管理者が部下を育てない。二言目に「この国では仕方ない」。自分の職責外には口も手も出さない。横連携ができない。日本の常識が通用しない。3~4年の駐在期間でどう成果を出せばいいか焦る――こういったアジアの日系企業に共通する悩みを一緒に見ていきましょう。「焼き畑経営」からの脱却の一助になれば嬉しいです。

アジア現法の「共通2課題」:焼き畑経営を卒業してサツマイモ畑経営を

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 私はここ10年ほど、中国を中心に日系企業の「事業利益を継続確保するための組織づくり」を行っています。2014年から本格的にタイやフィリピンの相談を受けるようになり、現地に行くようになって、2つのことを発見しました。

 1つ目は、「アジアの日系現地法人の経営課題は、人の問題と、外部の脅威の2つに集約される」。
 2つ目は、「労務問題の深刻度は国によって異なるが、人材育成はどこの国でも共通する大きな課題である」。

 課題に共通性があるということは、どこかの国で悩まされたことは他の国へ進出しても早晩悩まされるということです。また、どこかの国で解決力を養えば、他の国でも応用可能だということです。
 私は、ある国で悩まされた課題を避けるため、別の国に進出し、またそこでも困難な課題に直面して、別の国に出て行く――このようなやり方を「焼き畑経営」と呼んでいます。焼き畑経営は、移転できる先がどんどん限られていきますので、共通課題の解決方法を確立して、ぜひ「どこでも儲けられる経営」(どこでも栽培しやすい"サツマイモ経営")を進めていきましょう。

●アジアにおける事業課題1:人の問題
 人の問題は大きく分けて、労務と人事があります。なお、私は労務を「日常の労働に専念できるための管理」、人事を「社員と組織の成長を促すための仕組みの活用」と自己流に定義しています。労働組合の問題は、多くの場合、社内の労務というより外的脅威の部類に入るため、後から2つ目の課題で言及します。
 このうち、労務問題の深刻度は国によって異なります。フィリピンやカンボジア、ミャンマーなどは比較的悩みが少ないようです。タイも組合問題を別にすればまだ穏やかです。大変なのは、まず中国。ベトナムやインドもなかなか苦労しているという話を聞きます。
 私見ですが、労務問題は経済の発展とともに激しくなり、一定以上豊かになると逆に収まっていくようです。中国も2000年代前半までは「こんなに素直で、喜んで残業し、熱心に働く若い子たちを見ていると、感動すら覚える」と言っていたのです。そういえば、かつての日本もそうでした。今後、タイやベトナムあたりから問題が増えていくのかもしれません。
 一方、人事はどこの国でも共通する大きな課題です。期待先行で昇進させてきた管理者を、真の管理者としてどう脱皮させるか。上司が部下に仕事を教えず権限委譲(※)もしない問題をどう解決するか。育てた幹部が他企業から高給で引き抜かれてしまう問題にどう対処するか。

 これらは、これまで回った国々ですべて共通する課題であり、私が中国で取り組んできたテーマでもあります。そこで気づいたのは、私がこれまで見てきたのは「中国現地法人の課題」ではなく、「日系海外法人の課題」だったということ。中国だから直面していたのではなく、日系企業だから直面していた課題だった......。これは目からウロコの発見でした。

※権限委譲(げんげんいじょう)=与えられた業務・目標を達成するために、組織の構成員に自律的に行動する力を与えること。

●どこでも共通する人事の主要課題

 では、具体的にどんな人事課題があるのか。4つ挙げます。

[日系現法に共通する人事課題]

  1. 経営の一貫性が保てない:赴任者が3~4年と短任期のため、社内の信頼関係が深まらず方針もブレる
  2. 誤った現地化:権限委譲を誤って業務がブラックボックス化し、不正や既得権益の温床に
  3. 組織の老化:設立から10年を超えると幹部層の固定と保守化、新陳代謝の停滞、管理者層の肥大が発生する
  4. 言葉の壁:実際には言語能力だけでなく、文化的背景や立場のギャップもあるためハードルが高い

 この1~4は、同時に生じるわけではありません。例えば、課題2は赴任者が現地で家庭や生活基盤を持ち、根を張った際によく発生します。この場合、1や4の問題はあまりありません。
 3の問題は、1、2、4の存在に関わりなく、設立から10年を超えると徐々に増加します。4は日系以外でも発生しますが、島国であり異文化混合の組織に慣れていない日本人と日本企業にとっては、より深刻なことが多いようです。

