インメモリという「ケタ違い技術」とそのさまざまな事例から、ゲームチェンジャーたちに共通するキーワードを探っていきます。

週末の間にERP全体をHANAに移行、超高速化を実現したフロリダ・クリスタル

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当ブログをご覧いただいている方であれば、SAP HANAそのものについての説明はほぼ不要であろう。SAPが約3年前に発売して以来、従来のデータベースの数千倍~数十万倍というとてつもないスピードによって、IT業界全体に革命をもたらしつつあるインメモリー・データベースである。

HANAはデータベース・プラットフォームなので、HANAの速さは、実際にはその上で動くアプリケーションの速さとして現れる。つまり今まで使っていた業務アプリケーションをHANAに乗せ替えると、それだけで数千倍の速さで処理が終わったりする、ということである。数千倍、と言われてもにわかにはピンと来ないかもしれないが、たとえば3600倍とすると、これまで1時間かかっていた処理が1秒で、24時間かかっていたバッチ処理が24秒で終わる、ということだ。

SAP HANAがなぜ十万倍も速いのか?については、以下のエントリーを参照いただきたい。

■インメモリ・コンピューティングって、何?~13時間53分お待ちください!?
http://blogs.itmedia.co.jp/hana/2012/04/04-1353-124a.html

■インメモリ・コンピューティングって、何?(その2)~1,000倍、1万倍、10万倍あたりまえ!?
http://blogs.itmedia.co.jp/hana/2012/05/post-1ea8.html

さて、この超高速プラットフォームにSAP ERPを載せた、通称「ERP on HANA」(正式名称はSAP Business Suite powered by SAP HANA)がリリースされて、まもなく1年がたつ。すでに全世界で800社以上の企業がこのERP on HANAを採用し、超高速化を実現しつつあるのだが、今日はこの1年間の先陣を切った事例をご紹介しよう。

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FloridaCrystalsのWebサイトフロリダ・クリスタル Florida Crystals は世界最大の製糖会社 ASR Group (American Sugar Refining Inc.) の中核企業である。フロリダ州ウエストパームビーチに本社を置き、生産量は約700万トンで、全世界の生産量1億6500万トンの4%強を占める。非公開企業のため詳細な売上高は非公開だが、記事[1]によれば55億ドル(約5,500億円)とのこと。

このフロリダ・クリスタルは2013年5月、自社で利用していたERPをHANAに移行、さらにSAP HANA Enterprise Cloud(通称HEC)にて稼働させた

この事例は、SAPによほど詳しい方でないと、何がポイントなのか?が理解しにくいと思われる。ポイントは3つあるので、順次ご説明する。

 (1)ERPをHANAベースに移行した。

 (2)それをさらにHANA Enterprise Cloud(HEC)で稼働させた。

 (3)HECへの移行を数週間で完了した。

 

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まずは同社のCIO、ドン・ウィッティントン氏による動画をご覧いただきたい。

■数週間でビジネスをSAP HANAに移行したFlorida Crystals-SAP HANA Enterprise Cloud(2分31秒、日本語字幕つき)
http://www.youtube.com/watch?v=AHpLZIzWW4g

 

日本語字幕部分を、下記に転載する。

ドン・ウイッティントンと申します。Florida Crystalsのバイスプレジデント兼CIOです。当社は世界最大の製糖会社であり、数十億ドル規模のグローバル企業です。

当社は初めて、SAP HANA Enterprise Cloud上で、SAP ERPを本稼動させました。金曜日の夜から導入を開始し、日曜に移行を完了し、月曜にはいつもどおり業務。驚きました。

SAP HANAに移行したのはSAP ECC 6.0です。販売・流通から資材管理までを実行するオールインワンの環境です。

SAP HANAは単なるインメモリー技術ではなく、まさに新世界です。顧客について調べるときも、かつてないほど高速に疑問への答えが得られます。サプライチェーンに関する情報も経験したことのない速さで引き出せます。ソリューションの運用側でもエンドユーザー側でも、サプライチェーンの隅々まで把握できるのです。

