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紙ベースの請求書の処理能力を大幅に向上、ノータッチ処理率を高めるユニリーバとTSC

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ユニリーバ Unilever はオランダに本拠を置く、世界最大級のコンシューマ・プロダクト会社である。Dove、Lux、クノール、Surfなど計14の「10億ユーロ・ブランド」(1400億円以上を売り上げるブランド)を持ち、合計の売上高は約500億ユーロ(約7兆円)を超えている。

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SAP ERPのヘビーユーザーでもあり、基幹系は事実上グローバルすべてSAPで処理している。また購買システムとしてのアリバも2001年から利用しており、オンプレミスのERPとクラウドのアリバを連携させて購買管理を行っているのだが、最近ここに SAP Vender Invoice Management by OpenText (略称 VIM、オープンテキスト社が発売している SAP ERP と組み合わせて使う請求書管理機能)を導入し、紙ベースの請求書の処理効率を大幅に向上させた

この新システム「GIMW」 (グローバル・インボイス・マネジメント・ワークフロー)について、ユニリーバのシェアードサービス子会社の、会計ソリューション・ディレクター、トーマス・ベンティン氏がSapphire 2013で講演しているので、ご紹介しよう。

http://events.sap.com/sapphirenow/en/session/4700

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ユニリーバは2020年までに800億ユーロ(約11.2兆円)企業になる、という戦略を掲げています。これを打ち出したときの売上は400億ユーロでしたので、倍増を目指すということになりますが、現在が500億ユーロ強ですので、進捗はとりあえず順調といえるでしょう。このうち57%は発展途上国での売上です。しかし売り上げを2倍にするということは、トランザクションを処理するシステムもざっと2倍の量に耐えられなければならない、ということです。

ユニリーバではグローバル・シェアードサービス子会社を作り、情報管理、会計・買掛金処理、人事、オフィス管理、ITなどの機能を集約しています。これ自体がかなり大きな会社ですが、今日お話するのはこの中の買掛金処理についてです。

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ユニリーバグループでは年間約650万本の請求書を受け取ります。請求明細は5億行を超えます。取引のあるサプライヤはおよそ38万社。接続方法は、EDI経由、アリバ・ネットワーク、OB10などの電子的な接続から、PDFファイル、そして郵便で届く紙の請求書までさまざまです。07

まあ膨大な量であることはお分かりいただけますよね。かつ急激に増えている。したがってわれわれには、バックエンドのSAP ERPと連携しつつ、この量に耐えられる拡張性のあるシステムが必要でした。

そこでわれわれは、請求書管理とワークフローを組み合わせた新システム「GIMW」 (グローバル・インボイス・マネジメント・ワークフロー)を構築しました。GIMWには、サプライヤが請求書処理の状況を自分で確認できる「Track & Trace(追跡・確認)ポータル」の機能もあります。

以前はこうした請求書処理・管理のサービスを提供する外部ベンダーにアウトソースしていたのですが、GIMWではこれを再び社内に戻しました。処理能力を向上させることが主な目的ですが、インハウスに持つことでサプライヤから見た使い勝手を向上させる一方、サプライヤに関するさまざまなデータを取得して、サプライヤ管理を高めたいという考えもありました。何を、どのサプライヤから、どこで、いくらで買っているのか?を把握できるようにするのです。

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GIMW 構築にあたっては、5社のソリューションの中から、OpenText社の「VIM」を選択しました。ソリューションは電子データ、PDFファイル、紙などすべてのチャネルをサポートできることが必須要件でした。また処理の効率性はもちろん、「請求書なくして支払なし」のガバナンスを効かせることも主要な目的です。

GIMWにより、サプライヤはアリバ・ネットワークを経由して電子請求し、「請求から支払いまで」をノータッチで済ませることが可能になっています。ユニリーバはアリバを2001年ごろから使っていますので、「SAP ERP+アリバ」の統合システムとは長い付き合いなわけですが、GIMWの稼働によってついにその真価が発揮されるときが来たと感じています。紙の請求書も電子化されアーカイブされるとともに、電子データとして見える化・分析できるようになり、以前なら簡単には答えられなかった難しい問いにも回答できるようになりました。

アリバのカタログを使うことで、われわれはまさに「どこで何を誰から買っているのか」をコントロールすることができるようになり、そして処理効率も上げることができます。

GIMW の稼働当初、ノータッチ処理できているのは全体の70%というところでしたが、現在は80%くらいまで来ています。さきほどディズニーさんは93%とおっしゃっていましたから、まだまだ改善の余地はありますが。

