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海外で注目されているブロックチェーン企業の創設者と独占インタビュー

ワリマイ創設者INTERVIEW:実はブロックチェーンを活用している小売である

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ブロックチェーンというと、それ自体が主役で何か巨大なものをイメージする人が多いだろう。実はそういったプロジェクトもあれば、ブロックチェーンをサービスの一部にだけ活用しているプロジェクトもある。

理由は、ある別のプロジェクトのCEOが言っていたのだが、「ブロックチェーンは特定のことを成し遂げるには非常に便利だが、用途が極めて限られている」からだ。ブロックチェーンはすべてを解決する万能薬ではないし、ゴールでもない。それを理解して上手く活用する企業こそ、これからの競争に勝つと信じている。

ワリマイはまさにそういう会社だ。創設者の二人は、あくまで自社を小売と位置付けており、商品のホンモノ保証とその際のポイント発行のためだけにブロックチェーンを使っているため、ユーザーとしても、パートナー企業としても、ブロックチェーンの存在には気づかないだろう。

今回はそのようなビジネスモデルに至った経緯についてご紹介する。

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Q:現状のビジネスモデルはどのように出来上がったのですか?

アレックス氏:「この質問には二つの側面から回答します。一つ目は、どのビジネスモデルなら成立すると思ったのかとなぜか。そして二つ目は、どちらかというと仮想通貨の経済性と、ブロックチェーン上でトークンがどのように使われるのか。」

「一つ目については、最大の価値は消費者にあると考えています。大手か、消費者と向き合っている会社でないかぎり、大きな問題を本当に解決することはできません。なぜなら、あるメーカーか複数のメーカーにソリューションを提供しようとするとき、大体、各社他とはまったく異なる要求をしてくるし、どこもコストを最小限に抑えようとしている中でソリューションをコストセンターとしてしか見ていないので、"あなたは弊社のパッケージ費用を5%上げる。これは大きい"。などといったことを言われるのです。したがって、そういったソリューションは良く見られません。それに対して消費者の場合は、先ほどお伝えしたとおり、"自分の赤ちゃんのために20%なんてどうでもいい。もちろん買います"。と言ってくれるのです。したがって、ビジネス面ではB2Cのほうが圧倒的に良いのです。」

「さて、ここで仮想通貨(トークン)が他の会社の場合どう使われているのかを例に挙げます。通常、他社ではブロックチェーンの利用料としてトークンを使っているのです。つまり、データや取引を処理するスマート・コントラクトをブロックチェーン上で実装させる費用だったり、それ以外でも何かしらの取引がブロックチェーン上で起きた場合の費用としてです。」

「私たちの場合、トークンの用途は異なり、消費者が使えるロイヤルティ・ポイントなのです。これは用途と、どれくらいの規模まで成長し得るかというポテンシャルの観点から、他社とは大きな違いがあるのです。他社について挙げたはじめの例だと、"誰がこのトークンを実際に使うのか" という質問があるでしょう。このケースでは、ブロックチェーンの利用料としてのトークンなので、サプライチェーンが購入するのです。その際に "なぜ今のままではなくトークンを買う必要があるのか" という点については、いくつかのベンチマークはあるでしょう。それは現在ITにいくら払っているのか、あるいはサプライチェーンにいくら払っているのかということかもしれません。旧来のシステムからのアップグレードという考え方なら、ITがわかりやすいかもしれません。さて、ネスレやダノンなどの巨大な食品会社がITインフラにいくらお金をかけているのか知りませんが、中国でのインフラに2-3百万ドル(2-3億円)以上はかけていないと思います。それ以上は払っていないと思うのです。また、それらの企業が更に中国で成長した場合、この費用は同じままか、大して増えないと思います。」

「ブロックチェーンはインフラの改善になるので、先ほどのトークン購入に使われるお金というのは、こういったお金なのです。」

「私たちの場合、トークンを購入するのはマーケッターです。私たちのトークンは、企業が消費者のロイヤルティを育むお手伝いをします。したがって、私たちは企業のIT予算ではなくマーケティング予算を取りに行っているのです。粉ミルクやアルコール、そして医薬品などの利益率が高い商品では、マーケティングの比率は非常に大きいです。たとえば粉ミルクでは小売価格の20-25%はマーケティング費用ですが、先ほどのネスレやジョンソン・エンド・ジョンソンもしくはダノンなどといった大手企業を見ると、中国では各社年間10億ドル(1,000億円)くらいの売上があります。10億ドルの25%は2億ドル(200億円)台です。私たちはそこを狙っているのです。 企業がSAPに払っているような2-3百万ドル(2-3億円)ではありません。これは全然違うのです。」

