昨日、孫泰蔵さんによる「日本にベンチャーの風を」という主題のお話をおうかがいしてきましたので、内容を紹介させて頂きます。
ですが、その話をする前に、ちょっと、こんな会社を想像してみて下さい。
もし、皆さんがこんな会社に勤める事になったらどうしますか?
A.「死体置き場と噂される会社」
昼にも関わらずビルの一室で寝袋にくるまった15人が芋虫のように寝ている
B.「専用の部屋の無い会社」
会社なのに事務所は無く、あるのは間借りしている「四つの座席」のみ。
「ブラック企業」と一言で表現されるかもしれないひどい状態ですよね。きっと、誰も働きたいなんて思わないでしょう。でも、僕は泰蔵さんのお話の途中で出てきた、この二つの企業の話を聞いた時に「羨ましい」と感じました。何故そう感じたかは、後述します。
■アントレプレヌールとは
起業家がもつべき視点や考え方を説明する概念。泰蔵さんが考えるアントレプレヌールとは以下の五つ。
・技術(テクノロジー)の革新や
・規制緩和(デレギュレーション)が生み出す
・画期的な革新(イノベーション)により
・人々の潜在需要(ニーズ)を満たす
・新しい価値(バリュー)創造の可能性に
いち早く気付き、実現するという行為
私達エンジニアはついつい目先の技術を追いかけようとしてしまいますが、起業家として成功しようと考えるならば、中長期的な視点で、自分の得意とする領域の、技術トレンド、規制緩和(政策面・環境面・社会面)を考え、「イノベーション」の起きる時期を見定める能力が必要なんだと感じました。
しかし、こういった心構えは勿論大切ですが、起業に最も大切な事は、他にあると泰蔵さんはおっしゃいます。
■何故企業したか?
泰蔵さんは就職活動をしていなかったそうです。大学当時を振り返ってみれば、
- 自分に何が出来るかわからない。
- そもそも、自分には何も出来ない
と思っていた、そんなある日、孫正義さんから「お前、Yahooって知ってるか?」と突然言われたそうです。Yahooという物が何者かはわからなかったけど、就職活動もせずに、ボーっと大学生活を送っているぐらいなら、と思い立ち、とりあえず行動だ!という事で、Yahooを訪れたそうです。
そこで、見たYahooの光景とは、冒頭で申し上げたこの企業でした。
A.「死体置き場と噂される会社」 昼にも関わらずビルの一室で寝袋にくるまった15人が芋虫のように寝ている
流石にこの光景を見た泰蔵さんも驚いたそうですが、働いてる人達の顔はみんな活きいきしていたそうです。そして、みんなこんな言葉を口走っていたそうです。
「僕らのやっている事は、人類がハッピーになるんだよ!」と。貧乏で、寝る時間も、遊ぶ時間も無い。に近い風呂だっていつ入ってるかわからない。はたから見ると、どう見たって幸せそうに見えないハッピーよりヒッピーに近いように見える人間が「人類をハッピーにするために頑張ってるんだ」と目を輝かせて笑ってる。
今思えば「クレイジー」という表現がぴったりな人達だったかもしれない。でも、そんな「クレイジー」な人達の魅力に惹かれて、泰造さんはYahooの創業者達と暫く働く事を決めたそうです。
この時に泰蔵さんが学んだ事。
- 自分達が寝食も忘れて夢中になれる事
- 自分達の行動が、社会全体の幸せにつながると信じられる事
この二つが起業家にとって、最も大切なマインドだと泰蔵は語ります。収益構造を考えるビジネスモデルは後からでも良い。実際当時のYahooには広告を出すという仕組みは無く「インターネットの発展に貢献するボランティア」のような状態だったそうです。
■アントレプレーナとしての心構え
上記の二つ以外に、泰蔵さんがアントレプレーナとして大切だと思っている事は下記の五点。
・基本的に楽観的でないと難しい
- しかし、楽観的になるのは、案外難しい。
・楽観的になるには、納得出来る所まで突き詰める
- 自分を納得させる方が人を納得させるよりも遥かに難しい。
・努力し尽くしたときに初めてなれる楽観的な境地に立つ。
- ここまでやったのだから、例え上手くいかなくても納得行く
- ここまで努力して突き詰める、という「頑張る水準の高さが」一流かどうかを決める。
・なぜやりぬきたいと思うのかという自分の哲学を追求する
- こんな苦しい想いをしてまでやるというモチベーションは「哲学」からしか生まれない。
