グローバルなマネジメントやITも「現われては消えさる飛沫の様」なのか?

第一話 ASEAN経済共同体(AEC)とは?

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ASEAN経済共同体の影響は?

 最近、ちらほらとASEAN(東南アジア諸国連合)経済共同体について目にしませんか。ASEAN(東南アジア諸国連合)経済共同体は、ASEAN Economic Communityの頭文字を称して、AECとも呼ばれます。このAECという呼び名は、「わかりにくい」とか「ピンとこない」などとあまり評判はよろしくないのですが、今年12月に発足することが昨年末すでに決まっています。

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 しかし、ASEANに関係する方達に話をうかがう限りでは、「もうすでにASEANは一体化でオペレーションしている」といった意見があったり、「急に何かがどうなるわけではない」などの達観的な表現がされたり、約半数程度は「どこ吹く風」状態であることも事実です。その反面、発足まで3ケ月を切って、多くのAEC関連セミナーが開催され、関連書籍の発刊なども増えて、バズワード的な盛り上がりも見せ始めています。実態がよくつかめないというのが正直なところです。

 しかし、実際はどうなのでしょうか。その問いに対しては、ASEAN地域の第一線で活躍する弁護士から得た答えが的を射ているように思います。

 それは、「AECができるとすぐ単一市場になるというのも間違いだし、AECができたって何も影響がないというのも間違いだと思うんですよね。そこが非常に難しいのですが、チャンスではあるし、チャンスだということは、乗り遅れると自分にとっては不利だということ。それがAECなのかな」というもの。(この高名な弁護士との対談記事はこちら「発足間近のASEAN経済共同体」

 少し哲学的にも聞こえますが、まずこのイメージをつかむべきではないかと思います。


ASEAN経済共同体(AEC)構想は、いつごろからか?

 私の手元には、『全予測アジア1995』(牧野昇/一般財団法人海外投融資情報財団)という本があります。20年前に発行されたものですが、その後に続く『全予測アジア』シリーズの1作目です。この頃は、バブルを過ぎたとは言え、圧倒的な日本経済に支えられた状態で、中国が現在のような状況になるとは誰も予想していませんでした。

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 そのため、強気に書かれた文章も多く、「21世紀のアジアには『一つの大国しか残らない』と言われている。覇権国家は並立しないのである。ヘゲモニー(主導的地位、指導権)を握るのは果たして中国か、日本か。アジアは激しい変化の中にある」と述べられています。

 20年の歳月を感じながら、アジアの主導権は一体どこが握っているのかなどと考えたりもしますが、この本の中では「東南アジア共同体構想」として、1994年のASEAN首脳外交で活発に議論され合意された内容の詳細がひっそりと説明されています。21年後に実現するという長期プロジェクトでしたが、この後、東南アジアにも様々な変化が起こっています。

 この当時における、共同体構想の合意文章の基本理念は、①国家的及び地域的強靭性、②多様性のなかの調和、③共通の国家利益、④聞かれた地域主義の4点です。これらは、現在の基本理念とニュアンスが異なっています。ASEAN自体が反共政治ブロックとして始まっていたため、軸足がまだ政治・安全保障面にありました。現在と目的を一にするものであったとは必ずしも言えないスタートだったのです。


ASEAN経済共同体(AEC)が目指すものは?

 さて、現在のASEAN経済共同体(AEC)の目的は、①単一の市場と生産基地、②競争力のある経済地域、③公平な経済発展、④グローパル経済への統合です。わかりやすく考えると、ヒト、モノ、カネが、ASEAN10ケ国を自由に往来してあたかも1つの市場のようになること。国を超えて生産性の合理化などを進め、グローバルでも戦い得る競争力を蓄え、グローバル市場の中でプレゼンスを高めようとするものです。圏内に6億人を擁し、人口規模では中国の44%、日本の4.7倍にあたる巨大マーケットですので、早々にシンガポールにマーケティングの統括拠点を置き、この市場を狙って準備を開始している企業も増えています。シンガポールではすでに、ビッグデータ関連サービスが盛り上がりを見せている状況です。

 しかしながら、魅力あるマーケットというものは、他の人にとっても同じです。グローバルなプレイヤーの参入も予想されています。

 日本企業は東南アジアの国々とそれぞれ長い時間をかけ、工場進出、投資、従業員の雇用、教育などを行ってきたことで、各国の政府や業界団体と関係を強化してきました。東南アジア諸国に行くと今でも、日本や日本人を敬う気持ち、日本びいきを感じることがあるかと思います。

 しかし今までそれらの国々と築いてきた関係が、 ASEAN経済共同体となることで精算され、フラットな競争になる可能性があります。ミャンマーの携帯電話事業者の携帯電話事業への新規参入選定の際、ノルウェーの事業者とカタールの国営通信会社が事業免許を獲得すると発表されたことで、日本ではショックにも近い驚きがありました。なぜならその1ヶ月前、安部総理がトップセールスとして経済ミッションを伴い、本国総理大臣としては36年ぶりにミャンマーを公式訪問したと伝えられたばかりだったからです。

 前述した通り、ASEAN経済共同体に対してまだら模様な反応を示すことが多い人たちの中で、唯一元気な反応があります。それは、東南アジア各国の現地企業です。自国のマーケットシェアを、寡占に近いほどに抑えている企業も多くあります。それらの企業が隣国に出てビジネスを開始することは、今まで簡単ではありませんでした。しかし、ASEAN経済共同体になれば、それも一変します。

 現地の有力企業のトップは、これを事業拡張のタイミングとしてとらえ、ASEAN経済共同体の中で市場シェアを獲得しようととても鼻息が荒いようです。サッカーで例えるなら、予選リーグで欧米競合企業とぶつかり、中国や韓国はもちろんのこと、勢いのある現地系企業との厳しい戦いに日本企業が巻き込まれる可能性もあるというようなものです。

 ASEAN経済共同体が発足した日から何かが変わる、ということはありません。2015年から2020年のトランジッションの中で、したたかに市場の変化を見定め、市場に対峙する。そうしたことが、前述の弁護士の言葉のように、今回のASEAN経済共同体への対応のキーワードだと実感するのです。

 ASEAN地域の中でも、国ごとにITを構築・運用することが一般的ですが、今後は、市場や戦略の動きに合わせて地域全体を見据えていく必要があります。

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