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時代はハイブリッド&マルチクラウドへ

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IBMは昨年RedHatの買収を発表したとき、「ハイブリッドクラウド・プロバイダー」になると強調しました。そして今年2月中旬に行われたThink 2019では、ハイブリッド+マルチクラウドが大きくフィーチャーされたようです。

IBM Think 2019が開幕、クラウドはハイブリッドクラウド、マルチクラウドの第二章に入った

この記事では、ロメッティ会長の言葉として「既存の基幹系システムで動いているようなアプリケーションは、このクラウドの第二章の中でクラウド化していくことになる。それらはミッションクリティカルなアプリケーションであり、結果的には全てをパブリッククラウドに移行するのではなく多くの企業はハイブリッドクラウドの形で運用するようになる。」としています。そしてさらに、

「そういったアプリケーションの40%はプライベートクラウドに置き、残り60%はパブリッククラウドに置くことになるでしょう。つまり第二章のクラウドは、ハイブリッドクラウドでありその上でマルチクラウドになるのです」

と語ったとされています。元々昨年の発表の中には両方の言葉が入っていましたが、マルチよりもハイブリッドの方が強調されていました。ここへきて業界全体がマルチクラウドにシフトしてきたために、メッセージを若干修正したということでしょう。

kumo_bg.pngハイブリッドは、現実路線でオンプレミスを守ろうとするIBMの戦略なのか

ハイブリッド&マルチというのは要するに、IBMが優位に立っている基幹系などのミッションクリティカルシステムは「そのまま」使って貰い、他社が強い情報系などの分野では無理に戦わずに、「ハイブリッドクラウド」として運用する、ということなのでしょう。

自社製品(メインフレーム)のマーケットを温存し、勝ち目の薄い(強豪ひしめく)クラウドでは、一歩引いて自社クラウドに拘らない姿勢を示すことで、マルチクラウドのハブとしての地位を確保したい、というのが狙いなのではないでしょうか。

マルチクラウドはオープン戦略へのシフト

Publickeyの記事では、マルチクラウドの方が大きく取り上げられています。

マルチクラウドはクラウドの未来である、というIBMとVMware、Red Hatらが一致するクラウド戦略。IBM Think 2019[PR]

[PR]とあるように、IBMの意向が色濃く反映されているものと考えられますので、今後はむしろマルチクラウド推しになっていくのなのかも知れません。

Publickeyの記事の中ではマルチクラウドについて

同社が昨年発表した「IBM Multicloud Manager」は、IBM CloudはもちろんAWS、Azure、Google Cloudなどのパブリッククラウドやプライベートクラウドを一元管理できます。また、「IBM Cloud Integration Platform」では、複数のクラウドを単一のプラットフォームとして統合し、統一したセキュリティの確保、アプリケーションのデプロイなどを可能にします。

と説明されており、要するにIBMを中心にすれば他社のクラウドを相互接続して「いいとこ取り」ができますよ、というソリューションです。他人の褌で相撲を取るとも言えますが、すべてのソリューションを「オープンに」統合できるということもできます。

自社プラットフォームを中心にしてまわりをオープンに取り込んで行こくことで、プラットフォームとしての位置づけを守る、という姿勢は、近年のMicrosoftにも通じます。MicrosoftはCEOの交代に伴い、オープンソースとの対決姿勢を改め、Windowsへの拘りを捨て、オープンなクラウドへと舵を切りました。業績は好調で、戦略転換はうまく行ったと見るべきでしょう。

AWS、Microsoft、Google、Oracleもハイブリッド・マルチクラウドに参入

ここへきて、ほとんどのクラウドベンダーがハイブリッド・マルチクラウドに参入してきています。

ハイブリッドクラウドというのは、オンプレミスとクラウドの組み合わせであり、オンプレミスにシステムを持つIBMやMicrosoftなどが有利とされてきました。AWSやGoogleはクラウドから参入したため、オンプレミスにシステムを持っていなかったためです。しかし、クラウドのみではセキュリティやレイテンシなどの要求に応えられない場合もあり、オンプレミスとクラウドを「適材適所」で組み合わせるハイブリッドクラウドが有力になってきていました。

そこで、クラウドベンダーはパブリッククラウドのプラットフォームをそのままオンプレミスに設置できるようハードウェアと組み合わせるなどして、自社技術でハイブリッドクラウドを構築できるようにする動きに出ました。AWSMicrosoftGoogleOracleなどが、相次いでハイブリッド環境を発表し、さらに外部のクラウドとも連携できるマルチクラウドを推進しています。

今後は、ハイブリッド&マルチがクラウドの標準的な構成になっていくのでしょう。

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