また交通費・経費精算の処理と、契約社員の人件費についても検討しています。契約社員の人件費は、昨今とくに重要なテーマです。

これが全体像です。さまざまなソリューションが組み合わされた、マルチベンダーシステムになっています。この中で右側の「SAP IM」とあるのが、VIMが使われている個所です。

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まず、38万社のサプライヤから650万本の請求書が送られてきますが、うち約100万本はインド国内で、これは現在別システムで扱われているので、このシステムが扱うのは500万本強です。

請求書は電子データ、PDFファイル、紙などのフォーマットで送られてきます。PDFや紙のスキャンは外注していますが、これもシェアードサービスの一環としてグローバルのスキャン処理センターを作っていく予定です。

電子データとスキャン済みデータはどちらもOpen Text社のアーカイブソリューションに保管されると同時に、承認ワークフローから支払い処理へと回されます。

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われわれは現在、4つの大きなSAP ERPシステムを使っています。以前は50以上に分散されていたのですが、地域ごとに4つのインスタンスに統合されました。そしてこの新システムは4つのERPすべてにそれぞれ接続されます。ただし接続は順を追って、一つずつ行っていく予定です。

またサプライヤ・ポータルを作り、サプライヤが請求情報を直接タイピング入力することで、紙の請求書を送らなくてもよい機能も開発中です。そうすれば、お互いに処理効率が大幅によくなりますから。

こうした新システムを持ったおかげで、どのサプライヤと取引をしてもトランザクション処理コストがほとんど同じになり、結果、サプライヤの切り替えがしやすくなったという利点もあります。サプライヤを固定せず、取引条件に応じて切り替えることができるようになったおかげで、さらなる交渉力を持つことができました。

高い処理能力を持つとともに、グローバルでの見える化が実現したため、誰から何をどこでいくらで買っているのかの分析がしやすくなり、さらなる購買の改善が進むものと考えています。

またサプライヤにとっても、処理能力やユーザービリティが向上した一方、シェアードサービスの一環として運営されているため、たとえばシステムエラーが出たときの対応が迅速になったなど、さまざまなメリットがあると考えています。

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ユニリーバは世界有数の巨大企業だけに、トランザクション量やシステム投資の仕方(シェアードサービス子会社への集約)など「いかにも大企業」という雰囲気だが、この請求書管理という業務は巨大企業だけのものではない。中堅企業でもほぼ同様である。

同じSapphire 2013で、トラクター・サプライ・カンパニー(以下TSC)も同じくVIMを使った請求書管理の仕組みについて講演しているのでこちらも併せてご紹介する。

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TSCは、アメリカの農業・園芸用品チェーン最大手である。

全米45州に1200店舗を構え、年商は42億ドル(約4200億円)。テネシー州ナッシュビル郊外のブレントウッドという田舎町に本社を置く。

日本でいうと、コメリがほぼ同業のイメージ。コメリは年商3,192億円、1,146店舗なので、企業規模としてもほぼ近い。

余談だが、同社のWebサイトの店舗検索でいくつかの都市を検索してみて、思わず笑ってしまった。下記の例はヒューストンとアトランタだが、どちらもまるで時計の文字盤のように、ほぼ同心円状に店舗が並ぶ。つまり店舗は都心にはひとつもなく、そこから数十キロ離れた郊外にくまなくある、というわけだ。

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TSCは昨年、従来から利用しているオンプレミス(自社サーバー保有)型のSAP ERPにVIMを導入し、紙ベースの請求書の処理効率を大幅に向上させた。同社のITマネージャー、カンシ・ラマナ氏の講演から主要部分を抜粋して紹介する。

http://events.sap.com/sapphirenow/en/session/4778

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TSCは年間250万本の請求書を処理しています。主要なサプライヤとの間ではすでにEDI化されていますが、いまだに250万本のうち約35万本は封書やFax、メールで届く、「紙ベース」の請求書です。処理をする買掛金(Account Payable)処理担当者は29人。

TSCは従来から紙ベースの請求書をスキャンし電子イメージ化して処理するシステムを使っていましたが、カスタマイズを繰り返し保守が限界に達していたこと、IT担当者の負荷も高く平均して毎日4~5時間取られていたこと、などから、新しいシステムを導入することにしました。

下記が、電子化(イメージング)を含めた、請求書処理の大まかなイメージです。10_2 
左から、

①準備(Preparation):メールやFax、紙で届いた請求書をスキャンします。

②変換(Transform):OCR(文字認識)でスキャン画像から文字を読み取り、読み取りエラーは目視で入力して修正します。

③確認(Verify & Complete):内容を確認し、OKであれば、承認ワークフローに回します。

④例外処理(Exception Handling):例外処理をすべきものについてはコメントをつけて回します。

⑤承認(Approval):承認権限に合わせてワークフローが回ります。たとえば店長は、自店が仕入れた商品の数量と金額を確認して承認します。もし決済金額が店長権限を越えている場合には、さらに店舗を束ねる地域責任者の承認にもまわります。