情報が一日早く手に入れば、最大限に活用する余裕が生まれます。「この営業チームの業績不振の理由は?」といった疑問の原因をすぐに究明できますし、ユーザーからも「買掛金の処理が早まった」、」「決算期間が短くなった」と聞きます。かつてのバッチジョブもリアルタイムで実行できるので、「浮いた時間で何をするか」がチャンスの源です。

業務の重点がトランザクションから分析に変わるのです。

トランザクションの実行に追われるのではなく、その結果を分析して検討し、ビジネスの優位性につなげることができます。ビジネスのスピード化も図れます。

IT部門の立場からすると、SAP HANAには高度なリソースや専門知識が必要と思われるでしょう。SAP HANA Enterprise Cloudの素晴らしい点は、それが不要ということです。いわゆる「マネージドサービス」です。当社にとっては完璧なモデルです。

SAP HANA Enterprise Cloudにより、IT部門はビジネスへの貢献度を高めることができ、しかもテクノロジーが負担になりません。テクノロジーのことはSAPのエキスパートや、背後のクラウドを提供するパートナーに任せておけます。

このクラウド環境では自由と大きな可能性が得られます。ビジネス全体をSAP HANAに移行するのも数週間でしょう。SAP HANAとクラウドでどんな未来をつくり出せるのか、とても楽しみにしています。

では3つのポイントを解説していく。

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■ポイント(1) ERPをHANAベースに移行した。

それまで一般のRDB上で稼働していたSAP ERPを、HANA上に移行すると、何が起きるか?

たとえば、あなたがある企業の営業部長だったとする。あなたの会社では、毎月、
・1日に前月の売上状況を営業部や経理部から集め、
・2日にそれを集計してレポートを作成し、
・3日に月次営業会議を開いてそれを議論し、全社の営業施策の調整を行って、
・4日から全支店はそれを営業活動に反映する、
というサイクルで回っているとする。どの企業でもありそうなスピード感ではないだろうか。

ERPをHANA化すると、データの集計、分析、レポート作成のスピードが数千倍になり、ほぼリアルタイムにできる。この例で言えば、1日と2日に行っている作業の時間がほぼゼロになる(すぐに終了する)。その結果、

・31日の業務終了後ただちに、前月の売上状況を集計してレポートを作成し、
・1日に月次営業会議を開いてそれを議論し、全社の営業施策の調整を行って、
・2日から全支店はそれを営業活動に反映する、

ということで、丸2営業日サイクルが早くなる。ウィッティントン氏が

 「買掛金の処理が早まった」「決算期間が短くなった」と聞きます。

と言っているところだ。

しかし、最大のインパクトは、もはや「月次の締め」という概念が必要なくなることだ。月次決算処理を待たなくても、いつでも現在の最新の状況を知ることができるのだから。ウィッティントン氏は

 「この営業チームの業績不振の理由は?」といった疑問の原因をすぐに究明できますし、

と言っているが、つまり月末まで待って、今月の営業成績を締めてから対策を考えるのでなく、必要があれば毎日でも締め処理を行って、最新かつ正確な情報を得て、対策を考えることができる。つまり業務サイクルを月単位から日単位に(さらに言えば数時間単位に)することが可能になるのだ。

・いつでも、直前までの売上状況を集計してレポートを作成し、営業会議を開いてそれを議論し、全社の営業施策への調整を行い、
・遅くとも翌日から全支店はそれを営業活動に反映している

こうした効果があるために、ERP on HANAへ移行した顧客がすでに800社も出ているのである。

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■ポイント(2) それをさらにHANA Enterprise Cloud(HEC)で稼働させた。

SAP HANA Enterprise Cloud(HEC)そのものについてはここでは詳述はせず、下記の参考リンク他に譲りたいが、ひとことでいうとHECは「HANAベースのSAPアプリケーションをSAP自身が預かり運用にも責任を持つ、マネージド・クラウド・サービス」である。

もっと噛み砕けば、「HANAベースのERPの保守・運用をSAPに丸ごとアウトソーシングするサービス」と言ってもよい。

■参考リンク:
http://www.publickey1.jp/blog/13/saperpcrmsap_hana_enterprise_cloud.html

ウィッティントン氏は下記のように述べている(再掲)。

IT部門の立場からすると、SAP HANAには高度なリソースや専門知識が必要と思われるでしょう。SAP HANA Enterprise Cloudの素晴らしい点は、それが不要ということです。いわゆる「マネージドサービス」です。当社にとっては完璧なモデルです。

