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天橋立を望む街で体験した「ビジネスマン人生最大の驚き」

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皆さんは、ビジネスマン人生の中で「一番驚いた事」を覚えていますか?僕の敬愛する「革新的ソフトウェア企業の作り方」の著者エリック・シンクは、経営する会社がInk.500 awardに選ばれた時のインタビューで「起業家として最も驚いた事」について聞かれて、こう答えました。

「沢山の失敗をしたのに、結局Ink.500に選ばれるようになった事に、いちばん驚いている」

さすが。ユーモアがあって知的な回答です。

僕が体験した「驚いたこと」はこのような知的さを感じられる名言でなく単なる体験談ですが、本当にびっくりした出来事だったので、知的でなくても許されるでしょう。それはもう7年ほど前。本社から1時間ほどの所にある宮津市のお客さんの所に、仕事の打ち合わせに行ったときことです。

宮津市は舞鶴市よりも更に北西、天橋立のある気持ちの良い海沿いの街。お客さんの会社は海からは少し離れていますが海に流れ込む河の近くにあって、よく晴れたその日は会社に入る前に、少し潮の香りのする外の空気を楽しむ事ができました。

天橋立天橋立 / qrncm138

案件のヒアリングのために、10人掛け程の大きなテーブルのある会議室に通してもらって、同僚とお客さんの3人で新しいシステムの仕様について細かいヒアリングを行いました。そうして約1時間程過ぎた頃でしょうか。

僕は真剣に打ち合わせをしていたのですが、途中からお客さんの背後、会議室の向かいの床の壁際のところで何かが動いているのが気になり始めました。

会話の隙を狙ってチラッと視線を移すと、そこには500円玉程の大きさのカニが手持ち無沙汰な感じでハサミをゆっくりと振っている姿が・・・。

僕はあまりの意外さに思考が停止してしまい、驚くタイミングを逃しました。僕も田舎に本社を持つビジネスマンですから、会議室にムカデやトカゲが出たところでそう驚きはしません。しかしカニ。カニ!これが風呂場や洗面所だったら海の近くだけになんとなく納得出来るのですが、会議室みたいな全く水回りと関係ない所に入ってくるか?どこから?どうやって?

その間も同僚とお客さんは真剣な顔で仕様について議論しています。僕はツッコミどころを逃したので、打ち合わせを真剣にこなすフリをしつつ、視界の隅で動くカニを追いかけるというマルチタスクを脳みそフル回転で行う事にしました。

それにしてもカニというのは本当に横にしか歩かないもので、カニは途中で止まったりハサミを降ったりしながらも、会議室の隅をただひたすら真剣に横移動していきます。最初はびっくりするばかりだった僕も、その真剣な様子を見ているとだんだん可笑しくなってきたので、しかたなく必要以上に真面目な顔をしておくことにしました。

そうしてついにカニは左端の壁にたどり着きました。そこからどうなるのか、ついに方向を変えるのか?と見ていると、カニはハサミを前になにやら少し思い悩んでいるようでしたが、壁と地面の隙間に後ずさるように入ったと思うと、そのままスーッと姿を消してしまいました。

消えたー!!

意外な結末に僕は爆笑を堪えるのに必死になり、下を向いて真剣にノートを取るフリをしました。こんな状況にも関わらず真剣な打ち合わせは続いています。壁にカニが消えたのに、こんな真面目な話を・・・と思うと更に笑えるので、とりあえずあまりカニにも打ち合わせにも関係の無いことを考えるように努めてなんとかその場を乗り切りました。正直、打ち合わせの内容はあまり覚えてません。もう7年位前の話だから時効にしてもらいましょう。

結局全てのタイミングを逃した僕は、カニの事は言い出せずに会議室を後にしました。今になってみれば、その会議室にカニが出るのが普通なのかだけは聞いておけばよかったと思います。

スッゴクちっちゃなカニです。スッゴクちっちゃなカニです。 / suneko

帰りに会社の外に出ると、なるほど社屋の横手は船が繋留されているような河口になっています。カニにとっては石垣の隙間から会議室に通ずる道も、慣れ親しんだ通り道なのかも知れません。

美しい河口の石垣の隙間に会議室のカニがいないかどうか、しばし探してみましたが、同じようなカニがものすごくたくさんいたので、もう諦めました。

僕がビジネスマン人生で一番驚いた事は「会議室にカニが現れ、消えた事」です。僕に知的なユーモアのセンスが身についたとしても、こればかりは譲れない、忘れられない体験なのです。


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