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専門的な情報を、立場の違う人に「分かるように説明する」のは難しいものです。このブログは「技術屋が説明書や提案書を分かりやすく書く」ために役に立つ情報をお届けします。

簡単な質問への解答を考えて図解・説明力アップ!

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ロジック図解コンサルタントの開米瑞浩です。

たとえばパソコン初心者の大学生にこんな質問をされたら、どんな風に答えますか?

コンピューター上のファイルをコピーするよりも削除する方が短時間で処理できるのはなぜですか?

このぐらいの簡単な質問への解答を考えるのは、説明力を上げる練習として手頃です。

■解答例1

Windows系のPCでは、ファイルの情報はFATまたはMFTというデータによって管理されていて・・・

もちろんこれではFATとかMFTという専門用語をいきなり連発しているのでダメです。初心者が何か質問してきたときに、相手が知らないであろう専門用語を不用意に使ってはいけませんね。

■解答例2

コピーをするためには、(1)コピー元ファイルを読む (2)新しいファイルに書く という2つの手順が必要です。 削除をするときは(1)元のファイルを消す という1つの手順で済むので速くなります。

これは専門用語を使っていないし、一見わかりやすそうでPC初心者は納得するかもしれません。

しかし単純化しすぎているため、それ以上の学びにつながりにくい説明です。「わかったようなつもり」にさせるには手頃ですが、これからきちんと理解して使っていかなければいけないであろう大学生への説明には不向きです。

何がまずいかを詳しく書くとこうなります。

capture180517-114423-236.png

解答例2は「読む・書く・消すという3種類の手順に必要な時間はほぼ変わらない」という暗黙の前提を置いた説明ですが、その前提そのものがPCの動作原理にマッチしていない上に、読者がその前提で考えてくれるとは限らないところが問題です。

では、どうすれば良いのでしょうか? 

現実のファイルシステム構造の本質を残しつつ単純化した、モデルを使うと説明しやすいです

■解答例3

ファイルを記録する領域はインデックス区画とコンテンツ区画に分かれています。インデックス区画はファイル名とそのファイルが存在する場所だけを記録した非常に小さい領域で、コンテンツ区画にファイルの中身が入っています。

capture180517-114904-237.png

ファイルのコピーでは「コンテンツ区画のコピー」と「インデックスへの書き込み」を行います。下記は file-B を file-C という名前でコピーした例です。

capture180517-114918-238.png

ファイルの削除で行う操作は「インデックス区画を『空き』に書き換える」だけです。大きなコンテンツの操作が発生しないので、短時間ですみます。
下記は file-B を削除した例です。

capture180517-114937-240.png

ざっとこんな説明をすると、適度に簡略化しているため「初心者にも理解しやすい直感的な説明」でありながら、パソコンの動作原理の本質を残しているため、より進んだ学びにも拡張しやすいメリットがあります。具体的には、

「ファイルが大きくなるとその分コピー時間がかかる」とか「ファイルを削除したつもりでも中身はまだ残っている」とか「Copy-on-writeというテクノロジーがあってだな・・・」

といった、関連する話題に展開しやすくなります。一方、解答例2を聞いて「わかったつもり」になってもその先の話題への発展性はありません。解答例1のほうは細かすぎてハードルが高すぎます。

適度に本質を残しつつ抽象化・簡略化したモデルを作るのは難しいですが、「図解」の本質はそこにあります。


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