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『やる気もある!能力もある!でもどうにもならない職場 閉塞感の正体』の「はじめに」を公開します

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クレイア・コンサルティングの調です。こんにちは。
先週金曜日に当社の新著、『やる気もある!能力もある!でもどうにもならない職場 閉塞感の正体』が出版されましたが、その中から「はじめに」の部分を、東洋経済新報社のご厚意により、以下のとおり公開します。

当社が人や組織の領域において今重要な課題と認識している「閉塞感」について、その問題意識を是非ご理解いただければと思います。


~・~・~・~


 本書のテーマは「職場の閉塞感」である。

 閉塞感という言葉は、個人が抱く「感覚」であるが、その「狭いところに閉じ込められ」「身動きができない」そして「手の打ちようがない」雰囲気は、社会や企業の構造的な問題から発生している。つまり、働く個人としては簡単には対処のしようがなく、不条理感に近いものがあるのだ。職場内での閉塞感が続くと、働く人々は気力を失い、場合によっては精神的に追い詰められて、病に至る場合も出てきてしまう。

 当然ながら、企業としてもこれを放置することはできないので、いろいろと対応策を考えている。閉塞感が発生する原因が社会や企業組織にあるとしても、その影響を受けることで、閉塞感を抱いてしまうのはつねに個人の側である。そのため、企業は元気を失った社員に対して、直接働きかける施策を実行することが多い。具体的には「社員のモチベーション向上」や「個人のキャリア設計」「上司による仕事の教え方」などがあろう。しかし、これらの施策は表面的かつ対症療法的に問題解決しようとしているに過ぎない。閉塞感を発生させている根源的原因を解決しないかぎり、いくら社員を元気づける研修を行っても、結局は元の木阿弥なのだ。

 私が代表を務めるクレイア・コンサルティングでは、2年に1度ビジネスパーソンに対して職場意識のアンケート調査を行っている。最近2回の調査では、閉塞感が生まれる背景や構造を究明することを目的とした設問を組み込んだ。

 そして、2012年6月に行った最新の調査結果では、今の職場で「閉塞感を感じている」ビジネスパーソンは40.2%と、4割以上にのぼることが明らかになった。「閉塞感を感じていない」と回答したのは2割程度であり、多くのビジネスパーソンが職場で閉塞感を抱いている実態が浮かび上がった。そのおよそ2年前、2010年の8月に行った調査において、閉塞感を感じる人の割合が37.1%と4割を切っていたことを考えると、この2年の間に閉塞感が一層深まってきたことがわかる。

 また、この調査では、職場で閉塞感を抱いてしまう理由についても尋ねた。その結果、半数以上のビジネスパーソンが、会社や事業の先行きの不透明感を閉塞感の理由として挙げた。将来の見通しが立たないことが、閉塞的な状況を生みだしているのだ。同様に、半数以上が自ら努力しても給与が上がる見込みがないと回答し、業績についても努力に見合った結果が出ていないとの回答が上位にランクインした。自らの努力が将来どのように報われるのかわからない中、閉塞的な状況は深刻さを増している。

 では、閉塞感を抱いている社員は、完全に意気消沈してしまって、やる気を失っているのかといえば、実はそんなことはない。働く個人の胸の内では、もっと自分の能力を高めていきたい、もっと周囲に貢献できる仕事がしたい、といった、前向きな熱い気持ちが宿っていることもわかったのである。

 これらの結果から私たちが導き出したのは、働く人々は「成長意欲があるにもかかわらず、企業内の構造がそれを阻害しているのではないか」という問題意識である。本書ではこの問題意識に基づき、職場に蔓延する閉塞感と日本企業が抱える構造的な問題点の関係を解明していく。



 第1章では、20代から50代までの幅広い世代のビジネスパーソンが、どのような場面で閉塞感を抱いてしまっているのか、その状況をドラマ仕立てで具体的に描写してみた。主な登場人物は4名。就職氷河期に入社し無心で頑張ってきたもののキャリアの危機に立たされる30代の中堅社員。入社後バブル期を謳歌しつつも事業不振の渦の中でやむを得ず今の仕事を続ける40代の働き盛り世代。終身雇用を約束されながらもそれを自ら反古にする役割を割り当てられて苦悩する50代の管理職。いろいろな理由がありつつもジョブホップ(繰り返しの転職)をし続ける中で知らず知らずのうちに報われない階層に押し込められている20代。4つのケースですべての業界や職種を網羅しているわけではないが、読者が日常仕事をしていく中で感じる息苦しさや恐れなど、自らを重ね合わせられる部分も多いのではないかと思う。

 続く第2章では、第1章で描いた4つのケースをもとに、そこでどのような閉塞感が立ち現われているのか、そして、その閉塞感がどのような要因で生まれているのか、その背景をあぶりだしていく。ビジネスモデルの変遷や事業の不振といったビジネス寄りの閉塞感もあれば、組織の階層という目には見えにくい構造に起因する閉塞感もあるが、ここでは多種多様な要因が相まって、閉塞感が生まれていることを理解していただければと思う。閉塞感とは奥行きの深い概念なのだ。

 第3章では、第1章と第2章で見てきた閉塞的な状況を、構造的・立体的に見ていく。前章までの各個人を取り巻く状況説明から離れて、ここからは閉塞感が生まれるメカニズムを、歴史的な背景や組織のカタチ、人の動きなどに着目して、より大きな絵としてイメージしてもらおうと考えている。具体的には、個人に閉塞感を抱かせてしまう仕組みを「カベ」として表現してみた。このカベは目に見える形ではなく、見えない構造として我々の周囲を取り囲み、閉塞感を生みだしている。さらに、このカベは、閉塞感を発生させる「心理的なカベ」と、その心理的なカベを生みだすもととなっている「構造的なカベ」とで構成されている。これらのカベの正体と発生経緯を分析することで、現在の閉塞感の構造を明らかにできたと思う。

 最後の第4章では、閉塞感を乗り越えていくための、具体的な処方箋を提示する。本文にも書いたが、これだけやればうまくいく、といった特効薬は、残念ながら存在しない。重要なのは、個人、企業、そして社会がそれぞれ他人事ではなく当事者意識をもって今の厳しい環境に立ち向かい、今の構造を理解し活用しながら、一歩一歩閉塞感を乗り越える努力を続けていくことなのだ。閉塞感という行き詰まりを解消していくための、実践的なアドバイス集として使っていただければ幸いである。



 本書の目的は、読者に閉塞感を生む構造とプロセスをよく理解してもらい、職場の閉塞感を乗り越えるための第一歩を踏み出していただくことにある。原因が分からない不透明感ほど、人の心をさいなむものはない。「なぜ自分はこのような追い詰められた心理状況になってしまったのか」と思ったとしても、たいていの場合、そこには個人の責任ではない真の原因があり、そこにはまりこんでしまった道筋が存在するのだ。それを理解するだけでも、不安感は払しょくできるだろう。そしてもう一歩踏み込めば、閉塞感発生のメカニズムを熟知し、それを逆手にとりながら、こちらから攻撃をしかける手立ても見つかるはずだ。

 では早速本題に入っていきたい。扱う題材が閉塞感という内容なので、途中うんざりしてしまう可能性も否定はできない。しかし、何とか最後まで読みとおしていただければ幸いである。背景を理解して構造的に解決を図っていけば、閉塞感を乗り越えることは十分可能なのだから。






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