インメモリという「ケタ違い技術」とそのさまざまな事例から、ゲームチェンジャーたちに共通するキーワードを探っていきます。

「お客様のお客様」の声を聴き、おもてなしを磨き続けるデラウェア・ノース

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デラウェア・ノース Delaware North は、さまざまな施設やレストランの運営を受託し代行する会社だ。主な事業分野は、スポーツ(スタジアムや売店)、ゲーム&エンタメ(競馬場やカジノ)、リゾート(国立公園やホテル)、トラベル(空港の売店)など。米国バッファロー市に本社を置き、アメリカの他イギリスやオーストラリアでも施設を受託している。

たとえば、ダルビッシュ投手が2014年シーズンの開幕投手確実と言われるテキサス・レンジャーズの本拠地、レンジャーズ・ボールパークで、ホットドッグやビールなどの売店、観客席に来る売り子さん、帽子やTシャツなどのグッズ販売、スポンサー企業が接待に使うスイート席、食べ放題のレストラン、などを運営しているのが同社である。

Ss_rangers_headerデラウェア・ノース社のHPより、レンジャーズ・ボールパークの様子

創業からまもなく100年。今も創業家のジェイコブズ・ファミリーが所有し、CEOも務めている。従業員55,000人、売上は26億ドル(約2600億円)。

デラウェア・ノース社の広報ビデオ。音声はなく画像だけだが、美しい。


YouTube: Delaware North Companies

登場するのはウェンブリー・スタジアム、NASAのケネディ宇宙センター、ヨセミテ国立公園、ボストンのTDガーデン(後述)、イリノイ州のカジノ、ロサンゼルス空港、ナイアガラ国立公園、イエローストーン国立公園、などなど。

同社は、自らを Hospitality Management company と称している。日本語訳がちょっと難しいが、意訳すれば「顧客体験(カスタマー・エクスペリエンス)のプロ」、ということであろう。運営しているのがいずれも多数のコンシューマが訪れる施設であるだけに、顧客体験のプロであり続けることは同社にとって必須事項とも言える。

このデラウェア・ノースのCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)であるトッド・メリー氏が、SAPのイベントSapphire 2013にて講演しているので紹介しよう。

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■Understand Your Customer's Customer Through Social Media
http://events.sap.com/account/sapphire-now-marketing/en/session/6647

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デラウェア・ノースはゲーム&エンターテイメント、リゾート、トラベルなど様々な業界で仕事をしていますが、今日はその中でもスポーツ業界についてお話したいと思います。なぜなら、ソーシャルメディアがもっとも大きな効果を発揮できる業界だからです。03 
当社は野球のメジャーリーグ(MLB)12チーム、アメリカンフットボール(NFL)9チーム、アイスホッケー(NHL)6チーム、バスケットボール(NBA)2チーム、などのスタジアムの運営を行っており、またNHLのボストン・ブルーインズについては自ら保有してもいます。

今日のテーマは「お客様のことを知る」ですが、実はわれわれも、お客様のことはほとんど知りませんでした。われわれが何を売っているかは知っているが、「誰」に売っているか、「なぜ」売れているのかは知らなかったのです。

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ソーシャルメディアは、これをコストをかけずに解決する方法でした。

そもそも、スタジアム運営は、なかなかチャレンジングなビジネスです。みなさんもスポーツ観戦に行ったとき、ビールやホットドッグやチームグッズの売店の前に行列する時間はできれば最少にしたいですよね。一方、われわれ売る側は、できるだけ多く買っていただきたい。

そこで、ではなぜソーシャルメディアが重要なのか?ソーシャルメディアは、「お客様の声」をダイレクトに、かつ極めてローコストに得られる、貴重な機会だからです。

たとえば、旅行クチコミサイトのトリップバイザーは、月間6,900万人が参考にしています。成人の49%は、食べる物についての情報をソーシャルネットワークから得ています。われわれが運営するスタジアムの一つ、メジャーリーグのミルウォーキー・ブリュワーズの本拠地ミラー・パークでは、Four-Squareのチェックインが3万人、11万回に達しています。

