帰宅難民」が続出した中で、大きな混乱や犯罪が起きなかったことは、国際的な基準で言っても、誇るべき事でしょう。

 結局私は、赤ワインを数杯飲んでいる間に、井の頭線が復旧された事を知り、終夜運転の電車に乗って、深夜2時頃に自宅に帰り着きました。

 

●デマ情報に対して自浄作用がある「ツイッター」

 翌朝、情報を確認していると、津波による被害が、予想を大きく上回る未曾有の規模であることがわかります。そして、福島の原子力発電所での事故が大規模なことも知ることになります。首都圏在住者にとっては、被災地の被害に胸を痛めつつ、放射能と停電を心配する生活の始まりです。

 ここでも「ツイッター」が大きな役割を果たします。首都圏で放射能不安が必要以上に広まらなかったのにも役立ったと思います。原発事故という大事件に対して、「ツイッター」の持つオープンな多様性が、発揮されました。様々な職業、立場、意見の人達が、情報を開示し、現状分析を語ります。不安に駆られて、不確実な情報を広める人も居ますが、冷静に戒める人もいます。原子力に関して知識のある人はブログに詳細な解説を書き、それも「ツイッター」で広まります。専門家の意見も様々ですが、それぞれへの反対意見も一緒に知ることで、重層的に理解が深まる気がしました。

 

1年余りの私の「ツイッター」経験で最高数となる276件の公式RTをされたのは、このツイートです。

 

『共感。QT @2km10k:マスコミの東電批判が広まっているようです。多少の混乱は仕方のないこと。有事に専門家を委縮させてはいけません。批判をうち消すため、「がんばれ東京電力」の応援ツイート、およびみなさんの持つ各メディアでの応援発信お願い。#toden_ganba

東京電力を応援しようという趣旨のツイートです。いつの間にか、応援をするためのハッシュタグが、できていました。私は東京電力の経営陣や隠蔽体質は批判すべきと思っていますが、現場の人達が必死にやっている様子は伝わってくるし、エキセントリックに騒ぐことはマイナスだと考えていたところだったので、「共感」と一言添えて、QTしました。一次情報では無いですし、公式RTよりは、コメントを添える方が自分の気分に近かったからです。この@2km10kさんは知り合いではありませんけれど、ツイートの文面に共感したのでした。


他に数多くRTされたのは、

『おっ!これも良いニュース。世界保健機関からのお墨付きがでたみたい。30km避難も適切と判断したらしい。〜 福島第1原発:日本への渡航制限「必要なし」WHO - 毎日新聞 http://t.co/ViMbBqM #genpatsu

というものです。毎日新聞の記事を紹介したツイートですが、ポジティブ感を出しています。原発事故に関するハッシュタグ(#genpatsu)も付けました。

正直を言えば、原子力に門外漢の私には、何が起きているのか、事故の全貌を正確には把握できません。ですから、原発周辺にいる方に関する情報については、無責任に触れるべきでは無いと思っていました。ただ、常識的な判断として、都内での日常生活に大きな支障があるような事態とは思っていませんでしたし、放射能汚染の危険以上に、不安感が広まることでパニックが起きたり、風評による被害が出ることの方が問題だと考え、冷静さを保つのに役立ちそうな情報を広めるように心がけました。

 

●「ヤシマ作戦」で節電効果倍増!

 震災二日後の13日には、東京電力が、初の「計画停電」を実施すると発表します。関東地方を五つのグループに分け、三時間ごとの停電を行うというものです。実施の可能性が告知され、状況によって停電されないこともあるというやり方、グループ分けが東電の配電の都合で行政区と一致していないこと、そして、何より初めてのことですので、大きな不安が広がりました。ここでもソーシャルメディアが活躍します。

 

