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Gartner のハイプサイクル 2017 ~ 今年の注目点、昨年からの変化

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米調査会社のGartnerが毎年発表している「Emerging Technologies Hype Cycle」の2017年版が公表されました。

Gartner Identifies Three Megatrends That Will Drive Digital Business Into the Next Decade

日本語版も「先進テクノロジのハイプ・サイクル」として近日中に発表されると思いますが、毎年夏はこのニュースを心待ちにしております。

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ハイプサイクルとは

ハイプサイクルについての説明はこちらにありますが、簡単に言うと、IT業界での注目技術をリストアップし、S字が横に寝たような特殊な曲線上にプロットしたものです。

IT業界で新しい技術や製品が発表されると、最初は「これは凄い」「夢の技術だ」ということで、注目度が一気に上がります。これが「黎明期」。しかしそういった技術は、狙いは良くとも実装が追いつかなかったり、周辺技術が整っていなかったりで、最初は狙い通りの効果を出せないことがほとんどです。そのため周りはがっかりし、「期待のピーク」に達した技術は「幻滅期」に入ります。ここで無くなってしまう技術も多いのですが、実装や周辺技術が追いついてきた技術については、徐々に現実のビジネスで採用されてゆきます。これが「啓蒙活動期」です。その後、技術が安定すると、「生産の安定期」に入り、広く普及していく、という流れになる、という考え方です。これを、縦軸に期待度、横軸に時間をとって曲線にしたのがハイプサイクルで、多くの技術がこの曲線上を動くというのがGartnerの主張で、IT業界の最新動向、今後のトレンドを見る上で非常に重要なものなのです。

ただここで注意したいのが、期待のピークにある技術が必ずしもその後時代を牽引していくわけではない、ということです。むしろ、期待のピークにある技術は理想と現実にギャップを抱えている状態であり、次の瞬間には幻滅され、最悪の場合消えていく可能性もあります。こちらにもGartnerの人による注意が載っています。

Digital Platform = 次世代の Enterprise Architecture?

Gartnerは今年、今後5-10年で重要になる3つのメガトレンドとしてAI everyware、透過的没入体験(AR/VR)、Digital Platformを挙げています。AI、AR/VRまではわかりますが、Digital Platformって、ちょっとざっくりしすぎなような。。元記事からもリンクされていますが、調べてみるとGartnerが作った言葉のようですね。

米ガートナーのリサーチ部門最高責任者、デジタルプラットフォーム構築の仕方を語る

まあ、Gartnerも商売なのでしょうが無いですが、自分で言葉作っておいて、それを重要なトレンドに位置づける、ってどうなんでしょうね。。重要だから言葉作ったんだ、ということも言えるかも知れませんが。これで偉い人が「デジタルプラットフォームってなんだ?」ということになって、Gartnerにまたお金が入るのでしょうか。

ともあれ、デジタル技術をベースにした新しいビジネス用のプラットフォームと言うことのようです。そんなもの前からあるだろ、と思うのですが、今回はIoTとかAIとか、新しい時代の技術を使うので前とは違う、ということなのかも知れません。元記事からリンクされている記事には「EA(Enterprise Architecture)」という用語があって、びっくりしました。先月ITソリューション塾で「EAは昔騒がれましたが、最近聞きませんねー」なんて話をしたばかりです。

Enterprise Architects Define Digital Platforms

これを見ると、Digital PlatformはIoTとAIによって強化されたEA、ということのようです。

昨年からの変化

ハイプサイクルは、毎年の流れを見ることも重要です。2016年のハイプサイクルと今年を比べてみると、いくつかの変化が見られます。

ひとつは、2016年に期待のピークにあったMachine Learningが、今年も同じくピークにあるということです。同じ技術が2年連続でピークの位置にとどまるのは珍しいのです。過去には、クラウドコンピューティングが3-4年ピークに居続けたことがありますが、これは例外中の例外で、普通はピークの翌年には幻滅期に落ちるのが普通です。(今年はCognitiveがそうですね)

また、今年はMachine LearningとDeep Learningがピークにありますが、昨年はMachine Learningだけで、Deep Learningは黎明期にもありませんでした。いきなり出てきたのか、Machine Leaningから暖簾分けしたのか。。いずれにせよ、Gartnerはこの2つを今後は区別していくのでしょう。

昨年黎明期にあったBlockchainが早々とピークを過ぎてしまったのもなるほどと思いました。今年は金融業界でBlockchainの導入が加速しましたし、ビットコインも最高値を更新し続けています。社会へのインパクトが大きいという評価はまだ変わっていないと思いますが、反面、合意形成などの実装が難しく、もう少し時間がかかりそうだという議論も出てきていますから、この評価は妥当なのかも知れません。でも、ピークを過ぎて幻滅か?と思わせてそのまま啓蒙活動期にワープすることもありますから、注意が必要です。この種の調査で年に一回というのはやはり短いのかも知れませんが、まとめるのも大変でしょうから、4半期毎とかは難しいでしょうね。

ARは幻滅期の最低部、VRは啓蒙活動期で、昨年と変わっていません。それにも関わらず、Gartnerがメガトレンドに選んでいるのは、この先安定期に入り、本格的な実用化が始まるとみているのでしょう。IoTは未だ期待のピークへ向けて期待値を上げています。黎明期には、AI関連のキーワードも多くリストアップされています。あと、サーバーレスも出てきましたね。見たこともないワードがあったら、この機会に調べてみられてはいかがでしょうか?

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