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「自分だけの武器」を持たねば、フリーランスとしては生きていけない。「オリジナルの戦略」を描けなければ、コンサルタントは務まらない。私がこれまで蓄積してきた武器や戦略、ビジネスに対する考え方などを、少しずつお話ししていきます。 ・・・などとマジメなことを言いながら、フザけたこともけっこう書きます。

猪子さんとか安藤さんとか。「週刊SPA!」11/20・27合併号は豪華ナリ

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 「社長、そんな取材対応していては、ダメに決まってるでしょう?」。とあるベンチャー企業の経営者と打ち合わせをしているときのこと。私の口から、思わず厳しい言葉が飛び出した。彼はある雑誌の取材を受けたのだが、自分の話したことがちっとも誌面に出ていないと、愚痴をこぼすのだ。彼はメディアトレーニングを受けていなかったため、取材のイロハを知らず、せっかく雑誌に出たというのに何の反響もなかった・・・。

 このような苦い経験を持つ経営者やビジネスマンは、意外と多いのではないだろうか? メディアの取材を受ける際には、それなりのコツや押さえておくべきポイントがある。「よし、取材が来た~!」などと子どものように舞い上がらず、そこはスマートにこなしたいもの。ちょうど先日、私は「週刊SPA!」の取材を受けたので、これを参考に「マスコミと上手に付き合う取材対応」の話を少々・・・。

1.マスコミの求めているコトを探れ

 今回の「週刊SPA!」の取材オファーは、『革命的! 名刺デジタル活用術』という特集に関するものだった。有名人でもない限り、単独インタビューという形式はほぼなく、こうした特集に組み込まれることが一般的。さてこのようなオファーをもらった場合、最初にすべきことが3つある。

①媒体力を確認する

 単にマスコミに露出すれば良いというものではない。冒頭で挙げた経営者のように、〝正しく露出しないと、思ったような成果は得られない〟のが、マスコミ取材の難しいところ。ズームイン朝のスタジオの後ろでピースをしても仕方がないのと一緒で、出ても意味がない。まずは、取材オファーをかけてきた媒体は、どれほどの影響力を持つのか? その実力や特性を探る必要がある。

 例えば「週刊SPA!」なら、発行部数は約12万。週刊誌としてはけっこう健闘している部類に入る。ターゲットは20~30代のビジネスマンで、扱うテーマはビジネスからちょいエロまでいろいろ、エロエロ。と、誰でも簡単に調べられるだろう。

 がしかし、肝心なのは見た目の媒体力だけでなく、データに表れないチカラや個人的な感覚。「週刊SPA!」は創刊20年を超える老舗の雑誌であり、雑誌不況の現代においては、この伝統だけでも相当なブランドを確立してると言える。また「週刊SPA!」は軽妙な感じがステキ、つまり個人的に好きな雑誌だったので、露出した方がいい、というか出たいと判断した。

 ところが、媒体力があっても露出しない方がいいケースもある。それは自分(自社)のブランディングにデメリットに働くかもしれないとき。以前、農業ビジネスを主宰しているとき、エコやロハスをウリにしている雑誌に出ませんか? という話があったが、断った。私はエコやロハスというような訴求をしていなかったことに加え、そういう軽いコトバ・意味不明なコンセプトが嫌いなので、売り上げアップよりも自分のブランディングを守る方を優先した。

 露出する媒体はきちんと選ばなければならない。ホイホイ出ても良いことはない。

②企画内容を確認する

 次は企画内容の確認。要は、自分(自社)がその特集において〝どのような映り方をするのか〟ということ。たとえそれが好きな媒体だったとしても、「ビジネス界のエロの達人特集」だったなら、そこに出ればマイナスのプロモーションとなることは言うまでもない。

 今回の場合、「名刺を有効活用しているビジネスの達人」という特集で、これは私にはドンピシャのテーマだった。というのも、今春、私は「名刺は99枚しか残さない」という新書を出版していたため、取材が良いプロモになると考えたから。しかも、名刺をデジタル管理するビジネスマンを中心に紹介しつつ、その対極として〝アナログにこだわる達人〟という位置づけ。これは逆バリ戦略なので、効果的な演出となる。

 最適な特集で、オイシイ映り方を選ぶ。

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『名刺は99枚しか残さない』(メディアファクトリー)

 ③露出スペースの確認

 では、いったいどのくらいのスペースで誌面に登場するのか。露出の大きさも重要。例えばその特集に40人も登場し、自分の掲載スペースが免許証ほど小さいものだったなら、誰も目にしないだろう。出ても効果が薄いのだ。

 そこで本来は、事前に露出スペースを確認したいところだが、これはやめた方が無難。無名人なのに「露出が少ないから」という理由で断ると、相手の気分を害する恐れがある。これに関しては、実際の取材の際、さりげなく確認することをオススメする。

