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【シーズン2 第2話】TPSの逆襲と東大阪の自動車販売店

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 「アウトプットとアウトカムの違い Chalk and Cheese」で紹介した「大手グローバル企業のTPSコンサルティングの直販営業支援」とは、当時のトヨタ自動車の物流エンジニアリング部門で行っていたトヨタ生産方式(TPS)の異業種への直販営業支援で、私の関与では4、5社にTPSが販売されました。その後、その事業が豊田自動織機のマテハン部門に買収された頃、TPSの創始者の大野耐一さんの片腕で、生産現場にTPSをビルトインした実行部隊長の鈴村喜久雄さんの息子である鈴村尚久さんと出会いました。

 鈴村尚久さんは、今年(2015年1月20日)「トヨタ生産方式の逆襲」を発刊し注目されましたが、この本にはマーケティングの4P理論のPlace(流通)とTPSの関係が実に分かりやすくまとめてあります(Placeについては私も別の角度から「グローバルWebとオム二チャネルの具体的な失敗研究」にローカル在庫広告、Amazonの物流センターを例にして解説しました)。

 また、この本の後半の「経営破綻寸前だった大阪の自動車販売店の事例」(P204)でも4P理論のPlace(流通)のリードタイムを優先することで成功した例が紹介されていますが、自動車販売店にはじめてTPSをビルトイン(Zero to One)した実行部隊長は、当時 豊田章男さんが直属の上司だった鈴村尚久さんなのです。

 TPSのミームはいろいろな人に伝承しています。しかし、確実に永続的に組織に根付かせるためには生産調査室(Supply Sideの鈴村喜久雄さんのような強力な実行部隊長へのミームの伝承が必要になります。そして鈴村喜久雄さんのミームは鈴村尚久さんに伝承し、東大阪の自動車販売店の改善で自動車販売店(Demand Side)へはじめてビルトインされたのです。どんなに生産リードタイムが短縮されても自動車販売店の顧客への納品リードタイムが数週間とか数か月では、以下のような顧客のニードを満たすことはできません。

「まだ他の人が乗っていない時に自分だけが早く乗りたいという願望」
(iPhoneの世界同時発売に行列する人たちのニードも同じ)

 これがグローバルで重要なニード(Influencer)となると、大野耐一さんや鈴村喜久雄さんという巨人の肩に乗り、そろそろ次のように答える人が必要な時期が来たのかも知れません。

「私たちは、お客様がタッチポイントにタッチしてからの顧客体験価値と、納品され、満足するまでを時系列で見ています。そして、それらをより確実にし、時間を短くすることに取り組んでいます」TPSを創造した大野耐一さんは「トヨタでは、何が行われているのか」という質問に、「我々は、お客様が注文してから、我々がその代金を回収するまでを時系列で見ています。そして、その時間を短くすることに取り組んでいます」と答えている)

 東大阪の自動車販売店の改善レポートには、車の販売工程(プロセス)の改善は物作りと同じように逆(=後ろ、後工程)から進める必要がある、とあります。

  • 【実際のプロセス】「お客様データ」→「ホット」→「受注」→注文書→書類取得→「車庫」→「登録」→「納車」
  • 【改善のプロセス】「納車」→「登録」→「車庫」→書類取得→注文書→「受注」→「ホット」→「お客様データ」

 そして、デジタルマーケティングをTPSと同じように逆から考えると、最終後工程は担当者によりそれぞれ認識が違っていることに気が付きます。

  1. 「コンバージョンした段階」(デジタルマーケティング部門)
  2. 「SFAにリードを投入するまでの段階」(デジタルマーケティング部門)
  3. 「SFA(Pipe)のリードがCloseした段階」(営業部門)
  4. 「請求書を発行した段階」(経理部門)
  5. 「顧客に商品が届いた段階」(CS部門)

 Webサイトを改善する人は 1. を最終後工程と考え、インバウンドマーケティング(マーケティングオートメーション)を実装する人は 2. を最終後工程と考え、営業の責任者は 3. を最終後工程と考え、経理部門は 4. を最終後工程と考え(IFRSでは売上は検収基準)、CSサポート部門は 5. を最終後工程と考えています。

 一般的にデジタルマーケティングを行う人は 1. で思考が止まり、マーケティングオートメーションがブームになると 2. で思考が止まり、マーケティングROIが必要になると 3. で思考が止まり、3. と 4. を繋ごうとすると「顧客とは何か」ということが問題になり思考が止まり、全体最適になると 5. を最終後工程とし一気通貫で考える、という感じでしょうか。

 ITベンダー的に考えると、マーケティングクラウドは 1. 2. を、SFA/CRMは 3. を、ERPが 4. を、CRMが 5. を司ることになり、これらをモノリシックに連携したいのでしょうが、ITが不要必要に関わらず、TPSの原則である後工程から順番にフレキシブルに改善する(ネギに学ぶデジタルマーケティング経営)ためには、マイクロサービス方式でないと難しいのではないでしょうか。

● 雑談のネタ【Coffee Break】
https://blogsmt.itmedia.co.jp/CMT/coffee-break/

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