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テレビのデジタル化がドライビングフォースとなり、全ての情報メディアが一旦、収縮する時代の羅針盤

ツイッター上の日本企業に他人事ではないFBの方針転換とソーシャルゲームのZyngaのリスク管理

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 -FBとはフェースブックの略称です―

(儲からないSNSからの撤退など事業の整理を始めたZynga)

Taggedyoville

<出所: テックククランチ>

 

<フェースブックが全面導入する統一仮想通貨クレジットの意味>

 

 テッククランチ以外のブログはあまり取上げていない(特にインサイドフェースブックやALLFACEBOOK,が全く取上げていない)ので、今回の実態はZyngaなど既存の大手企業全般に及ぶ問題なのかとも思いますが、米国最大のSNSであるフェースブックとソーシャルゲームトップ企業且つフェースブックアプリケーション最大のZyngaの間には決済用の通貨を巡る対立があると言われています。

 

尚、Zynga2009年には約270百万ドル(約250億円)の売り上げを上げたと見込まれています。2010年度は500億ドル位は予想されていましたがどうなりますか。いずれにしてもフェースブックアプリケーションのトップ企業であり、ソーシャルゲームの産業を創世した企業です。

 

 ZyngaFacebookとの戦争で大砲Zynga Liveを布陣–30%の冥加金からも解放か

http://jp.techcrunch.com/archives/20100507zynga-gunning-up-and-lawyering-up-for-war-against-facebook-with-zynga-live/

 

★★ Zynga Gunning Up (And Lawyering Up) For War Against Facebook With Zynga Live

http://techcrunch.com/2010/05/07/zynga-gunning-up-and-lawyering-up-for-war-against-facebook-with-zynga-live/

 

★★ Zynga’s Struggle For Independence: Bailing On Tagged, ZLive To Launch Soon?

http://techcrunch.com/2010/05/08/zyngas-struggle-for-independence-bailing-on-tagged-zlive-to-launch-soon/

 

過去の経緯は別としても事の発端はフェースブックが(恐らくは一部参加者からのリクエストもあり)仮想商品や仮想ギフトの為の決済用の統一仮想通貨として自社のもつ「Credit」を適用すると言い出した為です。そしてフェースブック内にブランドコミュニティを多数持つ企業が顧客の加入などの目的で「Credit」を顧客に提供したり、販売に対するセールスポイントの提供で「Credit」を顧客に提供することを勧めています。

 

確かにフェ-スブックにおいて約2億人が参加するソーシャルゲームに於いて各社ばらばらの決済用仮想通貨を提供することは参加者の利便性を考えるならば、フェースブックの開発会議であるF8で丁寧に説明されている通り、正しい選択であり正しい方向だと思われます。欧州の各国がユーロと言う統一通貨を作って、ビジネス参加者にはとても便利になり、域内の経済が活性化した事例と同じだと言うわかりやすい説明です。

 

また決済用仮想通貨のテストにはZyngaも参加しています。

問題は統一決済通貨が3割の諸場代を決済金額から自動的に差し引くと言う点にあります。これはあまり稼ぎの上がっていない企業や全く新規にソーシャルゲームに参入する企業にとっては、決済機構や決済の為の仮想通貨の仕組みを必要しないため、開発、運営維持コストの削減となり便利な機能です。また3割の諸場代は常識的であり、あまり気にならないと考えられます。一方Zyngaのような既に大もうけをしている企業にとっては、実質売り上げの3割減につながり、巨大な金額をフェースブックに支払うことになる為、見過ごせない問題でしょう。これまで無料だったのに突然、「積荷の3割の高速料金代をよこせ」と言われたようなものですから。


 但し強制的に統一決済仮想通貨の使用を各フェースブックアプリケーション企業に押し付けると言う内容にはなっていません。但し、統一決済仮想通貨は確実に各ソーシャルゲーム企業の持つ独自の決済機構や独自の仮想通貨(GREEのゴールドなどを想起下さい。)と競合し、恐らくは短期間でフェースブック全体のエコ環境においては支配的な決済通貨となるでしょう。


 これまでソーシャルゲーム企業は自由に独自の仮想通貨や決済機構をもって仮想商品や仮想ギフトの販売で稼ぎ(マイクロ取引、アップ経済)、その2割程度のお金をフェースブックに広告料の形態でキックバックしていました。それを一般企業が真似てフェースブックは黒字になりました。ソーシャルゲーム企業とフェースブックの仲は多少の揉め事はあってもとてもよかった訳です。


 まあZyngaなどのソーシャルゲーム企業群もステルスマーケティングに近い倫理問題を起したり、参加者からスパムのような通知はやめてくれとのクレームがフェースブックに山のように来たり、かなりやりすぎました。そしてスパム通知の規制などフェースブックが規制に入った第二段が統一決済用仮想通貨Creditの使用でした。



 

この事例は日本企業にとっても非常に参考になる例です。何故ならミクシィアプリケーションにおいてもミクシィが戦略を変更する都度、同じことが起こる可能性があるからです。また既にツイッターにおいてもスマートフォン用の標準アプリをツイッターが提供し始めたため、フランスのアップス開発企業などが怒っています。将来、ツイッターアプリケーションが充実すれば、日本企業も同様な事態に巻き込まれる可能性が高まります。

