世界最高峰のモータースポーツであるフォーミュラ1を「斜め45度」から見ると、ビジネスや世の中が見えてくる!?まったり気ままに、時には真面目に。世界を駆け巡るF1ビジネスの仕組みから、F1でわかる経済学、エコとF1まで。フォーミュラ・コモンズがお届けします。

F1は「走る広告塔」ではない (3) ― ホンダF1の「走るアオカビ」を再評価する

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※前回の記事:F1は「走る広告塔」ではない (2) ― 「大丈夫だ、問題ない。」の続きです。

・「ザウバークラブ1」で思い出したホンダF1の最期

 2010年のBMWザウバーチームの真っ白なマシンに記された謎の記号「C1」。それは「ザウバークラブ1」のロゴマークでした。その会員制クラブは、企業を対象に会員を募り、F1を広告塔としてではなくマーケティングツールとして利用する「新しい」ビジネスモデルだったことがわかりました。

 しかし、「新しい」とは言うものの、あの得体の知れない感じ、なんとなく既視感があるような・・・と思った方がいたとすれば、それはなかなか鋭い斜め45度視点の持ち主に違いありません。というのも、2007年から始まったホンダF1チームの「アースドリーム(Earthdreams)」コンセプトが、何やら「臭う」のです。今から振り返れば、あれって、なんとなく「ザウバークラブ1」に似ていたんじゃないかなあ?(写真:ph-stop from Flickr.com, under CC-BY-SA.)

Barricello Raikkonen Canada 2007

 もちろん見た目はぜんぜん違います。真っ白なザウバーと、宇宙から見た地球の姿がプリントされたホンダ。でも、どちらもスポンサーのロゴが掲載されていないという点では同じです。このアースドリームは、ホンダがF1から撤退する2008年末まで続き、単年度で270億円の赤字を垂れ流す原因になったと伝えられています(参照:コジマ「ホンダF1撤退は「アースドリーム」が一因? 広告なしで270億円損失」ナリナリドットコム)。

・「アースドリーム」はどのように評価されたか

 当時、アースドリームは、ホンダによる環境保護のメッセージを発信するものとして公式に発表され、2007年末に(ひっそりと)「グリーン・アワード」を受賞しました。チーム代表のニック・フライさんはこう言いました。「我々の「マイアースドリーム」活動の目的は、世界的に広がるF1を利用して、世界中の人々の環境問題に対する関心を集め、環境問題に関する議論を巻き起こすことだ」(出典:GPアップデート「ホンダ 環境問題に取り組み「緑の賞」を受賞」)。

 しかし、実際に巻き起こった議論は「環境は大丈夫か?」ではなく「ホンダは大丈夫か?」でした。

 当時「もしかしてGoogleがホンダのスポンサーについて、Google Earthをプロモートするんじゃないか?」と噂されましたが、あくまでも噂は噂でしかありませんでした(参照:Motorsports Foruns "Google may enter F1 as sponsor")。あの地球色がスポンサーではないとしたら、いったい何なのか。それは決してポジティブには受け取られませんでした。2006年末、タバコ広告禁止の余波でメインスポンサーを失ったホンダが、新たなメインスポンサーを見つけることができなかったので、苦し紛れにマシンを地球色に塗ったのだ、と言われたのです。(写真:Marz Photography from Flickr.com under CC-BY)

Honda Earth Truck 2007

 ホンダF1の活動を痛烈に批判した川喜田研『さらば、ホンダF1:最強軍団はなぜ自壊したのか』(2009年)には、「ごまかしの「アースカラー」」という節が設けられています(213頁〜)。「現実には・・・スポンサー探しに行き詰まった末の「苦肉の策」であったことは間違いなく・・・「環境」という錦の御旗を掲げて数十億円もの資金を募ろうという発想が、あまりにも恥知らずな行為に感じられた」(217頁)と、著者の「強い怒り」(216頁)と共にアースドリームが書き記されています。

 日本でも2ちゃんねるを中心として、ホンダの地球色は「アオカビ」と称されましたし、今でもニコニコ動画にあるホンダF1の動画には「青カビ」というタグがつけられています。残念なことにアースドリーム活動は、ホンダを愛する人々には「不可解」もしくは「恥知らず」な行為として映り、ホンダを嫌う人々には「青カビ」という格好の叩きワードを献上したのです。

・アースドリームを再評価してみよう

 しかしながら、2010年のBMWザウバーのマシンが真っ白だったことをポジティブに評価したのと同じ理由で、2007 年のホンダF1の取り組みをポジティブに評価することは可能です。あの地球色には、新しいビジネスのチャンスが確かにあったはずです。(写真:ph-stop from Flickr, under CC-BY-SA.)

Button Finishes P11

 2006年当時ホンダのモータースポーツ部長だった和田康裕さんの発言は、2010年のペーター・ザウバーさんの発言とよく似ています。「今やF1の参戦コストは10年前とは比べものにならないほど高騰しており、マシンを企業スポンサーのカラーリングにしても、それで得られるスポンサーフィーは予算のごく一部でしかない」(前掲書、216頁より引用)。だから、敢えてメインスポンサーを募らず、ボディを地球色に塗って、ホンダ自身が環境保護のメッセージを発信するだけではなく、その環境メッセージに賛同してくれる企業を募ろうとしたわけです。

 計画の発案と実行という面でも、両者はよく似ています。どちらも普段はF1というスポーツとあまり関わりのない人々によるものです。ザウバークラブ1は、フランスの広告代理店ピュブリシスが発案したものでした。ホンダのアースドリームは、アメリカのマーケティング会社ブリッツが大きく関わったことが知られています(参考:BLITZ Launches Eco-focused Site for Honda Formula 1.)。どちらも、F1というメディアを使って、それまでとは違う「新しい」取り組みをしようとしたビジネス上の試みであったことは間違いありません。

・まとめ:ホンダF1の取り組みは早すぎただけなのか?

 このように、ザウバークラブ1を知った今から振り返れば、ホンダF1のアースドリームも決してそこまで「ひどい」ものではなかったことがわかります。しかし、当時はマーケティングの失敗ゆえかアースドリームの仕組みに誰も気がつかなかったし、ホンダ自身もそのコンセプトをうまくハンドリングできていなかったようです。

 ホンダ内部の食い違いも垣間見えます。日本のホンダ本社の役員はアースカラーを「ホンダの環境問題に対する姿勢を伝える場」という年間270億円の超高価な自社広告だと考えていた節があります(川喜田、前掲書より発言を引用)。その一方で、ヨーロッパのホンダF1チームではこの取り組みを「ソーシャル・マーケティング・プログラム」として位置づけ、「さらに多くのファンやパートナーを巻き込むようデザインされた包括的かつ広範囲の計画」へと発展させていこうとしていたようです(参照:Phil Huff, "Honda's earthdreams Launch Still Needs Thought.")。

 ホンダF1のアースドリームは、うまくいくかもしれなかったがちょっとしたことでうまくいかなかった事例の一つ・・・もしくは、あまりにも早すぎた取り組みの一つ・・・として、再評価することができるのではないでしょうか。

 これは僕の「斜め」な邪推ですが、ザウバークラブ1を計画した際、ピュブリシスはホンダF1の「アースドリーム」を先駆的な失敗例として参照したのではないでしょうか。今、そのおかげで小林可夢偉さんのシートがザウバーにあるのだとすれば、ホンダF1の死骸も無駄ではなかったのかも・・・。(^_^;)

by blog.formula.commons (quzy)

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