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共創でマーケティングを変える!

顧客との「共有価値の創造」手段としてのCSV #3 事例紹介ネスレ社-1

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CSVコラムの第一回で紹介したポーター教授の定義によれば、「共創価値」とは社会のニーズや問題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、経済的価値も創造されるという経営アプローチですが、では着目される社会問題にはどのようなものが考えられるでしょうか。弊社でデスクトップリサーチを行い約50の国内外でCSV事例とされているもの(各社呼称)を社会問題分野で大別すると、下記6つに分類できました。

  1. 環境
  2. 地域格差
  3. 健康
  4. 社会的弱者
  5. 紛争・安全
  6. 教育

無論、これは弊社の現時点での考察です。第2回目でCSVを事業化する際の必要条件として挙げたとおり、各企業の事業分野によって様々な社会課題が共創事業の機会分野として見出されるべきであり、第三者によって限定されるべきものではありません。

今回は、最も先進的な代表的事例としてネスレ社のCSV活動分野を紹介します。

参考文献はHarvard Business Reviewおよびネスレ社のCSV Reportです。

ネスレ社からは事業報告書とは別にCSV Report 日本語訳「共通価値の創造報告書」が発行されています(英語オンライン版のみ毎年。日本語版は隔年)。つい先月(2014年3月)、2013年度のCSV活動レポート「Nestlé in society ―Creating Shared Value and meeting our commitments 2013」が発行されました。

この最新レポートの要約版によると、ネスレ社の社会活動(CSR/CSV)報告は2002年のThe Nestlé Sustainability Reviewから始まっています。次いで2005年「The Nestlé commitment to Africa」、2006年「The Nestlé concept of corporate social responsibility as implemented in Latin America」にてCSRという言葉が登場。そして2007年のレポートが「Nestlé Creating Shared Value Report」と題して発行されています。

2011年のレポートにてネスレ社のCSV活動は「Nutrition、栄養」、「Water、水資源」、「Rural Development、農業・地域開発」の3分野に焦点が置かれました。同社がこれら3分野でCSV活動を全社的に強化する方針に至った背景をスライド3枚でまとめてみました。

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(Slied-1)

(HARVARD BUSINESS SCHOOL“Nestle Agricultural Material Sourcing Within the Concept of Creating Shared Value,” by RAY A.GOLDBERG, LORIN A.FRIES, REV August 9, 2013をもとにエンゲージメントファースト社が作成)

同社ではCSVという概念が提唱される以前から、如何にして持続可能な事業を展開するか、また同社の事業領域で未解決の社会問題をどう解決するかについて真剣な議論がなされてきました。飢餓と肥満、成人病は同社の食品ビジネスにおける配分と消費の不均衡がもたらす問題。農地の土壌劣化と自然災害の増加、水資源の枯渇は同社の生産と原料調達を脅かす問題。これらの問題を悪化させる外部要因として世界的な経済低迷、人口爆発による需要過多、発展途上国での農地乱開発、ひいては地球温暖化と気候変動による農産物収穫量の減少が挙げられています。同社が5~6%の年次売上成長をすれば新たな農地開拓が必要となり、直接ではないとしても新たな環境破壊の遠因となるという連鎖関係になっています。この悪循環を放置したまま、同社が現在の規模で事業成長のみを追求した場合、人口70億から100億の時代に同社の事業と地球環境は成り立たなくなるという危機感が持たれました。生産環境を守りながら安定的に農産物を調達し、かつ営利企業としての持続的な事業成長を図ってゆくか、という極めて悩ましく深刻なジレンマに悩む経営陣の姿が想像されます。

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(Slide-2)

(Slide-2)は(Slide-1)の背景を裏付ける統計データです。世界の水消費は2005年に入手可能な表層水と地下水の合計を上回り(=現在は節約と循環により供給が維持されている)、食糧価格も高騰。都市人口が増加し農業生産人口が2015年以降減少に転じるため食糧の需給ギャップが拡大、自然災害の発生増が農産物収穫量を減少させる。このような状況下、同社の事業継続に環境問題と食糧危機の解決がいかに重要であり、問題解決自体を同社の事業としてゆかざるを得ないことがよく理解できます。

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(Slide-3)

(同上“Nestle Agricultural Material Sourcing Within the Concept of Creating Shared Value,” REV August 9, 2013およびNestle CSVReportをもとにエンゲージメントファースト社が作成)

ネスレ社はこのようにして認識された自社事業に関連する社会問題を、「栄養」「水資源」「農業・地域開発」という3大テーマに集約し、各領域の問題を解決すること自体を事業化、あるいはバリューチェーン・プロセスに組み入れてゆく取り組みが全社的に行われています。ポーター教授の価値共創3つのアプローチ、①「製品と市場を見直す」、②「バリューチェーンの生産性を再定義する」、③「企業が拠点を置く地域を支援する産業クラスターをつくる」のうち、②と③のアプローチに該当する施策が多数取られています。同社の具体的なCSV活動は、長くなるので次回ご紹介したいと思います。

渡辺 弘

株式会社エンゲージメント・ファースト

グループ長兼チーフ・エンゲージメント・ストラテジスト

統計士・データ解析士/デジタルハリウッド大学客員教授

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