あるハイパーローカルニュースの終わり
各地で経営危機に瀕している新聞を救うため、ウェブコンテンツの有料化を含めた様々なモデルが模索されていますが、その中の1つに「ハイパーローカル」があります。文字通りローカルニュースを追求することで読者に訴求し、ローカル企業からの広告出稿に期待するというモデルで、例えば New York Times も"The Local"という取り組みを行っていることを以前ご紹介しました:
■ 「補完」の一形態としての New York Times "The Local" (シロクマ日報)
ところがこのハイパーローカルモデルを採用していたあるサイトが、この度閉鎖されることになったそうです:
■ Washington Post Ends Hyperlocal News Experiment (New York Times)
閉鎖されるのは"LoudounExtra.com"というサイト。実は Washington Post が開設したもので、バージニア州にある Loudoun County のローカルニュースを扱ってきたとのこと。前述の通り、新聞の生き残り策の1つとして期待されているハイパーローカル・モデルですが、Washington Post の関係者は以下のようにコメントしています:
But The Washington Post’s experience proves that hyperlocal sites can be difficult to execute. “We found that our experiment with LoudounExtra.com as a separate site was not a sustainable model,” said Kris Coratti, a spokeswoman for the Washington Post Company.
“Updating the large amount of special features and technologies” on the site, which was run by Post staff members, proved unsustainable, Ms. Coratti said. For now, the newspaper will not start other hyperlocal sites it had planned.
しかし Washington Post の実験は、ハイパーローカルサイトの運営は難しいものになる可能性があることを示した。Washington Post 社の広報担当、Kris Coratti 氏は次のように述べた。「LoudounExtra.com を独立したサイトとして運営するという私たちの実験は、持続可能なものではないことが明らかになった。」
LoudounExtra.com は Washinton Post のスタッフによって運営されているが、同サイト上で「大量の特別記事や、技術をアップデートしていくこと」の持続は不可能なことが明確になった、とCoratti 氏は述べている。現時点で、同社は計画中だった新しいハイパーローカルサイトの立ち上げは考えていないとのことである。
Washington Post が閉鎖という判断を下した理由は明確にされていませんが、ハイパーローカルサイト一般の問題点として、New York Times は以下の指摘をしています:
The challenge, though, is that hiring reporters to cover car thefts, school board meetings and new store openings is expensive. So is hiring salespeople to visit local businesses and sell ad space.
問題は、車の盗難事件や、教育委員会の会合、新しい店舗のオープンといったニュースを追う記者たちを雇うのにはお金がかかるという点である。またローカル企業を回って、広告スペースを売る営業担当員を雇うのも同じだ。
確かに前述の"The Local"も、記事の作成は一般のブロガーに頼っています。New York Times の社員としては、2名が参加して編集作業等を行っているのみ。ローカルニュースを人々が欲しているかどうかは別にして、「社員が記事を書き、広告を集める」というモデルでは、結局コスト的に立ち行かなくなるということなのかもしれません。
以前ご紹介した本『新世紀メディア論』の中でも、小林弘人さんが「メディアは必要だが、今日のような巨大組織が今後も存続するかどうかは別の話だ」という指摘をされていました。仮にローカルニュースに価値を見いだす人々が存在したとしても、彼らが何千人もの記者・編集者をまかなうために必要なコストを喜んで負担するとは考えられません。時と場合に応じて一般人の力を借りることでコストを抑えつつ、信頼性やインターフェースといった部分でプロのスキルを発揮し、それに対する対価のみを求めるようなモデルを採用せざるを得ないのではないでしょうか。
いずれにしても今回の"LoundounExtra"閉鎖は、「何を伝えるか」だけでなく「どう伝えるか」「どんな組織を形成するか」といった点まで考えなければならないということを示していると思います。個人的には、この問いに対する答えは必ず存在していると信じているのですが。
【○年前の今日の記事】
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