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ソフトバンクのARM買収 - ARMは何故買われたのか?

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これについては書かねば、と思っていながら、なかなか考えがまとまらずに書けなかったんですが、このタイミングで書かないともう書けそうに無いので書いておきます。

ソフトバンク、ARMの買収を完了 ARMは上場廃止

ARMについては、ARMがまだ無名だった頃(もちろん一部では超有名だったのですが)に以下の様な記事を書いていますが、

ARMを知っていますか?

その後もARMの知名度はそれほど上がらず、引き続きITソリューション塾での良いネタになっていました。

今年5月から始まった塾の第22期でも、最初の回にARMの話をして、そのときも出席者の方々の大半はARMの名前を知らない状態だったのですが、今回は奇跡的なことが起こったのですね。7月18日、ソフトバンクがARMを買収すると発表したのです。塾はもう終わりかけだったのですが、その週の塾の後はARMの話で(一部)盛り上がりました。受講生の方から、ARMの話を聞いていなかったらこのニュースに反応できなかった、という御言葉を頂きました。講師冥利に尽きるというものです。10月から始まる23期でもこの話をすると思いますが、ARMの認知度がどれだけ上がっているか、楽しみですね。

7月には、「ARMってこんな凄い会社」とか「3.3兆円という金額は高すぎないか」みたいな記事があふれかえったので、ここではいちいち引きませんが、当時気になった記事にこんなのがありました。

英ARM買収「悲しい」=創業者、経営主導権喪失嘆く

この中で、「ARMが同意した理由はなぜか?」についての考察があります。そう、買収って、「買いたい人」(=ソフトバンク)だけがいても話はまとまりません。当たり前ですが、買われる方が、買われることに同意する必要があります。(金額も含め) 買収について考えるときには、「何故買ったか」と同じくらい「何故売るか」が重要です。楽して果てしなく儲かる商売だったら、売りはしないでしょう。様々な記事でも触れられているようにARMは「超」優良企業であり、普通なら売ることなど考えられないようにも見えます。それが何故、売ることに同意したのか。

上の記事では、その理由を「ARMの市場拡大がそろそろ頭打ちになると見ているから」と予想しています。スマホで使われるようなハイエンドのチップ(=ロイヤリティが高い)の市場が伸び悩んでおり、ローエンドがいくら売れても嬉しくないのだ、ということです。ソフトバンクがARMを買収した最大の理由として、これからやってくるIoT時代にARMが重要になるからと言っています。今後爆発的に伸びるであろうIoTの分野では、ARMの優位性は揺るがないながらも、単価は下がり、業績を上げ続けるのが難しくなる、ということなのでしょう。

ここで、欧米の上場企業の経営者がどのようなプレッシャーに晒されているかを考えてみましょう。それは「株主価値の上昇」です。利益を出して株価を上げるってことですね。そのため、経営者は何が何でも利益を上げ「続け」なければならず、さらに売り上げも拡大させ「続け」なければなりません。毎クォーターの目標をクリアすると、その次にはさらに高い目標が設定されており、その無限の繰り返しなのです。(例外はあるでしょうが、これまで見てきた外資系企業はそんな感じでした) もちろんその対価としての報酬は高額ですが、プレッシャーは凄いはずです。アメリカの上場企業の社長が上場していない企業の社長に向かって「(非公開というのは)あなたは幸せだね」と言っているのを聞いたことがあります。非公開なら、株主からのプレッシャーに晒されること無く、経営を行える、ということかと思います。

つまり、ARMの社長としては、今後ARMの地位はそう簡単に揺るがないまでも、このまま業績を上げ続けることができるかどうかはわからないし、そのためのプレッシャーはどんどん増していくだろう、そりゃ結構キツイな、と考えたのではないか。ARMの株主にしても、社長からそう説得されて「そうか、今売った方が得かな」と考えたということではないでしょうか。(まあ、全ては憶測ですが) 冒頭の記事のタイトルの最後に「ARMは上場廃止」とありますが、これがまさに社長の望みだったのでは無いでしょうか。今後は業績を挙げ続けるプレッシャーから逃れられるのです。新しい株主であるソフトバンクは、投資は長期的な視点で考えており、短期的な成果は追い求めない、とコメントしています。当面は経営陣も従業員もそのままという約束もしています。社長にとっては天国では?

なぜARMはソフトバンクに買収されたのか、について考えてみる

の中で塩田さんは、今後は「孫さんさえOKを出せば、ARMは、株主を気にすることなくどんなこともでもできるようになる」と書いています。薄利多売のIoTの分野で多額の開発費を出すことを株主に了承させるのは大変だろうが、ARMはその苦労から解放されるということですね。長期的視点に立ち、技術的にもセンスの良い孫さんなら、ARMの邪魔をすることも無いでしょう。ARMは単独ではIoTへの投資を続けることはできなかったかもしれません。それが、ソフトバンクに買収されることによって技術開発のフリーハンドを手に入れることができ、IoT時代でも競争力を保てる可能性が高まったわけです。ソフトバンクにしても、長期的にARMがIoTの覇者になってくれれば、目論み通りと言うことになります。Win-Winの買収と言って良いのかもしれません。

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