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免震ピットへGo!【スパコン京を見に行こう!第4弾】

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実はわたくし、正直申し上げますと、免震ピットがどうしても見たくて神戸へ行ったんです。「京」のマシン自体は、弊社にも展示してありますし、「京」を見るためだけに自費で神戸へ行く気にはなっていませんでした。私のプロフィール写真の背景に写っているのも「京」なんです。

神戸へ行こうと思った動機は単純。免震ピットの「ピット」という響きに釣られました。
ピットと言えば...飛行機のコックピットに...F1レースのピット...乗り物好きの私には「ピット」という単語がキラキラして見えて、これは行くしかない!と見学申込ボタンを押していました(笑)

免震ピットは、基礎免震が施されている部分のスペースを指しています。建物の地下スペースですね。免震ピットの深さは、具体的に聞いて来ませんでしたが...7mぐらいはあったかと思います。住宅用マンションなどの基礎免震スペースは、人がギリギリ入れる程度ですから、それと比べるとかなり大規模な作りになっています。(なぜここまで大規模にしているのかは後述します)



建物の外からでもわかる、免震対策しるし

4-1_地面.jpg

数か月前、弊社データセンターの地震対策について記事を書いていたので、比較しながら見学してこよう!思いつつ神戸へ行った私。「京」が設置してある建物の外を歩いているだけでもニヤニヤしてしまいました。見る人が見ればわかる、この建物を囲っている、色が異なる地面。



この色が異なる部分は、建物が地震で揺れても良い"幅"を表しています。なんと最大75cmなら、建物自体が横揺れしても良いように設計されています。

土地の上に建物が建っている、というよりも、大きな窪みの中に建物が納まっている、という感じにも見えますね。さらに、建物は免震装置の上に載せられている、という感じ。

4-2_地下構造.jpg

この揺れても良い75cm分は、簡単に壊れるように作られています(と言っても人力で壊れるようなものではありませんが...)。説明員の方の話では、50cm程度の揺れは来ることがあると予想しています。でも、75cmまで動いても耐えられるように作ったんです、ということでした。

3-40cm程度の幅を取っている建物はたまにありますが、75cmというのは私は初めて聞きました。



これぞ縁の下の力持ち!? 3種の賢者が支える免震ピット

先ほど、揺れても良い幅が75cm作ってあるよ、と書きましたが、地震来たら揺れ放題にして良いというわけはありませんよね。いかに小さな揺れに抑えられるかがポイント。

建物の下では、3種類の力持ちが地震が来るのを静かに待ち構えています。地震で揺れが発生した際、各々の特性を活かしながら、建物に揺れが伝わらないように踏ん張ってくれます。

■積層ゴムアイソレータ

4-3_ゴムアイソ.jpg

この3種類の中では1番有名な免震装置ですね。

計算機棟、研究棟の建物の下には、49台の積層ゴムアイソレータが設置されていて、約3万トンにもなる建物の重量を支えています




4-4_ゴムアイソの構造.jpg積層ゴムアイソレータは、外見からすると、太いゴムの柱のように見えますが、被覆ゴムで覆われた中身は、内部ゴムと鋼板が重なり合って出来ています。まるでミルクレープのような構造になっているんですね



ゴムだけの柱にしてしまうと、建物を支える力が弱くなってしまいますが、鋼板を挟むことによって、建物の重量をしっかりと支えることができます

このように、縦方向には動きにくいけれど方向には柔らかい素材(柔らかいと言っても、かなり硬いモノですが)を使うことによって、強力な横揺れが起きてもブレーキとして作用しながら、建物を支えてくれるんですね

ちなみに、積層ゴムアイソレータで使われているゴムは、伸びに強く、温度変化による物性変化が少ないものが使われています。理論上は60年の耐久性があるんだそうです。

4-5_ゴム特長.jpg



U型鋼製ダンパー

ここでは2種類のダンパー(揺れを抑えるもの)が使われています。

地震は、前後左右に何度も揺れが発生します。先述の積層ゴムアイソレータは、建物を支える力は強いのですが、横方向へ1度変形すると、簡単には元の位置に戻りません。積層ゴムアイソレータだけでは、次々と発生する揺れを細かく制御することができないんですね。

一方で、ダンパーというものは、建物を支える力は弱いのですが、繰り返し発生する多方向への振れを細かく吸収してくれます。

4-6_U型ダンパ.jpg

U型鋼製ダンパーは、U字型にした鋼板を組み合わせて作られているダンパーです。

理化学研究所で使われていたのは4本のU型鋼板ダンパーでしたが、6本や8本のU型鋼板ダンパーも存在します。





U
字型にすることで、地震の揺れを抑えるときに生じる変形が局所的に集中しないようになっています。また、プレス加工で作ることができるので、低コストで大量生産ができるダンパーです。

■鉛ダンパー

4-7_鉛ダンパ.jpg

U型鋼板ダンパーに比べて、揺れが小さいうちから変形し始める(揺れを抑えることができる)ダンパーです。鉛を使っているので、繰り返し変形しても破断しにくくなっています。多方向への揺れを抑えるために、独特な形をしています。





4-8_配管.jpg

ここでは、配管も地震の揺れに対応できるように、フレキシブルジョイントという方法が取られています。電気配線も余長を持たせて、建物の揺れと一緒に、変動できるようになっていました。

これらの免震装置があることで、建物の揺れを大幅に抑えることができます。
巨大震が発生したとしても、建物の中にあるスパコン「京」が転倒しない程度の揺れに抑えることができるそうです。震度6強の大地震が起きても、建物の主要機能は確保できるということでした。

しかし、このような免震装置は、巨大地震が来ると大きく変形してしまいます。
マンションなど基礎免震スペースが狭い建物は、巨大地震による建物の倒壊は防ぐことができますが、免震装置部分の交換ができない場合も多いそうです。
理化学研究所では、大規模な免震ピットがあるおかげで、免震装置を入れ替えることができます。なんと、ジャッキで建物自体を持ち上げて、積層ゴムアイソレータやダンパーを交換するそうです。メンテナンスを前提に作られている施設なので、長く使えるように設計されているんですね。そうそう、ポスト「京」も、同じ建物に設置するんだそうです。


地盤改良で液状化対策も!

