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「先生」の取扱説明書

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ビジネスパーソンとして「先生」と関わる機会があった場合、彼らにどう接したらいいのだろうか。「先生」を取扱うコツを考えてみたい。

「先生」には多大な利用価値がある

 エンジニア読者は、普通のビジネスパーソンと比較すると「先生」、典型的には大学や専門研究機関に所属する、研究者兼教師(両方を上手く出来る人は少ないのですが)との付き合いが多い職業であろう。

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 また、エンジニア自身が、自分自身で学会の学術誌に論文を書くような、何パーセントかは「先生」であるビジネスパーソンである場合も少なくない。ある意味では、エンジニアは先生に近すぎて、先生という種族を客観的に見る事が難しいことがあるかも知れない。

 後述のように先生と呼ばれる人達は、接し方・扱い方に独特のコツを要するとしても、率直に言って「役に立つ」人々だ。よい先生と親しくなると、専門分野にあって適切な情報にアクセスするスピードが圧倒的に速くなる。彼らを、有効に活用できないとすると、ビジネスパーソンであるエンジニアにとっては、大きな実質的損失になる場合があるのではないだろうか。

 エンジニアならずとも、多くのビジネスパーソンが、就職後しばらく経ってつくづく思うのは、大学、さらには大学の教師をもっと有効に活用しておくことができていたら、どんなによかったかということだ。

 筆者は、経済学部の卒業生だが、学生時代にたいして高級ではないと思っていたような科目の教師のビジネスパーソンとして見た価値の大きさに、後年愕然とした経験がある。

 たとえば、筆者の学生当時の経済学部にあって会計学は、天下国家の経済政策を論ずる理論経済学よりも随分下位のプレスティージだったが、ビジネスパーソンになって会計知識を必要として定番の教科書を手に入れてみると、その著者は大学時代に単位を貰った教官であった。そして、その教科書を自習してみて、定番の教科書の著者本人から系統的に授業を受け、何よりも直接何でも質問できる学生という立場の何と素晴らしかったか、ということに後から気づいて後悔したものだった。

 本当は学生時代に知っておきたかったノウハウなのだが、ビジネスパーソンとしても先生種族と関わる機会があった場合に、彼らにどう接したらいいのかを、以下、考えてみたい。

 ちなみに、筆者は、昨年の3月まで関東圏の某私立大学で特任教授という肩書きで(会社の立場に喩えると、特に丁寧に扱われている嘱託社員のような感じの立場だ)、6年ほど大学教師を務めてみた。以下の「取扱説明書」の内容は、少なからず他人が自分自身を取扱うコツでもあることを告白しておく。

先生とは「歩く自己承認欲求」だ!

 先生という商売は、基本的に、他人から尊敬されたい人、自分を承認して貰いたい人がなる職業だ。

 考えてみると、大学教師には、実業界に入っていた方が少なくとも収入面では恵まれただろうという才能・能力の持ち主が少なくない。しかし、好きなテーマを仕事にしているという優越感や、さらには自分が知的に優れているというプライドを満足させる自己の置き場所として「先生」を選んでいる(経済論理的には、そうとでも考える以外に理解のしようがない)。

 従って、教師は、自分がどのように見られているかということに大変敏感な種族だ。加えて、自分が尊敬されていると実感しなければ満足しにくい面のある人達だ。そして、このこと自体は悪いことばかりではない。この種の人々は、自己に独特のプライドを持つが故に、しばしば「損得」ではなく「正しさ」の方を選ぶことがあるし、自分だけの成果や仲間内の評価を求めて、一つの分野に深く集中することがあるのだ。

 ビジネスパーソンから見ても、あるいは学生から見ても、「先生」とは自分が他人に認められていることを実感したいと求める「自己承認欲求そのものが洋服を着て歩いている」ような生き物なのだと理解しておくのがいい。

