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人事・組織領域を専門とする、クレイア・コンサルティングの広報・マーケティング担当です。人事・組織・マネジメント関連情報をお伝えします。人事やマネジメントの方々にとって、未来の組織を作り出す一助になれば大変うれしいです。

今の内容で大丈夫? 新入社員教育を正しく行うための4つの指針

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クレイア・コンサルティングの調です。こんにちは。
ビジネス雑誌、Harvard Business ReviewにはブログサイトとしてHBR Blog Networkが設置されており、これまでも多くの記事をそこから紹介しています。ここでは平日に毎日Morning Advantageという記事がアップされています。これはメールマガジンでも無料で購読出来て大変おすすめなのですが、そこで紹介されていた最新の記事が時機に合っており興味深かったのでご紹介。記事はMIT Sloan Management Reviewから。

Reinventing Employee Onboarding
http://sloanreview.mit.edu/article/reinventing-employee-onboarding/
※この記事ではメンバー登録後の本編を参照しています


オンボーディングとはなにか?


このタイトルに入っているonboardingという言葉、活用されている方も多いと思われるアルクの英辞郎(web版)にも実はまだ載っていません。英語圏の人事界、特に採用系では必須のワードではあるのですが。


Onboarding, also known as organizational socialization, refers to the mechanism through which new employees acquire the necessary knowledge, skills, and behaviors to become effective organizational members and insiders.

オンボーディング―あるいは組織社会化としても知られる―は、新しい社員が今後必要となる知識やスキル、行動を獲得することで、組織のメンバーあるいは内部関係者として効果的の機能していくためのメカニズムを指す。

となっています。

OracleがTaleoというタレントマネジメントのソフトウェア会社を買収しましたが、その日本語の製品サイトには、"オンボーディング・プロセス"と記載がありますね(ステマではありません、念のため)。

組織社会化については、このあたりを。神戸大の金井先生も研究されており、よく著書に出てきますね。東大の中原先生も過去に雑誌に寄稿したり、数日前のブログでも「これから数ヶ月間、日本列島は「組織社会化」の渦になります。」と言及されていました。

中原先生の定義をお借りすると、先のリンク順に

1)新人をいかに組織に順応させ、2)組織で必要な知識やスキルを覚えさせつつ、3)いかにして「組織の人にするか」ということ...(中略)...悪く言えば「組織に染める」。中性的な言い方をすれば「組織の人になる」ということ

新規参入者をいかに受け入れ、いかに組織に定着・順応させていくのか。特に一刻も早く「戦力化」をなしとげたい組織にとっては、智慧の働かせどころです。

と書かれており、まぁ、要は、社畜にするその会社の社員として適切な行動が取れるよう、新入社員を迎え入れて研修等を行っていくプロセスになるかと思います。以降はわかりやすい表現として、少々乱暴ではありますが、新入社員教育、と表記していきます。


日本と似たアメリカの新入社員教育


さて、(おそらく対象はアメリカなのですが、)海外においては新卒一括採用自体がマイナーという背景はあるにせよ、新しく社員が入社した際には、日本と同じような導入教育的なものがおこなわれているようです。

The first day on the job at a new organization is commonly structured around introducing employees to the work environment and company culture. In addition to the long list of human resources forms new employees are asked to fill out, they hear about why the organization they have joined is so special.

新しい組織での最初の日には、たいてい社員を職場環境や企業文化を紹介するようなプログラムが設定されている。記入しなければならない人事関連の様々な文書に加えて、新入社員たちはなぜ彼らが入社した組織がとても特別な場所なのかを耳にすることになる。

創業者やバリューや組織にいる意味など、と続いていきますが、ここで重要なのは、どの会社においても

onboarding processes have a common theme: indoctrinating new employees into the organizational culture.

新入社員教育のプロセスには共通のテーマがある。それは新入社員に組織文化を植え付けようとする、ということ。

人事もそのことを当然のものとして受け止め、入社初日から企業価値を体現するよう求めている、としています。

そして究極的には、組織に溶け込ませることによって、

giving leaders some control over what they can expect from newcomers.

新入社員による貢献/価値創出について、リーダーシップ側にある程度のコントロール性を与える

という点において、この新入社員教育がマネジメント側に便利に働いている、と述べています。


現在の新入社員教育の弊害


しかし、このような伝統的な新入社員教育の方法は重大な脆弱性を抱えているのである、と研究者らは述べます。

企業側の意図としては、企業側がその会社独自の教義を教え込むことによって、新入社員は自らの独自性(identity)を脇に引っ込め、企業の期待に沿った動きをする、と仮定しているわけですが、

subordinating one's identity and unique perspectives may not be optimal in the long run for either the organization or the individual employee because suppressing one's identity is upsetting and psychologically depleting.

個人の独自性やユニークな視点を(組織に)従属させてしまうことは長い目でみて組織や社員個々人にとって最善の方法ではない。なぜなら個人の独自性を抑圧することは動揺を与えるものであり、精神を消耗させてしまうのものであるからである。

個人の意欲を高めようと、組織は社員のモチベーション向上を目指して様々な施策をこらしますが、

Socialization practices that get newcomers to behave inauthentically might not be sustainable because they do not fully engage the employee and they do not address broader issues concerning emotional exhaustion and work dissatisfaction.

