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【シーズン3 第14話】ラストサパーとコカ・コーラ

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 【シーズン3】のテーマはイスラエルのオープンイノベーションですが、今回はキリスト教からグローバルマーケティングについて考えてみたいと思います。

 まずは己の失敗経験から。

 「一般的にイスラエルでビジネスを行う人が拠点とするのはテルアビブだと思いますが、私が拠点としたのはエルサレムでした。時代的には第1次インティファーダからオスロ合意によりパレスチナの自治が認められ、ラビン首相が亡くなった頃の経験です。その後、第2次インティファーダの終息した時期にも観光で訪れていますが、パレスチナが分離壁で囲まれていました。第2次インティファーダは聖地アル・アクサー・モスクへの強硬派リクードの侵入がトリガーになりました。」

 「エルサレムの旧市街からの発想」でもご紹介したように、第2次インティファーダが終息した頃のイスラエルにも2度ほど観光で訪れたことがあります。死海周辺の砂漠観光を行いエルサレムに戻ってから、ラストサパー(最後の晩餐)の部屋(Coenaculum)に訪れたのですが、夕方4時で閉館のため入館することができませんでした(失敗)。
 そのおかげで、入口のドアの中心にコカ・コーラのシールが貼ってあるのを発見したのです(通常は入口のドアはOpenしているので気づかない)。ユダヤ人にとって、イエス・キリストはあくまで人であり、三位一体ではない、という感覚の成せるイタズラなのでしょうか。

 「イスラエル人(ユダヤ教徒)はエンジェル投資のことを『プライベートインベストメント(個人投資)』と言います。決してエンジェル投資とは言いません。私たちは日常的に使っているカタカナ言葉の由来を日常的に意識することはありませんが、ユダヤ教徒は人(プライベート)と天使(エンジェル)は明確に違う、という感覚を持っているようです。」 パッカードベルとイスラエルより

 このようにドメステックな宗教であるユダヤ教とグローバル宗教のキリスト教には根本的な相違があります。では、ユダヤ教の単なる一宗派であったキリスト教が、なぜグローバルな宗教になって行ったのでしょうか。キリスト教の表面的な形式を重視せず内面的な信仰心のみを問う、という性質もあると思いますが、もっとも大きいのはイエスの戦略性とパウロのグローバルマーケティングではないか、と私は考えます。

 イスラエルでは14ステーション(ヴィア・ドロローサ)生誕教会以外にもイエスの足跡に触れれる聖地がたくさんあります。イエスは最初の布教をガリラヤ湖周辺で行いましたが、ガリラヤ湖は漁師が多く、新しいものを受け入れやすい土地柄だったことを知っていたのです。

 これを現代風に解釈すると、シリコンバレーは西海岸の海に近い場所にあります。海辺には漁師の人たちがたくさん住んでいますが、たくさん魚が獲れると漁師はあぶく銭( Easy Money)を手にすることができ、それを投資に回しても生活に大きく影響しません。目新しいものを購入(受け入れたり)、新しいビジネスに投資をしたり、例え失敗しても、海がEasy Money(あぶく銭)を生んでくれる、という感覚があります。
 逆に農業がベースの場合は収穫量は決まっていますし、天候の変化で少なくなることさえありますから、保守的な傾向が強くなってしまいます。


 ガリラヤ湖にはティラピア(ピーターフィッシュ)がたくさいますので、大漁のときはEasy Money(あぶく銭)が手に入ります。そしてイエスはここから布教をはじめました(保守的なエルサレムなどのユダ地域から布教していない)。イエスの予想通りガリラヤ湖の漁師であるペトロアンデレ(兄弟)が、ユダヤ教のイノベータであるイエスに惹きつけられ最初の賛同者になりました。

 もうひとつイエスに感じる戦略性は、ユダヤ教徒はダビデの子孫がイスラエルを再建する、と信じているので、自分とダビデとの関連性を明示する必要性があるためか、ラストサパーをシナゴークの中のダビデの墓の上階(2階)で行ったことです。

 さらに、イノベータであるイエスの新思想をグローバルに展開したグローバルマーケターであるパウロについても考察してみましょう。

 「書物から学ぶならば、花王の佐川幸太郎さん(「新しいマーケティングの実際」)や、キリスト教を世界宗教にしたパウロ(「旅のパウロ―その経験と運命」にマーケティングの軌跡がまとめてある。藤沢武夫さんが前述の(10)で消費経済のパックスである米国を選んだように、パウロも当時のパックスであるローマをターゲットにした)なども、グローバルマーケティングの参考になる。」 ダイヤモンドオンライン「Zero to One」より

 ユダヤ教のイノベータであるイエスがZero to One(0を1に)にした原始キリスト教は、Start up段階のエルサレム教会において、割礼の習慣などを撤廃するか否かで、イエスの兄弟ヤコブなどとパウロは揉めました。
 そこでパウロは、エルサレムから離れたシリアのアンティオキア教会を拠点に、キリスト教をグローバルに受け入れられるように改善し(割礼や食物規定の撤廃など)、ローマという当時のパックスへのMarket Entryに挑戦したのです。マーケティングの手段は、コンテンツマーケティング(パウロ書簡)と、キリスト教がもっとも効率的に芽生え、広がるような、人物、場所、大きなコミュニティを選別したセミナーです(STPマーケティング)。

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 この写真の木彫りはエルサレムの土産物屋で購入したものですが、ひとりの人間が合掌をしたものではなく、一方はイノベータ・イエス、一方はグローバルマーケター・パウロの手なのです(イノベーションとマーケティングは表裏一体)。こうやって考えると、グローバルマーケティングに最も成功した会社であるコカ・コーラのシールがラストサパーの部屋の入口のドアに貼ってあったことは、あながちイタズラとは思えないですね。


【シーズン1】デジタルのマーケティング
 http://blogs.itmedia.co.jp/CMT/1/

【シーズン2】マーケティングクラウドとマイクロサービス
 http://blogs.itmedia.co.jp/CMT/2/

【Coffee Break】
 https://blogsmt.itmedia.co.jp/CMT/coffee-break/

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