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記者としての取材や編集者としての仕事の中から浮かんだふとした疑問やトピックをご紹介。裁判や企業法務、雑誌・書籍を中心としたこれからのメディアを主なテーマに、一歩引いた視点から考えてみたいのですが、まあ、精密でない頭の中をそのままお見せします。

「生き残るための」文章の書き方 ⑤『女子高生は銀行員になり、「奇跡の窓口」を作っていた』

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高校2年生の時に私と出会ってから10年。いま、彼女はある銀行の基幹支店で窓口業務に就いている。

彼女の窓口は不思議だ。
ご存じのように、銀行を訪れた客は、ふつう整理券発行機から整理券を取って、順番が来たら呼ばれた窓口に行く。当然、窓口担当者はランダムに当たる。
しかし彼女の窓口は違う。
「手続きに来て『○○さんお願いします』っていうことは無理ですか?」
客が次々と彼女を指名するのだ。
つまり銀行の窓口で、お客が感動している。「だから次も」ということになる。
いったい何が起きているのか。

■まずは、ありきたりの結論にたどりつく
たまたま彼女が東京に来た機会をとらえて、徹底的に聞いてみることにした。
いろいろな実例を挙げてもらうと、彼女がお客から人気を得ているのは、

・客のニーズをとらえ、よく理解して行動している。

ということに尽きている。たしかにそれは、サービスの王道である。

客の心をつかむ最初のきっかけは、イレギュラーな事態の対応からというのが目立つようだ。書類不備、印鑑が合わない......そのときの彼女の対応はたしかに群を抜いているように見える。
トラブルに苛立った気むずかしい客から、最後には「銀行を5つ回ったけれど、きみの応対が最高や」という評価を得ている。クレームを高評価に逆転させた好例である。

・お客の身になって、解決方法をいろいろ考える。
・それを、お客が理解できるように、ていねいに説明している。

つまり、客はイレギュラーな事態を処理してもらっているだけではなく、「いま、自分はどんなことをしてもらっているのか」ということがよくわかるようになっているのである。たしかに客は納得し、安心することができる。

■定型的な仕事で、なぜ「奇跡の窓口」が作れるのか
しかし、それだけなのだろうか。
彼女の人気は、「伝説のホテルマン」さながらである。
私はかつて、関西有力ホテルの総支配人を経験した伝説のホテルマンを著者に、「ホスピタリティをコーチングする」単行本の準備をしていたので、彼の話を聞いたり、「顧客が"伝説"として語り継ぐサービス」、そして「サービスの本質」とは何なのかを分析していたことがある(残念ながら、その方はガンで亡くなられてしまい、本作りは頓挫した)。

ホテルマンのサービスは、ホテルという、客にとっての「非日常空間」で行われるため、もともと客の気分は高揚している。そして伝説の多くはイレギュラーな事態での「判断と仕切り」なので、ホテルマンが主導権をとっている場面が多く、ある意味で客の意識が操作されやすい状況だといえる。だから、よいサービスは目立ちやすい。
しかし銀行窓口は違う。ホテルのような華やかな舞台装置はないし、映画館のように、真っ暗なところに人をぎゅう詰めにして集団催眠に似た効果を起こして感動させる仕掛けもない。しかも業務自体は定型的なものだ。

そしてお客は、日常の中のひとつとして、銀行に平常心でやってくる。
では、どうして客は感動し、彼女の座る窓口に集まるのだろうか?
彼女のサービスのポイントを、さらに掘り下げて聞いてみよう。(つづく)
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