ここまでのお話は、建物に対する地震対策でしたが、これだけでは、ちょっと不安。
3.11、震源から離れた関東圏内でも液状化現象が起きました。

東京・千葉でも液状化が発生し、特に埋め立て地では、その被害が顕著に現れました。気がかりなことに、「京」が設置されているポートアイランドも海沿いの埋め立て地。地図でると、神戸のポートアイランドは海の上に浮いているようにも見えますね。

4-9_GoogleMap_神戸ポートアイランド.jpg

国土交通省が出している3.11で発生した液状化現象の調査結果を見ると面白いことがわかります。以下の地図は東京・千葉の海岸部を示しています。同じ海岸部にもかかわらず、液状化が起きている赤い場所と、起きていない青い場所があります。

液状化が起きなかった場所は、ディズニーリゾートを囲う道路と、大きな工場が立ち並ぶエリア。ディズニーリゾート内は、オリエンタルランドが調査した結果、駐車場の一部で軽い液状化が発生した以外、ほとんど損傷はなかったそうです。

4-10_地図_沿岸部エリア.jpg

この違いは、建物を建てる前に、しっかり地盤改良を行っているかどうかで変わってきます。ディズニーリゾートや大規模な工業地帯では、サンドコンパクションパイル工法という手法で、地盤を強化しているそうです。

サンドコンパクションパイル工法とは、

1)液状化しやすい地盤に、筒状の鋼管を打ち込み、穴を開けていき、
2鋼管を引き抜きながら、砂(と言っても大きな砂利のようなサイズ)を流し入れ、
3)砂を締め固めるように鋼管で打ち込んでいき、

上記の(2)、(3)を繰り返して地盤を強化していく手法です。

4-11_サンドコンパクションパイル工法とは.jpg

液状化現象が発生すると、道路が凸凹になり、建物が傾、地下から泥水が噴出します。地下にある水道管は折れて水道が使えなくなり、あふれた泥水に車や自転車が埋まってしまうなど、生活にも影響が出てしまいます。

企業の敷地内で液状化現象が発生してしまうと、長期間の休業や、多額の修復費用を負担しなければならないため、建物を建てる前に液状化対策を行っています。ディズニーリゾートや工業地帯以外にも、空港や市場などでも、このサンドコンパクションパイル工法が採用されています。

「京」が設置されている理化学研究所 計算科学研究機構でも、このサンドコンパクションパイル工法が採用されており、地下20mまで砂の柱が埋められています。直径70cmの柱が2m間隔埋め込まれているそうです。そのため、1平方メートルあたり20トンの荷重に耐えられるようになっています

さらに、海面下35m近くまで、沈下抑制杭という太い柱も埋め込まれています。これは、建物が傾いて沈むことを防ぐための柱です。

2015年、横浜市都筑区のマンションで杭打ち偽装が発覚し、大きなニュースとなっていましたが、これは、この沈下抑制杭が地下深くの硬い地層まで届いていないために発生した問題だったんですね。

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4連載でお送りしました、スパコン「京」を見に行こう!ブログ。いかがでしたでしょうか。現地で見てきたこと、気になって調べたことなど、ご紹介させていただきました。(ブログとは思えないほどの長文で申し訳ないです...

一連のブログを執筆して、スパコンというものはマシン単体を作るという話ではないんだ、ということが痛いほど良くわかりました。

スパコンを作るためのハードウェア・ソフトウェア技術、半導体技術はもちろんですが、スパコンがきちんと稼働できるように必要な冷却技術や電力供給。膨大な重量級マシンを支えるための建築技術。地震が起きても稼働し続けるため免震技術と地盤改良。どれが欠けても完成しないんだ、ということを知りました。

そんなスパコン「京」も、世界最速の座を最初に獲得したのは20116月、もう4年半が過ぎました。技術の進歩は止まりません。すでにポスト「京」に向かって、多くのことが決まり、動き始めています。

そのポスト「京」も同じ場所に設置されるようなので、きっとまた、現地へお邪魔しに行くと思います。:-)

4-12_RikenWithMe.jpg

【連載】スパコン「京」を見に行こう!
1弾:京コンピュータ前駅、初上陸!
2弾:スパコンの能力を最大限に引き出す"城"
3弾:消費電力は2万7千世帯分!?電力と冷却の仕組みを見てきたよ!
4弾:免震ピットへGo!

Comment(2)

コメント

関口芳弘

蛇足ながら。免震造にした一つの理由は地震対策ですが、もう一つは「柱なしの広大な計算機室を実現するため」なんです。免震造とすることによって、建物が地震動でひねられる力を受けにくくなりますから、柱や梁、筋交いを少なくすることができるのです。
もう一つトリビアネタ。いくつもあるダンパはそれぞれ異なる向きに設置してあります。それにより地震動の向きによらず、同じ特性を発揮するようにしています。

長島瑠美

ひねり、ですよね:-)
ゴムアイソも3種類が重さによって…とか、まだまだ書き足りてない:-)
先日、U型ダンパは、塗装が剥がれることによって、多少の変形を見つけだし、交換するタイミングを見ることができる、という内容を見かけたのですが、ほ、ほんとですか!?(><)まだまだ気になることいっぱい:-)

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