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【シーズン3 第13話】中空構造と甘えの構造

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 【シーズン3】のテーマは「イスラエルのオープンイノベーション」ですが、ここでは具体的なイノベーションの数々を紹介していません。オープンイノベーションは、自社に属していない人とのお付き合いから生まれる信頼や理解から継続性が生れ、それが成功につながる大きな要因となるならば、相手を理解することが必要となります。私は、イスラエル人を理解するためには旧約聖書を学ぶ必要がある、と考えているため【シーズン3】の随所に旧約聖書からの話を引用しました

 では、他国の人が日本とビジネスを行う場合、日本人を理解するために何を学べば良いのでしょうか。

 仏教でしょうか? ダライラマ14世が言うように仏教は「空」から学ぶのが正門であるとすると、日本が吸収した大乗仏教は本来の釈迦の仏教とは違います。それとも神道(八百万の神)でしょうか?あるいは日本教でしょうか?
 他国から見たとき、これほどバックボーンが不明確な国はありません。にもかかわらず時代時代で先端と思われる海外の文化を吸収しながら変化を遂げ、ある程度の経済国として成功しています。

 「二つのまったく違った伝統的文化価値体系の激突によって惹き起こされる文化的危機。そのダイナミックな緊張感の中で、対立する二つの文化(あるいはその一方)は初めて己を他の枠組の目で批判的に見ることを学ぶのです。そこに思いもかけなかったような視座が生れ、新しい知的地平の展望が開け、それによって自己を超え、相手を超え、さらには自己と相手との対立をも超えて、より高い次元に跳出することも可能になってくる。H・G・ガダマーの語る『地平融合』の現成です。」 イスラーム文化 井筒俊彦より

 私にとり、異質な文化として触れたイスラエルとのビジネス経験があったおかげで、「己を他の枠組みで批判的に見ること」につながり、己(日本人)のバックボーンを知るための以下の2冊の本に出会うことができました。今回をそれらをベースに話を進めてみましょう。

 面白いのは二人とも個の人間の無意識の心理を対象とする仕事を行う中、欧米人が開発した心理テストや心理療法がそのまま日本人に適応できないという問題意識を持ったことです(あたりまえですが、欧米人の立場から見たものでは、日本人を的確に捉えることはできない)。
 そして、お二人とも留学経験があるにも関わらずこのような問題意識を持つことにも感心してしまいます往々にして留学先の文化を鵜呑みしてしまう日本人が多い)

 河合さんは民族の昔話を「無意識的な心的過程の表出」と考え、古事記から(政治的な日本書紀でなく)日本人の無意識にある深層心理を中空構造と名付けました。詳しくは著書を読んでいただくことをお薦めしますが、松岡正剛さんが書評を書かれていますので、まずこれを読んでいただきたいと思います。

 松岡正剛の千夜千冊0141夜 中空構造日本の深層

 中空構造が故に常に外来文化を中空に取り入れ、時がうつるにつれそれは日本化され、中央から離れてゆき、消え去るのでなく、他のものと適当にバランスを取りながら中心の空性を浮かび上がらせ存在している、という日本の文化的な歴史は古事記に示された中空構造そのままだ、と。
 逆に、ユダヤ、キリスト、イスラム教などのセム系一神教の中心による統合モデルは、統合への欲求が強く、物事を切断し分離してゆく機能を持つ父性のモデルで、自分の体系と矛盾するものはすべて組織外に排除する傾向をもっています。

 ※【シーズン2】のテーマであったモノリシックなマーケティングクラウドは、まさにセム系一神教の統合モデルであるがゆえに生まれてきた考え方。

 日本の神話に示されている中空構造は相対立するものや矛盾するものを敢えて排除せず、共存し得る可能性を持ち、すべてのものを全体として包み込む母性の機能を持ちます。つまり、矛盾し対立するもののいずれかが中心部を占めるときは、片方は場所を失いますが、中心に空を保つときは両者は適当なバランスを得て共存することになります。ただし、中空の空性がエネルギーの充満した状態(無であって空)のときは有効ですが、中空が文字通り無のときは極めて弱い、と河合さんは指摘しています。

 次に、土居さんの甘えの構造は、日本生まれの日本語の流暢なイギリス婦人の娘の治療を頼まれたときの会話から生れた発想です。
 婦人が娘の幼少時代を英語で話している最中に、日本語で突然「この子はあまり甘えませんでした」と答えました。なぜなら、英語には「甘え」を表現する的確な言葉がなかったのです。

 日本社会が縦社会である理由も「甘え」に対する偏愛的な感受性からだ、と土居さんは言います。確かに江戸時代の藩主に対する感受性と現代の日本的経営には共通したものがあり、縦社会を重視する原動力になっています。また、人情を強調することは「甘え」を肯定することで、相手に対する感受性を奨励することになります。これにひきかえ義理を強調することは「甘え」によって結ばれた人間関係の維持を称賛することになります。人情は依存性を歓迎し、義理は人々を依存的な関係に縛ります。義理人情が支配的モラルだった日本は「甘え」の蔓延した世界になった、と。
アブラハムコンプレックスとムスリムで示したような「自発性」はない)

 さらに、ある患者の以下の発言から、日本精神、大和魂、幕末の尊王思想なども「甘え」のイデオロギーとして理解できる、と土居さんは考えました。

 「自分を輔弼(ほひつ)してくれる人がほしい。対外的には僕が責任を持つのですが、しかし実際には僕に助言と承認を与えてくれる人です。」(「輔弼」は明治憲法用語)

 さて、河合さんと土居さんの研究から論理的に考えると、中空構造という概念を持ち合わせていないイスラエル人やムスリムなどのセム系一神教の人たちには、目的次第で日本人の根源的なバックボーンである中空構造と甘えの構造は有効に働く、と私は考えます。

 前述のH・G・ガダマーの「自己を超え、相手を超え、さらには自己と相手との対立をも超えて、より高い次元に跳出する」という発想はドイツ的なアウフヘーベンですが、中空構造は中空巡回形式として、実は神話の時代から日本人の無意識にビルトインされていたのです。

 このブログを日本語で読み続けている遠い他国の人たちが、日本人のバックグランドを理解する上で参考になるバイブルとして、私はこの2冊をレコメンドしたいと思います



【シーズン1】デジタルのマーケティング
 http://blogs.itmedia.co.jp/CMT/1/

【シーズン2】マーケティングクラウドとマイクロサービス
 http://blogs.itmedia.co.jp/CMT/2/

【Coffee Break】
 https://blogsmt.itmedia.co.jp/CMT/coffee-break/

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