 1~4の課題がどのように出現するのか、典型的な実例を挙げてみましょう。

実例1:設立から10年超。赴任者は3~4年で交代。管理経験のない駐在員も増えている。このため組織をまとめる現地管理者とその上司である駐在員の力関係が逆転。駐在員は自身の権威を示すため実務に口を出すが、現地管理者は反発や無視で応戦。言葉の問題もあり、駐在員は彼ら抜きで仕事を進められない。客観的に見ると現地管理者のやり方にも改善の余地が多々あるが、コミュニケーションの壁や面子の衝突があり、発展的な関係を構築できない。

実例2:設立から20年超。組織の中枢は現地で20年近い駐在員や現地採用の日本人(家庭も現地で持っている)。言語や文化理解に支障はないが、逆に現地法人が「自分の城」と化し、悪い習慣や私的利得なども深く根を張っている。本社は問題に気づいていても、メスを入れた場合の反作用の大きさが怖くて手を出せない。相手の定年を待っていたりすることもある。

実例3:日系企業が100社以上集まる工業団地で、すべての日系企業に賃上げストライキが連鎖する大事件発生。連鎖の原因を分析していくと、

設立20年以上の会社が多く、創業からの古参幹部が現地管理を行っている
 ↓
彼らは非常に保守化し、既得権益を守るため有能な若手を排除(このため古参幹部の下には5年未満の社員ばかり)
 ↓
近隣でストライキが発生し経営側が昇給を飲むと、自分だけ目の敵にされたくないという心理が働く
 ↓
自社で発生した場合は率先して昇給を飲む、場合によっては自らストライキ発生を支援する

......という構図があった。

 これら4つの課題には、解決方法があります。私がこの10年支援してきたのは、これらの課題の解決であり、実際に乗り越えて発展している企業もたくさん存在します。ただ、日本での常識、日本でのやり方をいったん捨てて、現地の現実を受け止め、彼らに響く方法を採る必要はあります。

 次に、もう1つの課題、外部の脅威について見てみましょう。

●アジアにおける事業課題2:利益に打撃を与える外部の脅威
 日系企業にとって、中国と比較すればASEAN各国は格段に居心地がいいです。日系だからという理由で逆風が吹いたり首をすくめたりすることはないし、従業員の気質も純朴。でも一方で、発展途上国ほど政府対応は厄介です。
 利益が出はじめたと思ったら、突然の追徴課税や罰金が降ってくる。重加算狙いのため、わざと数年間、申告ミスを指摘せず泳がせるケースさえある。税務当局では外国企業の詳細なリストを持っていて、業績が上がっているところから取ろうとするため、毎年のように狙い撃ちされることもある。
 本来納めるべき税金はきちんと納める必要がありますが、徴税側の恣意的な態度や、トラップに掛けるかのような手口には対抗策を講じなければなりません。表現が適切でないかもしれませんが、会社は納税するために事業経営を行っているわけではなく、継続的利益をあげるために現地展開しているのです。

 労働組合の問題も一部の国では非常に深刻です。
 タイのように日系自動車業界を狙い撃ちする意図を持った過激な上部団体がある。インドネシアやインドのように労使双方の発展を考えた冷静で合理的な協議が困難な国もある。ある上部団体のリーダーに「そんな無茶をして会社が撤退や清算を選んだら元も子もないでしょう」と指摘したところ、「そんな会社は潰れればいい。この国には他にも雇用意欲の旺盛な企業がたくさんある」と言い放ったという話も......。

 他にも、社員と結託して甘い汁を吸い続けてきたスクラップ業者やユーティリティ業者(不用意に手を入れようとして、脅迫されたり社長が狙撃されたりすることも)、法律などお構いなしでさまざまな要求を突きつける進出先の村や町の長老たちなど、外部の脅威が存在します。

 これらを自社だけで解決しようとするのはなかなか困難ですし、また危険も伴います。といって甘んじて受け入れていると努力している社員たちが報われませんし、最悪の場合、撤退を余儀なくされます。各国で解決方法を有するエキスパートが存在しますので、彼らに相談するのが吉。私も中国以外では、彼らエキスパートとの連携で問題解決を図っています。

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 まとめると、どの国に進出しても、大きな課題は共通します。これらを適切な方法で解決すれば、利益をあげられる期間が大きく伸びるかもしれません。一方、課題を嫌気して他国に移転すれば、また同じ課題は形を変えて追ってきます。

 焼き畑経営からサツマイモ畑経営へ――。ぜひ、現在進出中のエリアで、共通課題の解決方法を確立してもらえればと思います。

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