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「第3回 交通ジオメディアサミット」講演レポート(その1)

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 "IT×公共交通"をテーマとしたカンファレンス「第3回 交通ジオメディアサミット」(主催:東京大学 生産技術研究所 瀬崎研究室、標準的なバス情報フォーマット広め隊)が9月25日、東京大学駒場第2キャンパスのコンベンションホールにて開催された。今回は「東京2020の交通をITで支えるために」と題して、2020年東京オリンピック・パラリンピックにおける交通への取り組みについてさまざまな講演が行われた。「公共交通×IT」をテーマにさまざまな活動に取り組んでいる人が一堂に会するこのイベントのレポートを、3回に分けてお送りする。

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【オープニングセッション】

■開催にあたって
スピーカー:伊藤昌毅氏(東京大学 生産技術研究所 助教)1-02.jpg

 伊藤氏は、過去2回行われた交通ジオメディアサミットを振り返り、公共交通の"データ"の重要性について語った。「データは公共交通のサービスを作る上での一部であり、サービスを作る側にとってはなかなか手が回りませんが、ITと公共交通の現場をつなぐとても大事なコミュニケーション手段であると言えます。そこで、この場ではどうしたらデータを流通させるかという議論を継続して行ってきて、それが"標準的なバス情報フォーマット"として普及など、少しずつ形になってきました」(伊藤氏)

 さらに、今回のメインテーマである「東京オリンピックに向けた交通・輸送計画」については、「大会そのものの準備も大変ですが、オリンピックによって多くの人が世界から日本に訪れて、そのために公共交通をどうするかということも重要な問題であり、それが今回の議題です」と語った。

■広島における災害時の公共交通情報提供プロジェクト
スピーカー:神田佑亮氏(呉工業高等専門学校 教授)

 神田氏はリモートで登壇し、7月に広島で起きた豪雨災害による交通障害について語った。このときはJR呉線の被害が大きく運休した。また、広島呉道路の復旧も長期化する見込みとなり、その影響で呉市内への幹線道路が渋滞し、代行バスの定時性の確保が大きな課題となった。

 こうした中、現地では災害時BRT(Bus Rapid Transit)という新たな取り組みが導入され、通行止になった自動車専用道路にバスを走らせたり、バス専用車線を設けたりすることで、渋滞を悪化させずにバスの速達性を確保したが、そこで課題となったのが情報提供対策が整わないことだった。代行バスのダイヤが具体的に何時何分発着なのかが示されなかったため、神田氏の研究室では毎日バスの発着時刻を計測し、ウェブサイトにアップロードしたり、SNSで拡散したという。

 神田氏は、「公共交通サービスは段階的に改善してきているが、情報提供が追いつききれていない」として、ダイヤを一元的に参照できないことや、アプリでの情報配信に遅れが発生すること、一部バス路線の所要時間が不安定といった課題があると語った。さらに、これらの問題に対して、利用者が安心して公共交通を利用できるようにするための情報提供の仕方を探索するプロジェクト「d-TRIP(disaster-Transit Information Project)」を、自治体(広島県、呉市)、交通事業者(JR西日本、広島電鉄、広島県バス協会)、交通IT関係企業(ヴァル研究所、バイタルリード等)、研究者(藤原章正氏、伊藤昌毅氏)とともに展開した。

 同プロジェクトでは、復興・復旧状況に応じて刻刻と変わる公共交通運行情報を一元的に見られるポータルサイトの構築や、路線検索サイト/アプリへの随時運行情報の迅速な反映、前日のバスの所要時間や座席の満空情報などの運行実績情報の提供、バスの走行位置情報の提供など4つの取り組みを行った。

 神田氏は、「大規模災害の発生後は、現地のミッションではユーザーニーズに基づいた一元的な情報提供の優先度が下がりがちになるので、今回で得た知見をもとに今後に活かしていきたい」と述べた。

■呉線代行バスに導入したバスロケシステムの紹介
スピーカー: 諸星賢治氏(株式会社ヴァル研究所 公共交通企画担当)

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 諸星氏は、JR呉線の代行バスに導入したバスロケシステムの内容を紹介した。同システムでは、島根県の株式会社バイタルリードが提供するGPS取得用機器をバスに搭載し、呉高専の神田氏が関係者との調整や現地サポートを行い、ヴァル研究所が位置情報の加工やウェブサービスの提供を行った。ウェブサイトにはバスの車両位置を地図上に表示し、わかりやすく方面別に色分けして表示した。

 同システムのベースになったのは、ヴァル研究所が中津川市で実証実験中のサービス提供モデルで、同サービスではバスに搭載したドライブレコーダーで取得した位置情報を国交省の"標準的なバスフォーマット(GTFS-JP)"に出力し、デジタルサイネージなどに表示している。今回の呉線代行バスではサイネージへの表示は行わなかったが、技術的には提供可能だという。

 諸星氏は、今回の取り組みのポイントとして、「テレビ会議などを利用した効率的な連絡体制により、短期間でのサービスを開始できた」、「外部からの資金提供なく実現できた」、「プロジェクト参加者のそれぞれの長所と余力をうまく組み合わせることができた」、「"利用者優先"という関係者の意識統一が図られた」ことなどを挙げた。

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■乗換案内アプリに代行バスの情報に導くバナーを設置
スピーカー:伊藤昌毅氏(東京大学 生産技術研究所 助教)

 伊藤氏はd-TRIPについて、「被災地では、昨日走れなかったところが今日は通行可能になるなど、状況がめまぐるしく変わります。実際、広島駅や呉駅は張り紙だらけで、その張り紙も頻繁に更新されるという状況でした」と、当時を振り返った。これはウェブサイトも同じで、多くの掲示物はウェブにも置かれていたが、何ページものPDFから目的の情報を探すのは大変であり、ページ同士の相互関係などを理解しないと読み解けず、理解が困難だったという。

 また、乗換案内での検索結果についても、不通区間を回避した検索は行えるものの、代行バスの情報が反映されていなかったり、代行バスが出ているという注意書きだけで済ませたりしているサービスもあった。伊藤氏はこのような状況を踏まえた上で、最新のダイヤで検索できるようにするのが理想ではあるが、交通事業者の現場は混乱気味でデータ準備がままならず、乗換検索にデータを投入してから検索可能になるまでは時間がかかるため、実現はなかなか難しいと語った。

 そこで今回、伊藤氏は次善の策として、普及している乗換案内アプリから最新情報を見られるようにリンクを張り、情報アクセスの導線を作るように方針転換した。具体的には、乗換案内サービスに代行バスのバナーを貼り、それをタップするとバス協会による総合案内ページが表示されるようにした。

 この総合案内ページには、その地域の全体的な情報が収録されているので、ユーザーはそこを起点として、JR西日本の時刻表や広電バスの時刻表・所要時分実績情報、JR代行輸送バスの走行位置情報など、さまざまな情報にアクセスできる。この取り組みは「駅すぱあと」や「Yahoo!乗換案内」、「Navitime」などさまざまなサービスで実施された。

 このようにリンクを張ることで、情報整備の役割分担を明確化するとともに、事業者とコンテンツプロバイダー間の情報共有が不十分でもシステムがなんとか動くようにした。バス会社によっては、ダイヤや運行情報だけでなく、所要時間の実績や簡易バスロケによる位置情報などを提供する会社もあったという。

「我々は災害時にどのように交通情報を提供できるかという挑戦を始めたばかりなので、この先、より良い、より継続的な仕組みを作るためにぜひご協力いただければと思います」(伊藤氏)

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