ICT業界動向やICT関連政策を基に「未来はこんな感じ?」を自分なりの目線で「主張(Assioma)」します。

事業仕分け騒動。「光より速い通信技術」について思うこと

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4月27日の事業仕分けで、仕分け人の一人、永久寿夫氏が発した「光より速い通信技術」という発言が話題を呼んでいますね。
ネット上の評判を見ていると、だいたいこのような感想になっているようです。

 ・仕分け人の常識を疑う
 ・タキオン通信登場か?
 ・相対性理論無視なんて論外

結論として「光より速い技術とかあるわけないよ」という点を取り上げ、この発言に対する誹謗中傷が多いように感じます。

 もし、この言葉の意図する所が、この発言の通り「光」の速度を指しているのなら、現在の科学ではその速度を超える事を想像するのは難しいと思います。

 しかし、このこの言葉の意図する所が、「現在の光による通信より、速い通信方式が現れたらどうなるか?」という事なら、その可能性は否定出来ないでしょう。というより、既に存在します。

今回話題になっているのは、今回の発言の意図は「前者」であるという前提で嘲笑の対象になっていると考えられますが、残念な事にそこで終わってしまい、そもそもの発端である「光ルータの意義」について、議論されている事が少ないので、今回はこちらについて考察したいと思います。

■光ケーブル方式と銅線方式
 現在の一般家庭からインターネットに出て行くまでには、伝送路と呼ばれるパケットの通り道を通っていく必要があります。この伝送路に利用するケーブルの種類として、現在主流な物には、以下の二種類が存在します。

 ・電話用の銅線を利用するxDSL方式
 ・光ケーブルを利用する光方式(FTTH)

 この光ファイバーを利用している方式が、これからの高速通信時代を支える主流になっていくとされています。今回のテーマになっている、光ファイバーを利用する方式は、光伝送装置とIP転送装置の二つによって構成されています。

 ・光伝送装置
  光ファイバーと光ファイバーを接続し、「光による通信」を実現させる装置です。光による通信とは「光の波」による通信です。光ファイバーの中には何本もの「光の波」が流れており、これを「波長」と呼びます。昔は一本の光ケーブルで一つの「光の波」しか運ぶ事が出来ず、とても高価な通信方式でした。(光ファイバーは非常に値段が高く数mで数万円する事もあります。)現在では一本の光ケーブルで、複数の「光の波」を多重化する技術「WDM」が登場しました。この「WDM」を使うと、光の波ごとに通信を区別する事が出来るため、一本の光ケーブルでより多くの通信を行う事が可能になったため、光ファイバーの費用対効果が向上し現在の主流な通信方式となりました。

  現在は、一つの波長でより多くの伝送量を確保しようとする動きと、一波辺りの伝送量はそのままで、より多くの波長を多重化する二つの方向で技術開発が進められています。

 ・IP転送装置
  IP転送装置とは、IPと呼ばれる電気信号を運ぶための装置です。簡単に言えばルータやL2スイッチ、皆さんの家庭にもあるHGWやブロードバンドルータがこれに該当します。

 これら二つの関係を簡単に表した物がこちらになります。 皆さんの家庭から、インターネツトへ向うまでのデータの通り道「伝送路」では、この二つを組み合わせてパケットが送受信されることになります。

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 この絵を見て勘の良い方ならお気づきでしょう。一本の光ケーブルで波長ごとに異なる情報を送信し、より多くの情報を転送する多重化技術で「波長」が増えると、波長毎にIP転送装置が必要となります。
 極端な話、一本の光ケーブルで64波運ぶと64台のIP転送装置が必要となり、これが200になれば200台、400になれば400台のIP転送装置が必要となります。※実際には、物理台数を増やす対処方法の他に、物理ポート数を増やす対処方法もありますので、単純に台数が増えるわけではありません。

 一つの波長で運べる伝送能力には限りがありますから、「波長の多重化」をする事で、光ファイバ一本辺りの転送能力を向上させようとすると、莫大な数のIP転送装置が必要となり、消費電力の上昇、設置スペース、機器購入コストといった問題が発生する事になります。


■光ルータとは
 こういった問題を解決するために開発されているのが、光ルータです。

 NICTのページから引用すると、下記の背景と特徴があります。

 背景
  従来、光ヘッダを解析するために、光信号を電気信号に変換する必要があり、このためノードに複雑で高速な電気回路が必要であった。 また、この方法では高速化が難しく自立的な高速ルーティングが困難であった。

