オルタナティブ・ブログ > 技術屋のためのドキュメント相談所 >

専門的な情報を、立場の違う人に「分かるように説明する」のは難しいものです。このブログは「技術屋が説明書や提案書を分かりやすく書く」ために役に立つ情報をお届けします。

情報構造化例:「情報セキュリティ教育指導者向け手引き書(2007)」-(4)

»

こんにちは。ドキュメント・コンサルタントの開米瑞浩です。複雑な文章をわかりやすく書き直す技術の教育研修や実際に書き直してしまうリライト業務を行っています。

前回の続きです。

前回までで、課題原文をまとめてみると、

理想と現実では教育の話をしているのに、背景にはその話がない

ということがわかりました。原文は「教育」についての問題提起が主題と考えられるので、できれば、

  • 【疑問1】「教育」というのが「ソフトウェア、ハードウェア、運用、マネジメント」とどう違うのか?
  • 【疑問2】 なぜ、「教育」への対応は他の領域に比べて遅れているのか?

という2点への答えが示されていて欲しいところです。

そこまでやろうとすると原文だけでは情報が不十分ですが、試しにやってみるとたとえばこんな整理ができそうです。

2015-0831-1.png
 

「ハードウェア~マネジメント」までの4つを「情報セキュリティ対応が必要な対象領域」と考え、そこに「一般利用」を追加します。「一般利用」はシステム運用やマネジメントに携わっていない「普通のワーカー」がメールを出したりレポートを書いたり伝票を発行したりする業務のことを意味します。要するに「一般利用」はオフィスワーカーの大半の仕事を表していて、この領域は「人間系要素比率」が高く、「業務担当者数」が多いことに特徴があります。

「人間系要素比率」というのは原文にない概念ですが、「人間が判断しなければいけない仕事」の比率を表します。ハードウェアやソフトウェアでは、開発を終えて実稼働している段階では「仕事をするのは機械」なのでその比率が低くなります。

「人間が判断しなければならない仕事」について情報セキュリティ面の脆弱性がある場合、そこに必要なのが「教育」です。もちろん、ハードウェア~マネジメントまでの領域でも「人間が判断しなければならない仕事」はありますし、そこへの教育は必要でしたが、「一般利用」の領域がそれらと違うのは「業務担当者数」の多さです。「一般利用」の立場で情報システムに関わる人間の数はとにかく多いので、これに対応するためには「教育」ができる人材が多数必要になります。しかし実際にはその数は少ないため、「情報セキュリティ対策の進展状況」としては「不十分」となる。

と、このような構造化をしてやれば、

ああ、一般利用者への教育が必要なのに、なにしろ数が多いから不十分な状況なんだな

ということが、「情報セキュリティ対策」における他の領域との関連性も含めて全体像として頭に入るように説明できそうですね。

前回までに紹介した「背景・理想・現実」、「要約・詳細」、「評価項目・評価」の3つのパターンは多くの分野で極めて良く出てくるものなので、いろいろな文書で試してみてください。

とはいえ、それが万能なわけではありません。今回はそれに加えて「対象領域・人間系要素比率・業務担当者数・対策の進展状況」という構造化を行いました。このパターンはこの文書特有のものなので、他への応用はしにくいですが、特定の分野にはこうしたその分野特有のパターンが必要になることがあります。「背景・理想・・・・」のようなよくある定型パターンだけではいまいちしっくりこないと感じられるときは、特定分野限定の構造がないかどうか、探してみてください。

これにて、情報構造化例:「情報セキュリティ教育指導者向け手引き書(2007)」のシリーズは完結です。

Comment(0)