「自分だけの武器」を持たねば、フリーランスとしては生きていけない。「オリジナルの戦略」を描けなければ、コンサルタントは務まらない。私がこれまで蓄積してきた武器や戦略、ビジネスに対する考え方などを、少しずつお話ししていきます。 ・・・などとマジメなことを言いながら、フザけたこともけっこう書きます。

10年前にサブスクビジネスを立ち上げ、まあまあ成功して感じた3つのポイント(前編)

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「サブスク」が流行っている。正式名称はサブスクリプションと言い、「毎月払う定額制ビジネス」を指す。今では音楽の聴き放題、洋服の借り放題、コーヒーの飲み放題などあらゆる分野で急増している。

企業はあらかじめ一定の収益を見込めるため安定性が増す。一方の消費者にとってはリーズナブルだったり知らない商品を試せたり、企業と消費者の双方にメリットがある。

サブスクは長いこと専門用語だった。ところが最近は、「ファッションもサブスクへ」なんてCMが流れ始めたように、徐々に世間に広まってきたようだ。今はまさに「サブスク勃興期」かもしれない。

じつは、まだサブスクリプションという言葉も概念も知られていない頃、今から10年ほど前だが、サブスクで新規事業を立ち上げたことがある。友人と2人で始めた「農業ビジネス」で、定額制で毎月、無農薬野菜を宅配するというものだ。

女性誌や専門紙といったメディアに取り上げられたほか、商業施設のイベントに出展するなどスタート当初から順調に進み、顧客基盤は全国に広まった。

定額制で野菜を販売する――。確かにサブスクだが、ちょっと異色だったのはそのビジネスモデルにある。

あらかじめ消費者から資金を募り、それを元手に野菜の種や資材を購入して農園を経営し、その見返りとして野菜を還元する――。今振り返ると、クラウドファンディング的な要素も含んでいたのだ。

もっとも、最初からサブスクやクラウドファンディング的なことを指向していたわけではない。「農業のマーケティングをやってくれ」と頼まれ、偶然見つけたのが一風変わった定額制ビジネスだった。

それは「CSA」と呼ばれ、欧米で密かに流行っている農業スタイルだった。CSAとは「Community Supported Agriculture」の略で、直訳すれば共同体で支援する農業という意味だ。「農家が減り続ける時代だからこそ、地域住民で特定の農家を支援し、その代わりに安全な農産物を購入しよう」という発想である。

日本には食にこだわりを持つ消費者は多く、すぐにピンときた。とはいえネットや専門紙をいくら探しても日本でCSAを実践している農家は見つからず、完全な手さぐりで始めるしかなかった。

「何か詐欺っぽくない?」「なぜ定額制で、しかも前払いしなくちゃいけないの?」――。

当初はなかなかビジネスモデルを理解してもらえず、会員集めに苦労した。主婦を集めてグルインしたり、値段を小刻みに上下させたり、テストマーケを1年ほど繰り返し、ようやく「サブスクの最適解」にたどり着いた。

単にお得感をウリにした定額制では消費者の理解は得られない。また、よほど売り方やサービスを工夫しないと定額制を維持することすら困難――。それが答えだった。

ブーム化しつつあるサブスクビジネス。しかし、いい加減な事業も目立っており、サービス開始早々に廃止や修正を余儀なくされる企業も出ている。買ってくれた消費者とつながり続ける「双方向コミュニケーション」こそ、サブスク最大の特徴。従来の発想とは異なる売り方やアイデアが求められる。

古くて新しい「CSA」が教えてくれたことはいろいろある。

1)「明確なテーマ」を設定する

CSAにおいては「消費者=共同体」という位置づけだ。共同体とは、地域社会だったり親戚一同だったり、あるいはスポーツクラブだったり、生活の一部を共有する人々の集まりである。どんな集まりにせよ、そこには必ずある種の「絆」がある。

さて、日本において実際にサブスクで集客するのは、地縁も血縁も何のつながりもないバラバラな人々である。そうした人々を共同体に見立てるとは、すなわち疑似的な絆を設定することにほかならない。

その答えの1つが「明確なテーマ」を提示し、消費者から理解と共感を得ることだ。ボクが農業ビジネスで提示したのは、「都会に暮らしながら所有できる、みんなの農園」というテーマだった。

会員は東京の人が中心で、畑に足を踏み入れた経験すらない人が大半だった。美味い野菜を食べたいのはもちろん、土に触れたり自分で野菜を収穫したり、自然を体験したいというニーズもあった。今でいう「コト消費」だ。農園は千葉にあり、利便性からもちょうどよかった。

自分の農園だから、会員はいつ農園に遊びにきてもいい。「こんな野菜が食べたい!」「生育状況を教えて!」など、わがままを言ってもいい。事実、健康野菜をつくってくれという老夫婦、なかにはわざわざ名古屋からやってくる会員もいた。

もう1つ重要なのは、「会員が触れ合える機会」をつくることだ。事業者と会員という「タテの関係」にとどまらず、会員同士の「ヨコの関係」を加えることで、疑似的な絆は強化される。たとえば、たまに直売会を開いていろんな会員に遊びにきてもらった。会員同士は見ず知らずだが、「一緒の野菜を食べている」ということですぐに盛り上がった。