⑥支払(Pay):承認が通ったら、支払プロセスに渡ります。

このうち③~⑤の部分を担うのが、VIMです。

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導入にあたっては、VIMに計33の「拡張」Extention を加えています。これはカスタマイズではなく、VIMに対して独自のビジネスルールを定義する機能のことです。カスタマイズはしていません。主な拡張は、11_3

  • 価格や数量に誤差があった場合の処理(たとえば一部に不具合があって返品した場合など、注文書の発注数と支払数に誤差が発生することがよくある)
  • そうした誤差があった場合、店舗に対してメールを送り内容の確認を求める
  • 紙ベースでなくEDI処理されている請求書についても後からVIMにアップロードして、紙ベースの請求とEDIの請求書を一元的に分析できるようにした
  • 特定の請求書にひもづくスキャン画像をまとめてダウンロードし、一括確認を可能にする
  • そして催促メール、これは非常に有効な拡張で、店長たちには「いやなやつ」と呼ばれていますが(笑)、承認依頼が届いてから7日間放置されていると、その上司に対しても催促メールが飛ぶ、というシステム

などがあります。これらの拡張はすべて自社で作成しメンテしています。

実のところVIMは既存のSAPのアプリケーションサーバー上に載せることができるので、このためにハードウェアを追加する必要はありませんでした。

また承認ヒエラルキーも、以前はExcelでマニュアル管理しており、綴り間違いがあってエラーになり、その原因解明にITと経理スタッフの時間が取られ... がしょっちゅうでした。これも現在ではSAP上で管理されている人事マスターを変更すれば、すべての変更が自動的に反映されます。これだけでも、週2~3時間は節約になっています。

15_2この新システム導入に合わせ、スキャナも3台に増やしました。従来は紙ベース請求書は1人1時間あたり18本しか処理できていませんでしたが、1時間あたり80本と、大幅に能力アップしました。

また店長たちに、特段のトレーニングなしに展開できたのも非常に大きかった。ご想像いただけると思いますが、店舗あたり2名x1200店舗の2400人にトレーニングを行うのは大変な手間なので。

(びっくりされるでしょうが、)従来のシステムでは1日に3回システムを再起動しなくてはなりませんでしたが、現システムは昨年の稼働以来一度も再起動していません。

従来システムにあった過去のスキャン画像230万枚を2週間ほどで新システムに移行できたのも大きかった。過去データも現在のデータも有効活用することができ、これで監査プロセスも新システムに一元化することができました。

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TSCのほうはいかにも中堅企業という気配で、「スキャナが2台から3台に...」といったしみじみとした話もあったが、逆にそのぶん業務イメージの想像がつく・親近感が湧くという方も多いのではないだろうか。

またTSCは売上金額ではユニリーバの1/16くらいしかないが、請求書の本数は1/2.5程度と、相対的にはかなり多い。B2Cの小売業でしかも少量多品種を扱うホームセンターならではの傾向と思われるが、それだけ請求書処理のコスト効率が強く求められるともいえる。したがって処理速度が1時間あたり18本から80本へ4.5倍ほど向上したのはTSCにとっても大きな成果だ。

この「紙ベース請求書の処理の効率化」は、実は日本企業でも幅広いニーズがあり、両社事例に登場した VIM も引き合いが多い。処理にかかる人件費の削減、使途の見える化、分析を可能にしコスト削減余地を探る、ガバナンスを効かせる、スピード化、運転資金の効率化、など地味だが波及効果が大きいこの領域は、これからも導入が広がるものと思われる。

 

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、ユニリーバ社およびTSC社のレビューを受けたものではありません。

【参考リンク】

■Manage Invoicing with On-Premise and On-Demand Solutions(動画、20分23秒、英語)
http://events.sap.com/sapphirenow/en/session/4700
Sapphire 2013におけるユニリーバの講演。

http://www.sapevents.edgesuite.net/SapphireNow/sapphirenow_orlando2013/pdfs/31624.pdf
同講演の画面資料(PDF)。

■Achieve Collaborative Invoice Management(動画、18分23秒、英語)
http://events.sap.com/sapphirenow/en/session/4778
Sapphire 2013におけるトラクター・サプライ・カンパニーの講演。

http://www.sapevents.edgesuite.net/SapphireNow/sapphirenow_orlando2013/pdfs/31596.pdf
同講演の画面資料(PDF)。 

 

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