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ライフスタイル雇用―終身雇用と似て非なる、新たな長期雇用のトレンド

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クレイア・コンサルティングの調です。こんにちは。
終身雇用の終焉がかまびすしい日本の雇用情勢ですが、本日は先進的なIT企業を中心に出てきている、長期雇用を目指した新たな雇用形態に関するTLNTの記事を取り上げます。

Lifestyle Employment: For Millennials, It May be the New Career Prototype
ライフスタイル雇用: ミレニアム世代にとっての新たなキャリアの枠組

ぱっとタイトルを見ると、"Lifetime Employment"(終身雇用)か?と見間違えそうになりますが。

Remember back in the 1950's when people had employment for life?

1950年代、人々が終身雇用を享受していた時代を覚えているだろうか?

という呼びかけで始まっていますが、アメリカでも依然はGMやコダックなど大企業を中心に、終身雇用的な雇用慣習が一般的でした。また終身雇用でなくてもキャリア(職種)は1つだけというケースが大半でした。しかし、著者のAnne Fulton氏は続けます。

Now we've been promised 5-7 careers in our lifetime, but is that really what our Millenials (those entering the workforce now) can expect from their employers?

今や我々は人生において5から7の職種を経験する。しかしこれが今や労働力として数えられようとしているミレニアム世代が企業から与えられると期待しているものなのだろうか?


新たな終身雇用の幕開け


著者の問題意識は、今やミレニアム世代が直面している雇用環境が、これまでの産業人が所与としていたものとは異なるのではないか?というものです。曰く、

This generation is witnessing a major shift in employment dynamics, and the educated among them may have a radically different experience to previous generations.

この(ミレニアム)世代は雇用のダイナミクスにおいて大きなシフトを目の当たりにしており、特に充分な教育を受けたものにとっては、前の世代が経験したものとは全く異なる経験を得ることになるだろう。

ではその雇用のダイナミクスとは何か?

This generation, who increasingly will be Knowledge or Service Workers, may witness the return of the lifetime employer, particularly with the organizations that have clued on to what I call the "new lifestyle employment proposition."

ナレッジワーカー(知識労働者)もしくはサービス従事者となる可能性が高いこの世代は、終身雇用組織の再来を見ることになるだろう。この傾向は私が言うところの「新たなライフスタイル雇用の提案」を行う組織において顕著に見られるはずだ。

ライフタイム(終身)ではない、ライフスタイル雇用を推進する企業では、結果的に終身雇用的な雇用形態が生まれてくる、との主張ですが、この背景には、

employers are increasingly focused on talent retention.

企業は優秀な人材の引き留めに、よりフォーカスするようになってきた。

という事情があります。厳しい経済環境の中、世界的に優秀人材(talent)の不足が続いており、かつ働く場所の流動性も高まっています。

しかし、ただ社員を引き留める、というのが、これらの企業の行っていることではない、と著者は主張します。

However, this seems to be a somewhat myopic reaction of trying to retain critical talent or high potentials, while the truly innovative organizations of our times are creating "lifestyle" or even lifetime employee models.

(人材の引き留めという)この動きは希少価値の高い優秀人材や、潜在能力の高い人材を引き留めようとするにはいささか近視眼的なリアクションではあるが、現代の本当に先進的な組織では、「ライフスタイル雇用」の、さらにはライフタイム(終身)雇用のモデルを作り出そうとしている。


ワークとライフの境界があいまいに


日本においてもワークライフバランスを進めていこうという機運が次第に盛り上がってきていますが、ワーク(仕事)とライフ(仕事以外の生活、人生、プライベート)はバランスさせるべきものではない、ワークライフインテグレーション(統合)だ、といった意見もよく聞かれます。
このような中、先進的な組織ではワークとライフをどのように考えているのか?

Organizations such as Facebook and Google are creating workplaces where work and life are so blurred that you can work day and night (or whenever you feel like it) but with every lifestyle need being catered...

FacebookやGoogleといった組織では、ワークとライフとの区別が完全に曖昧(blur)になり、仕事を昼夜問わず(もしくはあなたのお好みに合わせて)することができる一方、ライフスタイル上のニーズが全てケータリングされるような職場を生み出している。

この「ケータリング」の中には、ローラーホッケーやスキー休暇、ゲームへの24時間のアクセスといった娯楽や、医者やマッサージ、無料の食事など、衣食住をはじめとするあらゆる生活面のサポートが含まれています。

All together, it results in every life need being catered for, ...meaning that your work can be your life.