 露出スペースはさておき、媒体特性と企画内容を確認すれば、おおまかに〝自分の映り方〟を理解できるだろう。そこから考えるべきは・・・

 「相手は何を求め、自分を取材したいのか」ということ。

 要は、相手のニーズを知ること。今回の例で言えば、名刺の特集なので、当然ながら名刺の話題である。そして、アナログの達人として取材されるのだから、他の人とは異なる名刺のテクニックが知りたいのだな、と推察できる。可能な限り、細かく具体的にイメージを起こすことが重要なのだ。

 取材で最もありがちな失敗は、相手のニーズを事前に考えもせず、ただ何となく取材に臨むこと。取材もビジネスなのだから、自分の好き勝手に喋っているようでは、まず相手を満足させることはできない。満足させることができなければ、当然のように自分の印象は悪くなり、その結果、良いコトを喋っても、良い記事を書いてはくれない。

2.自分の言いたいことを考える

 相手のニーズを探ったなら、次は〝自分の言いたいこと〟を考える番。取材は基本的に、聞かれたことに答える場だが、いざ質問されると意外や意外、最適なコトバが出てこないもの。こうなると取材がボヤけてしまい、せっかくの機会が台無しになってしまう。こうした事態を避けるには、自分(自社)を表現するに相応しいキーワードなりコンセプトなり、もしくは面白いエピソードなどを事前にまとめておく。今回の取材で言うなら、私は次のような3つのコンセプトを用意した。

 ①「名刺は99枚しか残さない」は単なる名刺の管理術ではなく、活用術。ビジネスのアイデア発想法を鍛え、数年後にビジネスの成功を目指す、本物志向の人のための本。

 ②名刺を99枚に減らせば、99人との付き合いが深まる。これは自然と人脈強化につながり、絞り込んだ99人から有力な人脈が増えていくので、むしろ人脈は増える。

 ③本書を大きく評価してくれたのは、経営者・取締役・編集長など、企業のエグゼクティブが多かった。なぜなら彼らは、名刺を大量に抱えていると同時に、常にアイデアを必要とし、人材を動かす立場だから。

 これが取材における私の言いたいこと、つまりウリとして考えたこと。しかし、そのまま喋っても相手にはまったく響かない。「これが良いんです」「ね、スゴイでしょ?」と、いくら押し売りのように喋っても、それが相手のニーズ=取材したいことにマッチしていなければ、誌面に載ることはない。むしろ、コミュニケーション力がない人と思われ、嫌われる。先のベンチャー企業の経営者がまさしくそう。

 相手のニーズを考慮した上で、上手に自分の言いたいことを織り込んでいく。

 クライアントとの打ち合わせ然り、重要な商談然り・・・。取材は決して特別なことではなく、実際のビジネスとコミュニケーションの原理は一緒である。自分の言いたいことをスマートに織り込んでいくのは、その場で考えついてできるような芸当ではないので、先にきちんと言いたいことを整理しておく。

3.媒体に合わせて喋る

 さて、取材当日。上記の1)2)を踏まえて取材に臨むわけだが、最初に〝媒体の再確認〟をしたいところ。例えば「週刊SPA!」なら、Webの情報によればターゲットは20~30代のビジネスマンとなっているが、実情はズレていることがままある。実際は30代後半~40代前半かもしれない。ターゲットが異なれば、話し方やテーマを微調整しなければならないだろう。

 また、読者層の傾向や好まれるネタなど、その雑誌で〝ウケのいい話題〟を聞き出すことも忘れてはならない。なぜなら、同じ言いたいことでも、雑誌のウケが良いように喋ってあげた方が、そのコメントが掲載される確率は高まるうえ、雑誌の編集者も良い誌面に仕上がるので喜ぶ。ちょっとした気遣いが、双方にメリットをもたらすわけだ。やはり、ここもビジネス感覚が大事。

 取材は目の前の相手に喋るのではなく、その向こうにいる読者を意識すべし。 

 ということで、取材に入る前の媒体の再確認はとても重要。編集者のリアルな声、現場感覚に耳を傾けるだけで、さまざまな発見があるはず。これを取材前にしっかり実践できるとかなりスマートだし、取材もスムーズに進行する。

 「週刊SPA!」は20代よりも30代が中心、がっつりビジネスを語るよりも、柔らかめなトーンの方が好まれることが分かった。さらに今回の特集に関しては、煽り系の記事よりも救い系のテーマを少し入れた方が良い雰囲気だったので、事前に考えたコンセプトを念頭に置きながら、取材の過程で少しずつコトバを変えていくことにした。