 特徴
  ルート制御光と光パケットが、物理的に同じ光伝送路であっても、ルート制御光を光のまま解読し、光パケットの出力先を制御するこ とができる。

少し、分かりづらいので補足するとこうなります。
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 途中にIP転送装置が必要だったものが、「光」を「光」として取り扱えるようにする光ルータを開発する事で、電気信号への変換が不要になり、伝送路で「オール光」が実現出来るという事になります。

 これを、前述した図で現すとこうなります。
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 光を光として扱うため、光波長の多重化技術が進化しても、光ルータの増設は不要という事になります。そうするこで、従来はIP転送装置を波長の数だけ用意する必要がありましたが、それらが不要になる事で、回線速度を向上させつつ、消費電力の上昇、設置スペース、機器購入コストを抑え、「環境に優しい、高速化対応」を実現する事が可能になります。

■光ルータに関する疑問
 夢のような技術のように思える「光ルータ」ですが、普及に関しては幾つかの疑問を感じています。

 ・競合する技術と比較しての優位性は?
 光の多重波を多くして転送能力を高める技術として光ルータは有効ですが、光技術としては一つ波長でより多くの容量を伝送しようとする技術開発も進んでいます。後者の技術が市場に普及すれば、IP転送装置の台数は現状より大幅に増えるという事には繋がりませんから、光ルータの大きな研究意義の一つが失われる事になります。

 更に、現時点で最高の伝送能力を持つIP転送装置としてCisco社のCRS-3が存在しますが、既に322Tbpsの転送能力を誇っています。光ルータの普及目処を仮に2020年と推定すると、現在の10倍、100倍の能力を持つIP転送装置が登場し、競争力を失っている可能性は無いのでしょうか?

 また、ネットワーク装置の省電力化については、2010年1月11日アルカテル・ルーセント社等が現在の1000倍の電力効率を達成するための国際コンソーシアム「Green Touch」を発足し、研究開発の取り組みを開始しています。この取組が成功すると、インターネットを含む、世界の通信を支えるために必要な電力が、現在の1日の消費電力でおおよそ3年間動作させることが可能な水準に相当します。

 ・市場への展開プランは?
 ネットワーク製品は、相互接続性を重要視される製品であり、特定のジャンルや同一の用途に用いられる部分では同一メーカの製品が選定される傾向が強い製品です。

 この光ルータの狙う市場として考えられる、通信事業者の基幹網は、既にCisco社、Juniper社等の大手海外メーカの製品が導入されているケースが多く「純国産」の製品をどうやって食い込ませるのでしょうか。

 ・技術者の育成は?
 従来のIP転送装置を必要とするアーキテクチャと大きく異なるため、光ルータを利用したネットワークの設計、構築を行える技術者も同時に育成しなければ、技術は登場しても「扱える技術者が居ない」という状況になれば、どこも取り扱ってくれません。

 「使える人が居ない」「売ってくれる人が居ない」「買ってくれる人が居ない」となれば、当然普及することはありません。IP転送装置を利用した場合の比較という狭い視点での比較では無く、製品が普及するために必要な、こういった点を考慮した上で、優位点を検討、方向修正していかなければ、絵に書いた餅は絵のままで終わってしまうのでは無いでしようか。

■今回の一件で感じたこと
 光ルータ自体は私個人の感想としては、上述したように、すんなり普及するかと言われれば疑問に感じる点はありますが、非常に興味深く面白いと思う製品です。

 ただ、残念に思う事は、こんな面白い技術研究が、ネット上では「中身」について検討される事なく、単なる「誹謗中傷」で終わってしまっている所です。

 この事業仕分けのテーマである「光ルータ」は、ネットをより高速化するために解決しなければならない課題の解決策として、研究が行われています。Twitterや掲示板で様々な人が様々な意見を交換する事が可能になり、ネットが更に高速化される事で、今よりもっと複雑なコミュニケーションがネット上で行われるようになってくることでしょう。
 しかし、そのコミュニケーションの中身の大半が「誹謗中傷」しか生まれないのなら、とても残念な事では無いでしょうか。

 ネットワークを作る仕事をしていて時折「なんでだろう?」と感じる事は、トラフィックの増える大きな原因を作っているのが「P2Pによる音楽や動画といった違法コンテンツ」や「動画サイト等の違法動画の視聴」であったりする「負の要素」です。※最近は法規制の変更等により、こういった傾向は減少傾向ですが。