SAP HANA Enterprise Cloudにより、IT部門はビジネスへの貢献度を高めることができ、しかもテクノロジーが負担になりません。テクノロジーのことはSAPのエキスパートや、背後のバーチャルなしくみクラウドを提供するパートナーに任せておけます。

そもそも、製糖会社である同社をはじめ、大半の企業にとって「ERPの運用・保守」はコア業務ではない。ノンコア業務を専門業者にアウトソースする、のはどの業界でも行われていることだが、とくにHANAという新しい技術が出てきたのを機に、(自社でHANAの技術者を養成する代わりに)SAPにアウトソースしよう、と考える企業も出てきており、そうしたニーズの受け皿になっているのがHECである。

ちなみにHECは4月に日本国内にもデータセンターを2か所開設。日本語サポートも開始し、日本企業にとっても非常に利用しやすくなった。

■参考リンク:
http://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/1404/08/news020.html

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■ポイント(3)HECへの移行を数週間で完了した。

これは、IT畑の方であれば、たぶん信じないだろう。「ERPの移行を数週間?そんなこと不可能だ」、と。正直、私も信じがたいが、どうやら事実のようだ。この点はフロリダ・クリスタル社による別の資料(下記b)で詳しく触れられている。完全にIT的な内容なのでここでは詳述はしないが、IT畑の方はぜひ目を通してみていただきたい。簡単にいうと、

(a)フロリダ・クリスタルは2年ほど前に、自社のすべてのSAP ERPをバーチャストリーム社が提供するクラウド環境に移行済みだった、

(b)今回はそれを数週間をかけて、HEC上のテスト環境で、HANA化の準備を整えておき、

(c)土日の間にテスト環境と本番環境の切り替えを済ませた、

ということだ。(b)が完全にできていれば、(c)はまあ不可能ではない。むしろ驚きなのは(b)が数週間で終わったということのほうなのだが、資料を見る限り、事実のようだ。

(a)については、下記の記事に詳しい。
■Domino Sugar Wins Big With SAP In Cloud
http://www.informationweek.com/cloud/infrastructure-as-a-service/domino-sugar-wins-big-with-sap-in-cloud-/d/d-id/1098583?

(b)については下記の発表資料を参照。
■Running a Production Environment of SAP HANA in the Cloud (ASUG Conference資料)
http://events.asug.com/2013AC/Enterprise%20Architecture/2411-Running%20a%20Production%20Environment%20of%20SAP%20HANA%20in%20the%20Cloud.pdf

(c)については、下記の動画も参考になる。
■ASUG News:CIO Advice: SAP HANA in the Cloud(14分15秒、英語)
http://www.youtube.com/watch?v=Hai2_9gXhOY

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ウィッティントン氏はこの業績を持って、コンステレーション・リサーチによる2013年度の超新星(SuperNova)賞を受賞した。

■Don Whittington, Florida Crystals Corporation(SuperNova Award)[1]
https://www.constellationr.com/content/sna2013/don-whittington-florida-crystals-corporation

向こう20年、SAP ERPの話の大半はこの「HANA化」と「HEC化」になっていくであろう。その第一歩を踏み出したランドマーク・プロジェクトとして、受賞も当然とも思われる。

 

※本稿は公開資料を基に筆者が構成したものであり、フロリダ・クリスタル社のレビューを受けたものではありません。

【参考リンク】

■Florida Crystals:  Managing the Sweet Business of Sugar with SAP HANA Enterprise Cloud(英文記事)
http://scn.sap.com/community/business-trends/blog/2013/08/07/florida-crystals-managing-the-sweet-business-of-sugar-with-sap-hana-enterprise-cloud

■SAP Magazine 2011-Q3
http://www.sap-investor.com/en/2011/quarter-3/sap-worldwide.html
フロリダ・クリスタル社の概要など。

■SAPデータセンターにて提供するSAP HANA Enterprise Cloudサービス(動画、3分35秒、日本語字幕つき)
http://www.youtube.com/watch?v=PGBS9xEqlkQ

 

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