つまり現在のコンシューマは、すでにソーシャルメディアあるいはインターネットと切り離しては語れなくなっているのです。

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NHLのボストン・ブルーインズとその本拠地「TDガーデン」は、われわれ自身が保有しているのですが、TDガーデンの収容人数は17,565人、立見席までぎゅうぎゅうに詰めても19,600人です。

一方、今年ボストンの地元ケーブルTV局NESNが放送したブルーインズの試合は、平均14万9000世帯が観ました。ブルーインズのFacebookページのファンは130万人(筆者注:2014年2月現在では150万人)、ツイッターのフォロワーが31万人。ブルーインズのスマホアプリを使っている人が、週当たり13万人います。

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つまりチームオーナーとしては、スタジアムに入れることのできる人数より、はるかに多くの「お客様」がいるわけで、これを見逃す手はないわけです。

「お客様のお客様を理解」するために、われわれは主に3つのことをしています。
1. お客様が何を期待しているのか、ソーシャルメディア上の「声」を常に聴いています。
2. 聞くだけではなく、こちらからも会話をしかけ、話題に上るように努めています。
3. そして新しい商品・サービスを開発するのにも使っています。新商品についてお客様の声を聴き、手直しをしています。

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つまりわれわれのソーシャルメディアの使い方は、「Do、Listen、ReDo(やってみて、声を聴いて、もう一度やる)」です。

たとえば。昨年、メジャーリーグのテキサス・レンジャーズでは、新商品「ジャイアント・スラッガー」を発売しました。長さ2フィート、重さ2ポンド(約60cm、900g)のホットドッグです。たちまち話題になり、他のスタジアムでも売り出しました。

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もちろんソーシャルメディア上の反応も注視していました。中には「デカすぎる」「ちょっと気持ち悪い」といったネガティブなコメントもありましたが、これはまあ想定範囲内ですよね。

ところがそのうち、「家族連れが4人で食べるにはちょうどいい」という声がなんども聞こえてきたのです。なるほど!と思いました。巨漢だけをターゲットにする代わりに、ファミリーに買ってもらえばよいのだ、と。そこで「4人家族で24ドルならオトクだ」という方向に売り込み戦略を転換し、売上もかなり増えました。

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さらにソーシャルメディアの声を、新たなファシリティ運営を受託するための営業活動にも使っています。まさに、デラウェア・ノースの「お客様のお客様」の声、です。これを分析して、「御社のお客様はこんなことを言っていますよ、われわれはそれを聴いて、こんなご提案をします」というふうに使います。最近も1件、これが決め手になって受注することができました

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既存のファシリティにしても、以前は、売上を増やすためのマーケティング戦略の見直しはだいたいシーズンごと、つまり年1回かせいぜい2回しか行っていませんでした。今はほぼ毎週、見直しています。

ソーシャルメディアサイトの集客力が高まれば、サイトそのものをマネタイズすることも可能になります。アリーナのダッシャーボード※も広告媒体として売っているわけですが、次の売り物はソーシャルメディアサイトです。

ダッシャーボード:ホッケーリンクの外周を囲んでいる、クッション性のある内壁。企業の広告が印刷されている。最近ではデジタルサイネージ化されたものもある。Bruinsdasherboardpreseasongame

お客様とエンゲージする、関わることも重要です。
受動的に”聴く”だけでなく、こちらから会話に入っていくこともします。

とくにNHLは、この2012-13シーズンの前半はロックアウト(ストに伴う興行中止)がありましたので、ネガティブなフィードバックもものすごくたくさんありました。ロックアウト期間中、われわれ関係者は、ロックアウトについてプレスに対して一切語ることを許されていませんでした。しかしソーシャルメディアは例外でしたので、われわれはファンと積極的に関わり、関係性を保つことができたのです。

誰にとっても非常に悪い時期でしたが、シーズン再開後、ブルーインズのファンのTV視聴率や満足度はいずれも過去最高でした。もちろんブルーインズが強かったこともありますが(筆者注:この講演の時点で、優勝決定戦「スタンレーカップ」への進出を決めていた)。