これら全てが組み合わさって、全ての生活上のニーズはケータリングされることになり、ワークがライフそのものになることを意味する。

これは面白い指摘です。仕事が人生そのものになる。高度経済成長期の日本を彷彿とさせるフレーズですが、でもちょっとニュアンスが違うのは、これまで働く上でいろいろと犠牲にしがちだったプライベートの諸々の事項について、企業側がいろいろとケータリング形式でサポートしてくれるので、会社にいながらにして普通に生活もしていける(極論を言えば会社を全く離れずに生活出来る!)、というワークスタイルが確立されているからのようです。昨今福利厚生の充実を唱える企業が増えていますが、その真の意図はライフスタイル雇用にあった、と。このことへは賛否両論あるでしょうが、FacebookやGoogleといった企業で最先端のワクワクするような仕事をしながらプライベートも確保されているとすると、有能な人材が結果的に引き留められてしまうのもわからないでもないですね。

もちろん、労働基準法等の労働関連法規に準拠する、という前提が日本にはありますから、単純にこの仕組みを日本にそのまま持ってくるのは難しいのですが。


ライフスタイル雇用を作る条件


さらに、これらの会社では、キャリアのカスタマイズもより柔軟になっているようで、

customised career propositions are presented to each employee designed to retain talent over a lifetime, allowing plenty of flex and stretch over the lifetime to provide ongoing challenge and opportunity ensuring the retention of that employee over their lifetime.

終身的に優秀人材を引き留めるために、個別に最適化(カスタマイズ)されたキャリアの形成を個々の社員に提示するようデザインされており、その社員が終身雇用してくれるよう、柔軟で変更が容易に可能な雇用体系を許容することで、挑戦的な仕事や機会を提供できるようにしている。

しかし、普通の会社の現状はというと、

the majority of organizations are still myopically focused on compliance based practices, restructuring, and redundancies as short term strategies to improve profitability and productivity.

大多数の組織はいまだに、収益性と生産性の向上を目的とした短期的な戦略において、コンプライアンスに根差したオペレーション、リストラクチャリング、冗長性の確保といった近視眼的なフォーカスをしてしまっている。

という状態で立ちつくしている、と著者は語ります。

ではどうすればよいのか。

この新しいライフスタイル雇用を成功に導くための要因が最後に4つあげられています。

  • Performance focused on productivity 生産性にフォーカスしたパフォーマンス

新たなパフォーマンス指標は、生産性に基づくものですが、ここで基盤となるのがoutput(成果)とtrust(信頼性)だそう。trustが出てくるところが興味深いですね。深い論考が欲しいところです。

  • Blurring of work and life ワークとライフの境を曖昧に

仕事においても社会的なつながり(social connection)を定期的提供することが肝で、さらにその範囲は現実(real)とオンラインの世界(online worlds)の両方をカバーしている必要がある、と。

  • Leveraging social media to support connectivity つながりを支援するためにソーシャルメディアを活用

ミレニアム世代とその前の世代とでは働き方や考え方が異なるということを前提に、働くことをとにかく楽しめるよう、ソーシャルメディアを活用することが必須とのこと。

we need to now switch our expectations for workplace behavior from compliance and attendance to productivity, creativity and performance.

我々は職場での行動に対する期待を変える(switch)する必要がある。コンプライアンスや出社の重視から、生産性や創造性、パフォーマンスへの重視という形で。

その結果、GoogleやFacebookで働いている人は、昼も夜も働いている、と。

  • And most importantly, individualize the career proposition そして最も重要なこととして、キャリア形成を個人ごとに考えること

この前提として、

understand what is going to light the fire of each and every contributor and then look at what you need to do to enable that contribution.

それぞれ全ての貢献者(=社員)がどうすれば(やる気に)火がつくのかを理解し、その貢献がどうすれば実現するかを探し出す必要がある。

このような姿勢が必要になり、そのために個々人の才能やモチベーションの源泉、価値観やキャリア・ライフスタイルに対する期待を把握する必要がある、とのこと。運用側もかなり大変ですね。

GoogleやFacebookといった、業績のいい会社(Facebookについては懸念する声もありますが)で今後の先行きがある程度楽観視できる会社だからこそ出来ている、という批判もあるでしょうが、優秀な社員をつなぎとめるため、ライフスタイル雇用という新しい枠組を念頭に福利厚生を充実させている動きは、世界中での事業展開を行っている日本企業にとっても、興味深いベンチマークとなるのではないでしょうか。もちろんそうでない会社においても、組織の構成員それぞれのことをよく知り、その強みを最大限に生かしていくマネジメントが必要になることは言うまでもありません。

お読みいただきありがとうございます。

~

社員個人の能力を本人・会社が把握する、という目的においては、人材アセスメントが潜在能力を含めて測定できる点でお勧めです。

・人材アセスメント

前回のエントリで書きましたように、事例を更新しています。まずはPEファンドが主導する組織統合・事業再編を紹介しています。特にファンドによる関与の有無を問わず、組織統合や事業再編において、人事的側面でどのようなことを行い、何に気をつけていくべきか、参考になるかと思います。どうぞご覧ください。

・組織再編に伴う人事制度改革


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