東電の発表を見やすくするために「停電エリア検索システムがつくられます。住所を入力すれば、どのグループか分かり、停電予定が把握できました。

同時期に、停電時刻が一目でわかる「計画停電カレンダーもできました。

どちらもソーシャルメディアで広く知られるようになり、計画停電への備えとなっていました。

興味深かったのは、「ヤシマ作戦」という、節電呼びかけのムーブメントです。東京電力が、翌日の最大電力需要予測を発表し、それを下回れば停電が避けられると告知したことから始まりました。ピーク時刻の19時前後の電力使用を控えるようにという呼びかけがツイッターで広まっていきます。そんな中で、有名アニメーション『新世紀エヴァンゲリオン』になぞらえて「ヤシマ作戦」というサイト ができます。「ヤシマ作戦」とは、アニメ『エヴァンゲリオン』の物語の中で、敵を狙う超長距離射撃のために日本全国の電力エネルギーを1カ所に集めて攻撃することを目的とした作戦の名前です。この機転の利いた行動が、大きなクチコミの輪をつくることになります。もちろん非公式な個人による呼びかけでしたが、『エヴァンゲリヲン新劇場版』公式サイトに、「ヤシマ作戦」への応援メッセージが掲載されたことで、話題はますます広がりました。

 結果、314日消費電力は4100KWの予測に対して2800KWに抑えられ、停電が避けられました。ツイッター上で歓喜の声が飛び交い、一体感が生まれたようです。もちろん、他にも様々な節電の工夫、呼びかけがありましたが、「ヤシマ作戦」はソーシャル時代の象徴に思えました。

翌日の私のツイートにはこんなものがあります。

『いつも心にユーモアを^^ RT @TJ_Web: ヤシマ作戦の効果おそるべしw RT @geturyuu_ 【停電した時の世界の反応】アメリカ強盗、殺人が多発する。中国いつもの事だから気にしない。日本みんなが節電し過ぎて停電にならず、逆に国民がキレる。』

停電に関するカントリージョークに対して、「ヤシマ作戦」の効果をかぶせたツイートがあったので、「こんな時だからこそ、ユーモアを忘れずに余裕を持とうね」という思いでツイートし、これも多数のRTをされました。

 

●海外からの支援、ソーシャルメディアに勇気づけられた日本人。

今回の大震災は、世界からも大きな注目をされました。これもツイッターからの引用ですが、

 

CNNでもBCCでも絶賛されている。「有史以来最悪の地震が、世界で一番準備され訓練された国を襲った。犠牲は出たが他の国ではこんな正しい行動はとれないだろう。日本人は文化的に感情を抑制する力に優れている。」日本人であることを誇りに、冷静に理性的に行動しよう!』


『東日本大震災への関心が高い中国では、「非常事態にもかかわらず日本人は冷静で礼儀正しい」とツイッター上で絶賛。「こうしたマナーの良さは教育の結果だ。日中の順位が逆転したGDPの規模だけで得られるものではない。中国では50年後でも実現できない」。この「つぶやき」は7万回以上も転載』
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 日本人の冷静な対応と、忍耐強さは、世界中のメディアから評価されたようです。また、様々な人達から、激励のメッセージがソーシャルメディアを使って日本人に向けて寄せられました。「Pray for Japanという活動では、「インスタグラム」を使って、思いを込めた写真とメッセージが、多数寄せられ、私達の荒んだ心を勇気づけてくれました。多額の募金も集まっています。

 

●この災害がソーシャルをインフラにする契機になるかもしれない

16年前の「阪神淡路大震災」の時には、携帯電話の必要性が感じられ、普及に弾みが付いたと言われています。今回の災害では、携帯電話のインフラだけでは不十分で、「ツイッター」等のソーシャルメディアの有用性がわかりました。ソーシャルメディア普及の契機となるような気がします。私は今後のために、両親にも「ツイッター」をやらせるつもりです。災害用の伝言ダイヤルなどのサービスもありますが、緊急連絡に関してはソーシャルメディアの方が、圧倒的に便利です。