 「先生」と親しくなって、その後には先生を利用する立場になりたい人は、先生に会いに行く前に、是非、当該先生の著書や、論文を幾つか先に読んでおくべきだ。先生の側では、自分が他人にどう思われているかということに極めて敏感であり、事前に自分の著作や論文に興味と敬意を払った相手のことが好きになりやすいのだ。

 また、せっかく会う機会を持てたのに、相手に有効な質問を出来ないのでは、効率が悪い。用意無しに先生に会って、「何を読んだらいいですか?」と質問するのでは、人間として落第だ。いわば、会社案内も決算書も見たことがない状態で面接を受けるくらいの失礼であり、不用意だ。

 就職・転職などの面接にあっても、先生との付き合いにあっても、相手に対して「敬意を伴った興味」を示すことが重要なコツになる。

 先に一手間を掛けることによって、先生の自尊心が十分満足され、先生と良好な関係を結ぶことができるのだから、著書・論文に当たっておくことは、有効な時間と努力の「投資」でもある。

 近年は、先生の著作や論文などの業績は、ネットで検索すると直ぐに分かる場合が多い。調べてみて、どの著作・論文まで読んでおくかについては、時間の費用対効果を考えて決める必要があるが、有力な先生と会う機会を得たなら、その先生の著作・論文に関する質問を用意せずに彼(彼女)に会うのは、大変もったいないことだと強調しておく。

 一般論としては、その先生の、最近作と代表作を入手して目を通しておくといい。研究者として充実している時期に書いた代表作があれば、代表作を読むと先生の指向の癖や人となりが分かりやすく、これが最も役に立つ場合が多いが、はじめて会いに行く場合に時間がなければ、最近作に目を通しておくといい。最近書いたテーマであれば、先生の印象に残っているので、話題にしやすいからだ。

他の先生との比較は「地雷」だ!

 前述のように「先生」との付き合いは初手が大事なのだが、加えて、先生は、他の先生と自分との比較について、常人よりも遙かに敏感な人々であることを頭に入れて置きたい。

 たとえば、筆者が多少知っている経済学者の間では、おしなべて同業者に対する噂話が話題として多い。そして、経済学者が3人寄ると、お互いに和やかに話しているのだが、そのうちの1人がその場を去ると、残された2人が、去った1人を辛口に論評し合うといったことが珍しくない。

 推察するに、これは、経済学を学問対象とする人々の特徴ではなく、学者ないし先生という種族の特色なのではないかと思う。もっとも、会社員の方も、人事の話や社内の人物評価の話が好きなので、先生を非難することもできまい。

 そこで、先生種族と付き合う上で大変重要なのは、当該先生の業績や能力を他の先生と比較しないことであり、不用意に他の先生を褒め過ぎないことだ。

 例えば、世間的に知名度の高い他の先生を手放しで褒めてしまうと、これを聞かされた他の先生は、有名な先生への競争心や嫉妬が急に喚起されたり、褒めている相手に対して反感が生じることが少なくない。

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 この場合、あなたは、先生の心の中の「地雷」を踏んでしまったのだ。この点は、先生種族と付き合う上で注意してしすぎることはない重要なポイントだ。

 この失敗をフォローするのは大変な事で、褒めてしまった相手に関する悪口を長々熱心に聞かねばならないかも知れないし、それでも、先生の機嫌は直らないかも知れない。

 考えてみるに、先ず、自分がどう見られているかに敏感で、同業者にたいして嫉妬深いという特徴は、企業の経営者(「CEO」や「社長」)によく似ている。

 先生と社長は、おしなべていうと、自分自身が批判されることに慣れていない人達だ。先生は学生に話をしている分にはいわば教室の王様だし、会社でも社長に対して面と向かって批判的な意見を言う社員は少ない。

 先生も社長も、なかなか取り扱いの難しい生き物だが、生徒や社員から見て、共に少なからぬ利用価値を持っている得がたい相手でもある。

 少しのコツを踏まえると上手く付き合えるのだから、上手に付き合いたい。繰り返しになるが、「相手に対する敬意を伴った興味」を表現することが付き合いのコツだ。

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