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AIと働き方の考え方

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AI、ロボット等が発達し、置き換えられる仕事が増えていく。働く個人にとって重要で確実な対処法とは。

メガバンク、人員削減の衝撃

 最近、いわゆるメガバンク三行が各行数千人規模以上の人員削減計画を発表して話題を呼んでいる。うち一行は、向こう十年間で二万人に迫る規模の削減を計画していると発表しており、金融業界ではかなりの衝撃を持って受け止められている。

 各行とも、AI(人工知能)などを使った業務の機械化・システム化を進め、いわゆるフィンテックと呼ばれる金融分野のテクノロジーを利用することで、人員を削減するのと共に支店数などを大幅に減らす計画だという。

 一般に企業は、中長期の経営計画では、ビジネスの拡大を目指すことをアピールして、規模の拡大を示唆する内容を発表することが普通だ。人員削減に力点を置いた計画を大々的に発表することは異例だ。率直に言って、経営者は「現時点で既に相当に人が余っている」という認識を強く持っているに違いない。行員としては、年齢によっては、「支店が減るということは支店長ポストが減るということだな」と出世の皮算用が狂うことを心配している人もいるだろうし、若い行員の場合、「将来銀行自体がどうなるのだろうか」という不安を覚えている人もいるだろう。

 考えてみると、高度な判断を伴うAIを使う以前の段階でも、機械的な処理に置き換えられる銀行業務は少なくない。また、データが十分整備されると、法人向けの融資のようなビジネス上の判断や駆け引きを伴う業務も相当程度AIで置き換え可能になる可能性も小さくない。

 過去にも技術の進歩によって産業が、ひいては人の仕事が変わってきたが、今後に大きな変化が意外な業種で起こるかも知れない。

 例えば、システムによって仕事の内容が置き換え可能であるという意味では、現在、就職先として人気を集めている公務員の仕事も相当に有力だ。将来は、公務員が安定した職業ではなくなる可能性が十分ある。

「眼」を持つAI

 エンジニアである読者の中にはこの分野がご専門の方もいらっしゃることと思うが、AI分野の研究者によると、現在は第三次AIブームと言っていい状況だという。

 第三次AIブームの大きなブレークスルーとしては、「ディープ・ラーニング(Deep Learning)」と呼ばれる機械学習の発達が挙げられる。プロの世界チャンピオンを破るようになった囲碁のAIなどの応用例が有名だが、経済・ビジネスにとっては、ディープ・ラーニングによって画像の認識が大きく発達したことの影響が大きいように思われる。ある専門家によると、AIによる画像認識(例えば、猫を猫と認識したり、個々の人の顔を識別したり)の精度が、既に人間の精度を上回るようになったのだという。

 この事は、AIが言わば「眼」を持つことを意味する。

 この技術は、現在頻繁に話題になる自動車の自動運転にも必須のものだし、例えばAIで制御されるロボットが「眼」を持つと、農作物を収穫したり、建設現場で無人で機械が動いたり、食品を加工して調理したり、室内を片付けたりといった多くの仕事が可能になるように思われる。これまで、ロボットにとって難しかった、対象の様子を見ながら、力を加減して各種の動作を加えるような作業が、繰り返し学習で習得されて人間のように行えるようになる。

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 これらの機能は、既存の産業の労働を直接置き換えるようなものもあれば、現在は家庭内で行われていて直接的な経済取引の対象になっていないものの、多くの人手と時間を要しているような作業に貢献するものもある。

 例えば、調理と片付けの大半をロボットに任せられるようになると、もちろん家事が楽になるし、家事に時間を取られていた労働力が別の仕事を出来るようにもなるので、貢献は極めて大きいだろう。

 画像関連の技術は、例えば経済価値の大きな医療の分野などでは既に実用の域に入っていて、網膜の検査にも活用されているし、レントゲン写真やCT画像などから各種の癌の診断を人間の医師よりも高い精度で行うことが可能になっているという。

 今後も、応用の経済価値が高く、実用化のコストが小さい分野から順に、多くの「仕事」をAIが置き換えていくだろう。

残る仕事は何か?