・自分の哲学を「志」のレベルまで高めていく。
楽観的になれ、夢中になれ、馬鹿になれ。周囲から何を言われても動じない「自分の哲学」を持て。やがて、その哲学が「志」となり、その志が「人を一流にする」。一流になった人間が成功する。企業の大小では無く、「個」の力が最終的には勝利に繋がる。
Ciscoのジョン・チェンバースも、Appleのスティーブ・ジョブスも、何も無い所から成功した人達だから、米国の有名IT起業のトップ層程「個」の力を信じていると、泰蔵さんはおっしゃっていました。
■起業する際の事業ドメイン選定条件
孫泰蔵さんが考える、起業する際に重視する事業ドメイン選定条件は以下の五つ。
・自分自身がやってて楽しいこと、ワクワクすること。
- 新しい事にチャレンジし、ドキドキワクワクするような「ワンダー」があるもの
- 周囲のパートナも喜んで協力してくれるような社会的意義が大きいこと
・断トツNo.1になるポテンシャルを秘めていること
× ゼロサムマーケットにおけるシェア争い。
◯ プラスサムマーケットにおける断トツNo.1
・ビジネスモデルでパラダイムシフトを起こし、高収益率を挙げること。
- パラダイムシフトは高収益率を誇るビジネスモデルを作り上げられる可能性が高い
・「自己増殖/収益逓増」のビジネスモデルを構築出来ること
・「努力/根性」のみに頼るのではなく「仕組み/スキーム」で勝てること
- 一旦築いた競争優位性を加速度的に増大させられるもの
■事業失敗時の反省点
・読みの甘さ
- 中期的な市場動向の読み間違い
- 力ずくでゴリ押しし、被害を大きくしてしまった。(リスク分析が甘かった)
・パートナーとの協業の失敗
- オペレーションのまずさから、関係がこじれた
・プロジェクトの迷走
- オペレーションのまずさが、パートナーの不安を喚起してしまった。
・海外投資案件の失敗
- モニタリングを人任せにし、自分達でやらなかった。
・オペレーションのまずさ=リソース分配ミス=事業領域を広げすぎ
■Yahooの企業風土から学んだ「スピード」感覚
創業当時のYahooにはこんな企業風土があったそうです。
・山登りゲーム
「山登りゲーム」とは、インターネットのベンチャー経営なんて、山登りのようなものだという例えです。登り始める前は、頂上に辿りつくまでにどれだけの距離があるかはわからない。しかし、一歩、一歩進んでいけば、きっと頂上に辿りつくから、「どんなに辛くても、歩みを止めては行けない」。そして、他の誰よりも、5号目、6号目に早く辿りつけば、トップの人間にしか見えない視界が広がる。
誰よりも、一歩でも高く早く登る事で、そこから見える景色を独占し、より有利な状況を作っていく。これが先行者利益を取るものの心構えであり、「誰かの背中を見ながら登るような真似はしない」という思いが非常に強かったそうです。
そんな、「誰よりも、一歩でも高く早く登る」ために、取り決められていた、もう一つのルールとは「24時間意思決定ルール」
・24時間意思決定ルール
当時のYahooには、24時間以内に返事が無ければイエスと見なされるというルールが存在したそうです。これは、意思決定を止めるためのルールでは無く、前に進めるためのルール。返事が無ければ賛同したこととされ、どんどん会社の姿が変わっていく。24時間前と、現在で変わって無い事など何も無い。それが創業当時のYahooのスピード感だったそうです。
■人生とはスーパマリオだ! by 孫正義
一見華やかそうに見える孫兄弟の四男、孫泰蔵さんも、何度も「死にたい」と思う位、絶望した事があるそうです。個人で数億円という借金を抱え、信頼していた人間にも裏切られ、全てにおいて絶望していた。
そんな、人生のどん底の時に、兄の孫正義さんに食事に誘われ、正義さんは落ち込んでいる泰蔵さんにこう言ったそうです。
「泰蔵!くよくよしてんじゃないよ、人生なんてスーパマリオみたいなもんだ」と。
正義さん曰くこういう事だそうです。
「失敗なんて若いうちに経験するだけしておけ。若いうちの失敗なんてどうせ大したもんじゃない。銀行に金を借りて事業に失敗したって、何の実績も無いお前が借りれる金なんてたかが数百万だ。そんな金は一生かければ必ず返せる。しかし、お前が成功して、何千億という借金が出来るようになってから、失敗したら一生償えない。今できる失敗はいずれ役にたつ。その失敗からなぜ失敗したか、どうすれば成功するかをしっかりと学べ。今の俺はお前を助けてやる事は出来るかもしれん。しかし、今、力を貸すことは、今お前が経験を積む機会を潰してしまう事になる。