ソーシャルメディアに関してはまだまだすべてを理解できたとは思っていませんが、リテール分野でも大きな可能性があると感じています。とくにスポーツ関連の小売ビジネスでいうと、「女性ファン」はまだまだ未開の地です。たとえばチームロゴの入ったアパレルにしても、今は「男性用と同じデザインで、色をピンクにしただけのもの」を売っているのが大半ですから。

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さらに、「スーパーファン」を育てることも重要です。チームへの愛着が強く、ソーシャルメディア上での影響力の強い、いわゆるインフルエンサーを見つけ出し、彼らとの結びつきをさらに深める一方で、マーケティング戦略の一部として組み込んでいき、CRMなど他のデジタルマーケティングとも結びつけていきます。

とにかく、マーケティングの将来を語る上でソーシャルメディアは欠かせないものになっていくことは間違いないと感じています。

ちなみにこのソーシャルメディア分析ツールの選定に当たっては、6か月かけて徹底的に検証した結果、このSAPの「NetBase」を選びました。よい選択だったと思っています。SAPがスポーツ業界に(スポンサーとしても、ITプロバイダーとしても)積極的に関与している企業であることも決め手のひとつになりました。 

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日本のプロスポーツでFacebookページのファン数(そのページに「いいね!」している人の数)は、実は非常に少ない。1位の阪神タイガースでさえ、わずか9.9万人。楽天イーグルスが9.7万、ソフトバンクホークスは6.2万Jリーグでトップの浦和レッズは2.8万。(出展。数値は2014年2月23日現在、以下同じ)

Twitterのフォロワー数でいうと、1位の福岡ソフトバンクホークスが16.4万。以下、中日ドラゴンズが14.7万、楽天イーグルスが14.0万。(出展

一方、アメリカのプロスポーツは、ケタが違う。Facebookページのファン数でいうと、バスケットボールのロサンゼルス・レイカーズは1843万。野球のニューヨーク・ヤンキースが689万。フットボールのダラス・カウボーイズは609万。Twitterのフォロワー数では、レイカーズ365万、ヤンキース106万、カウボーイズ78万。(出展

Fans

アメリカの人口は3.1億人で、日本の約2.5倍だが、メジャーリーグの球団数は30で、日本プロ野球の12のちょうど2.5倍だ。つまり人口あたりのプロ球団数でいえば、日米ともに1千万人強で、ほぼ同じなのである。

日本のスポーツは情報発信が日本語=対象が日本人にほぼ限られるという制約はあるが、阪神ファンがヤンキースファンの69分の1しかいないとは考えられない。つまり、ソーシャルメディアを活用したファンとのエンゲージメントに関する限り、まだまだやれる余地があるということだ。

一方、スポーツではなく企業のFacebookページでは、1位の楽天が270万、2位ソフトバンクが118万、3位アマゾンジャパン105万、4位auの104万、と100万人オーバーも含めて活発だ。(出展

ちなみにワールドスポーツのサッカーとなると、さらにケタ違いで、Facebookページのトップ3はFCバルセロナ 5568万、レアル・マドリード 5246万、マンチェスター・ユナイテッド 4196万。(出展

「顧客を理解し顧客と関わる低コストな手段」としてのソーシャルメディア活用は、日本企業にとって、まだまだ発展の余地がありそうだ。

 

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、デラウェア・ノース社のレビューを受けたものではありません。


【参考リンク】

■Understand Your Customer's Customer Through Social Media(16分27秒、英語)
http://events.sap.com/account/sapphire-now-marketing/en/session/6647
上記、デラウェア・ノース社の講演。

http://www.sapevents.edgesuite.net/SapphireNow/sapphirenow_orlando2013/pdfs/31991.pdf
同講演のスライド(PDFファイル)

■広告費よりはるかにローコストなソーシャルメディア・マーケティングで快進撃を続けるTモバイル
http://blogs.itmedia.co.jp/hana/2013/12/post-5f5e.html

 

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