 ネットという場では、こういった「負の要素」を持っている物の方が、人々の注目を集め流行る傾向が強いように感じます。

 国家の明日を掛けて研究開発を推進している、光ルータが普及した暁に、「負の要素」が蔓延したネットになっているのは、何かが違うと思うんです。

 誹謗中傷では無く、中身や改善提案に対する議論が活発なネット、違法動画、違法音楽で帯域が圧迫されるのでは無く、クリエイター達が離れた場所と、自分達の開いた時間を活用してコラボされるために帯域が圧迫される、過疎化が進んで病院等が無い地方でもネットの遠隔治療を利用して、都会と変わらない診察を受けれるようにするために帯域が圧迫される。

 そんなネット文化が根付けば良いのになと、思った次第でした。

■光より速い通信は登場しないのか?に何と応えるか?
 今から200年遡れば、空気より重い鉄の塊が空を飛ぶなんて、誰も想像していなかったでしょう。
 500年遡れば、地球が丸いなんて、誰も考えていなかったでしょう。

 科学を考える上で、今日の常識は、明日の常識では無いかもしれない。
 もしかすると、自分が知らないだけで、それを研究している他の人は既に何かを考えついているかもしれない。
 "if"&"why"が思いつかないのなら、何も生まれない。
 今までの「常識」を覆す発明程、人々から賞賛される。

 私はいつもこう思います。

 だから、私がもし今回の件で返答する立場だとしたら「その可能性は否定出来ませんが、現在の科学では、「光を超える速度を持つ物質は存在しない、という前提で研究しています」と応えるのではないかと思います。

 「光を超える技術?そんなもん存在しませんよ!」と今の常識と、自分の知識の中だけで即答するのも、技術者として何か違うと思うから。

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Comment(8)

コメント

とおりすがり

あれは「仕分け」という政治ショーでの回答だから、あれで良いのです。
見ている国民がどのように感じるかが問題なのです。
あの質問者が、たまたま研究所を見学にきた一般人ならば、仰るとおりだと思います。

あおき

それより光ケーブルの敷設事業なんか国じゃなくてそれぞれの企業にまかせればいいんではないかという意見はなかったんでしょうか?なんというか日本人は共産主義者が多くて「国が何とかしろ」って言いがち。むしろ何もしなくていいから税金下げろと言いたい。

>とおりすがりさん
 一国民としては、政治ショーなら不要では無いかと思います。本質的には無駄を省く事が目的であるため、「政治ショーだから、内容なんてどうでも良い」と諦めてしまう国民側にも問題があるかと思いますが。

 政治ショーでは無く、もっと有意義な場にするにはどうすべきか?といった声を届ける仕組みと、反映させる仕組みが必要だと思います。

>あおきさん
 光ケーブルの配線が国が行うという理論は、実は私は賛成です。国策として他国と戦えるインフラを維持するためには、民間企業にまかせるのではなく、国として先導すべきかと。
 インフラを自由市場にまかせて、ボロボロのインフラが出来上がっているのが米国ですから。

膨大な血税を使ってまで国内で研究/開発しなければならない理由がない。
他国でも取り組まれている研究なのだから、開発/提供された製品を買うか
技術を買って生産/販売に取り組んだ方が安上がりで収益もある。

名無し

買った方が安いってのはごく短期的なお話でしょうに。
それでやってけるのは産油国とかだけかと。
自分の住んでる国が何で食えてるか考えるとその発想はまずいよ。
個人や一企業のやり方としてならともかく、国がそれじゃ将来が冥い。

今更他所と同じやり方で追いかけっこするなら。氏の意見はアリだろうが、
光ルータについては他所とは違うやり方じゃないか。

大元様、光ルータの話、大変参考になりました。
やはりこういった事をコストや将来性で考えるのは難しい物なんですね・・・
水物というか博打というか。

哀歌

>>結論として~誹謗中傷が多いように感じます。

統計でもとっているのならともかく、気のせいだと思います。
批判されているのは、「後進技術が出てくる可能性があるから投資する必要はない」という阿呆な論理構成です。
これが誹謗や中傷に見えるのは、なにか負い目があるからとしか私には考えられません。

nori

誹謗中傷が技術に向けられたとお思いでしたら、勘違いでしょう。

twitterユーザ

>>哀歌氏
仕分け人本人が、そういう意図で発言したわけではないと釈明しているじゃないですか。

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