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【30年】 床屋さんのご主人が書くカルテ~ITも勝てない? 頭が下がるサービス

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 昨日、髪を切りに行ってきました。ここんとこ忙しくて、早くさっぱりしたいと思っていて、やっと行ってきました。私の家の隣が床屋さんだったので、子どもの頃から40年以上ずーっとお隣のおじさんに髪を切ってもらっていたのですが、実は昨年病気で他界されてしまい、床屋さんを変えることになったんです。実はコレ、私にとってはものすごく勇気がいることでした。40年以上同じ床屋さんに通ったわけですから、私の頭の凸凹具合も、髪の量の増減も、髪型の好みも、すべて知り尽くしたおじさんでした。

 そんなわけで、新しい床屋さんに通い始めたわけですが、そこでちょっと心動かされる発見があったんです。ご主人と世間話をしながら、リラックスして気持ちいい時間を過ごし、髪もさっぱりして、気分良く店を出た後に、ちょっと忘れ物に気づいて店に戻りました。するとご主人は何やらノートに書き込んでいらっしゃいました。一言二言言葉を交わしつつ、その時、何気にノートが目に入りました。そこには、頭のカタチのラフな図形と、コメントがいろいろ書かれていました。

 「それ、何ですか~」
 「これですか、あぁ、うーん、これ、カルテなんです」
 「カルテって…?」
 「お客さんが髪を切られる毎に、どんな髪型にしたとか、
  どこに注意したとか、どんな希望だったかとか。
  これを書いておくことで、何かと助かるんですよね」

 是非と頼んで見せてもらいました。すると、私が初めてこのお店に来た時に話したことから、髪の質や髪型の希望などがいろいろ書かれていました。名前の欄には、「●○町、口ひげ、大学にお勤め」と書かれています。

 「名前、、、すみません。私が判ればいいので、
  名前は伺わなくてもいいんです。
  名前って、言いたくない方もいらっしゃるじゃないですか。
  このカルテは私のために書いているものですから。
  お客さんに見せるためのものじゃないんです」
 「すべてのお客さんのカルテ書いているんですか?」
 「そうですね。もう30年くらいになりますか…」

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 【30年】コレを書き続けるって、すごくないですか。ご主人は“自分のため”って言われましたが、違いますよ、これは“お客さんのため”でしょ。私はたまたま40年以上、隣のおじさんに髪を切ってもらってましたから、そりゃ何も書かなくても、私の髪のことはわかってもらっていたと思います。でも、普通はそうじゃない。いろんなお客さんが来て、いろんなことを注文していくわけで、それをすべて記憶できるわけじゃない。だからメモみたいにカルテ書いてるだけだ…って、言うのは簡単だけど、簡単にできることじゃないと思うわけです。それも、“客の知らないところで”ってのがキモチいいじゃないですか。こーゆーのを本当の“顧客サービス”って言うんじゃないのかなぁ。

 ご主人によれば、こうしたカルテを書いているのは自分だけじゃないと言われます。確かにそうかもしれません。また会員制度で、顧客管理を行いっている店も多いと思います。でも、お店の繁盛のために行う“顧客管理”と、お客さんのために行う“顧客サービス”とは、根本的に違います。

 「今やITの時代じゃないですか。
  私もパソコン使ってカルテつけようとも思ったんです。
  でも、カルテ専用のソフトもあるんですが、結構高いし。
  それより、書いてるうちに覚えちゃうんですよね。
  まぁ、それだけお客さんの数が少ないってことですけど(笑)」

 高校時代、暗記科目の試験勉強は、もっぱらノートに書いて覚えた記憶があります。これ、キーボードで打ち込んでいたら、覚えられたでしょうか…無理ですよね。ITも手には勝てないんだなぁ。頭が下がります。いい店が見つかって良かったです。ひょっとしたら隣のおじさんが連れてきてくれたのかなぁ。。。

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