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経営者のITリテラシーが如何に大事かを教えてくれる、ある旅館の事例

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経営者はITの知識を持つべし、ということはずいぶん昔からあちこちで語られていると思いますが、事態が改善しているようには思えません。先週、経済産業省のレポートについて書きましたが、レポートの中にこんな下りがあります。

こうした中で、例えば、経営者からビジネスをどのように変えるかについての明確な指示が示されないまま「AIを使って何かできないか」といった指示が出され、PoCが繰り返されるものの、ビジネスの改革に繋がらないといったケースも多いとの指摘がなされている。

「例えば」とか言ってますが、これ、「あるある」では無いでしょうか? ついに政府からも指摘されてしまっていますが、相変わらず経営者からの「丸投げ」があちこちで行われていることを示唆しています。こんな状況でデジタルトランスフォーメーションが実現できるわけがありません。

building_ryokan.pngある旅館の事例

そんな中で目に付いたのが、この記事です。

借金10億円、倒産まであと半年――創業100年の老舗旅館「陣屋」をたった3年でV字回復させた方法

現在中編まで公開されていますが、凄いのはこの事例に最新のITトレンドのキーワードがいくつも入っていることです。クラウド、アジャイル、リーン、DevOps、IoT、AI、内製、働き方改革。。。

記事によると、ご主人は元ホンダのエンジニア、女将は元リース会社だそうです。失礼ながら、一般的な旅館の経営者よりはITリテラシーは高いでしょう。事実、2009年の時点でご主人がクラウドの利用を提案したということです。当時、クラウドはIT業界ではそこそこ話題になっていましたが、まだ中小企業での導入事例などほとんど無かった頃だと思います。資金が底をつきかけていたからとはいえ、知らなければ選択肢もありません。情報と、可能性を見極める(少なくとも感じ取れる)知識ベースがあったこと(=リテラシーということでしょう)が、明暗を分けたといえます。

女将もなかなかわかっています。

「もともとリース会社で働いていたので、システムの入れ替え時に面倒なことになる様子を見てきたんです。4~5年で減価償却が終わるころには、テクノロジーが大きく進歩していてOSも変わっている。そのままシステムを載せ換えることもできず、移行の作業費がムダに膨れてしまうのです。システム会社はもうかりますが、自分の会社という立場で考えれば当然イヤですよね(笑)」(宮崎さん)

これ、正しいです。現在のリース・レンタルベースのシステム構築の大きな問題は、「技術が3年ないし5年、固定化されてしまう」ことです。変化の速い現代において、これは致命的な問題になり得ます。

日本の再生には経営者の意識改革が必要なのか

そんなことを考えている時、こんな記事も目にしました。

86歳のコトラー教授がデジタルを語るのを聞きながら、日本の経営者のデジタルへの無関心に悲しくなる

徳力さんのnoteですが、タイトルが目を惹きました。(内容はマーケティングの話です)やはり皆さん、経営者のITリテラシーの低さは感じておられるようです。

しかし、今の経営者のリテラシーを高めるのは容易では無いでしょう。先の旅館のように、代替わりが進んでデジタルネイティブな世代が経営者になれば、事態は少しずつ変るのかもしれませんが、それは2025年に間に合うのでしょうか。。

【追記】

PoCの功罪について、斎藤さんのブログもアップされました。こちらも合わせてどうぞ。

PoC貧乏とPoC成金

【追記その2】

ITメディアの記事の後編が公開されています。

これを旅館と呼んでいいのか!? 老舗旅館「陣屋」が切り開く新たなビジネスモデル

DXとは、「すべての企業がIT企業になる」こと。だから、これで良いのですよ。

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