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「指示命令」はティーチングじゃありませんよ?

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「コーチング」がビジネス教育界で一種のブームになったのはもう10年ぐらい前の2007~8年ぐらいのことだったと思います。

そのときも気になったのですが、コーチングを推進している人々は「ティーチング」という用語を誤用していることが多いようです。それは、

ティーチングとは、指示命令やアドバイスによって相手に答えを教えてその通りに動かす方法である

というもの。何が誤用かというと、申し訳ないですが

  • ティーチングは、指示命令をすることである → 間違い
  • ティーチングは、相手を指示通りに動かすことである → 間違い

なんです。この両者はどちらもティーチングというより「インストラクション」と呼ぶべきです。

これらの意味あいを解説するために、最近あるチャートを書いたのでご紹介しましょう。

まず1枚目。「ロジカル・コミュニケーションの5類型」の問題解決への適用場面です。

LogicalCom5types-1.PNG

現実世界で何か「問題」が起きたとき、それを解決するために我々は「状況把握」をし、「方針」を決めて、「詳細計画」を作り、それを実行することによって解決します。ここで「状況把握」のために行うのがヒアリングやレポーティング、「詳細計画」を実行する段階で必要なのがインストラクションです。

一方、方針を決めるためには「知識」が必要です。たとえば火事が起きているとしてそれが木や紙が燃えているのか、油か、電気火災か、その他なんらかの化学物質を含むかによって違った対処が必要ですが、それを「知識」として持っていなければ消火の方針は決められません。この「知識」を与えるのがティーチングであり、それは詳細計画を立てた後の実行段階で必要な「インストラクション」とは別物です。

また、通常ビジネス現場では状況把握、方針立案、詳細計画のどこかの段階で現場担当者から意思決定者に対して報告し承認を得る必要があります。このときに行うのが「プレゼンテーション」です。

それらの関係を一枚の図にしたのが上図というわけです。

「コミュニケーションの5類型」というのはヒアリング、レポーティング、ティーチング、インストラクション、プレゼンテーションの5つのことを指します。ロジカル・コミュニケーションには大まかにこの5つの場面があるわけです。(細かいところで疑問を感じるかもしれませんが本稿では略。気になったら聞いてくれれば補足します)。

さて、それで問題は、

ティーチングとインストラクションをはっきり区別していないケースが多い

ということです。先ほど出てきた、

指示命令やアドバイスによって相手に答えを教えてその通りに動かす

というのはインストラクションのことであって、ティーチングではありません。ティーチングは「知識」を与えるものであって、行動を指示するものではないのです。本来は。

なぜこんな混同が生じたか、その理由はわかりませんが、おそらく多くの会社ではそもそもティーチングをほとんどやっていなかったからではないか、と私は考えています。

「仕事は慣れるもの、盗むもの、つべこべ言わずに黙ってやっていればそのうち分かるようになる」といったスタイルの新人指導って昔はよくありましたよね? 今でもかもしれませんが。これは、インストラクションに従っていればそのうちに知識も分かるようになるという考え方で、率直に言えば「知識が重要ではない業界でだけ成り立つ指導法」です。

でも実際には「指示命令(=インストラクション)」は詳細計画(具体的手順の明確な計画)がなければ不可能ですよね。その詳細計画を立てるためには「知識」が不可欠です。「知識」を与えずにインストラクションだけ受けていた人間に、自分で「方針立案」や「詳細計画」が作れると思いますか?

できるわけがありません。

ちなみに、「コーチング」というのは「方針立案」を支援するものです。

LogicalCom5types-2.PNG

インストラクションに従って動くだけではだめ、自分で方針立案・詳細計画を立てられるように成長して欲しい、というのはもっともな話ですし、その成長を加速するために「コーチング」が効果的なのも確かです。そこまでは異論ありません。

しかし、バックグラウンドの知識がまったくない人間にいくらコーチングをしても無駄です。方針立案は知識があって初めてできることで、ここの順番を間違えちゃいけないわけです。

ちなみに「知識」を与えるティーチングというのは、必ずしも「先生が生徒を集めてしゃべる」というタイプとは限りません。上図では分厚い本が並んだアイコンで示してありますが、「必要な時に参照できる資料」として知識がまとめられていれば、「必要な時」に自分で学ぶことができます。

つまり、「ティーチング」をするためには、「ベテランのノウハウ」として扱われていた「明文化されていない知識」を明文化し体系化しておく必要があるわけです。

経験的に積み上げられて、ベテランの頭の中に入っているノウハウを明文化するのは非常に労力のかかる仕事ですが、それがない状態でコーチングをしても、されたほうは何もわからずにオロオロするだけでしょう。


今日(2017年7月18日)あらためて「コーチング」系のサイトをいくつか調べてみましたが、やっぱり「ティーチングとは、指示命令やアドバイスによって相手に答えを教えてその通りに動かす方法である」という解釈で説明しているものが大半でした。

そうじゃないんだけどな~

(本稿は筆者の個人サイトから転載したものです)

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