また、個人の力が、社会に役立つ事も証明されました。メディアジャーナリストの津田大介(@tsuda)さんは、不眠不休で、あらゆる記者会見をツイートする=「ツダる」ことを続けていました。正確な公式情報が、即時に文字になって存在することは、大きな支えになります。プログラマーの木野瀬友人(@kinoppix) 君は、災害情報の整理をするキュレーターのために、一次情報のツイートがリアルタイムに表示されるとても見やすいサイトをつくりました。公式情報とその出所を簡単に確認できて、とても便利でした。個人の善意が形になり、ソーシャルメディアを通じて広がっていく例は、他にもたくさんありました。それは、意識するしないに関わらず、自分が存在しているソーシャルグラフを信じ、期待しての行動だったと思います。

 

●災害がソーシャルグラフの絆を深めた

私にとっても、ツイッターは社会の窓であると同時に、情報発信者として、少しでも役に立ちたいという思う場所になっていました。危機的状況で、小さな事でもできることをと、義務感を持って取り組むようになっていたのです。

 

ツイッターの影響力を測る指標に「クラウトスコア(KLOUT SCORE というサービスがあります。アメリカでは一般的になっているのですが、大学入試の際の偏差値の様にその人の「ツイッター」における影響力を数値化します。単純にフォロアー数ではなく、その人のツイートによって、どれだけの人がRTURLのクリックなどの行動をとっているか、良質なフォロアーからフォローされているか等々、様々な観点を総合して算出しているそうです。気がついたら、この震災を境にして、私のクラウトスコアが大きく上昇していました。310日に57Kだったのが、どんどん上がっていって、321日には71Kになりました。高得点だから何ということでは無いのですが、災害への対応でソーシャルグラフの絆を深めたことが、数値で示されたような気がしています。

 

●地震と共存する社会の確立を~「ハッピードラゴン」の提言

今回の大災害を俯瞰して語るには、まだ早すぎる時期ですが、本稿をまとめるに際し、この災害から学ぶべきことを、ふくりゅう君と話し合いました。以下は、「ハッピードラゴン」としての提言です。

 

 今回わかったことの一つは、新しいインフラの効用と充実の必要性です。一部の回線会社は、無線LANを無料開放しましたが、公衆無線LANの充実は、非常時の対策にも有効です。スマートフォンの電池が1週間以上持ち、太陽光充電が可能になれば、緊急連絡にも役立ちますね。技術開発が待たれます。これからは、電波と電池とソーシャルメディアが、通信の「三種の神器」なのではないでしょうか?

 

 破綻してしまった電力供給についても、根本から見直す必要がありますね。電話網が麻痺したのに、インターネットはつながっていた通信システムを見習って、分散型の供給システムを併用すべきです。自家発電や蓄電池、循環型のエネルギー源への転換など、与えられている課題を忘れてはなりません。そして、もう一つインターネットから学ぶべきは、情報を可視化する発想です。電力使用状況をリアルタイムに知ることが、節電への一番の近道であることは、「ヤシマ作戦」が証明してくれました。

 

SOHO活用による通勤ラッシュの緩和、明るすぎるネオンや過剰な空調の抑制など、生活の見直しも語られ始めていますが、これらも政府からの通達を待つのではなく、ソーシャルメディアを活用して、議論を共有していくのが、これからの社会だと思います。経済的に大きな打撃を受けた日本が復興していくために、ソーシャルメディアの活用は必要不可欠です。地震と共存できる社会をつくっていきましょう。

 

ハッピードラゴンの初著作『ソーシャルネットワーク革命がみるみるわかる本~ソーシャルメディアを小学校にたとえたらわかりやすかった~』(ダイヤモンド社)は、ソーシャルグラフの重要性を柱にした、誰にでもわかりやすいソーシャルメディアに関する著作です。是非、お読みいただいて、感想など伺えるとありがたいです。よろしくお願いします!


山口哲一(音楽プロデューサー・株式会社バグコーポレーション代表取締役)

 

 

 

 

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