「自分だけの武器」を持たねば、フリーランスとしては生きていけない。「オリジナルの戦略」を描けなければ、コンサルタントは務まらない。私がこれまで蓄積してきた武器や戦略、ビジネスに対する考え方などを、少しずつお話ししていきます。 ・・・などとマジメなことを言いながら、フザけたこともけっこう書きます。

子供だましの豪華イベントと、大人も喜ぶ地域イベント

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映画「007」を生のオーケストラで聴く――。というイベントがあった。GWのど真ん中の話である。007にもクラシックコンサートにも興味はなかった。ただ「映画×オーケストラ」という異色のコラボに興味を惹かれ出向いたのだが、それは何とも子供だましのイベントだった。

やはり映画の醍醐味といえば「大画面」「大音量」で世界観に入り込める没入感だろう。日常では味わえない環境だからこそ、高いカネを払ってまで足を運ぶものだ。ところがこのイベントはまったく映画に集中することができなかった。

なぜなら、オーケストラがスクリーンの前方に陣取っていたからだ。映画は真っ暗のなかで観るからこそ集中できるのに、あろうことか映画の上映中もずっとオーケストラに淡いライトが当たっている。おそらく真っ暗にすると団員が譜面を読めなくなってしまうためだろう。

明るいだけでも映画にはマイナスなのに、スクリーンの前で華麗に腕をふるう指揮者がひたすら視界にちらついてしまい、もはや映画に集中できない。さらに興ざめさせることには、映画の中盤にさしかかった頃、突然画面が止まった。

「これより20分間の休憩に入ります」

「......はい?」

アナウンスとともに館内は明るくなった。まさかの映画の途中休憩。長い映画の演奏とあってはさぞオーケストラも疲れるだろう。そんな主催者サイドの配慮に違いない。

誰のためのイベントなのだろう――。

仕方なくロビーへ出るとGWの抜けるような青空が待っていた。ものすごい日常感である。

その後、席に戻るも一切集中できぬまま映画は進み、とうとうラストになりスクリーンにはエンドロールが流れ始めた。「007」といって真っ先に思い浮かぶのは、あのお馴染みのテーマ曲。映画を観たことはなくてもあの曲なら誰でも知っているだろう。

ここぞオーケストラの出番。とばかりに超張り切った演奏が繰り広げられる。さすがオーケストラ、やはり生の演奏は迫力があるが、ふと思った。

「あれ、オーケストラは最後だけでよかったんじゃない?」

イベントが開催されていたのは有楽町の東京国際フォーラム。数々のコンサートが開かれるように、元々が素晴らしい音響設備を整えている。つまり、わざわざオーケストラを呼ぶ必要など最初からなかったのだ。事実、2時間ずっと演奏していたオーケストラだったが、生の演奏のよさを実感することは一度もなかった。

映画が終わり明るくなった館内で、苦笑まじりに立ち上がる客の表情が気になった。「このイベントって何?」「結局、映画の良さを殺しただけじゃない?」「実力を発揮できないオーケストラの人たちも気の毒よね」――。そんなガッカリ感である。

いい映画といいオーケストラを合わせれば、いいイベントになるのではないか――。そんな主催者の思い込みは見事にハズれたわけだ。ちなみに値段は1万円ほどだったと思う。まったく子供だまし、いや大人だましのイベントである。

その翌週、クルマで関西へ旅行に行った。3泊4日のうち1日だけあいにくのドシャ降りとなってしまった。見るべき名所もなく、かといってホテルに籠っていても仕方ないので、アテもなく山のなかを運転しているうちに福井県の小さな港町にたどり着いた。

街の中心にある商店街は閑散としており、いわゆるシャッター通りのようだ。さらにはものすごいドシャ降りとあって人の姿はまったくなく、やけに寂れた印象だ。

ところが、街の外れにある港の一角だけ妙に賑わっていた。尋常でない数の車が止まっている。気になって向かってみると、港には立派な艦船が停泊していた。

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艦船を見る機会など滅多になく、異様な迫力に目を奪われた。すぐそばには体育館みたいな施設があり、ドシャ降りのなか次々と人が吸い込まれていく。きっと珍しいイベントが開かれているに違いない。

ところが、体育館のなかで行われていたのはごく普通の地域イベントだった。地元の鉄道会社がPR映像を流していたり、地元のお母さんたちが作ったお菓子が売られていたり、地元の警察が安全啓蒙の講話をしていたり。

いたって地味なイベントである。いや、イベントというよりその本質は、地域の会社や行政が住民に自分たちの活動をアピールする場。お祭りの姿をした広報活動である。港に停泊した艦船もまた自衛隊の広報だったわけだ。

しかし、子どもも大人もじつに楽しそうに館内を回っている。ドシャ降りにも関わらず街の住民全員が訪れたのではないか、と思うほど賑わっている。そんな人気の背景にあるのは、主催者サイドに溢れる「住民への配慮」だろう。

退屈しがちな警察による安全啓蒙のお話は、子どもたちの関心を集めるため紙芝居で行われていた。警察のゆるキャラもいるため、子どもはすっかり話に夢中になっている。

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鉄道会社のコーナーでは、子どもは制服を着て写真撮影し、それをその場で缶バッジにして配っていた。いまどき缶バッジというのは珍しく、それが憧れの鉄道の制服姿とあっては子どもが喜ばないはずもない。そして福井といえば原発。電力会社もブースを構えていたが、重くなりがちな原発の話を分かりやすい映像で説明している。

鉄道会社も、電力会社も、そして警察までもが見事に住民の心をつかんでいた。それは自分たちの「伝えたい気持ち」をぐっとおさえ、住民に楽しんでもらうことを徹底していたからだ。

コト消費が叫ばれる昨今、いろんな企業が体験型イベントに知恵を絞るが、企画するうえで大切なのは自社を売りたい、アピールしたいという自己都合でなく「相手の都合」を最優先させることだ。

その点、福井のイベントは親の都合をよく汲みとっている。安全や原発といった難しい話はその道のプロに任せた方が楽だし、学びの効果は大きい。毎年開かれることで自然と地域への愛着も醸成してくれる。

また、GWが終わった後の週末というタイミングも巧妙だ。親はGWで疲れている。一方で子どもは遊びに行きたいとせがむ。そんなときに近場で楽しめるイベントがあれば、親にとっても渡りに船というものだろう。

有名映画と豪華なオーケストラ――。双方の良さを台無しにする子供だましのイベントよりも、福井の小さな港町で偶然出会った地域イベントのほうが、よほどマーケティングに優れている。

(荒木NEWS CONSULTING 荒木亨二)

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