新入社員が納得していないままに行動をさせてしまうような社会化のプロセスは持続的なものにはなりえない。なぜならこれらのプログラムは社員が没頭できるものではなく、精神疲労や職務への不満足といった大きな課題に対処しないからだ。


ウィプロ社における実験


そこで様々な研究を重ねたうえで、研究者らは2011年に大がかりな実験を行います。

研究対象となったのは、インドのITサービス企業ウィプロの子会社で、コールセンターなどを運営するWipro BPO社。新入社員研修は、我々が日本でもよく目にするような15人~25人チームの集合研修で、最初に会社の概要を学んだ後、2週間のボイストレーニングで英語能力を磨き、その後6週間顧客理解と状況対応の研修を実施。そして6週間のOJTを経て、付帯するいくつかのコースを受けながら、最終的に配属される、というコースだそう。

しかし、この会社はこの研修を実施した成果もむなしく、それまで年間50~70%という高い離職率を抱え、燃え尽き症候群(burn out)を発祥する社員も多くいたそうです。

そこで、研究者らが課題解決の鍵として規定していた社員の独自性を重視するプログラムを一部の受講生に対して実施したところ、特に研修を行う最初の半年において、離職率が32%も減少したそうです。さらに顧客満足度も向上するという副次的効果も見られたとのこと。


新しい新入社員教育のアプローチ


一体どのようなアプローチをこの研究者たちはとったのか?

The approach, which we call "personal-identity socialization," involves encouraging newcomers to express their unique perspectives and strengths on the job from the very beginning and inviting them to frame their work as a platform for doing what they do best.

我々が「個人アイデンティティの社会化」と呼ぶこのアプローチは、新入社員たちに彼らのユニークな側面や強みを最初の日から仕事において発揮することを推奨するもので、彼らの仕事を自身がベストを尽くすためのプラットフォームとして形作るよう誘い入れるものだ。

つまり、個人の強みや視点を最大限に活用することが出来るように、組織の文化や環境を絶対的なものではなく個人が活躍する上での「場=プラットフォーム」と位置付けて相対化し、個人がその場をうまく活用するように支援するものであったようです。

簡単な例として、元々社交的なコックであればホールに出てお客様と接するようにしたり、芸術的センスのあるコンサルタントであればデザインテンプレートの制作にアサインしたり、といったことが書かれていますが、重要なのは、これを勤務初日(day one)からさせる、ということでしょう。普通ならコックは調理場に縛りつけますし、コンサルタントがデザインテンプレートを制作するのはかなり後になってからになるでしょう。

しかし、いきなりこれを初日から単独でやらせるのは無理な相談です。でも、

Naturally, newcomers can't act unilaterally ? they need to coordinate their activities with their managers. But, as we saw in our field research at Wipro BPO, ... managers often are happy to leverage the additional energy and value that newcomers are willing to contribute, in most cases over and above their required duties.

通常、新入社員は一方的に行動に移すことは出来ない。彼らはマネージャーの元で行動を調整してもらう必要がある。しかしウィプロBPOでのフィールド調査で我々が目の当たりにしたように、マネージャーはたいてい喜んで力を貸してくれるし、新入社員が貢献しようとすることについて高い評価を置いてくれる。そして多くの場合、それらは彼らがやるべき責任範囲を大きく超えるものなのだ。

うまく上司を巻き込んでいけば何とかなりそう。


新入社員教育を正しく行うための4つの指針


研究者たちは以下の4点が、新入社員教育を正しく(right)行うための指針となると述べています。

1. Break out of the traditional employment trap. / 伝統的な雇用の罠から抜け出す

端的にいえば、「仕事なんだから、いいからやれ」とは言わない。組織は人で成り立っていること、人は強みを発揮したいと願っていることを常に念頭に置く、ということ。

2. Help newcomers identify their authentic strengths. / 新入社員がもつ強みを一緒に明らかにしていく

業務に入らせる前に、まず自身の強みを気づかせて知らしめる。人材アセスメントを採用選考で使ったり、リーダー選抜/育成などで使用するケースはよくありますが、新入社員の時点で個々の強みを気づかせてきちんと伝えていくプログラムを実施している企業は、日本でも数少ないように思います。

3. Facilitate introductions to other organizational members. / 組織の他のメンバーも新入社員と関わらせる

新入社員の強みを他の社員にも知ってもらい、それを組織として活かしていく仕組みを構築していく。

4. Ask newcomers to consider how their authentic strengths can be applied to the job. / 新入社員に自身の強みがどのように仕事に応用できるかを考えさせる

先ほどプラットフォームという表現がありましたが、組織や仕事というプラットフォームに、どのように自身の強みを活かしていくか、これを新入社員個々人に考えさせるプロセスを経ることが重要です。

詳細は是非原文をお読みください。ウィプロ社での例も載っています。


主役は社員。組織はそれを活かす環境。


話はかわりますが、特にマーケティングの最近の傾向として、企業が自身の価値をがなり立てるのではなく、顧客にとって自社がどのように役に立つのか、気づいてもらえるように備える、準備する、ということが一般的になってきたと感じています。

今回の新入社員教育に対する企業のスタンスも同様で、先に今回の記事を紹介していたHBR Blog Networkにおいては、この記事の副題として

IT'S NOT ALL ABOUT YOU

あなたのことを全て伝えればいいってもんじゃない

というタイトルがつけられていました。

マーケティングで本当に考えるべき対象が自社の商品ではなく顧客であるのと同様、付加価値創出の源泉は、組織の都合ではなく新しく入ってくる社員一人ひとりです。自社のことではなく新入社員のことを第一に考え、新入社員にどういう便益(benefit)を与えればそれが組織の力となるのか、それをどのような仕組みで実現していくのか、を考えていくことが、人事にとって重要なのだと思います。

新入社員教育は、たいてい前年を踏襲するケースが多いと思います。すでに新入社員研修を実施されているところも多く、時機が合った、というよりは、時すでに遅し、なのかもしれませんが、もし自身が何らかの研修を担当されるようであれば、うまく個々人の強みを引き出すような工夫を入れてみてもいいかもしれません。

お読みいただきありがとうございます。新入社員のみなさん、頑張ってください!

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