定額制とはいえ、売ったら終わりではない。「毎月売る」「毎月喜んでもらう」といった発想がサブスクには何より重要だ。

2)「惹かれるストーリー」をつくる

事業を支援してもらう――。これがCSAのベースの発想だが、「寄付してもらう」「人情で応援してもらう」といった考えでは先がない。というのも、実態はあくまでビジネス。事業に魅力があって初めて支援を獲得し、また毎月の支払いも継続してくれる。

そこで欠かせないのが、「事業にストーリー性を持たせる」ことだ。消費者はいつも合理的な判断をするわけでなく、ときに自分の感情を揺さぶったり記憶に残ったりするものを好む。

ボクが手がけた事業の場合、「異色の経歴の二人が育てる、市場に出回らない究極の野菜」というストーリーをつくった。共同経営者は元外資系のトップセールスマン、ボクはコンサル業と並行してやっていたからだ。

共同経営者のポリシーは「日本の農業を救いたい!」という、かなり大げさなもの。真面目過ぎるほどマジメだった。一方のボクは、「美味い野菜を食べたいだけ」というごく個人的な動機、ほぼグルメ目線だ。

営業に行く先々でこのおかしな組み合わせは笑われた。「バカじゃない?」とも言われた。しかし、それが安全を求める消費者にも、グルメを欲する消費者にも響いた。そこまでして始めた農業だからこそ、「きっと何かが違うのだろう」という期待を抱いてくれたのだ。

生協やオイシックスなどライバルとなる宅配ビジネスは幾つもあったし、異常気象で届ける野菜の品数が減ってしまうこともあった。まさに「定額制ビジネスのデメリット」だ。それでも定額制から離脱する人が少なかったのは、やはり事業にストーリー性を持たせた効果も見逃せない。

毎月商品を届けることで企業メッセージを伝え、消費者と想いを共有していく――。

サブスクとは、じつはブランディングを進めるのに最適なビジネスでもある。ブランディングがうまくいけばライバル社との価格競争に悩む必要もなくなる。

3)「すべての産業はサービス業」という発想

携帯電話の複雑な料金プランがちっとも分からなくて不便だ。自分が加入している生命保険ってそもそも何が保証されるのだっけ?――。じつは「定額制ビジネス」という意味では、知らずのうちに毎月引き落とされる携帯や保険や新聞などもサブスクだ。

古くからあるこうした商品・サービスの顧客満足度は総じて低い。サービスは改善しないし、説明は分かりづらいし、そもそも毎月払っているのに毎月のメリットが感じられない。それは「携帯=通信業」「保険=金融業」といった考えで経営されているからだ。

「すべての産業はサービス業」と考えることが、どんなサブスクにも必要なスタンスだ。というのも、毎月、飽きることなく消費者に喜んでもらうことこそサブスクの生命線だからだ。「農業もサービス業」と考えると、手法は大きく変わった。

たとえば、野菜をつくる前から土づくりの様子、使用する堆肥の説明、植えた種の種類など、なるべく多くの情報を届けた。安全性を理解してもらうだけでなく、農家の仕事を身近に感じてもらうためだ。

すると面白いことに、野菜嫌いの子どもが野菜好きになったり、親が野菜を通して教育をするようになったり、思ってもいない効果が現れた。

栽培中も生育状況などを逐一知らせた。「まさに今、自分の野菜が育っている!」というワクワク感を持ってもらうためだ。野菜を届けた後はおすすめレシピを送り、味の感想やニーズなどを集めて次回の栽培計画に反映させた。

農業をサービス業として捉えると、「来月はあれをした方がいい」「春までにはこの部分を改善しよう」などアイデアは無限に広がっていく。

毎月、同じ消費者と向き合う――。サブスクは安定した収益をもたらす一方、常に消費者の厳しい視線にさらされる、一瞬たりとも気の抜けないビジネスだ。消費者ニーズに合わせてどんどんマーケティングを進化させねば生き残れないのが、サブスクの宿命とも言えるだろう。

ところで、CSAの「Aの部分」、つまり「農業」を別の事業に変えるだけで、この販売手法は様々な事業に応用できるのではないだろうか。

たとえば魚好きの共同体で支援する漁業なら「CSF」、洋服マニアたちで個性的なファッションデザイナーを支援する「CSF」、酒好きな人々が伝統的な酒蔵や隠れ家的なワイナリーを支援する「CSL」――。実力がありながら世間に知られていないニッチな商品ほど相性がいいだろう。

ちなみに、ボクが手がけていたサブスクは年額24万円。1カ月にすれば2万円である。すべての野菜が無農薬・無化学肥料というプレミアム性はそれだけの価値があるとはいえ、スーパーならキャベツ1個100円程度のところ500円と、かなり高額だ。

それでも集客できたのは、「いかに売るか」という最初のマーケティングにこだわったからだ。次回は、サブスクで失敗しないマーケティングの話を。

(荒木NEWS CONSULTING 荒木亨二)

CSAのほか、サブスクに関するアドバイスも行っています――。マーケティングを立て直す専門のコンサルティングです。詳しくは下記Webサイトをご覧ください。

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