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ある時はコンピュータの製品企画担当者、またある時は?

たまには古い技術を振り返る話

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どこを向いても2009年を総括する、といった風情のニュースが多くなってきたようだ。IT系のニュース・サイトも例外ではない。今年もTwitterだのiPhoneだの賑やかで、IT業界に身を置く立場からすると、こっちが担当するのはビジネス用サーバーだから、あっちの事は知りませんとはなかなか言えないのである。面白そうなもの・そうでないものと雑多だが、どんなものくらいかは一通りの知識を仕入れておかなければならないし、どこかで結びついたりしないとも限らないのである。1990年代半ば過ぎのインターネットもそうだったような気がする。もちろん登場する新技術の全てが生き残るわけではないし、市場に広まる前に消えてしまうものもあるだろう。マーケティングの言葉で言うと、キャズム(Chasm)を超えられなかったというわけだ。が、中には世代交代によって第一線を退く技術もあるだろう。そう言えばPROM(Programmable Read Only Memory)なんてメモリがあったな、と先日このカラムでPOWER7のテクノロジーについて書いているうちにふと思い出した。

不揮発性、要するに電源を落としても内容が消えてなくならないメモリだと思えばよい。今で言うとSSD(Solid State Drive)がそれに匹敵するのかもしれないが、僕が学生時代にアルバイトでプログラマーをやっていた時分には、もちろんそんなものはまだ存在していない。当時取り組んでいたのは、マザーボード一枚にいくつかの部品とLEDとが搭載されているだけの組み込み型コンピュータで、ちょっとしたプログラムを開発することだった。OSなんてものはなくて、申し訳程度のソースコード付きのモニター・プログラムがボードに付属していた程度のものだ。幸いにもメモリ用にソケットが空いていたので、そこにプログラムを書き込んだPROMを差し込んでやれば、うまくすると期待どおりに動作するという寸法だ。もちろん補助記憶装置と言われるタイプのデバイス類は一切ない。

PROM書き込みには専用のライター(10万円以上もする結構高価なもの)があったのだが、相手は単なるメモリだから、コンパイル済みコードすなわち16進数を、電卓のようなキーボードから1バイトずつ書き込むと言う地道な作業を強いられる。デバッグを繰り返すなど、書き込み作業を一回で終えるなんてことはまずあり得ないので、データ消去も行なわなければならない。さて消去可能なPROMにはその方法によって種類があって、EEPROM(Electrically Erasable PROM)とかUV-EPROM(紫外線:Ultra-Violet Erasable PROM)がその代表例だろう。EEPROMは電気的に消去するのであまり面白みはないのだが、UV-EPROMは文字通り紫外線を利用する。メモリ・チップ中央部に「窓」があってそこに紫外線を照射すればよいのである。理屈上は太陽光でも良いのだろうが、さっさと記録済みデータを忘れてももらうには、殺菌灯を使うと良い。ところが紫外線は目や皮膚など人体に悪影響を与えるので、机の引き出しの中あたりにでもUV-EPROM諸共放り込んで、電源スイッチを入れてしばし休憩すれば良いというわけだ。そして無事に書き込みを終えてPROMの用意ができると、いよいよソケットに差し込んでテストの実施である。ここでうっかり向きを間違えでもしたら、一瞬にしてPROMはお亡くなりになってしまう。瞬間だったから大丈夫かなと正しい向きに差し込んでも手遅れである。僕は自分の不注意で、こうして何度かPROMを「飛ばして」しまったのである。

こうして読み返してみると、EPROMは使い勝手の悪い古ぼけたテクノロジーのようにも感じるし、今となっては個人が直接触れる事はまずないだろう。しかしながらかつてこういったものから僕はテクノロジーを体験したのも事実なのである。

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