4.サプライズと笑いを入れる

 たいてい、優秀な編集者は取材にやってくる時点で〝自分の絵〟を思い描いている。自分の絵とは、特集が完成したときの誌面のこと。編集者はプロデューサーみたいなもので、1つの記事だけでなく、それらが積み重なったときの〝全体像〟を重視する。例えば特集の冒頭でAさんが盛り上げ、Bさんはそれを引き継ぎ、Cさんで一旦落ち着いて・・・みたいなトータルな演出。

 となると当然、特集において、私にも求められている〝何らかの役割〟があるはず。取材とは、絵を完成させるための証拠集めみたいなものなのだ。基本的には、編集者の絵が完成するよう、うまくお手伝いをするのが正しいスタンス。とは言いつつ、どこかで〝役割から逸脱〟することも重要。

 なぜか? 相手の期待を裏切るような面白いコト、言ってみればサプライズを与えられなくて、何のための取材だ? わざわざ足を運んでくれたのだから、出来れば楽しい取材にしたいではないか。そもそも今回のように本にからむ取材であれば、すでに相手は本を読んできている。本に書いてあることを答えても、面白みにかける。「ああ、そうですか」「はい、そうですよね」で終わり。取材では、エンターテイナーに徹しなければならない。

 そこで、相手を笑わせる。これ、基本。ただし、笑わせると言っても、取材と関係のないところで笑わせるワケではない。いや、まあ、できるなら笑わせてもいいが、やり過ぎると取材の時間が足りなくなるので、ほどほどに。

 例えば今回なら、私の本の裏話を披露したり名刺にまつわるエピソードだったり、あくまでも取材ネタをベースに笑わせる。相手が知らない情報はサプライズとなり、なおかつそこに笑いを交えることで、話しに躍動感が生まれる。案外こうした〝脱線ぎみの話題〟こそ、取材におけるキーワードとなることが多い。

 こんなとき、編集者は喜ぶ。特に編集方針を決めかねている場合は、渡りに船とばかりにキーワードに飛びつく。それを軸に文章を作っていけばいいので手間が省けるとともに、取材イメージが鮮明になるからだ。これで更に、自分の言いたいことが掲載される確率が高まるだろう。

 基本は相手の取材ペースに合わせつつ、時に自分がディレクションができると、なお良い。

5.撮影と、その後の対応

 言うまでもないが、ファッションはセルフプロデュースのひとつ。こと取材においては、自分が着たい服を着るのではなく、〝見られたい自分〟のイメージを想像して服を選ぶ。「普段着で良いですよネ?」などと言って、クマモンのTシャツで雑誌に載ったら、「おい、こいつクマモン着てるよ。こいつが書いた本、信用できるのか?」となる。

 さて、撮影。自宅オフィスにて、仕事をしている様子を撮るとのこと。う~ん、と、しばし考える。恐らく特集で一緒に登場する人はみな、仕事がバリバリできそうな〝ザ・ビジネスマン的な写真〟に違いない。それはちょっとハズしたい。ということで、最近作ったドムのプラモを、さりげなくPCの向こうに置いてみた。いまいち。そこで、ドムに「笑っていいともポーズ」をさせてみた。

どむ.JPG

 「良い感じですね~」と、編集者とカメラマン。ホントかい?  どうせなら、我が家のパグ3匹だっこして写真に映ろうかと思ったが、さすがに編集者に怒られると思ったので、提案するのを諦める。自粛する。また次回。

 取材が終わり、お土産に先日発売されたばかりの私の新刊、『就職は3秒で決まる。』をあげる。「SPA!でこんな企画あったら、ヨロシクね」と、ささやきながら・・・。

 ところで、取材が終わった後も重要。通常はゲラを送ってくれるので、こちらで記事・プロフィールなどをチェックして、原稿を戻すという作業がある。

 私もプロの執筆業、ゲラを見る目はかなり厳しい。半端なくこだわる。がしかし、それは自分が書いた文章の場合のみ。取材で書いてくれた文章に関しては、あまり赤を入れるべきではない。雑誌には雑誌の雰囲気があり、特集には特集の意味がある。取材はあくまでも絵の一部分に過ぎないのだから、とやかく言うのは失礼にあたる。

 さて、ゲラを見て驚いた。猪子寿之さんや安藤美冬さんなど、今をときめく時代の人と一緒に、私が特集の面々に入っている。こんな豪華な顔触れに、私が入って良いのだろうか・・・。オイシイ。さらに驚いたのは、私の知人が偶然にも、一緒に紹介されていたこと。

 「SPA!を買ったけどお前が載ってないぞ」と、友人から電話があった。ん? どこを見てるのだろう? と思ったら、『一攫千金を実現する事業計画書』という特集のなかで、私を必死に探していたらしい・・・。

(荒木NEWS CONSULTING 荒木亨二)

小売業/サービス業のマーケティング戦略づくりに定評――。マーケティングを立て直す専門のコンサルティングです。詳しくは下記Webサイトをご覧ください。

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