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【シーズン3 第8話】鶏小屋オフィスへの投資と日本のベンチャーキャピタル

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 「多産多死と己の失敗」 で、第1ステップと第2ステップのイスラエルビジネスの失敗経験をいくつかご紹介しましたが、第3ステップでは「トライアングルインベストメント」 と名付けた投資事業を行いました。

 「その他、通信系で1社、開発ツール系で1社の計5社の販売契約を行いソフトウェアを日本語化しました(日本語化はイスラエルでオフショア開発)。そして、別の1社へは日本のベンチャーキャピタルと組んで投資を行い、数年後に無事NASDAQにIPOしました。」

 「たまたま出会ったパートナーとビジネスを行いながら、いろいろと話し合った結果、ビジネスの取引の段階を3つのステップにする、という枠組みを合意しました。お互いが3つのステップでコネクトする中で、ロジカルに裏切りにくいシステムを合意した訳です。これは性悪説が前提のシステムですが、お互いの成功をベクトルにデザインされたものです。」

 今もそうかも知れませんが、日本の大手ベンチャーキャピタルのイスラエルのStart-upへの投資は消極的な会社(判断できない)がほとんどで、当時は第1次インティファーダの最中なので今より不透明感の強い状況でした。

 そんなとき、投資ターゲットの1社を訪問し、製品のデモを見せてもらったのですが、その最中に足元に猫がたくさん集まってきたことがあります。平屋の1軒屋を改装した質素で綺麗なオフィスでしたが、以前は鶏小屋で、その匂いに釣られて近所の野良猫がオフィスにたくさん隠れていて、物珍しい日本人の私を見学に現れたようです(笑)

 Start-up企業のオフィスは経営者の性格を表すことがあります。
 あるオフィスはオスマントルコ時代の石のオフィスで、円形の天井が高く、夏でも涼しいのに驚いたことがあります(暑いイスラエルでエアコンがあまり必要ない)。当時は名古屋に住んでいたため、ベンチャー企業から世界的な大企業になったトヨタ自動車の3階建て(4階建て?)の豊田市の本社ビルのように、必要のないものにはお金をかけない方が利益を生むという固定概念があったためでしょうか、オフィスに必要以上にお金をかけているStart-upには疑問を持っていました。

 日本にベンチャーキャピタルというビジネスをビルトインしたのは日本合同ファイナンス(JAFCO)を創業した今原禎治さんです。

 「当時は野村證券、日本生命、三和銀行という大企業の関係会社にもかかわらず、今原さんが個人保証してまで借りないとやっていけない状況だった。1982年にチーム今原によって投資事業組合というスキームが日本に導入されベンチャー投資ができるようになった。日本のベンチャーキャピタル産業の歴史はここから始まった。」

 日本のベンチャーキャピタリストのルーツである今原さんが、投資をしてはいけない経営者として以下の2つを挙げています。

  • 髭を生やした経営者
  • 名刺に○○博士とタイトルにしている経営者

 日本人経営者という前提でしょうから、今の時代に通用しないルールかも知れませんが、この2つに共通するのは「虚栄心」や「見栄」が強い経営者だということでしょう。ユダヤ人が頭の上にキッパーという丸い布を付けている姿をご覧になったことがあると思いますが、頭上にがいることを意識することで「虚栄心」(vanity)などを抑えるためのユダヤ人の知恵のひとつです。

 必要以上にオフィスを飾る心理にも「虚栄心」や「見栄」に通ずるものがあります。Start-up企業が巨額な投資を受け、オフィスを引っ越し、必要以上に改装した知らせを受け取るたびに思い出すのは、会田雄次さんの以下の言葉です。

 「日本人は小さい机で狭いオフィスの方が売り上げが上がる。なぜなら情報交換が密になるからだ。」

 メールも、グループウェアもコミュニケーションを密にする道具だとすると、狭いオフィスでの「大部屋方式」の利点をデジタル化したものに過ぎません。

 話が飛んでしまいましたが、この鶏小屋のオフィスのStart-up企業に日本のベンチャーキャピタルを紹介することにしました。最初の1社は私の会社のリードインベスターが投資を決断してくれました。前述の今原さんが発案した投資事業組合の資金でなくベンチャーキャピタルのプロパー資金だったのかも知れませんが、その会社にとって、はじめてのイスラエル投資案件なので、説得には苦労をしました。その後、野村証券系や他のベンチャーキャピタルが横並び投資をし、結局日本から十数社程度の投資資金が集まりました。

 十数社から投資資金が集まった理由は「ので理論」を使ったからです。この理論は、
プロジェクト推進のひとつのテクニックですが、すべての会話や稟議書などの文書を「なぜなら、~なので」という表現にするのです。すると日本人は判断が容易になり、以下のような連鎖が起きます。

  • 0 to 1 : 最初の1社の投資
  • 1 to 2 :「なぜなら」最初の1社が投資した「ので」⇒野村証券系が投資
  • 2 to 数十社:「なぜなら」野村証券系が投資した「ので」⇒ウチもウチもと数十社が投資

 「0 to 1」の後は、日本から遥か8500km以上離れたイスラエルへの投資にもかかわらず、この魔法の言葉でたくさんのお金が集まりました。ここで投資をしたベンチャーキャピタルのすべては、はじめてのイスラエル投資で数十倍のリターンがあった訳ですが、実は最初にリスクテイクをしたのは破綻前の山一証券系(山一ファイナンス)だったのです。



【シーズン1】デジタルのマーケティング
 http://blogs.itmedia.co.jp/CMT/1/

【シーズン2】マーケティングクラウドとマイクロサービス
 http://blogs.itmedia.co.jp/CMT/2/

【Coffee Break】
 https://blogsmt.itmedia.co.jp/CMT/coffee-break/

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