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RPAとDXの現実的な組み合わせとは

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ITmediaでも特集ページが開設されるなど、RPAが盛り上がっています。RPAは実際に目に見えて効果が上がるケースが多いですし、経営層にとっても投資しやすいという面があるのでしょう。しかし以前も書きましたが、RPAは「その場しのぎ」を助長してしまう可能性もあります。

RPA って、非効率なシステムを温存することになったりしないのか?

このエントリで書いたのは、RPAは「弥縫策」であって、本来はビジネスプロセスを見直し、改善すべきだということです。そして、ビジネスプロセスの改善というのは、最近叫ばれているもう一つのキーワードである「デジタルトランスフォーメーション(DX)」ということになります。

ただ、現実を見ると、何が何でもDX、というわけにも行かないのかもしれません。日本では、RPAとDXをうまく組み合わせる必要がありそうです。

isogashii_woman.pngまずはDXを目指すべきでは

経産省は、このままDXが進まないと2025年に危機を迎える、ということで警鐘を鳴らしました。

日本は2025年の崖を回避できるのか

DXが目指す業務効率化の基本は、ビジネスプロセスを根本から見直し、根本からデジタル対応させることで、これまでとは異次元の効率化を目指すものです。RPAは、現状のビジネスプロセスの非効率性に目を瞑り、小手先の技術で手間を省くことで効果が上がることで、本来目指すべきDXに行き着かないことになりはしないでしょうか。

RPAの成功事例!??

IT Leadersの記事で、以下の様なものがありました。RPAで業務の効率化が達成できたというものです。

4人で対応していたデータ転記をRPAで代替しこだわりの結婚式を具現化する顧客対応に注力

しかし、タイトルからしてすでに嫌な予感を持ちました ^^; 「データ転記」って、まさにイケてないビジネスプロセスの象徴のような言葉です。中を読んでみると、

結婚情報メディアが運営するWebサイトの仕組みは概ね共通しており、顧客が専用フォームから会場見学予約や問い合わせのアクションを起こすと、ブライダル業者の所定のアドレスにアラートメールが送信されるようになっている

なるほど。ここまでは良いでしょう。

データの一括ダウンロード機能を用意しているWebサイトは限られ、多くの場合はカスタマーセンターの担当者がコピー&ペーストを繰り返して自社の基幹システムに再入力することとなる

ここで雲行きが一気に怪しくなります。

1日でかなりの件数に対応しなければならないため現場の作業負荷はことのほか大きい。やむなくカスタマーセンターでは、4人体制で毎日シフトを組んで対処していた

やはり、そうなりますよね。この後はお決まりのように、RPAの導入によって劇的に効率が上がった、と続きます。

転記しなくても良いシステムを作る方が良い

それはそれでめでたいことですが、私が感じる違和感は、「最初からデータ転記なんかしないで済むようにシステム作っておけばいいんじゃ無いの?」ということです。このシステムは

  1. 「結婚情報メディアが運営するWebサイト」に問合せが入る
  2. ブライダル業者の所定のアドレスにアラートメールが送信される
  3. ブライダル業者はWebサイトにログインして内容を確認
  4. 内容を画面上でWebサイトから基幹システムにコピペ

ということになっています。つまり、3から4へのデータ転記に手間がかかっているわけです。そこをRPAを導入して自動化したということで、そりゃまあ、効果は上がるでしょう。しかし、本来あるべき姿(=DX的)としては、

  • 最初からWebサイト上で内容確認から顧客管理・スケジューリングまでできるように設計しておく

か、

  • APIを用意し、Webサイトから業者の基幹システムへ自動でデータが流れるようにする

ではないかと思うのです。

ただ、私もこのケースについて詳細を知っているわけではありません。こういったシステムの場合、わかっていても構築時にそこまでやっていられない(スケジュール的にも予算的にも)という状況は起こりがちですし、「後で時間ができたらやろう」と思っていて結局延び延びになっているだけなのかも知れません。ただ、これをシステムの外側でRPAで解決してしまうと、このシステムが今後あるべき姿に修正される可能性は低くなるでしょう。それは、DXへの道が遠のく(=チャンスを逸する)ということになります。

RPAでないと対応できないところもある

とはいえ、自社内だけで完結できないシステムの場合には、あるべき姿を追うことができない場合も多々あります。上の例で言えば、結婚情報メディア側がシステム改修あるいはAPI公開をしてくれない場合には、ブライダル業者はRPAを使うしかないでしょう。あと、紙での処理が義務づけられたり、他システムとの連携が制限されることがある金融系とか官公庁、それらの組織とビジネスをしている企業などは、自社だけ勝手にDXに移行するわけには行きません。

と、ここまで書いてくると、変わってくれそうにないレガシーなシステムと付き合わざるを得ない会社・組織は結構多そうです。特に、政府が率先してペーパーレスに取り組んでいる欧米に比べ、日本は官公庁の改革が遅れていると言わざるを得ません。つい先日も、国会でタブレットを使うことが許されなかったというニュースがありました。こういうのを見ていると、政府機関のデジタル化には時間がかかりそうです。

そうなると、外部との接続はRPA、内部処理をなるべくDX、という解決方法しか(今の日本では)ないような気もします。

RPAで盛り上がっているのは日本だけらしい

欧米にもRPAは存在していますが、RPAは日本では流行っているが、欧米ではそれほどの勢いは無いのだそうです。

【経営戦略論】プロに任せるという選択。ムダなこだわりはもう捨てよう

こちらの記事は、主にERPの話(日本のERP導入はカスタマイズが多すぎるという話)ですが、後半にRPAについて少し触れられています。

それって、日本はこうした標準化されていない業務を標準化するために、簡便な業務自動化ツールとしてRPAが使われているような気がします。もともと、標準化をベースに仕事が設計されている欧米は、RPAは必要ないのではないかな、と。つまり、RPAは標準化されていない業務プロセスやルールがある企業にこそ、必要な気がしています。

個々の企業の問題もあるでしょうが、社会システムというか、仕事に対する理念が違うのかも知れませんね。

RPAは、いろいろな意味で非常に日本的な解決方法ということもできるかも知れません。しかし、少なくとも「この方向性は理想とは違うが、とりあえずは仕方ない」という認識だけは持ち続けていた方が良さそうです。

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