人生なんて、スーパマリオみたいなもんだ。初めは誰だってクリボーでつまずく。でも、何度も何度も失敗してコツを覚えていく。いきなり土管に入る、近道を教えて貰って、クッパの前に登場しても倒す事なんて出来ないだろう。
今のお前はクリボーと戦って修行している状態だ。その失敗を活かせばきっとクッパを倒せるようになる。でも、お前が路頭に迷っても、ソフトバンクには入れてやんねえけどな」
と言われたそうです。
「いや、ソフトバンクには入らないよ」と即答したそうですが(笑)、この言葉を聞いて、随分気持ちが軽くなったそうです。
厳しいけれど、言葉の中に優しさを感じますね。
■お金が無い、前例が無い、経験が無いは起業に関係ない
私の友人が先日起業した事もあって、こんな質問を泰蔵さんにしてみました。
Q.「銀行や投資家から投資してもらうためのコツはありますか?」
泰蔵さん曰く、「コツなんて無い」との事でした。結局の所、事業計画が良いか、現実性があるかという当たり前の所がきっちり出来ているかがポイントであり、特に「テクニック」は無いとの事でした。
しかし、現在は投資家から「お金」を借りるより、「お金を借りてくれ」という投資家からの打診を断る起業家が多いともおっしゃっていました。
理由の一つに10年前と比べて、今新しいサービスをITの世界で立ち上げようとすれば、昔は数億必要だったようなサービスがクラウドのお陰で数百万でも出来てしまう。そんな数百万のために「投資家」に口出しされる方が嫌だという事だそうです。
それに、数百万の資金を捻出する位なら、「夢」を実現するために節約したりすれば何とか捻りだせる。
冒頭で紹介したBの会社
B.「専用の部屋の無い会社」
会社なのに事務所は無く、あるのは間借りしている「四つの座席」のみ。
これは、今をときめくfoursquareの起業当時の状態とのこと。間借りした「座席」と「社長一人とアルバイト三人」で、夢中になって皆で仕事していたそうです。
foursquareの今の成功を見ていると、「もう今からウェブのサービスで成功するのは無理」だとか、「莫大な資金が必要とか」そんな事は一切関係無い。
「無理」と思うのは、その人の既成概念で自分に壁を作ってしまう。それを覆すアイデアを持った人は必ず現れる。自分自分の既成概念を取り払うために、如何に馬鹿になれるか?
その、馬鹿の壁を超えるために大切な事。それが「夢中になれる」事である事では無いかと、今回の講義を通して感じました。
冒頭で紹介した、一見ブラック企業のように見える二つの会社。でも、そんな環境で働いてられるなんて、そんな境遇を「苦」と感じさせない「夢中になれる」物があるからなんだと思うと、僕はなんだかとても羨ましくなりました。
■一見華やかに見える企業も初めは皆ゼロから始まる
最後に泰蔵さんと、個人的に交わした話を紹介します。
「Yahoo、foursquare、僕もそうだけど、大元君から見たら「成功」した人に見えるかもしれない。でも、皆初めから成功していたわけじやない。食うに困った時期も当然ある。仕事に夢中になりすぎて、奥さんと喧嘩した事だってある。皆、普通の人間で、家庭もあり、特別な事なんて一つも無い。心からそう思うから、自信を持って僕はこう言える"チャンスは誰にでも平等にある"」
私自身はまだまだ起業という事を考える程の勇気も行動力も無いのですが、今回のセミナーに参加して「働く」という事がどういった物なのかを考えさせてくれる良いきっかけを与えてくれたセミナーでした。
そして、泰蔵さんが最後に言っていたこの一言が忘れられません。
「自分が今こうやって居られるのは、苦楽を共にした仲間の支えがあったからこそやってこれた。お金は失っても、頑張ればなんとかなる。でも、この仲間が居なくなってなってしまったら、僕は立ち直れないだろう。」
起業セミナーというと「どうやってお金を稼ぐか」という所が強調されるかもしれませんが、お金より大切な事があると、教えてくれたとても貴重な時間でした。
泰蔵さん、主催された方々、どうも有難う御座いました!
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