 AI、ロボットなどが発達する中で、どの仕事が廃れて、どの仕事が残るのかを、率直に言って、筆者は自信を持って答えることが出来ない。

 直感的には、対人的な交渉を伴わない「事務」や「作業」のカテゴリーの仕事はAIに置き換えやすく、接客、営業、サービスなどの仕事は置き換えにくいように思うが、画像と音声が人間以上の精度で認識出来るということは、表情や声色から相手の感情を推測することが出来る可能性があるということなので、「対人仕事」も将来安泰だとは言えない。

 但し、AIに置き換えられる仕事が増えても、経済全体の生産性が向上する中で、人間は別の仕事や余暇に向かうことが出来るし、経済活動や社会を通じた経済的な分配が無くなるわけではないだろうから、AIによって貧しくて悲惨な状況の人が多数発生するような事態を心配する必要はないと筆者は考えている。

個人にとって確実なこと

 AI、ロボット等が発達する中で、働く個人にとって重要で確実なことが三つあるように思われる。

 第一に、継続的な職業学習の重要性だ。AIの登場以前から技術の進歩によってビジネスと職業の盛衰はあったが、今後、そのスピードが加速する可能性が大きい。ビジネスパーソンが自分の人材価値を保ち、満足のいく職業に就いて仕事をするためには、現在の職業分野でも、また場合によっては別の職業についても、継続的に学習してスキルを高めておく必要がある。

 第二に、AI或いはロボットを「使う側」の立場にあって優位に立つことの重要性だ。例えば、AIやロボットを他の医師よりも有効に使える医師は、他の医師の何倍、何十倍の生産性を発揮し、大いに稼ぐかも知れない。医師以外の職業でも方々で同様な事が起こるだろう。これからは、どのような職業でも、AIを利用して生産性を向上させる方法を工夫しなければならない。

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 自分自身もチェスの強豪(州チャンピオン)であった経済学者のタイラー・コーエンによると、チェスの最もレベルの高い棋譜は現在、「パソコン+人間」のペア同士の対戦で生産されて、ネット上で流通しているとのことだ。このケースで興味深いのは、強いペアは必ずしも人間のチェスの棋力が高い訳ではなく、パソコンのソフトウェアの使い方が上手いのだという。

 AIが発達しても、仕事の全てをAIとロボットが行うようになるとは限らない。人間がAIを使い、AIの使い方の巧拙で仕事の生産性に差が付くというような時期が意外に長く続く仕事もありそうだ。

 第三に、経済格差の拡大と、その際の富裕層向けビジネスの重要性だ。AIによる生産性の拡大は企業単位、個人単位での大きな経済力の差につながるはずだ。

 例えば、自動運転にしても、性能とマーケティングが優れたシステムが大きなシェアを取ると、そのシステムに対して自動車等の仕様が適合して他のシステムとの競争力の差が出来て、「勝者の総取り」的な状況が生じる可能性が大きい。AI、ロボットなどの独占的な供給者になるか否かのビジネス的な勝敗は極端に開く可能性があるし、勝者は大きな富を得るだろう。

 日本に、急に現在のアメリカ並みの極端な富裕層が生まれるとは思えないが、AIの発達は経済格差の拡大につながる可能性が大きい。仮に、人口の上位1%が所得の50%を占めるようになると、上位の1%に対してビジネスを集中することで日本市場の半分を相手にできることになる。社会としての善し悪しは別として、富裕層向けの、手の込んだサービスや製品を手掛けるビジネスは、将来相対的に有利になる可能性が大きい。将来のビジネス戦略を練る上で、個人にも参考になるのではないかと思う。

 もちろん、ビジネスの世界とは別に、社会全体としては、いわゆるセーフティーネットとしての富の再分配の仕組みを真剣に考える必要があるだろう。

 拙稿を読んでいる多くのエンジニアが、まさにAIの技術を進歩させ且つ応用に注力して、生活とビジネスを変えつつあることに思いを馳せながら、思うところを書いてみた。

 再分配を適切に行うなら、AIは経済全体の生産性を向上させるのだから、多くの人の生活を向上させるのだろう。未来を悲観する必要はない。そして、新しい時代に向かうにあたって、テクノロジーに既に親しんでいるエンジニア読者の皆さんは有利なポジションにいる。

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