 

 

<重要なリスク管理の視点>

 

 さてZyngaのようなクラウド(巨大なネットコミュニティ)の付随アプリケーションの立場の企業にとって、これはリスク管理の問題だと考えられます。

 

プラットフォーム企業の戦略変更にはその上に乗っかる企業にとって大きなリスクがある点、そしてそのリスクは各社の置かれた立場によって異なり、一律ではない点に注意しましょう。

 

同じような事例はIT業界には昔からありました。

筆者はあれだけ「アプリケーションは顧客企業が自社で作れ!!」と冷たい対応をしていたIBMが、1990年代に入って突然、システム開発やコンサルティングの分野に本格進出し、それまでIBMの大型機に乗っかって儲けていたサードパーティのソフト企業群の怒りを買ったのを昨日のように覚えています。

 

最近では仮想空間のセカンドライフが市場の自由は第三者に任せると言う基本姿勢を変更して自ら仮想の土地取引(マイクロ取引の一種)に出たため、2010年になって日本人町のトップ企業Magslが怒って実質撤退(事業縮小)を表明しました。ツィッターもスマートフォンの標準接続ソフトをツィッターが出した為、20104月の開発会議Chirpでフランス企業が怒りました。

 

★★ セカンドライフ事業縮小のお知らせ

http://magsl.net/archives/2010/03/31083221.php

 

 過去、自動車産業や電機産業など伝統的な日本の系列取引下の部品工業は親メーカーの方針の変更により大変な苦労を重ねて来ました。しかしこれは系列企業全体が儲かっている時代の話でした。親会社の作るバリューチェーンに一極集中して乗っかるのが部品メーカーの生きる道だった訳ですね。

 

Zyngaの事例に学ぶリスク管理の重要性>

さて寄って立つエコ環境が変わった時に備えて各企業はどのように振舞うべきかは、マーケティングの問題ではありません。寧ろリスク管理の視点が重要です。

 

リスク管理の視点には色々ありますが、筆者は昔の国際決済銀行の基準(BIS基準)を活用して考えています。(なにもこれにこだわる理由は特にありませんが)

BIS基準は主なリスクを以下のように分類していました。


1、決済リスク   (売掛金の焦げ付きなどのリスク)

2、ポジションリスク (株など持っている資産価値の減価リスク)

3、集中リスク   (一社の取引先だけで90%の売り上げだとその企業が倒産すると連鎖倒産するようなリスク)

4、プロセスリスク (受注からデリバリーまでのビジネスプロセスの品質リスク

           山の手線の事故などがこれですね)

5、テクノロジーリスク (東証でおきたようなIT事故)


 

さて今回クラウド(巨大なネットコミュニティ)の付随アプリケーションの立場の企業のZyngaが直面したリスクは、明らかに集中リスク(コンセントレーションリスク)です。

 

ではZyngaはニコニコ動画のような独自のコミュニティを持てばよいのでしょうか?ツイッターに参加している日本企業はツイッターの心変わりのリスクを回避する為にはツイッターなんか止めて独自の自社コミュニティを持てば問題は解決するのでしょうか?


それなら「フェースブックやツイッターと言う人に頼るな!!」と言う方針が正しいことになります。では何故コカコーラやペプシコーラが独自のコミュニティよりもフェースブックやツイッターなどのクラウドを重視する戦略を取っているのでしょうか。国内に800万人の独自コミュニティ「コカコーラパーク」を持つコカコーラは清涼飲料水であるお茶のマーケティングにミクシィのサン牧を活用しました。これは本国の方針を尊重したからです。クラウドを活用するのは、大手のソーシャルメディア企業が作る巨大なネットコミュニティであるプラットフォームカンパニーを無視できない時代だからです。

 

Zyngaが直面したようなリスク問題を回避するには、独自コミュニティも含めて寄って立つクラウド(巨大なネットコミュニティ)を分散するしかありません。筆者は6月に発行予定している「USTREAMと超テレビの時代」の中でUSTREAMが何故5本の足(寄って立つクラウドとしてのフェースブック、ツイッター、AIM、マイスペース)を持っており、日本のUSTREAMもツイッター一本足打法から離れて、複数の足を持つ必要性を述べました。この書籍の中ではオープンパブリックな公共圏をツイッターに絞る日本のUSTREAMの問題点を「ツイッターだけに頼る閉鎖性」と述べましたが、更に記述を追加すればUSTREAM本社はリスク管理の視点を意識していると考えられます。

 

Zyngaはフェースブックを無視できません。そしてフェースブックから離脱するつもりも全くありません。寧ろ時代の流れとして統一仮想通貨は受け入れる方向でしょう。しかし集中リスクの重大性を心の芯まで認識したZyngaは日本のソフトバンクと提携するなどリスクの分散に動き出しました。面白いですね。嘗てトライブと言うSNSを立ち上げたZyngaのCEOであるピンカス氏のお手並み拝見です。

 

そして日本企業もツイッターだけに頼らずミクシィなニコニコ動画など複数のクラウドの上に足を持ち、それらを組み合わせるマーケティングがリスク管理上も望まれます。

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