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カーナビの「失敗」は判断ミスだったのか

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海外メーカーの一歩も二歩も先に行っていたのに、気づいてみればゲームのルールが変化、大きな市場を失っていた日本企業……と聞くと「またあの話?それともこっち?」といくつかの分野が頭に浮かぶのではないでしょうか。実は今回出てくるのは、カーナビゲーション(カーナビ)だったりします:

日本の御家芸に大誤算 簡易型カーナビの猛威 (東洋経済オンライン)

日本企業のカーナビが海外で市場を取ることに失敗、逆に国内市場も海外メーカーに奪われる危機にさらされている、というのが大まかな内容。ポイントだけ簡単にまとめると:

  1. カーナビは日本発祥の商品。日本のメーカーは「インダッシュ型」と呼ばれる、車内据付型で高性能・高価格のタイプを中心に発展させてきた。
  2. 一方で海外メーカーは、ポータブルナビゲーション(PND)と呼ばれる簡易型カーナビを中心に扱ってきた。PNDは機能が限定されている代りに、製造コストを低く抑えることができるため、安価で提供できるという特徴を持つ。
  3. 海外でPND市場が爆発。スケールメリットにより、海外メーカーは製造コストを更に下げることが可能に。
  4. 海外も含めた全カーナビ市場の9割以上がPNDに(※ただし台数の話で、金額での規模は不明。また「台数」が出荷/販売台数なのか設置台数なのかも不明――PNDが使い捨てのような商品で、この「台数」が販売台数なら、ある程度シェアが高いのも当然かも)。更に日本国内でもPND市場が拡大しつつあり、インダッシュ型中心の日本メーカーは苦境に立たされている。

こんな感じ。要は日本企業は高性能・高価格帯に注力しているうちに、機能は限定されていても安価なタイプを求める人々を置き去りにしていた、と。東洋経済の記事では、こんな手厳しい指摘をしています:

そもそも日本のメーカー各社とも、PNDが普及する以前から、その存在を認識してはいた。だが、ある大手メーカー首脳は「機能で勝るインダッシュ型にPNDが勝てるはずがない」と歯牙にもかけなかったという。その技術重視、消費者不在の発想こそが、致命的な判断ミスを招くことになった。思惑に反し、PNDは欧米カーナビ市場を制覇し、ついに日本にも上陸したのである。

技術重視、消費者不在。確かにそう感じられないこともないのですが、一方で「企業の判断ミス」と言えば済む話でもないように感じます。

新しい技術を開発・商品化するのにはコストがかかります(いくら技術者の地位が低いと言われていても、現代の日本で何かを生産しようとすれば特に)。それを回収するには、商品を売って利益を得なければなりません。ところが新しいジャンルの製品にはまだ大きな市場がなく、数を売って稼ぐという戦略はリスクが高い――であれば、高い利益を狙える高価格帯を狙いたいと考えるのは普通でしょう。高性能の製品を出せば、その高い価格が正当化できる上に、後発メーカーとの競争上で優位に立つことができます。それを捨てて、いきなり簡易版市場で勝負するという判断ができるでしょうか。

またハイテク製品の世界では、「大(高性能品)が小(簡易版)を兼ねない」というのが難しいところです。例えばシャープの亀山工場のようなところで超精密作業を行うのと、中国かどこかの工場にアウトソースして徹底した低コストを追求するのでは、全く異なるオペレーションが必要。さらに高機能版と簡易版の棲み分けを注意して行わなければ、カニバリゼーションの危険が生まれます。シェア至上主義の会社でもない限り、簡易版市場に参入するタイミングを計るのは非常に難しいことでしょう(決して失敗して良いという意味ではありませんが)。

そもそも同じパターンが目立つこと自体、問題を一企業の責任として押しつけるのではなく、日本の産業界が置かれた状況に目を向けるべきだと示しているのではないでしょうか。どこかで生まれた優れたテクノロジーをコピーして、信頼性の高い普及版を安く作って市場シェアを奪う。そんな時代に戻れと言うのでもない限り、どうすれば新しいテクノロジーをマジョリティ層に普及させる段階でも勝てるようになるのか、もしくはそもそも日本企業はマジョリティ層で勝負すべきなのか、という議論も必要だと思います。

< 追記 >

ところで、一方ではこんな主張もあります。まぁメーカーの主張なので希望的観測も入っていますが、こういった議論を展開することもできますよ、ということで:

レスポンス | Response. “いま”のクルマにレスポンス!

現在Windows CEが採用されたPNDの最大の市場は欧州だ。日本ではすでに新車の2/3に自動車メーカー純正のカーナビが付いている現状を考えると、今後欧州で純正ナビの低価格化が実現していけば、PNDによってカーナビの便利さに目覚めたユーザーが純正ナビを付けた自動車を購入するという流れになっていくだろう。

PND->インダッシュへの流れを作っていければ、PNDは脅威ではなく、市場の地ならしをしてくれる存在になるのかも。

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