Q:ワリマイのマーケット戦略として、どの地域と業界にフォーカスするのか教えてください。

ヤロスラブ氏:「B2Cのチャンネルに関しては、現時点では中国にフォーカスしています。理由は市場規模も大きいですし、課題も多いからです。B2B商品に関しては、グローバルです。おそらくフォーカスは中国になりますが、それは制限があるからではなく、中国が一番問題が大きいからです。でも東南アジア全域もカバーしていきますし、医薬品にシフトしたらインドとアフリカには絶対に行きます。いずれにしろ、私たちは消費者と共に動いているので、現時点では消費者は若いお母さんです。となると、まずは赤ちゃんに粉ミルクを飲ませ、彼女自身もサプリなどの薬を摂取しているでしょう。また、化粧品も使いますし、それは妊婦向けや若い母親向けもあるでしょう。(中略)次にお父さんがいるわけですが、たとえばプロテイン・パウダーがあります。これは利益率が高いので偽物も多く、たしか中国では売られているもののうち60%くらいが偽物だと思います。」

「この問題は巨大なのです。多くの人はどれだけ市場が大きくて、どれだけ問題が大きいのか知らないのです。また、プロテイン・パウダーの他にもちろん、アルコールがあり、アルコールは狙いやすい反面全員狙っていて既に様々な手法が試されている最中なので、なかなか入り込みづらいのです。特にメーカー自身、成功の度合いは違えど、独自のソリューションを実装済みですからね。私たちは高利益率商品から狙って展開しています。(中略)それは高利益率商品の多くが偽造者を引き寄せるからなのです。偽造者も安いものの偽物をわざわざ作りたくないですからね。」

アレックス氏:「もう一点付け加えると、たまに "なぜ中国とこの商品だけにフォーカスしているのか?" と聞かれることがあるのです。中国では毎年1,800万人くらいの赤ちゃんが生まれています。つまり、粉ミルクを飲む赤ちゃんの両親は大体1億5,000万人くらいいるわけです。さて、これは両親だけを見た場合の市場規模です。そこに子育てに関与している祖父母も加えると、2-3億人いるわけで、それは中国のみ。そして粉ミルクのみで考えた場合なのです。」

「さて、ここで視点を変えてイーサリアムのウォレットの数を考えると、どれくらいでしょう。2,000万、1,500万くらいでしょうか。忘れてしまいましたが、急速に伸びてはいるものの、まだ数は少なく、それもウォレットの数なわけです。実際にそのウォレットを使っている人数については、300万から500万くらいでしょう。したがって、私たちのトークンであるWaBiを使ってもらうためのターゲット市場を比較すると、それは私たちのプロテクション付きの商品を買ったり、WaBiを保管していたり、トークンを使って物を買ったり、物を買った際にトークンをもらったり、あるいはロイヤルティ・ポイントとして使ったりなど、それは現在の仮想通貨人口全体の100倍以上なのです。」

「それを踏まえると、周りからもっと仮想通貨業界内でのマーケティングにフォーカスすべきだと言われるとき、300万人にフォーカスするのか、それとも3億人にフォーカスするのか。もちろん、後者の市場のほうが標準的な市場なので、時間はかかります。仮想通貨市場のほうが動きは速いですが、従来の市場で勝てるし勝たなければならないのです。なぜなら、前者で勝っても、3億人のほうで負けたら時間の無駄だからです。ここが勝つべきところなのです。」

まとめ:コンサル的な発想で築き上げられたビジネスモデル

ずっと二人の話を聞いていた思ったのは、考え方がやはり元コンサルらしいということだった。彼らは面白い技術があるからそれで何かをやってみようという「プロダクト・アウト」の発送ではなく、ある課題解決に向けてどの市場をどうアプローチすべきかということを、規模の観点そしてマーケティングの観点からしっかりと考えている。

まだブロックチェーン業界は黎明期だ。技術もこれから数年後には大きく変化するだろう。その変化にも対応できる企業は、しっかりとビジネスの観点からこの技術をどうやって活用するのか、そこを常に把握しているところだと思う。技術に振り回されず、どの市場でどういうポジションを築き上げたいのか、そこを見据えてブロックチェーンとの付き合い方を考える必要があることを、アレックス氏とヤロスラブ氏とのインタビューを通じて実感した。

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