これからの時代を生き抜いていくには、自分のアタマで人とは違うことを考える能力が必要になると考えています。人とは違うことを考えるためには、多様なインプットが必要です。人間は「人から学ぶ、本から学ぶ、旅から学ぶ」以外に学ぶことができない動物です。このブログでは、特に若いビジネスマンに向けて、わたしが今読んでいる本やオススメの旅について紹介します。

書評:『子供の貧困が日本を滅ぼす』

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第145回.jpg子供の貧困が日本を滅ぼす
日本財団 子どもの貧困対策チーム (著)

 子どもの貧困がよく話題に上るが、その実態を知っている人は意外に少ない。本書は、日本財団子どもの貧困対策チームがまとめたものであるが、この問題の「鳥瞰図」がとてもよく分かる好著だ。ぜひ、一人でも多くの皆さんに読んでほしい。

 まず、6人に1人と言われている子どもの貧困の実態と、貧困が世代を超えて連鎖することが数字・ファクトで明瞭に示される。次いで子どもの貧困を放置すると、将来の所得の減少が総額42兆9千億円、財政収入の減少が15兆9千億円に達するとの試算結果が明らかにされる。子どもの貧困はまさに「ヒトゴト」ではなく「ジブンゴト」であり、放置すると日本の未来を確実に閉ざすのだ。続いて、子どもの貧困の具体的なイメージを喚起するために、現場の声が採録されている。学費を稼ぐために風俗の仕事に就く女性が少なくないという実態を挙げ「福祉は風俗に負けている」、あるいは「家族の団欒があれば犯罪に手を染めなかった」等々の過酷な現実が当事者の肉声を通して語られるが、どれも内容は重い。

 後半は、この問題の解決の方向性が語られる。貧困の連鎖を断ち切るためには、社会的相続(「自立する力」の伝達行為)に注目すべきだ。自立する力の要素は、お金、学力(認知能力)、非認知能力(自制心、やり抜く力など)だが、そのステップがアメリカの精神分析学者、エリクソンのライフサイクル論で説明される。なるほど、よく分かる。ところで、子どもの貧困対策の効果はどう測られるのか。先駆的な「ペリー就学前計画」、学力と貧困の相関研究「アベセダリアンプロジェクト」、現在進行中の「シカゴハイツ幼児センター」、この分野では古典と言ってもいい権威のある3つの研究内容が丁寧に紹介される。この3つの研究内容はもっと多くの人々に周知されるべきだ。ノーベル賞受賞者のヘックマン教授(シカゴ大)は、精緻な分析を通じて子どもの成長には非認知能力の影響がとても大きく、就学前教育の社会的収益率は15~17%と高いことを指摘している。

 子どもの貧困の実態はよく理解できたが、「ではどうするか」という部分については、もう少し踏み込んで欲しかった。本書の最後には、政府・自治体やNPO団体などの取組みが紹介され、一人ひとりができることとして、寄付やボランティアや発信を呼びかけているが、本筋は一人親家庭などを対象に子どもの貧困対策の予算をしっかりと確保することではないか。具体的な予算の裏付けのない政策は、所詮は絵に描いた餅に過ぎない。財源が不足するなら、その分消費税等の負担を上げていい。マクロ的に見れば、わが国は小負担・中福祉の国であって、持続不可能なことは明らかなのだから。子どもは僕たちの未来。未来のための筋の通った負担なら、市民は反対するだろうか?

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