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【シーズン4 第2話】アラビア語と横串刺しイノベータのムハンマド

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 40代の外資系IT企業のカントリーマネジャーのときに、日本のグローバル企業のグローバルWebサイトのお手伝いをすることがありました。日本語のサイトを英語に直し、英語をマスターサイトとしてEU各国の言葉などに翻訳するのはイメージが湧くのですが、文字を右から左に書くセム系言語のアラビア語は、日本人の私たちには馴染みにくいものです。

 「セム系民族は記録をすることを重要視するため、その記録は長く永久に残したいため石に彫り刻みました(東日本大震災の際も石に刻まれた大津波記念碑だけが過去の記録として残っていた)。右利きの人がノミを左手にハンマーを右手に持ち石に刻むため文字が右から左になった、という説があります。確かに、モーセの十戒は石に刻まれていますし、チャールトンヘストン主演の映画でもエジプトの王(エジプト人もセム系)が『Record』と部下に記録を命じています(役人のルーツは記録係)。」 ヘブライ語のベン・イェフダーと井筒俊彦さん

 そこで私は、元麻布にあるアラブイスラム学院(元サウジアラビア大使館)の夜間アラビア語コースに入学し、仕事帰りに通うことにしました。アラブイスラム学院はサウジアラビア王国国立イマーム・ムハンマド・イブン・サウード・イスラーム大学の東京分校なので授業料はサウジアラビアと同じように無料(テキスト代のみ必要)です。最初のうちは慣れないので大変でしたが、アラビア語のことが少しづつ分かってくると、なんというロジカルな言葉なんだろう、と感心してしまいました。また、アラビア書道にあるように文字そのものの美しさにも感動します(私のアラビア語習得は動詞が語根から派生する付近で頓挫してしまいましたが...)。

 「もともとアラビア文字は『コーラン』を表すために発達してきました。神の言葉を美しく書くために、1本の線に磨きをかけながら1000年以上の時間をかけて作り上げてきたんです。調べて見ると、文字のいろいろな部分の比率が黄金分割になっている。ピカソはアラビア書道について『すでに芸術の最終目標に達し始めている』と言っています。西洋美術が追い求めてきた完全な美しさを体現している。黄金比率といった理論に裏付けられ、線そのものが美学的に完成されているんですね」 アラビア書道家・本田孝一

 また、イスラエルでパレスチナのラジオの音楽番組のベストテンランキングは、毎週1位がクルアーン(コーラン)だと聞いたことがありますが、アラビア語で書かれたクルアーンを音読する音は、彼らにとって音楽のようなのでしょうか。

 アラビア語のロジカルな規則性の美しさと文字の美しさ、そして音楽としての美しさを知ると、イスラームがぐんと身近なものになってきます。土居健郎さんが「甘え」という日本語から日本人の深層にある心理を科学的に分析した(中空構造と甘えの構造)ように、その民族の言葉はその特性を表すことがあるため、多少なりともアラビア語に触れることはイスラームを知ることに直結します。

 ムハンマドが出現する以前(無道時代)の砂漠のアラブ社会は血族を中心とした価値観が血族単位で異なり、生活感情、モラルは部族的血縁関係で規定されていました。そして、それぞれが分裂、対立、衝突を繰り返し、人生を享楽に費やし、現世の生活を刹那的快楽主義に陥っていたようです。そうなると、現実そのものに満足できず存在の儚さを胸中に抱え込んだ人々が沸々と出現してきます。
 ムハンマドはそのマスクドニードを的確に捉え、砂漠地帯であるアラビア半島に蔓延していた現世の刹那主義的な快楽主義に陥った血族サイロ組織の価値観(慣行)を破壊し、イスラーム(イスラム教)いう新しい価値観で横串刺し横断したイノベータなのです。

 そして、イスラームというイノベーションは血族サイロ毎に存在したメッカのカアバ神殿の神々(三女神)を破壊し、アッラーひとつにした段階で完了した訳ですが、その後もアラビア半島を超え拡大して行きました。
 ムハンマドはアラビア語を話す人しか弟子にしなかったことや、クルアーンがアラビア語で書れていることもあり、イスラームとアラビア語はセットで横串刺しの共通な「串」として、今でも拡大浸透しています。そういう意味でムハンマドは世界の歴史上の人物の中でも、トップクラスのイノベータではないでしょうか。

 ムハンマドの父は、彼が生まれる前にな亡くなり、母も6才で亡くなり、祖父に引き取られ育ったためか、クルアーンには孤児がテーマとして何度も現れています。また、ペルソナとしてのアッラー(IT部門の人はペルソナを知らない?)が、ユダヤ教のアドナイの真逆の慈悲深い神(ジャマールペルソナの側面)だという点からも、ムハンマドの弱者への優しさを感じます。
 さらに、誰ひとりとしてムハンマドを信じる人がいなくとも、全面的に彼を信じ、預言者(予言者ではない)として立ち上がらした15才年上の妻であるハディージャの存在も、マクダラのマリアを彷彿とさせるものを感じ、親近感が増します。

 Pew Research Center's Forum on Religion & Public Life 2009によると、世界のムスリムの人口は15.7億人と全体の4分の1弱の22.9%を占め、今後も確実に増加します。
(さらに、シリア難民の多くはヨーロッパに流れ込みその生活を体験することになりますから、30年、60年と世代変遷を経ることでグローバルな市場構造は変化します。)

 たったひとりのムハンマドというイノベータがアラビア半島で起こした血族サイロ組織の横串刺しは、サラセン帝国(正統カリフ時代⇒ウマイヤ朝⇒アッバース朝)を経て、現代では国というサイロ組織の横串刺しを継続し、拡大し続けているのです。


【シーズン1】デジタルのマーケティング
 http://blogs.itmedia.co.jp/CMT/1/

【シーズン2】マーケティングクラウドとマイクロサービス
 http://blogs.itmedia.co.jp/CMT/2/

【シーズン3】イスラエルのオープンイノベーション
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【Coffee Break】
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